それは今よりずっと前、まだ閻魔大王の第一補佐官に就任したばかりのことだった。 その人は閻魔殿から退出した鬼灯を捕まえてこう言った。 「閻魔様がお優しいからと言って甘えないでください。あの方は貴方の親ではないのですよ」 当時から補佐官の大王への扱いをよく思わない者はいたが直接忠言されたのはコレが初めてだった。 鬼灯はその勇気を讃えつつ、同時にその頭の悪さに呆れてしまった。 その頃から鬼灯は自分なりに大王の力が最大限発揮されるよう厳しく接していたし、大王はそれを理解していたから彼を従えさせていた。 閻魔はただ有能だからというだけの理由で傍に置く者を決めたりしない、初代第一補佐官の時代から人を見る目はしかりとあった。 私生活なら歓迎だろうが仕事で自分に甘えてくる者など論外だろう、それができない人が治められるような場所ではない、この黄泉という世界は。 「わかっていますよ、そんなこと」 だからそう返した。 恩人であり親代わりであっても庇護してもらおうなどとは思ったことはない、あちらが守る対象だ。 そして私への侮辱は同時に大王への侮辱となることをこの者は解っていない。 私の態度が随分尊大なに見えたのだろう、その人は最後にこう吐き捨てた。 「貴方のようなタタリ神が閻魔様の第一補佐官なんて世も末ですね」 “みなしご”の次は“タタリ神”かと思わず鼻で笑ったのを覚えている、今ならそう言われても無表情に徹することが出来るのにその頃はまだ若かったのだ。 この身の内に宿す負の感情に崇高な名前をつけられるなら結構なことだ。 全身を侵す病のような恨み、しかしその病ゆえに私は生き長らえ、その病ゆえに己は力を得た。 力に罪はなく、善になるか悪になるかは持ち主の使い方次第だと此処で学んだ。 ――ならば私は力の使い方を間違えなければいい、今が世の末だと言われるなら其れを永遠のものとしてみせる 「すみません、そろそろ道を空けて頂けませんか?このあと大王のお子さんに勉強を教えると約束してあるので」 その言葉に目に見えて動揺したのが解った。 私と同じ“みなしご”であるこの人が閻魔大王を父のように慕っているのには気づいていた。 この人が嫉んでいるのは大王の実子で、しかしあの子にはなにも落ち度がないから私に八つ当たりをしてきたのだろう、子どもの様なヤキモチだが、ほっておいたら病になる類のものだった。 だから、この時に言った言葉はその病を治す為の手段でしかない、優しさや思いやりなど一欠けらもない、こんなもの気休めでしかないと私自身が一番よく解っている。 私は“彼女”の名を呼んだ。 『私はこの地獄にいる全ての人を家族のように思っています』 ――貴方もそうしたらいかがですか? 結果、彼女は私にとって信頼できる部下となった。 しかしその言葉に呪われた彼女は何人かの男と付き合いはしていたようだが最期まで本当の家族を持つことはできなかった。 私が治療だと思い渡した薬は彼女にとって毒でしかないと気付いたのはそれから随分あとになってからだった。 * * * 白澤が鬼灯の子を産むのに選んだ場所は日本の神の所有する霊山の神域だった。 そういえば初めて鬼灯と訪れた場所も彼の神の土地だったことを思い出し、懐かしいなと、霞掛かった視界を細める。 まだ幼い子鬼三人の顔を思い描いて白澤はほんの少し気分が楽になった、あの時も可愛いと思ったがあの鬼の幼少だと思えば更に愛おしい。 この胎の中にいる子はあの小さな子鬼に似るのだろうか、あまり似過ぎていても困る、彼の子だと誰かに悟られてしまわぬように…… そう思った瞬間、胎の中の鬼火が燃えた。 「ぐはっ」 身の内から上がった炎に白澤はのたうちまわり、そして焼かれた臓腑を嘔吐する。 体中の水分が蒸発しつくした感覚はあっても全身からはまだ脂汗が出て来る、痩せ形だった手足が更に細くなり、顔色も青褪めているか黄土色かのどちらかをいったりきたりだ。 驚異的な回復力とこの為に溜めた神気のお蔭でどうにか意識を保っているが妊娠してから一月も経っていないのに彼の身体は限界を訴えてる。 唯一の救いは吐いた傍から嘔吐物がこの山に棲む精霊に清められていることだ。 神の山を穢すなと責められているようで心が痛むが妊娠している白澤からすれば清潔を保てた方がありがたい。 (ああきっとニニギ様にはバレているんだろうな) きっと精霊達から主に報せがいっているはずだ。 荒い息を落ち着かせながら、瞳を閉じると生理的な涙が頬を伝った。 (謝って、口止めしなきゃ……) 鬼灯の子を妊娠したあの日、白澤はかつてないほどの苦しみにもがきながら必死で己の分身を作った。 分身を作った後は力尽きて気を失ったが、その分身は白澤の思惑通り本体を以前より目星を付けていたこの場所に運んでくれた。 火に強い場所であることも此処を選んだ条件の一つだったが、なにより日本神の神域のなら身内からも隠れられると思ったのだ。 妊娠を恥じる気持ちはないけれど中国の神獣としてこんな弱った姿を晒すのは御免であったし、故郷の者がこれを政治利用してしまう可能性も無くはない。 あの鬼の子を産みたいという自分のエゴで日本地獄や中華天国に迷惑は掛けられない、だから―― 『私はこの地獄にいる全ての人を家族のように思っています』 いつか聞いたことのある鬼灯の言葉を思い出し白澤は眉間に皺を寄せた。 あの鬼がああ言うのは血縁のいない自分を慰める為ではなく、地獄を守る為に、あの鬼の行動全てが地獄の安定へと通じている、血を分けた我が子を望むよりもきっと。 「うぅ……」 いけない、そんなことを考えていたらまた吐き気がしてきた。 白澤は横を向いて体を丸め吐き気を収めた。 鬼火の熱にも火傷の痛みにも少しは慣れてきたけれど、この吐き気だけはどうしても慣れないでいた。 (きっと、もう数カ月の辛抱だ……) 胎内の鬼火は少しずつただの鬼子へと成長していっている、そうすれば少しはマシになるだろう。 ――大丈夫 ――ひとりで生める そう、思った時だった。 「!!?」 腰に何かが触れるのを感じた白澤は刮目し、上半身を起こす。 一瞬くらりと脳が揺れたが、その目にはしっかりと男を映した。 「イザナキ様……?」 「久しいな、白澤よ」 足元で膝立ちしている国造神の名前を呟き白澤は青褪めた。 「なにをしようとしてたんですか?」 自分が寝ている間に、衣類を脱がせようとしていた。 「おぬしの苦しみの元を絶とうとしていた」 事も無げにそんなことを言ってのける。 “苦痛の元”その意味に達して白澤の頭は恐怖でいっぱいになった。 「出て行ってください」 「出て行けと言われても此処は我が血族の神域だ」 ニニギの領域である以上、出て行けも来るなも白澤の言える台詞ではない筈。 「……生ませてください」 震える体でゆっくりと後ずさりするがイザナキもそれに合わせ移動する。 「僕はあの鬼の子を産むと貴方に宣言しました……それを破れば神罰が下るでしょう」 「あれはぬしが一方的に言った事、儂にぬしと契約を交わしたつもりはない」 背中が岩にぶつかり、後がなくなる。 イザナキの両手が白澤の膝に乗せられた。 この神はこの子を堕胎させる気だ。 表情を見ればそれが本気だと解った。 どうしてそんなことをするのかは解る、彼の妻は火の神を生み灼け死んだのだから、同じような状態の白澤を放置してはおけないのだ。 白澤自身もこのまま妊娠を続けていれば不死身といえど無事では済まないのだろうと予測はできていた。 ――でも 「やめろ!!」 「!!?」 イザナキが白澤の足を開いた瞬間、辺り一面が炎に包まれる。 「これは……」 白澤の膝に触れていた手から赤黒い炎が上がっている。 そこから白澤に目線を映すと彼は気を失っているようだった。 それを認めた途端、爆風でイザナキの身体は吹き飛ばされる。 「……く」 白澤を守るかのように取り囲む血のように赤黒い地獄の業火、彼が宿す胎児の鬼火とはまた違う。 この炎は、恐らく…… 「そうか、子を守るのが母なら……母を守るのは……」 全身に火傷を負いながらもイザナキは笑みを零した。 その様子を見たからか知らないが炎は小さくなり白澤の腹へと吸い込まれるように消えて行った。 「だから儂は妻も子も守れなかったのか……」 イザナキは慈愛の笑みを自嘲の笑みへ変化させながら呟く。 「父様」 そこへ一人の女が音もなく現れた。 彼女の足を隠すように霧の海が広がっている、それに包まれた白澤の顔色がほんのすこし良くなる。 イザナキの火傷も触れたところから治ってゆく。 「痛かったでしょう……おいたわしい」 どちらに向けた言葉か知らないがイザナキと白澤の間に座り二人を回復させた。 「すまぬな、ナキサワメ」 彼女の名はナキサワメという、イザナキがイザナミを失った哀しみから生まれた水の女神だった。 イザナミから直接生まれたわけではないが良く似た顔立ちをしている。 「大丈夫ですか?イザナキ様、白澤さんも……」 そこへもう一人、今度は男が現れた。 彼はニニギだ。 この神域の主で、精霊達から報告を受け此処へ向かう途中に曽祖父であるイザナキと大叔母ナキサワメに出逢い連れて来るように命じられた。 二人は何か事情を知っているのかと思っていたが、まさかこんなことになっているとは…… 「ああ」 「……妊娠されているんですか?この人」 古くからの神であるニニギは神が必ずしも母の胎から生まれるとは限らないと知っている、このナキサワメもそうだ。 だから男である白澤が妊娠していても有り得ないことではないと思うが、疑問なのはもう一方の親の存在だ。 不変的な存在である白澤に生殖能力は必要ない、だから彼が強く望まねば妊娠など出来ないのだろうが、博愛の神獣にそこまで特別な相手はいたのだろうか。 「ぬしも知っているだろう、この神獣が唯一を」 「……だから、鬼火なんですか」 外気までもを熱くさせる炎が白澤の中で燃えているのは、胎の子が人と鬼火の混ざり者の血を引いているからかとニニギは納得した。 「どうされますか?この人、このまま此処にいても俺は構いませんが」 衰弱しきった白澤を見てそう言うニニギ、中華天国の者が見ては発狂しそうだし鬼灯に引き渡すのは気が引ける。 神気を含んだ霞の漂う此処であれば子を生むことは可能に思える、無事では済まされないだろうけれど。 体調と胎調を考えれば日本天国の宮殿に連れ帰るのが得策だが、万が一外部に情報が洩れ諸外国との関係に影響が出てしまっては白澤もつらかろう。 するとイザナキは真っ直ぐニニギを見詰めて言った。 「ニニギ、おぬしはたしか鬼灯に恩があったな」 「はい」 鬼灯とその幼馴染達がサクヤの出産の際に自分の目を醒まさせてくれた事は何千年たとうと覚えている。 騙された事に薄々勘付きながらその業を許すのも、彼らに感謝しているからだ。 「その恩を返したいとは思わぬか?」 イザナキの言葉にニニギの瞳に光が浮かんだ。 「ナキサワメ、おぬしを初め多くの水神はかつて雨乞いの生贄にされた子を眷属にもっていると言ったな」 「はい……」 そう返事をするナキサワメは顔にも声にも既に喜色を帯びている。 「ならばかつて生贄に出された者の子は助けたいだろう?」 「はい!」 ナキサワメは力強く頷いた。 「出来るだけ多くの水神を我が宮殿に集結させてくれまいか」 「はい、承知いたしました」 「ニニギは八寒地獄へ行き早急に氷の輸入の手続きを……くれぐれも内密にの」 「了解です」 他にも準備しなければいけないことはあると思うが、それはイザナキの宮殿に棲む天津神達に任せようとニニギは思った。 「では、連れ帰るとするか」 そう言ったイザナキは一瞬黒い影のようなものに覆われる、それが晴れると中からは鬼灯に容姿も気の流れもそっくりな人物が現れた。 まだ気絶したままの白澤を抱きかかえ、神域の出口へと歩を進め始めると後ろからナキサワメがチラリと顔を覗かせた。 「流石ですね父様」 「念の為、ぬしらも白澤と接する際は鬼灯に化けておいた方がよいのかもしれぬ」 声までも変化させたイザナキはこう続ける。 「身重の神獣は番う相手以外に触れさせないと言う、まだ番ではないが子の父である鬼灯以外には攻撃的になる恐れもある……特に儂は先程のこともあるから余計に警戒されるだろう」 と、聞きニニギはふと疑問を零す。 「そういえばイザナキ様、貴方さっき本気で赤子を堕ろす気だったんですか?」 「まさか、父様が本当に本気だったら白澤様が寝ている内に済ませる筈でしょう、拒まれるのは解っていたのですから」 代わりにナキサワメが答えると納得したように唸り「それもそうだな」と頷いた。 「この神獣の覚悟を確かめたかったのもあるが」 本当にあの鬼神の子を生む意志があるのか、もう一度確認したかった。 白澤は永きに渡り人の世を見て様々な時代の倫理に接してきた者、加えて多くの女性の苦しみに寄り添ってきた“神”だ。 きっと堕胎を絶対の悪だとは言えない、だから万が一白澤が望めば己がその役割を担おうと思った。 「妻が命懸けで産み落とした我が子を手に掛けたことのある儂だ……今更この手を穢すことに戸惑いはないさ」 「父様」 「……」 「すまぬな」 娘と曾孫から同時に責めるような目線を感じ思わず下を向く、すると腕の中で痩せこけた一人の男が眠ってる。 胎の子を守るように腹部を両手で抱いている彼を見て、確かめるまでもなかったと苦笑した。 恐らく目を醒ませば日本の神々の援助など受けられないと言い放つだろう、その時は赤子の為にするのだと話せば納得するか。 (イザナミを追いかけて降りたのはとても寂しい場所だった) 根の国の名に相応しい陽の光の当たらない、暗闇だけが魑魅魍魎のように蠢くとても怖い場所にたった一人の妻を置き去りにしてしまった。 あの場所を今のように整えてくれたのは閻魔大王とその二代目補佐官の鬼灯だ。 彼らは第一補佐官を辞したイザナミに今なお役職を与え地獄の一番深い場所に居場所を置いてくれている、それがどれ程己を安心させていることかきっと本人達は知らない。 イザナキは鬼灯へ対し一方的に恩義を感じているから、そんな恩人の子を宿した白澤を助けたいのだ。 「帰りましょう、父様」 「俺も途中まではお供します」 「ああ」 踏みしめている草はかつてこの山の奥で燃えていた炎から育っている、破壊の象徴だと思っていた火こそがこの国の土地を造り上げてきたのかもしれない。 唐突にそんなことを想いイザナキは微笑む、異国の神獣を抱えた彼は血縁二人を引き連れ去って行った。 * * * 阿鼻叫喚地獄“大熱処”その名の通り八大地獄最大の暑さを誇る其処にイザナミの宮殿は建っている。 亡者の貼り付けられた柱の道を過ぎ、彼女の職場をも過ぎれば大きな池を有する中庭があった。 その池に溜められているのは地獄には有り得ない筈の冷たい清水、其れは数千年間枯れることがなかった。 みなもに水黽が通った後のような水紋が現れるのは地上に雨が降っている証拠。 その雨は少し特別な雨だった。 (どうした、わが娘よ) その雨はナキサワメが悲しいと泣いた時にだけ、彼女を癒すように降るのだ。 最初は母を恋しがり泣いていた。 ――母様、母様、独り黄泉に堕ちてしまった母様、貴方は寂しがっていませんか―― 次は人が雨乞いの生贄を捧げるようになってからだ。 ――ごめんなさい、私の力が足りないせいで、あの子はまだあんなに小さかったのに―― そして今、あの娘は声もなく泣いている。 自分とは違い優しい娘のことだから、きっと今回も誰かの為に涙をながしているのだろう。 「どうされましたか?」 娘の声に耳を傾けていると背後から不意に声を掛けられ、イザナミは僅かに肩を揺らした。 ただ不審には思わない、彼を此処に呼んだのは己なのだから。 暇な時間が出来た時、いつでもいいから来てくれと己が頼んだのだから。 「鬼灯」 丁と鬼火を合わせて鬼灯、その瞳を見るたびに彼にピッタリな名前だと思う。 「どうかしたとは?なんじゃ?」 「……貴女の後ろ姿が、なにやら心細く映りました」 「それは、おぬしの方こそ最近様子が可笑しいと大王が心配しておったぞ?」 イザナミは鬼灯の問いには答えたくないと指摘するように応えた。 「私を呼んだのはその所為ですか?」 閻魔大王の話を聞き心配して呼び出されたのかと思い、鬼灯は眉間に皺を寄せる。 「いや違う、妾の話し相手になって欲しいと前にも告げていただろう?」 彼女は大きな瞳を細めて苦笑する。 役目があるから耐えきれているが、ずっと此処に独りでいては飽きてしまう。 イザナミは池に視線を落としながら背後の鬼灯へ語り掛けた。 「のぉ鬼灯、最初から家族がいないのと家族と離れてしまったのとではどちらがより不幸なのだろうな」 「……それはなんとも、人それぞれとしか言えませんね」 「ふっ……おぬしらしい」 だから鬼灯との会話は面白い。 「妾は、もう家族を作るなんて御免だが、ぬしはどうなのじゃ?」 「貴女までそんなことを言いますか」 うんざりとした風に鬼灯は返す、閻魔大王に結婚でも薦められているのだろうとイザナミは袖を口に当て笑みを零した。 鬼灯の方はいつも同じ質問をされた時に答える言葉で、けして詭弁ではない本心を告げる。 「私はいいのです……この地獄に棲むもの全てを家族のように思っていますから」 ただ―― 「愛する人の子を見ることが出来たら、それでもう充分かと……」 いつもの答えに今日は切ない響きが付属される。 それは白澤に添い遂げる者が出来たかもしれないと聞いたあの夜から、考えて考えて考えた末に出した結論だった。 あの神獣を我が物にしたいと駄々を捏ねる胸の中の鬼火を抑えながら、他の誰かの隣に立ち、他の誰かと家庭を築いてゆく白澤を夢想したのだ。 「ぬしはあやつに誰か他の者と子を作って欲しいというのか?」 鬼灯の想い人を知るイザナキは不思議そうに首を傾げた。 「はい、だって私に家庭を築くなど不可能ですし……それに」 想像の中の白澤はとても幸せそうなのだ。 鬼灯の前では絶対にしない、慈愛の笑みを浮かべて我が子を見詰める彼は美しかった。 その笑顔を奪ってしまうことに比べれば自分の胸の痛みなど大したことはないと思えるから。 初めて、こんな純粋に相手の幸せを望めたのだから、この気持ちは大事にしたい。 「きっと、愛らしく思えると思います」 さらさらと揺れる黒髪、切れ長の瞳を細めて白澤に笑いかける小さな子ども。 どうしてか、鬼灯にはそれがとても愛おしい存在に思えた。 「あの神獣の子ならば……」 白澤の子だから―― つづく |