それはあの人にとって“かなしいこと”なんだと最初から解っていたけど



「ずっと憧れてるんです」



それでも、彼女のその顔を見て、自分自身の初心なんてものが蘇ってきて



「諦めちゃダメっスよ!!」



これからはバスケに集中したいと思ってたのに



「オレも応援するから!!」



つい、こんなことを言ってしまった。




【マイちゃん×みゆみゆ熱愛発覚?キューピッドはキセリョ!?】



そんな見出しの週刊誌が並び



『はい、凄く応援してくれたんです!彼女と親しくなれたのは黄瀬くんのおかげです!!』



なんてコメントがワイドショーに流れ

モデル休止中にも関わらず一気に時の人となってしまった黄瀬涼太は



「赤司っち助けてぇ〜宮地さんに殺されるっスーー!!」



中学時代の主将を頼りにきていた。



「は?」


千二百年以上の歴史を誇る都、京都府の中心部から少し外れた長閑な山あい、そこに堂々と佇むのが洛山高校。


「……って黄瀬ちゃん!?どうしたの?」


休日など関係なく早朝から練習に励んでいたレギュラー陣は突如現れたライバル校のエースに度肝を抜かれていた。

唯一落ち着いている赤司は一歩一歩ゆっくり黄瀬へと近付き、ぽんと優しく肩に手を置く。


「なんだい?黄瀬、久しぶりにきて随分物騒な話をしているね」

「あ、赤司っちぃー冗談じゃないんスよ!オレこのままだとマジで宮地さんに殺されちゃうっス!!」

「えっと……宮地ってたしか秀徳のイケメンよね」

「えー?オレWCのあと連絡先交換して話してるけどフツーにイイ人だよ」

「うーん、あの緑間が認めるくらいだから人格者だと思っていたが……葉山あとで携帯見せてくれ」

「へ?」

「わからんなぁ、なんでソイツがお前を殺すんだ?」


この世の終わりがきたような顔をした黄瀬を前に洛山メンバーは次々疑問を口に出す。


「だって高尾くんがいつも言ってるっスもん!宮地さんに轢かれかけたとか潰されかけたとかパイナップルぶつけられたとか!!」


世間慣れしてるくせに変なこと素直な黄瀬は友達(高尾)が場を盛り上げるために話を誇張しているとは思わないらしい、そしてそれは赤司も同じ


「食べ物を人に投げるのはよくないな」


宮地だって初対面でハサミを人に向けた人に言われたくないだろう。


「宮地さんホンットにキレやすいらしくて、いつか高尾くんが数えてみたら一日に「殺す」と言った回数が三十回、殴られた回数が十五回だったとか」

「うわ……」


自分は親でも殺すとか言ってたくせにドン引きする赤司。


「高尾ちゃんて多分あの中でも練習してる方よね?そんな真面目にやってる後輩を殴るの?」

「へ?洛山は後輩蹴ったり殴ったりしないんスか?」

「今度、秀徳と海常に連盟の監査入ってもらおうか……この二校が出場停止となったら優勝への道がだいぶ楽になるな」

「ちょ!?赤司っち!?それなら花宮さんとこやショーゴ君とこ先にしてくれないっスか!?」

「アイツら仲間内では仲良くやってんじゃねぇか?あと実力を見るに練習は真面目にやってるだろ」

「たしかにマコトって口ではなんと言っても試合中以外では手を出してこなかったわね」

「そういえばアイツなんで危ないことすんの試合中だけだったんだろねー?普通逆じゃない?」

「ま、アイツにもアイツなりのポリシーがあるんだろ」

「そうか、つまり宮地さんや海常三年は花宮さん以下ということか」

「ちょっと待って!宮地さんは知らないっスけどうちの先輩達はみんな優しくて頼りになる最高の先輩達っスよ!!」


話がずれた。

そして宮地さんゴメンナサイ。


「そうだ葉山、さっき言った通り携帯を見せてみろ」

「うん、ちょっと待ってー」


そう言ってノー抵抗で体育館のステージに置いてある貴重品入れへ走ってゆく葉山を見て黄瀬はよく教育されていると感心する。


「赤司ー、とってきたけどどうするの」

「少し借りるぞ」


と、言って赤司は一応先輩にあたる葉山のスマートフォンを奪い、某SNSアプリを開くが葉山からは特に抵抗は見られない。


(そんなんでいいんスかね葉山さん……あと赤司っち)


黄瀬はだんだんと彼らのことが心配になってきた。

この赤司の態度はもう暴君やら俺様やらを通り越して神である。


「うん、たしかに口が悪いな、宮地さん」

「そうね、でも文章で読むから余計キツく感じるんじゃないかしら」

「まぁ文章じゃ雰囲気までは伝わらんからなぁ、だからこそ直接会って話すのが大事なんだろ」


他人のやりとりを見ながら好き勝手言っている洛山メンバー、黄瀬はここにいたらプライバシーなんてあったもんじゃないなと思った。


(よかった……赤司っちの「なにか相談事があったら言ってくれ、力になるよ」に対して赤裸々に答えてなくてよかった……)


まぁいくらキセキはオレのもの感覚が抜けない主将だとて、そこまでプライベートな内容は回し読みしないだろうが、相談するなら直接会っての方が安心というのには変わりない、そう……まさに今がそれだった。


「これでよし……はい葉山、悪かったね」

「ん?赤司なんて打ったの?」


と、葉山が言うので黄瀬も思わず画面を覗きこむと


“ウチの小太郎が随分と世話になっているようだね、春に上京する予定だから良かったら挨拶させてくれないかい?”


わざわざもう一つの人格の口調で牽制してやがった。


「京都から東京に行く場合でも“上京”って言うのかな?京から京に行くんだから移京なんじゃない?」

「知らないわよ、ていうかアンタ自分の携帯勝手に弄られたわりに落ち着いているわね」

「え?だって別に変なこと書かれたわけじゃないし」

「鈍感か」

「いいかい黄瀬、こういう風に“現チームメイトから大事にされてるよアピール”は有効だから積極的に使ってくこと」

「有効って何に対してっスか!?」


黄瀬のツッコミを他所に不敵に笑う赤司。

その時、葉山の持っているスマートフォンが鳴った。


「あ、宮地さんから電話だ」

「ひぃぃ!?ここにオレがいるってことは言わないで欲しいっス!!」

(そういやコイツなんで宮地から殺されることになったんだ?)

「え?これ出た方がいいのかな?」

「貸せ、オレが対応しよう」


そう言って赤司が葉山からスマートフォンを奪ってボタンをおした。


「もしもし……ああ、すまない、僕だよ」

「もう一つの人格を演じてる!?」


演技とわかっていても赤司以外の四人はビクッとした。


「悪いが今こちらは部活中だ。急ぎの用でなければ後でかけ直してくれ」

「他校とはいえ二年先輩にこの態度……さすが赤司様っス」


黄瀬は冷や汗をかく。


「どうして僕が出たかって?僕のものの持ち物を僕が扱ったとして何か問題でもあるのかい?」

「あ、赤司……?」


さすがの葉山もこれには焦った。


「ふっ……そういう話はまた後日、そういえば僕の真太郎とその相棒を随分しごいてくれてたそうじゃないか、そのお礼もその時にさせてもらうよ」


と、そこまで言って赤司はスマートフォンを耳から外す、電話の向こうでギャーギャー騒ぐ声が聞こえるがブチりと切った。


「……なんつうか”現チームメイトから大事にされてるよアピール“じゃなくて”所有されてるよアピール”になったな」

「コタ……アンタ絶対宮地さん心配してると思うわよ」

「ねぇ赤司?宮地さん何て言ってたの!?」

「ふふっ……さぁ?彼がどこまで本気にしたか解らないが……まぁいざとなればオレのもう一つの人格がしたことだと言えば済むことだ」

「二重人格設定の有効活用っスね!?どうしよう赤司っちが変わっちまったっス!!!」


あんなに良い主将だったのにッ!

と嘆く黄瀬を見下ろしながら赤司は今更なことを訊ねてきた。


「ところで黄瀬はなにしに京都まで来たんだ?宮地さんに殺されるって彼になにかしたのかい?」


ようやく本題に入れそうだった。



☆ ☆ ☆




「あの、皆さんオレが最近ワイドショー騒がしてるの知ってるっスか?」

「へ?あー……マイちゃんとみゆみゆのことね」

「勿論、お前達キセキの情報は赤司家の諜報部に調べさせているし個人的にも毎日サーチをかけているよ」

「ちょ!赤司っち忙しいんスから、もっと違うことに時間と労力を費やしてて欲しいっス!!」

「マイちゃんとみゆみゆ?」

「最近ねグラビアアイドルの堀北マイとアイドルグループのみゆみゆが付き合ってるって報道あったの、知らない?」

「あーそういやクラスの奴が騒いどったな」

「女同士だけど思いのほか受け入れられてるみたいよね、よかったわー」

「はい!報道出た時は心配したけど本当によかったっス!」

「黄瀬にしては優しいね」

「失礼っスね!オレは一生懸命恋してる子には優しいっスよ!!」

「ていうことはあの報道本当なの?」


【マイちゃんとみゆみゆをくっ付けたのは黄瀬涼太】


「って」

「……」

「お前……WC前後にそんな余裕あったのか?」

「いや、くっ付けたっていうか時々みゆっちから電話で相談されてて」

「みゆっち!?」


五人しかいない体育館がザワついた。


「あの黄瀬がキセキと自分の認めた奴にしか付けない称号「っち」を付けられてる女が桐皇マネジ以外にいるなんて」

「こりゃあ海常あたりで暴動起きるわね……っていうか黄瀬ちゃんと付き合いのない私ですらちょっとムカつくっていうか」

「なんでバスケと無関係の女が……とは思うな」

「先程までの話だと高尾くんとも親しいようだから、彼に知られたらショック受けるんじゃないか?」

「え!?え!?だってみゆっち本当に頑張ってるっスもん!歌はちょっと苦手みたいだけどレッスンしてるしダンスはめっちゃ上手いんスよ!?」

「それ宮地さんも同じこと言ってたなー」

「え!??」


葉山の言葉に全員が注目する。


「宮地さんてみゆみゆファンなの?」

「ファンっていうか推しメンなんだって、部活ない時はライヴ行ったり握手会参加したりしてるって、グッズも集めすぎて置き場が無いって嘆いてた、でもおかげで緑間と共通の話題ができて助かるとか言ってたよ」

「それ相当なファンじゃない」

「緑間と共通の話題って緑間もみゆみゆ推しなのか?」

「ううん、グッズの収納法についてだって、なんでか緑間くんの部屋って物がいっぱいあるらしくてさー」

「ああ……だろうな」

「そっか……納得したっスわ」


緑間をよく知るキセキ二人がうんうんと頷くのを他の三人は不思議そうに見詰める。


「あの緑間と話を合わせようとしてくれるんだと解ったら彼の印象がほんの少し良くなった」

「アイドルヲタはマイナス要素にならないのか?」

「それで練習がおろそかになったりチームに迷惑をかけているようならマイナスにはなるが、彼の趣味で割りを食ってるのは家族くらいなものだろう、いくらオレでも他人の家庭事情には口を出さないよ」

(赤司にとっては家族の話はNGワードだもんな)


ところで現行で黄瀬から練習を中断させられチームメイトに割りを食わせられていると思うが良いのだろうか


「……で、つまり黄瀬は宮地さんがみゆみゆのファンだからマイちゃんとくっ付けた自分に怒って殺されると思ってるということか?」

「いや、オレはただみゆっちを励ましてただけで別にくっ付けたわけじゃないっスけど……まぁ、そうっスね」

「それは考え過ぎだろ」

「殺すなんて普段から本気では言ってないでしょうしね」

「宮地さんそんなことする人じゃないと思うよ!そうだ今からオレ聞いてみる、宮地さんがみゆみゆとマイちゃんについてどう思ってるのか!」

「ちょ葉山さん!?」

「赤司ちょっと電話かけるねー」

「手短に済ませろよ」

「はーい」

「怖い、怖いっスー!!」

「大丈夫だって黄瀬くん、そりゃオレだってまだ宮地さんのことちょっとしか知らないけど、後輩の話とかしてる時あの人ほんと優しい声すんの、それに一度試合したから解るけど直向きで芯が通ってる強いバスケをする人だよ、だからちょっと口が悪いけど絶対いい人だってオレ信じてる」

「葉山……」

「コタ……」

「連絡先交換してください!って言ったら渋々だったけど本当の番号教えてくれたし、そんな怖い人じゃないって」

「……葉山さん……うん、そうっスよね「バスケしてる奴に悪い奴はいない」っスよね……」


赤司は目をキラキラと輝かせながら見詰め合う末っ子たちを見ながら(※葉山は赤司より年上)仕方ない、認めてやるか……と、暴君でも俺様でも神でもない、まるで父親のような表情で息を吐いた。


「じゃあ電話してみる」


そう言ってニコニコしながらスマートフォンを操作する葉山だったが……


「もしもし宮地さん?さっきはゴメンね、ところでさぁ……へ?あーー、だからゴメンって赤司も普段はあんなじゃないんだよ……へ?なに?それ、オレそんな風に見える……って、だからオレそこまでバカじゃないし、心配?なんのだよ、赤司はそんな奴じゃないし!!はぁレオ姉達のこととか今関係なくない!?うん?はいはい、そういうことはウチに勝ってから言ってよ!!あ、あー!解った受けて立つ!!もう怒ったからね!こっちは全力で潰し行くから!!なんだよオレは宮地さんも宮地さんのチームのことも信じてたのに!もういい!!宮地さんなんか知らない!!」



ブチッ



「……」

「……」

「……」



シーン



「ごめん秀徳と秀徳OBと試合することになった」

「ああ……なんとなくそうなんだろうなと思ったけど」

「アイツらとの試合なら大歓迎だけど」

「黛さん出てくれるかしらね、引退してから姿を見てないけど」

「見付けられるかどうかも怪しいな」


と、そう言いながら洛山メンバーは振り返った。


「え?」

「どうせ非公式の試合だしな」

「そもそも原因はコイツにあるんだしな」

「ふふふ、黛さん噂に聞いたら悔しがるんじゃないかしら」

「黄瀬と一緒に闘えるなんてそうそう無いチャンスだもんなー」

「え?え?え?」


黄瀬は赤司からガシッと肩を掴まれた。


「やってくれるな?涼太」

「あ、赤司っち……左眼が……」

「なんだか随分とウチのことコケにしてくれたみたいだしねー宮地さん」

「売られた喧嘩は買わないとな」

「もう謝っても許さないからな宮地さん!!」


そう言って燃える洛山レギュラー陣をガクガク震えながら見ていた黄瀬の心にある感情は一つ


(ゴメンナサイっス緑間っち!!高尾くんーーー!!!)


巻き込んでしまった友人への謝罪だけだった。




☆オマケ☆



赤司と黄瀬


「ところで黄瀬、たしか青峰は堀北マイのファンだったがアイツからは何も言われなかったのか?」

「ああ、それなら「マイちゃんに憧れるみゆっちがまるで青峰っちに片想いしてた頃のオレみたいでつい応援しちゃったんスー」って言ったら許してもらえたっスよ!!」

「へぇ……うまいな」

「本当のことっスもん!」



それを聞いた洛山三人


「え?黄瀬くんて桐皇の青峰とそういう関係?」

「あの赤司の感じだと中学の頃からみたいだな」

「黄瀬ちゃん密かに狙ってたのに」

「「え!?」」


レオ姉のは冗談です。






END



根武谷さんっていうか皆さんの口調に自信がないので後で書き直すかもしれません

あとこれでも私は宮地さん好きです