※すこし特殊設定 ねぇ綱手様、私ケッコー頑張りましたよね 教え子は色々あったけど立派な忍びになったし……え?「色々あった」で済まされることかって?ま、いいじゃないですか今や里を代表する大忍者になったんですから、流石三忍の弟子って感じで はい?ご自分と自来也様はともかく大蛇丸はろくなこと教えていないって?それもそうですね、でも大蛇丸は子どもを花街に連れてったり賭場に連れてったりしてないですし……ん?やだなぁ全然怒ってないですよ怒ってるわけないじゃないですかぁアハハ で、私ケッコー頑張りましたよね、オビトとの約束も果たせて、きっとミナト先生やリンも草場の陰から親指ビシッと……してないと思いますが労ってくれていることでしょう ナルトが火影に就任する前に粗方のことは教えておいたし、シカマルみたいな優秀な補佐がいて、里外のことはサスケに任せておけば一安心だし、なんだか肩の荷が降りた気分です これから戦忍に戻るか、内勤になるか、上忍師は流石に辞めておけと止められたので、暫く休んでゆっくり考えたいと思うんですが、如何でしょう? 「如何もなにも、私は既に現役を退いているのだから伺いたてることもないだろう」 「しかし綱手様は火影の先輩ですから」 「参考にしたいと?……そうだなぁ、暫く諸国漫遊の旅に出るなんてのは?」 「長期間、木ノ葉を離れることは考えてないですよ」 「む……やはり、そうか……」 「はい……そうですね」 「まだ、気持ちは変わらないのか?」 「はい」 穏やかに細められた瞳にもう写輪眼はないけれど、あの頃には無かった力が宿っているように見える。 コイツ人生という道に一生迷っていればよかったのにと綱手は思った。 「火影になる前にね、思い出したんです……アスマと話したこと、アイツ火影の息子として窮屈な思いをしてきて、でもそれはアスマが三代目様にとって大切な存在であるという証みたいなものだったって」 「そうか」 「はい、それで……俺が火影になるってことは俺にとって大切だと認識されたヒトを危険に晒すことなんだと思いました」 「ほぉ、いまだに独り身の言い訳か?」 「違いますよ、火影の責務からじゃない……でも今後も身を固めるつもりはありません」 「……」 「現役を退こうが、どうあろうが」 ――俺はきっとその人より早く死ぬ 綱手はハァと息を吐いた。 記憶に古いがよく覚えている、砂の我愛羅奪還の顛末をサクラに報告された時にふと疑問に思ったことを問うためカカシだけ部屋に残した。 あのときの直感を褒めてやりたい。 一城崩しの傀儡使い、砂の重鎮、チヨ。 カカシは彼女の開発したという蘇生術をコピーしたことを綱手に告白した。 「……その蘇生術を、禁術にしたとしてもお前は使うか?」 「禁術というのは術式が確認されたものを言うのでしょう?この世でこの術を印されているのは俺の脳だけ、膨大な情報を有するこの脳のどこにあるかも解らない術式を封じるなんて不可能ですよ」 禁術だけを忘れさせるなんて都合の良い芸当ができれば皆それを実践している。 綱手は先程カカシが里を離れる気がないと言ったことを思いながら再び訊ねた。 「その術を使うつもりなんだろ?次期火影の大事な者を蘇生させる為に」 「ええ、チヨバア様が我愛羅くんを救ったのと同じことですし、里の者が歴代火影の家族を命懸け守ってきたのと同じことです」 そう言われると否定もしにくい、何故なら綱手とてチヨの行動を英断だと思っていたし、今の我愛羅とナルトを見ていると彼が生き返って本当に幸福だと感じるからだ。 そしてカカシの決意の一端に木ノ葉の在り方があるのだと解ってしまった。 「綱手様……俺ね、正直火影になるの怖かったです。俺みたいな奴が権力を持つことが」 思えば別離と喪失で溢れた人生だった。 「俺はサスケや、オビトや、ネジのように大切な者の死によって歪むことを弱いこととも悪いこととも思えません、彼らは優しく情が深いゆえに憎しみに負けそうになりました」 「……」 「ナルトだってイルカ先生がいなければ、三代目やテウチさんアヤメさんやサスケサクラや再不斬や白くんや同期や先輩や里の仲間や自来也様やペインやビー様やミナト先生やクシナさんや尾獣たちやイタチやオビトや他の沢山の皆がいなければ闇に落ちていたかもしれません」 「ところどころに敵が混ざっているのが気にかかるが」 そしてイタチとオビトは関係ないのではないかと思うが「カカシはうちは贔屓だなぁ」ということで無理やり納得させた(考えようによってはかなり怖いけどまぁ大丈夫だ) 「俺が、うちは一族のような愛を持っているとは言いませんが、これ以上大事なヒトを失ってしまえばきっとどこかに綻びが出来る……そこを突かれてしまえば、ひょっとしたら……」 「お前はそうはならないだろ?なったとしてもかつてのナルトが止めてくれるさ、今度はサスケも共にな」 「ええ、それも解っていましたけど……でも、それでも怖かったんです」 あのヒトを失うことが。 お前の言うあの人の方が余程心配しているだろうにと綱手は想った。 「火影をしている間ずっとその恐怖を抱えていましたが……この術が俺の手中にあることが支えになりました」 ――もし失ったとしても取り戻すことができる ――自分の命と引き換えとなっても そう思うことで安心できたのだとカカシは続けた。 火影とその他の忍との間に命の差があるとは思えないけれど火影の背に乗る多数の命がたった一つの命の為に脅かされることなどあってはならないから、実際には赦されないことなのだろう。 だから思うだけに留めていた。 「里の為に働くことは火影でなくてもできることです。俺はただ親友との約束とか、上層部に対して正直コンチキショーって思ってたので次代の忍の為の里づくりをしたいとか、部下たちに血継を気にせず恋愛させてやりたいとか……他にも色々とありましたけど火影になった理由には個人的な野望も多かったんですよね」 「コンキチショー……」 「綱手様にも散々無茶をさせられましたから」 「言うようになったなぁお前」 つい笑いを漏らした綱手は自分が火影だった頃を思い出しているのか、よれよれと首を振って「あの頃は大変だったんだよ」と愚痴を述べた。 「勿論そんなことは解かってましたから文句も言わずに任務についてたんじゃないですか」 「だな……」 「そういえば綱手様どうせ使ってないんだからとか言って金をせびって来ましたね……シズネさんがいなかったら俺の残高底をついてたかもしれない」 「……あんなの冗談に決まってるじゃないか」 身内がおらず任務で里外に出ることも多いカカシは財産の管理は里に任せていた。 当然相続人もいないのでカカシの遺産は全てアカデミーに寄付されることになっていたのを思い出す。 そういえば「カカシ先輩、俺が死んでも稼いだ分が後進育成に使われるなら無駄じゃないよねーなんて笑って言ってたんですよ!!」なんて暗部の後輩たちから涙ながらの愚痴を受けたのを覚えている。 カカシは一度白い服を着て、それを脱いだ後だというのに当時から中身がそう変わっていないように思える、一度でも共に任務を行ったものならそう思うだろう。 「金が有り余ってるなら今からでも私に寄越せば倍にして返してやるぞ」 「今度は本気ですか?」 「一般人同士の金の貸し借りは法度にならないからね、だいたい住居がセキュリティ厳しいとこに移ったくらいで服は支給品だったり食事の好みも庶民的だしで、お前結構溜め込んでるだろう?」 「今も財産の殆ど里に任せてるので無理ですし、遺産はアカデミーとあと孤児院に寄付されることになってますし不必要な出費はしない方が……」 「なんなんだいお前は!!」 好い加減イライラして机をたたいた、多くの女性はよくこんなのに片想いしていられると思ったが、それはこの男の本質をしらないからだ。 大戦が終わり漸く自分の為の生を全うできると思っていた男だが、染みついた根性はなかなか落ちない。 「火影の大事なものを守る蘇生術だって、どうせお前は機会があれば誰にでも使うつもりだろう!?」 「……だとしてもそれは責められることですか?チヨバア様がしたことと同じです」 「善悪の問題じゃないだろうが!!なんでお前はそうやって……自分の命を後回しにするんだ」 「だって俺の好きな人だって同じ事をすると思います」 「イルカがそんなことするか!!」 「むしろ俺がさせませんね」 次期火影にとっても大事な人ですし? と、だから自分が死ぬのだと言うように首を竦めた。 「ナルトは大事な人たちを死なせないために最善を尽くすでしょう、でもだからこそ守れなかったことを『どうしようもなかったんだ』と感じます。アイツは真っ直ぐですから素直にその結果を受け入れるでしょう……でもその気持ちの先にあるのは『絶望』なんだと思います」 犠牲にならずにすんだ可能性がきっとあったと、取りこぼされていた選択がきっとあったと、そう思うことはツラいかもしれないけれど。 「俺はずっと後悔ばかりしてきました……でも『あの時こうしていればよかった』という想いで強くなってきたのかもしれないって今は思えますし……次はもっと上手くやろうって今も思っています」 悩んで悩んで、そうやって選んだ先に犠牲があったら後悔をして、それでも絶望せずにいられるのは、きっと幸せにしたい人がいるからだ。 その人が、里の平和を望んでいるなら命を掛けられる、必要とあらば蘇生術を使う、それだけの話だ。 「死んでしまった俺を見てアイツが後悔するならそれもいい、アイツならそこから何かを学んで……まぁ結果的に俺の好きな人を守ってくれることでしょ」 「そういえばお前らは下忍を千尋の谷に落とすタイプだったな……」 ナルトがアカデミーを卒業した年に上忍師が揃って教え子を中忍試験に推薦したと記録だけで知っている、今の彼らの成長を見ればさもありなんと思えるが普通はそんな無謀なこと思いつきもしないのだ。 その内のふたりアスマと紅の子が常識的に育ってよかったシカマルありがとうと思う、もうひとりの非常識人にはストッパーが必要なのだが、今更用意することもないだろう。 貴方の死は『希望』なんかじゃないと言ってくれる人が既に存在しているのだから。 「それにしてもチャクラ切れの状態でよくそんなに喋れるな、お前」 此処は木ノ葉病院の特別な個室、軽傷を負った子どもを癒すため先程言った蘇生術を使ってみたという、写輪眼のないカカシにはチャクラコントロールが難しかったらしく余計なチャクラを使い、生命力を糧とする術だからか肉体的な疲労も著しかった。 なんとか病院に辿り着くまで体を持たせたが綱手を見た瞬間、気が抜けたのかその豊満な胸に倒れこんだ(その場面を見ていた者は羨望の眼差しを送っていた)他人を術の実験に利用した結果、自分がぶっ倒れてしまっては世話がない。 「んー、まあだいたい入院理由がそうでしたからねえ、チャクラ切れで喋るのは慣れました」 「慣れるなそんなもん、って、そうじゃなくて誰の気配も解らない状態でこんな話をできるなと、忍の耳なら扉の向こうからでも聞こえる音量だぞ」 「元火影がふたりもいる病室に無断で近付こうなんて不埒な奴この病院にはいないでしょ?」 「はぁ……勘が鈍ってきたんじゃないかい?お前が癒した子はアカデミー生だったんだろう?アカデミー生なら六代目に傷を治してもらったと皆に自慢するだろうし、教師に報告がいくだろう、そして報告された教師はお前に礼を言おうと探し、お前が病院で倒れたと知れば様子を見に来る、教師に特別室なんて関係ないし、お前を見舞おうとする教師を止める野暮な奴がこの病院にいるわけないだろう?」 「……」 綱手の言葉を聞きながらカカシの顔が青ざめてゆく。 「そろそろ失礼するよ、明日には動けるようになってると思うからゆっくり休んでおれ」 言外に明日まで逃れられないと語られる。 「ちょ、綱手さまぁ」 「こうしている間にも私の治療を必要としている患者がどんどん運ばれてくるんだ」 「……」 その言い方はズルいと思いながらも、治療の必要のない身で彼女を拘束するわけにはいかないと伸ばした手を引っ込めるカカシ。 「では、お大事に」 そう言って扉を開けた綱手の向こうに見知った人影が見えてカカシは生まれて初めてこの里から逃げ出したくなった。 end アニメに我愛羅くん出てきたからという理由で書いたのですが、我愛羅くん関係ない |