えっと……ごめんねイルカ先生まで騙すようなことをして
あの……火影を引退して里のことは若い世代に任せて潔く身を引こうと思ってたんですが、やっぱりちょっと心配で
どうしたら邪魔をせずに近くで見守れるかなって考えて……最後の仕事で広報部に火影専属のカメラマンを置いたんです
スケアは下忍時代に一度会ってますしナルトも警戒しないかなと……ブログは正直ナルトが立派に働いてる姿を見せたらイルカ先生が喜ぶかなーーて
立派に働いてるところよりも息子に悪戯仕掛けられるシーンとか食事してるシーンが多くなってしまったのは不徳の致すところなんですが……え?可愛いくて好きですか?ありがとうございます
政に口出すことはないけど、事務方の仕事を手伝えるし、忍びとしての腕は全盛期より落ちちゃいましたが、ちょっとしたネズミ捕りくらいなら可能ですし
元上忍師で前火影のはたけカカシじゃできないことも、ただのスケアとしてなら出来ると思ったんです
正体を知ってるのは上忍数名と暗部の一部とシカマル・サスケ・シズネさんくらいかな、不審に思われないようにね?
サスケにサクラには教えていいかって聞かれたから教えてるんじゃないかな?綱手様と大蛇丸にも会ったらバレそう……
イルカ先生にも言うつもりだったんだけど……先生スケアとして初めて会った時にファンだって言ってくれたから……夢を壊しちゃいけないと思って
ほら先生ヒーローは正体を明かしちゃいけないって言ったじゃないですか、折角ファンでいてくれてるのに勿体ないし
うん、ごめんね、そんな泣くほど俺に会いたいと思ってくれてたなんて思わなくて……ごめんなさい、泣かせてるのに嬉しいです
わっ!怒らないで……だってアナタはみんなに優しいし平等だけど、会えなくなって泣く程の相手はそうそういないでしょ?
俺ずっとアナタにとって自分は少し親しい知人程度なんだろうなって思ってたけど、少しは特別になれてたのかな?
そっか、ありがとう……全て報われたような気持です
スケアとして会えるのも楽しかったけど、カカシとしてイルカ先生に会えるんだと思うと本当に幸せ
ねえ先生?俺イルカ先生に意識してもらえるなら教え子の上司でも飲み仲間でも友人でもどんな意味でもいいんで、これからずっと仲良くしていてくれないかな?
できれば一生……


「なんてこと言ってたんスよ……」
「そう……」

シカマルは紅の家でミライと将棋を三局ほど打った後、ベランダで煙草をふかしていた。
先程まで善戦していたミライは現在頭がオーバーヒートしたようで布団で丸くなっている、シカマルは余裕の表情なので今回も手加減したんだろう。
紅はシカマルの横へ立ち、和かな里の風に髪を靡かせていた。

「これって告白ですかね?」
「私なら告白だと思うわね……で?イルカはなんて?」
「凄いわたわたしながら、カカシさんと友達になれるなんて光栄です!って」
「私ならフラれたと思うわね……で?カカシは」
「俺も光栄です!!ってスゲエ喜んでました……」
「……ここまで進展すんのに何年かかったかしら……」
「俺もうなにも考えたくないです」

頭脳派なシカマルにもうなにも考えたくないと言われる先生二人。
アスマが気に掛けていた彼らのことを紅も同僚以上の気持ちで見守っているのだが、本人間で直接的に「好きです付き合って下さい」がない限り伝わらないのではないかと思っている。

「あの二人がいると部下の目がみんなヤマトさんみたいになって面白いんすけどね」
「それは面白いわね……」
「あの……うちの母ちゃんが最近再婚を薦められるんすけど」
「え?」

突然話がかわり赤い目をぱちくりさせる紅。

「息子が一人立ちして家庭を持って孫までいるんだから……自分の幸せをもう一度考えてみてもいいんじゃないですかーーって、そんな感じっすわ」
「大きなお世話ね」
「はい、だからキッパリ断ってるんですよ、そして付け加えるんです。はたけカカシが火影時代に無理やり結婚させられていたとして彼が幸せになったと思うか?と」
「断る口実に元火影を使うなんて流石ねヨシノさん」
「でも、まぁ……それくらい浸透しているってことなんですけどね……あのナルトですら気付くほど」
「あのナルトが?」

あの私が一瞬で気付いたうちのヒナタの気持ちに十年以上気付かなかったナルトが?という目で見詰める紅に、携帯灰皿に煙草を押し付けながらシカマルは言う。

「ええ、最近スケアさんがイルカ先生と仲良くしてるのを見て拗ねてましたよ、イルカ先生はカカシ先生のものなのに!って」
「うわーー……そうなの?」
「俺やミライだって母が父の他に愛せる人が出来たなら認めざるを得ないなって言ってんのに、アイツ……」
「馬鹿ねえ」
「はい、いつまでたってもイルカ先生離れできない馬鹿っス」
「ふふ……本当に馬鹿ねえ」

紅が馬鹿と言ったのはシカマルとミライのことなのだが気付いていない、再婚する人間を否定する気はないが自分とヨシノには有り得ないことだろう、過去と未来を比べて過去の方が幸せだったと思わないくらい良い男なんて存在しないのだし、そもそも家族がいれば充分幸せなのだ。
けれどそんな話を二人でするくらいシカマルがミライに己を曝け出してくれているのなら喜ばしいことだと思って、紅は笑う。


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翌日の午後、休憩時間に入ったスケアは散歩してくると言って火影執務室を出て行った。
アカデミーの校庭で生徒やイルカと遊ぶのだろう、ナルトはいつもより強めにキーボードを叩いていた。
忍用に頑丈に作られているキーボードでもあまり乱暴に扱うと壊れるだろう、シカマルは書類でナルトの頭を叩く。

「好い加減スケアさんに苛々すんのやめろよ……本人にぶつけないだけマシだけどな」
「だって!!俺ずっとイルカ先生の相手はカカシ先生だって決めてたんだってばよ!!」
「別にあの二人デキてたわけじゃないから良いじゃねえか……勝手に決めてやんなよ」
「カカシ先生だって火影なりたての頃「お前には悪いけど実は俺ずっとサクラにはサスケだと思ってたんだーよね」って超上機嫌で言ってたからお相子だってばよ!!」
「はぁ……お前らの班って全員どっかしら無神経だよな」
「うちの班バカにすんな!!」
「馬鹿にはしてはねぇけど……」

ナルトから新旧七班の思い出話を聞く度に面倒くさいからしないけれど無神経語録が作れそうだとは思う、隊長含めて毒舌な上ハッキリ物を言うタイプでおまけに鈍感で空気が読めない。

「八班の爪の垢でも煎じて飲んでれば良かったのにと思ったことはあるな、純粋にチームワークなら十班の方が上だが、気遣いや思いやりなんかは見習うとこもある」

と、此処から不毛な舌戦が開始されることとなる。

「アイツら引き合いに出すなってばよ!!あと、さりげなく自慢してくんな!!……それでも最強なのは七班だからな!!!」
「ふん頭脳戦とチームワークなら十班だろ」
「はあ?サクラちゃんは頭良くて判断力あるしサポート上手だし、俺だって昔よりは冷静だし奇襲は得意な方だし、サスケは実戦経験が豊富だから機転が効くし頼もしいし、サイは万能タイプだし洞察力は高いし、ヤマト先生は癒し系でからかうと面白いってばよ!あとカカシ先生は――」

ヤマトに対してだけ微妙に酷いことを言っているが、まぁ自分が子どもの頃に先生をしていた相手に対しては微妙に酷くなるもんだよな、とシカマルは思い留まった。

「カカシ先生は……全部が凄いってばよ、好い加減でムッツリでクズだけど」

アカン、大の大人の男が泣きそうだ。
カカシが里を去り(去ってはいない)同志である筈のサスケやサクラがそう寂しがっていない(だっているから)のも彼に孤立感を覚えさせるのだろう。

「カカシ先生は遅刻魔だけど、俺ひとりで待たされたこと一度もなかった」

いつもサスケやサクラが傍にいて、あーだこーだと作戦を立てたりカカシの文句を言い合ったりしながら過ごしていた。
でもサスケやサクラがいないときはすぐに来てくれる、待つことだって修業だと言い訳をする人が。
バテて寝ている時は起きるまでずっと傍にいてくれた、ひとりの夜をずっと過ごしてきた人が。

――なに生徒を泣かせてんすかカカシ先生――
シカマルは苦笑しながらナルトの頭上にずっと押し付けていた書類の束を持ち上げた。

「悪い、お前のチームを他と比べることはなかったな、つーか比べられるもんでもねえと思うし」

争いは常に虚しいと解っていた筈なのに、と何故か無駄にシリアス調で思っているとナルトはいつのまにか遠い目をしていた。

「ああ今無性にサスケとサクラちゃんと同じ任務に出たいってばよ……逃げた猫つかまえたり畑仕事手伝ったりしたいってばよ」
「おい火影」
「そんで帰ってきたらイルカ先生に一楽のラーメンおごってもらって……カカシ先生がイルカ先生を飲みに誘うのを陰ながら見守りたい」
「……」
「あの頃の俺ってば先生たちが仲良いとイルカ先生がとられると思って邪魔したりしてたんだよな……ほんと親離れできてない馬鹿だった」
「今も親離れできてないけどな」

今ナルトが危惧しているのは『カカシ先生のイルカ先生がスケアのにいちゃんにとられちまう』だ。
スケアの正体を知っているシカマルからすればくだらない心配事だがナルトは気が気じゃないのだろう。

「任務が駄目なら飲み行きたい、サスケェ……サクラちゃんん……サイィ……ヒナタァ……」
「そこヤマトさんじゃねえのな」
「ヤマト先生は酔ったらどうなるのかわかんねえから怖いってばよ」
「まあな」

ヒナタとは宅飲みすればいいのでは?と思うが、酔って妻に話す内容が『カカシ先生のイルカ先生がスケアのにいちゃんにとられちまう』だなんて可哀想すぎるだろう、シカマルが『うちの母ちゃん再婚するかもしれねえ』とテマリに愚痴るようなものだし、途中で『俺が先に死んだときは俺に構わず再婚しろよ』なんて言ってしまい最終的に喧嘩になりそうだ。

「まあスケアさんもボルトが下忍として働くのに慣れてきたらカメラマン辞めて旅に出るそうだからな」
「へ?はあ!?なんでだよ!?」

驚いて叫びあげる、なんだかんだでナルトはスケアのことも好きなのだ。

「最初っからそういう契約だった筈だが、見てないのか?」
「いや、カカシ先生が連れてきた人だし契約とか履歴とかあんま気にしてなかった……けど、なんで……」
「なあお前、六代目がなんで任期の終わりの方で広報部に彼を置いたと思ってる?」
「それは……」
「六代目が就任した頃な、あの人殆ど家に帰る余裕なかったぞ?仕事に慣れる最初の一年は季節に一度数時間くらいじゃなかったか?二年目も月が落ちて来るだの教え子が結婚するだのがあって全然帰れてなかったし」

唯一の息抜きは水晶でイルカの授業風景を眺めることだったそうだ(まあプライベートは覗いていないので大目に見よう)直接会いに行けば喜ばれるだろうに勿体ないと思ったけれど、その時間もなかった。

「お前が火影に就任したのってまだ子ども達が小さい頃だったろ?だから少しでも家に帰れるようにって優秀なスケアさんを傍に置いたんだよ、あとお前の帰りを待つ家族にお前の姿を見せられるようにブログも開設させた」

まあイルカに見せてあげたいというのが一番の理由だったけれど。

「お前が火影になって子ども達も寂しい想いするだろうけど下忍になって自分も働き始めれば火影の必要性や重要性を知るだろ、それまでは少しでも多くボルトやヒマワリの傍にいれる時間を作ってやりたかったんだって、火影を父に持つアスマとも同世代だし、親が殆ど家に帰らない子どもの気持ちはお前よりも想像できてたんじゃね?」
「……」
「スケアさんの存在はカカシ先生がお前のことを大事にしてる証拠だよ、スケアさんもそれに応えて自分のやりたいこと後回しにしてくれてたんだからな」
「別にスケアのにいちゃんに不満があるわけじゃねえってばよ……ただイルカ先生はカカシ先生じゃなきゃ駄目だし、カカシ先生が浮気されてるとこなんて見たくねえってばよ」
「浮気って……だから付き合ってなかったろ先生たち」

ずーーっとサスケを好きだったサクラの傍にいて、ずーーっと自分を好きだったヒナタと結婚していて、お互い深く愛し合っている両親の子に生まれ、遊び人でもなんだかんだで一途な自来也を師と仰いでいたナルトが不貞行為に嫌悪感を抱くのは仕方ないが、それを交際してもいない教師と上司に押し付けていいものかと思う。

「イルカ先生もカカシ先生も大事な先生だから好きな人から大事にされてほしいってばよ!不安になったり悲しくなったりしてほしくないってばよ!もう二度と痛い思いしてほしくないってばよ!!任務以外で」

久しぶりに聞いた「てばよ」連発だ。
「任務以外で」と付け加えるあたりがまだ現実的だけれど随分と子ども返りをしているなと思う。

(スケアさんが辞めなくていいから、カカシ先生帰って来ねえかな……)

子どもの頃みたいにナルトの前に影分身したカカシが現れればこの子ども返りも少しは落ち着く、お節介を働いてイルカと一緒にいる時間が増えるように画策するかもしれないが、本人たちも多分嬉しいから構わない。
スケアは政に口出しすることはないがナルトやシカマルの仕事が進みやすいようシズネと暗部と共に上手くサポートしてくれているので、急にいなくなられたら結構な打撃を受ける、とはいえ前世代にずっと頼っているわけにもいかず早く自分達だけで仕事を回せるようにならなければいけないという焦りがシカマルの中にはあった。

(いっそのことスケアさんの正体バラしてくんねえかな……)

そうこう考えている内に自力で仕事モードに切り替えたのかナルトは黙々と書類を片し始めていた。
よし、とシカマルも思考を切り替える。

先程シカマルがした『スケアが辞めずカカシが帰ってきてくれれば』という願望は暫く後に叶うのだったが、面白がってカカシ・イルカ・スケアで出掛けたりを続けたため、何故だかイルカを巡る三角関係に突入したと忍の間で話題になってしまった。
勿論、その時のナルトはカカシの方へ肩入れをするのだった。




END
3人デート(本人達はただ遊んでるだけのつもり)のカカイルを見てハラハラする里民の姿も見られたとか