はたけカカシのイメージは?
『胡散臭いってばよ、世話焼いてくれるけど』
『なに考えてるかわかんねぇが……まぁグズではない……』
『変な人よね、優しいけど』
『アホね、いい奴なんだけど……』
『面倒くせぇな、いい奴なんだけど』
『我が永遠のライバルだな!誰よりも熱い炎を宿した奴だ!』
『アイツは面白いやつだよ、その分扱いにくいがなぁ』
『変わり者だけど強くて頼りになります』
『いつも助けてもらってばかりで……おかしな人なので気遣わなくていいんですが』

ここまで思い出しイルカはこの人なんで火影に撰ばれたのだろう?と首をかしげた。
いや、解るのだ。
忍としての実力もあり里を愛していて頭も切れる、白い牙の息子で黄色い閃光の弟子で、忍界の英雄の上忍師、加えてイケメン、まぁ火影になっても誰も文句は言わないだろうと思われる。
着眼点が違うというだけで皆カカシの良いところを見ているのだから『俺だけがあの人の真の魅力を知ってる』なんて思わないし、なんなら変なフィルターが入ってる分イルカの方がカカシの真実の姿を見誤っているかもしれない。
ちなみに同様にイルカのイメージを聞いたところ『子ども好きのお人好し』『うたのおにいさん的な』『ラーメン』という答えが返ってきたが、うたのおにいさんてなんだよ、ラーメンてなんだよと思う。
『イルカ先生は俺の命の恩人だってばよ!』と言ってくれた弟のような存在は本当かわいい、彼はまだ里に認められていなかった頃の自分を身を呈して守ってくれたのはイルカとサスケくらいだと(いや安全に任務に就かせてくれていたカカシとペインが襲撃したときにヒナタがしたことはどうなんだ?と思わなくもないが)嬉しいことを言ってくれた。
でもやはり火影というのは火の国の影ということなのだから、皆が気付かないところで皆を守ってくれていたり庇っていてくれているものなんだろう、火影塔でみてきた三代目や五代目もそうやってきた。
イルカは普段意識していないだけで、今自分と仲良くしてくれている外勤の忍者達もカカシが隊長でなければ生きて帰って来れなかったかもしれない任務があったのだろうなと思う、そしてカカシのチームで殉職した忍は最期の瞬間まで仲間に大事にされていたのだ。
里の慰霊碑と仲間の記憶に名前を刻まれると確信して逝けたのだろう、そんなことよりも生きていてくれた方がいいのに、カカシの心に傷をこれ以上増やさないでくれと願う、だからイルカは自分が死ぬならカカシの目の届かない場所でと思っていた。
けれど火影となった以上カカシはイルカがどこでどのように死んでも自責の念にかられてしまう、それならカカシより長く生きて、アカデミーから自分や仲間の命を大事にする優秀な忍を排出し続けることで彼の心労を減らしてゆこう。

(今は仲良くしてもらってるけど火影になったらカカシさんそんな暇ないだろうし)

今だけ、少しでも一緒にいる時間をもらえないだろうか……せめてカカシにとってイルカが特別でなくても、カカシがしてくれているイルカにとっては特別なことを少しでも多く気付きたい、あの人がくれるすべての幸せを素直にすべて信じて生きたい。

(いまだに敬語は崩してもらえないけど)

丁寧に接してもらえているのは言動から解かるけれど、付き合いの長さも、階級の距離も、生徒たちよりずっとある。
それなのに呼び捨てにしてもらえないのだ。

『ナルトーサスケーサクラーサイー』

生徒たちにするあたたかく慈愛の込められた声が好きだ。

『テンゾウ!夕顔!』

後輩に対するするどく信頼に満ちた声が好きだ。

『ガイ、アスマ、紅』

友人にする気安い甘えたような声が好きだ。
なんだったら敵に向かっていく不穏な声だって格好良く聞こえてしまう。

『オビト……リン……』

あの、縋るような声は、ほんの少し苦手だった。
だって今にも飛び出していきそうだったから、けして敵わない相手への嫉妬もあったかもしれない。

「あとは……イチャパラファンの集いのメンバーも呼び捨てタメ口だったよな」

だいたいイチャパラファンの集いとはなんなのだろう……あまり深く考えたくなかったけれど、自分はあんな年に一度聖地で思い出を語り合う仲の方以下の存在なのかと少し落ち込んだ。
というよりもどうしてこう呼び捨てとタメ口にこだわっているんだろうと自分でも不思議なのだが……でも、そうだな。
声はそのヒトの体の中から出でるものだから、話し方はそのヒトの過去を表すから、呼び方はそのヒトとの関係を確認するものだから。

「先生って呼ばれるのも悪くないんだけど」

役職でも生徒を通してでもないイルカ自身のことを認識してほしいんだ。

「どんだけ厚かましいんだろうか俺……」

ズーンと沈んでしまったイルカが気分転換に飲みに行こうかと考えていると、こつこつと窓辺へ式が飛んできた。
これはこれは珍しい緊急任務だ。
子どもに何かあったのかもしれないと急いで窓を開け式を受け取ると、綱手の声が聞こえてきた。

「イルカ!お前に特別任務を命じる!!暫くアカデミーは他の者に任せカカシの引っ越し先探しを手伝え!!」
「な、なんだって〜〜!!」

と、文字におこせばツーサイズほど大きくなるだろう声をイルカが上げたので両隣の部屋から壁を思い切りたたかれるのだった。



* * *



「よろしくおねがいします」
「こちらこそよろしくおねがいします」

困ったような顔をした二人が顔を突き合わせたのは翌週、カカシの住むアパートの玄関だった。

「とりあえず上がってください」
「はい、お邪魔します」

と、言ってイルカは靴を脱ぎカカシの靴の横に並べた。

(カカシさんの方がちょっと大きい……)

小さな頃から野山を駆け回っていたろうし、身長が高いのでカカシの方が足が大きいのも不思議ないのだが、二つ並んだ其れの違いに少しドギマギした。

「お茶淹れますから適当に座っててください」
「あ、おかまいなくー」

そう言いながら客に何も出さないでいる方が気を使うだろうと、ダイニングテーブルの上に持ってきた資料を置いておとなしく椅子へ座った。
一応座敷なら下座と言われる方へ座ったが、台所で湯を沸かしたり戸棚を開けている音が聞こえて気になってしかたない、振り返りたいのに振り替えれないもどかしさを感じているうちにカカシの白い腕がイルカの前ににゅっと伸びてきた。

「お湯わくまでちょっと時間かかりますからソレ摘まんでまってて下さい」
「はい……」

気配消すなよ心臓に悪いな、と思いながら辛うじて頷き、お菓子の詰まった籠を見る。
三代目がよく受付忍たちに配っていたものと、イルカが夜勤中に持ち込んでいたものだ。
たしか両方カカシがいるところで食べていたけれど、分けようとすると甘いものが苦手なのでと断られた記憶がある。

(まさか俺の為にわざわざ買った……とか?)

今日イルカが来ると聞いて、イルカの夜食とは違い三代目がくれていた差し入れはちょっといいお店のものでその辺のスーパーで売っているわけじゃないのに、わざわざ行ったのか?
(やっば)

顔に熱がたまって心臓がばくばく鳴っている、忍とはいえ任務外だ、好意を抱いているカカシにそんなことをされてしまって平静を保てるわけがない、なにか気を散らせるものはないかとイルカは家のなかをキョロキョロ見渡した。
だいぶ不躾な行動だがカカシも観察癖がついていると言っていたし多目に見てくれるだろう、取り立てて特徴のない部屋だ。
本棚と棚とテレビ台とソファーとテーブル、隣の部屋がおそらく寝室、バストイレは別々にあり、広さはイルカの家より少し広いくらい、いくつかの観葉植物がある。
観葉植物はナルトからだろうか、と思っているうちに二人分のコーヒーをのせた盆を持ったカカシがやってきた。

「どーぞ、砂糖とミルクはお好みで」
「ありがとうございます」

今日は綱手から二人とも私服でいるように命じられているからカカシは最初から口布を取っている、食事中は外すので珍しいものではないが(何故ナルト達の前でだけは外さないのか不思議だ)端正な顔が正面にあるとつい緊張してしまう、緊張を振り払うようにイルカは話しかけた。

「これナルトからですか?」
「ええ、大戦後にプレゼントだってくれたんですよ」

そう言ってテーブルの上に置いてある小さな鉢植えの葉を撫でるカカシ、イルカはくすりと笑って反対側の葉を撫でた。

「アイツ昔から植物を育てるのだけは上手くて、植物によって解かるその地域の特徴を答えよみたいな問題も出すんですけどテストでもそこは正解だってたんですよね」
「まあ頭は悪くないですよね、コツさえ掴めば術を覚えるのも早いし」

勉強のヤル気も興味があるかないかに寄るところが大きいのかもしれない、火影になるのは彼の長年の夢なので自分が就任中にしっかりと学んでいてほしいものだ。

「自来也様と旅に出ている間は皆のところに散り散りに預けていたそうなので、もしかしたらイルカ先生のところにもありましたか?」
「はい、ナルトが帰ってきたときに返しましたけど、ペインの襲撃でいくつか駄目にしてしまったと残念そうにしていました」
「じゃあコイツは運よく生き残った奴の一つなんですね」

葉を撫でる指が愛着が沸いたように見えてイルカは微笑んだ。
ナルトはイルカにも挿し木をして増やしたものをくれたりしていたので、ウチにあるのはこれと兄弟だったりするのかな?と嬉しくなる。

「さて、本題なんですが」
「はい」

イルカは不動産屋から集めてきた書類を綴ったファイルをカカシの方へ向けて置いた。

「綱手様からカカシ先生はあまりこだわりないというか住めれば何処でもいい感じだと伺ったんで俺が勝手にいくつかピックアップしてきました」
「結構ありますね……」
「二十件くらいです」
「二十!?」
「もちろん全部見学しに行くとか言いませんよ」
「そうですね……」

イルカ先生と見るなら楽しいだろうけど流石にそこまで付き合わせてしまうのはなぁ……、という独り言が聞こえバッと顔を上げるがカカシは考え込むようにファイルを捲っていた。
自分こそ二十件も一緒に見れるなら嬉しいと思いながら、話を続ける。

「護衛しやすいようにと、すべて庭のある一戸建てにしました。生徒たちが呼べるようにキッチンとリビングは広めで、浴室も忍犬も入れるように広め、狭いところの方が落ち着くと言われていたので寝室は小さく、衣類も増えるでしょうからウォークインクローゼット付き、あと空き部屋も作ったので書斎なり倉庫なりにお使いいただければと」
「仕事は持ち帰り禁止って言うから殆ど寝に帰るだけの家だと思うけど」

そうだね空き部屋があれば誰かが泊まりに来たときにいいか、ぽつりと零された言葉に動揺した。
恐らくナルトやサイのことを言っていると思うが、いつか彼に恋人が出来た時にイルカが選んだ家にそのヒトと一緒に暮らすかもしれない、正直複雑だ。

「引っ越しなんて面倒くさいと思っていたんですけど、こうして物件を見ると少しワクワクしてきますね」
「そうですか?」
「はい、イルカ先生が選んでくれたと思ったらなんか気合入れて取り組まないとなって思います」
「なんですかそれ」

前言撤回、一生懸命選んでよかった。
これで駄目なら第二段第三段と調べてくるのも吝かではない、とイルカはイルカで気合を入れる。

「ここもコンビニが近くて便利だったんですけどねぇ……あ!えっと!あれです夜遅くなるとコンビニくらいしか空いてないので!」
「なに焦ってるんですか?別にコンビニ弁当ばっか食べてたって怒りはしませんよ、俺だってレパートリーはラーメンくらいだし」
「アナタの家って商店街に近いじゃないですか……」
「ですから商店街で野菜をしこたま買ってラーメンに乗っけるんです。一応アカデミーで栄養学も教えてるのでそこまで偏ってはいないと思いますよ?カカシさんもでしょう?」
「はあ、一応必要最低限の栄養素はとってますけど……そこらへんはナルトにも継承していただきたかった……」

ナルトも彼女が出来たら彼女に作ってもらったり自分も作ってあげたくなるかな……彼女か……うーんサクラにはサスケだし……、等とぶつぶつ言い出したカカシ。
先程から時々敬語が崩れるがどれもが独り言なのでイルカのなかでタメ口にはカウントされない、独り言が多いということは気を抜いている証拠なので嬉しいことは嬉しかった。

「味噌汁くらいは自分で作れるようになってほしいんですけどね、あ、あいつ朝はパン派か」
「イルカ先生はご飯派ですか?」
「はい、朝は味噌汁と焼き魚が多いでしょうか?」
「俺と一緒だ……なんか嬉しいです」

自炊しよう、その言葉がイルカの脳裏に浮かんだ。
そして味噌汁と焼き魚は以前カカシが好きだと言っていたからレパートリーに増やしたなんて一生言わないでおこう。

「家はやはり職場の近くがいいと思います」
「そうですか……運動不足になりそうだから郊外でもいいなって思ってたんですよね」
「付き合わされる暗部が可哀想ですよ、カカシさん足早いから」
「走りませんって、一応これでも火影になるんですし」
「そうですよカカシさん、危ないことして子どもが真似したら怒りますからね」
「えー?そこは親御さんと先生たちで教育してくださいよ」
「俺たちも保護者も精一杯してるんですよ、でも今まで煙管に憧れる子がいたり賭場ごっこが流行って大変だったんですから」
「……つまりこれはイチャパラーを増やすチャンス……」
「成人向けの本を流行らせようとしないでください!!」
「冗談ですって」
「ったく、もう……」

話しているうちに最初の緊張が解けてしまった。

「連絡をくれたら何時でも見学していいそうですから、いくつか候補を絞りましょう」
「はい」
「俺が考える火影邸の条件っていうのは、まずリラックスできる環境です。カカシさんは五感が鋭いから静かで綺麗な場所がいいですね、あとは日当たりがよくて、火影塔に近い、警備がしやすい、上空から死角になっていればいいんですけど建物の低い木ノ葉では難しいので常に結界を張ることになるじゃないかな?だから住宅街から離れている方がイイと思います」
「そっか好奇心旺盛な一般人が結界に触っちゃったら大変ですね」
「はい、あと日用品の買い物なんかは部下に任せちゃっていいと思いますから、自分で買いたいものは休日に遠出して購入することにしてはどうかと」
「ああ気分転換になりますもんね」
「収納も多めのところを選んでますから今よりストックもできますよ、シャワートイレにしてるからトイレットペーパー切らしても焦らなくて大丈夫!!」
「そこ力説するってことはトイレットペーパー切れて困ったことがあるんですね……?」
「恥ずかしながら、雪の中コンビニまで走りましたよ」
「ふふ」

自分の話でカカシが笑ってくれるのが嬉しい。
それからコーヒーを飲みつつ(淹れていた時間を考えるとインスタントものなのに今まで生きてきたなかで一番おいしく感じた)候補を三つに絞った。
不動産屋に連絡するとその内のひとつを午後二時から見学できるとそうなので、それまでの間イルカが昼食を作ると言った。
するとカカシは大変恐縮して、でも瞳に期待を宿しながら「いいんですか?」なんて聞いてくるのでイルカのときめきは最高潮に上がったのだった。
引っ越した後に買おうと今は米を節約しながら使っているとカカシが言うのでウインナーとニンジンとピーマンと玉ねぎでナポリタンを作った。
卵もあったので卵スープを作ると「先生ラーメン以外も作れるんじゃないですか」と目を輝かせていた。

「イルカ先生の作ったものを食べれるなんて幸せだーね」

食事中にふと漏れた言葉は独り言か掛けられたものか解らないけれど、もし後者だったらいつもより随分と砕けていて嬉しい、言葉の内容も、今日はイルカにとって嬉しいことずくめだった。

「イルカ先生、口の周りにケチャップついてる」

そう言ってティッシュで拭いてくれたときには昇天しかけたけれど。


不動産屋に案内された家をカカシは一発で気に入り、引っ越し先はそこになった。
イルカとしても第一候補というか一番オススメしたい物件だったが、できたらもっと沢山カカシと家を見て回りたいと思っていると、不動産屋が「備え付けの家具が無いので自分で購入されることになると思うんですが、寸法等を今のうちに図っておいた方がいいですよ」とアドバイスを受ける。
そこからカカシとイルカは不動産屋が呆れるんじゃないかというくらい、ふざけたりはしゃぎながら家中の寸法を測っていった。

「玄関広!犬の足を拭くのにいいですね」

と、言って犬の足を拭くジェスチャーをしたり。

「お風呂も広いですねえ、ちょっとみんなで入ってみましょ」

そう言ってイルカと不動産屋と三人で空の浴槽に並んで座ったり(職権乱用)

「カカシさんこのリビング立ち幅跳びできそうです!」

と、なにも置いていないリビングで飛んだところ壁にぶつかりそうになりカカシに助けられたり。

「トイレから庭が見れるんですね……長居しちゃいそうです」
「冬でもあったかい便座ですよー」

なんて交互にトイレに座ってみたり。

「寝室は一番静かな場所ですね、思ったより広いから王様ベッドも置けそう」
「王様ベッドってキングサイズのことですか?」
「いえ天蓋が付いてる……」
「無理です!七班の写真飾るのに!アイツらに見られてるみたいで恥ずかしい!!」
「あはは」

そんなカカシの何気ない言葉にすこしジェラシーを感じてみたり。
なんだかんだとしている内に日が沈んでしまっていて、付き合わせた不動産屋に申し訳なく思っていると不動産屋の方も見ていて楽しかったと言ってくれた。

火影を引退したら引き払うからと賃貸契約となった。



* * *



数日後、イルカと話したカカシ宅のリビングにはナルトとサクラの姿があった。
今日のカカシはしっかり支給服を着て口布をしている。

「というわけで引っ越し先が決まったんだけど、ここは引き払わないようにしてるから二人に鍵を預けることになると思う」
「なんでだってばよ?」
「サスケが帰って来た時に自由に使えるようにね、残しとくよ、此処住んでるの俺の上忍仲間ばっかだしサスケも宿を借りるより気安いでしょ」
「なるほど、わかりました」
「たまに風通しにくればいいんだな」
「ガスと電気は止めるけど水道は止めないからたまに出してね」
「「はーい」」

サスケの名前を出せば快諾してくれると思っていたカカシだったが、二人が思ったよりも嬉しそうに笑うので自分の選択は間違いなかったのだと思う。
里に戻ったときに必ずナルトかサクラと顔を合わせる口実が出来たことは素直ではないサスケにとっても良いことだろう、カカシとしてもタダで部屋の管理をしてくれる者をゲットできて得した気分だ。

「ところでカカシ先生、それからイルカ先生とどうなの?」
「どうって」
「引っ越し先を探してもらったんだろ?」
「うん」
「で?」
「で……って、そうだね、寸法測るの殆ど先生に任せちゃってたから今度は家具屋に付き合ってくれるらしいよ」

寸法の書かれたメモだけ渡してくれたら自分ひとりでも大丈夫なのだが、折角イルカが好意で言ってくれているので甘えることにしたのだ。
目の前の教え子たちの活躍で内勤忍者の里外での任務は殆どなくなったし、火影に就任するまでの間だけなら彼の時間を貰うことも許されるだろう。

「そっかーーよかったなカカシ先生!」
「ああ、早めに決まってよかったよ」

そういうこと言ってるんじゃないんだけどな、とナルトとサクラは思ったが顔には出さず、カカシの出してくれたお菓子を見た。
きっと先日イルカに出した残りなんだろうな、前回来た時はジュースとスナックが出てきたもんな、どんだけ子ども扱いされているんだろうと苦笑が零れる。

「そういえばカカシ先生の就任祝いとイルカ先生の誕生パーティーの場所、アカデミーのホールに決まったぜ」
「え?そうなの?」
「はい、綱手様に相談したら放課後貸してくれるそうです。ホールだから大きな音出してもいいし」
「飾りつけとか木ノ葉丸たちが手伝ってくれるって言ってた、本番は参加させらんねえけど」
「ああ夜になるもんね」

放課後から準備すれば開催は夜になるだろう、場所がアカデミーならイルカは楽しいだろうけれど酒はあまり飲めないなとカカシは思った。
ただ皆は優秀な忍者なので準備も片付けも短時間で終えるだろう、ナルトの同期の連中なら夜遅くなったって問題ない。

「一応、イルカ先生の誕生日当日の夜七時からを予定してます」
「カカシ先生絶対ばっくれんなよ」
「ちょ、ばっくれるって……遅刻もしないし」

オビトと話せて以前のように慰霊碑の前に長時間佇むこともなくなった。
火影になるなら時間厳守、イルカと合同のパーティーなのだから遅れる筈がないだろう。

「大丈夫、安心して、楽しみにしてるから」

可愛い教え子たちが準備してくれるということもあるし、今はイルカとの時間をなにより大事にしたいから、なにも問題が起こらなければ逃げたりしない。
里の警護は厳重だし、自分は休暇中で、イルカに急な仕事が入ることもないと思うから、問題なんて思いつかなかった。


(俺の気持ちがバレちゃったら、会わせる顔ないかもしれないけど)


それも、きっと天地がひっくり返ってもないことだと安心して、カカシは楽し気に目を細めるのだった。





つづく

知り合いみんなから早よくっつけと思われているカカイル
ナルトですら薄々感づいてる