第七班は豊作と言われた木ノ葉同期の中でも頭ひとつ分飛び抜けた実力をもつ存在だった。 里の英雄ナルト、伝説の後継者サクラ、元・根所属の柱部サイ、とくれば与えられる任務も長期に渡る難易度の高いものが多い。 それでも五大国が平和調停を結んでいるので昔に比べれば危険な任務は各段に減っていて、木ノ葉の害になりそうな案件は外部を旅するサスケが早急に報告してくれている為おおごとにはならない。 今回もサスケが木ノ葉を狙う武装集団がいたと口寄せの鷹を飛ばしてきた。 書状には『全員生け捕りにしておいたから、取りに来い』を百倍丁寧にしたような文章が長々と書いてあったそうだ。 「アイツわざわざナルトやサクラがいない時を見計らって報告してきただろ」と六代目が呆れたように呟いていたのを思い出す。 サスケは各地で難民を見つけた時も同じように木ノ葉に案内してくる、彼曰く暁みたいになられても困るからとのことだが本心は行き場のない者達をそのままにしておけないのだろう。 今のサスケは孤独を知るからこそ他人に優しく出来るを地でいっている、それを知っているのが一部の忍だけというのが惜しい。 「はぁーつまんねえ任務だなぁ」 生け捕りにした武装集団(かつて木ノ葉に滅ぼされた国の残党)を乗せたゴンドラを忍犬達が運ぶのを横目に見ながらキバは欠伸をかく。 殆ど無傷で拘束された者達だが蟲にチャクラを吸い取られ白眼で見張られていれば逃げられないだろう、万一逃げたとしてもキバの鼻がすぐに捕らえる。 確かに自分達向けの任務ではあるがこれならサスケを怖がらない木ノ葉丸達でも良かったのではと思ってしまう。 何故なら……と、後方に目線を向ける。 「……なかなか懐かなかった忍猫だがオレが持参した特製またたびボトルをやって以来どこへ行くにもついて回るようになって……」 「ふふふ、よっぽど美味しかったんだねサスケくんのまたたびボトル」 ……女子と和やかに談笑するサスケなんて見たくなかったとキバは溜息を吐く。 武装集団を第八班に預けた後に立ち去ると思っていたサスケだったが火影に直に報告したいことがあるからと言って里まで一緒に行くことになったのだ。 (しかも話の内容が猫って……) 元々同じ班のナルトやサクラへはさりげないフォローを入れていたらしいし、最近は毒気が抜かれまくって同期の皆には穏やかな表情を見せるようになったサスケは元々のスペックも相俟って向かうところ敵無しといった感じだ。 元テロリストで愛が重すぎる気質のあるうちは一族で良かったと思ってしまうくらい(うちはで良かったななんて言ったら喜ぶから言ってやらないが)モテそうな雰囲気を持っていた。 「ふん、猫ってやつぁ現金な生き物だよなぁ、やっぱり犬が最高だぜ」 「で、でも猫さんも可愛いよキバくん」 「猫なんて性格が可愛くねぇじゃねえか……」 「お前そんなこと言って……いつか、またたびボトルが必要になる日がきても売ってやらないぞ」 「こねえよ!ってか売る気かよ!?」 キバはフンと顔を背けた。 根っから犬派の自分が猫なんぞに媚びるもんか! 昔から、おしるこ派とぜんざい派、犬派と猫派は相容れないものだと決まってるんだ。 「それで、またたびボトルがあれば二尾も手懐けられるかもなって一瞬思ったんだよな」 「……いくら冗談でも本気出したら本当に出来る奴が言うと怖いな」 「チャクラの塊が食物を摂るのか?」 「クラマくんは食べないけど……」 しゅんと項垂れるヒナタを見てもしやクラマ用のごはんを作ったことがあるのではないかと心配になる。 ナルトの相棒だからってあまり気付かうのはクラマも気を遣うからやめてやってくれと他人事ながら思うキバとシノだった。 それにしてもサスケは意外と聞き上手なのだろう、ヒナタが自分から話しかけたり話題を振ったりするのは珍しい。 「ところでカグヤについて何か新しくわかったことはある?」 世間話の延長のような感じでそんな事を聞くが別にサスケは気にせず「そうだな」と考え込む。 ヒナタもさほど重要な情報を聞けるとは思っていないだろう、穏やかに微笑んで彼の返事を待っていた。 「大したことは解っていない、なんせ千年以上前の伝説だからな」 「そっかぁ」 「だから教えられる範囲でいいから白眼のことと、あとは大筒木トネリが使ったっていう幻術についてもよく教えてくれ、なにかヒントになるかもしれない」 「それは勿論!……え?でもトネリの幻術?」 「カグヤの子孫が使う術だからな」 ここでキバとシノは置いてけぼりにされると気付いた。 ヒナタが「ナルト君に追いつきたい!」なんて無茶な目標を掲げてナルトと互角のサスケと修業を見てもらっているとは皆知っているが、あの月であった出来事について話していたなんて思わなかった。 「大切な人との過去を延々と見せる幻術なら簡単だが、近くにいる人間とリンクさせるには二人の精神を繋ぐものが必要なのかもしれないな」 ナルトとヒナタの場合はそれがマフラーだった。 「……」 「サスケくん?」 「他の奴はどんな幻術をみたのか聞いていないか?」 他の奴とは言っても恐らく彼が気になるのは一人だけだ。 キバは苦笑する、ナルトも恋を知って随分変わったと思ったが、サスケもだ。 言葉や行動の端々から彼女へ対する感情が見てとれるようになった。 ――会わせてやりたい―― そう強く願うのは同期の皆も一緒だ。 「サイくんはお兄さんとの楽しい思い出って言ってたよ」 「いのじゃなく?」 「もしかしたら印象深い記憶が浮かぶようになるんじゃないかな……私はたまたまそれが一番大切な人との記憶だっただけで」 ヒナタは愛おしげな微笑みを浮かべる。 地球最後の日にいたいと想えたことも、勇気を出して塗り薬を渡せたことも、サクラから応援されたことも嬉しくて、どれも印象深い記憶だった。 まさかナルトまで同じ幻術を見ているなんて知らなかったけど…… 「あれ?じゃあナルトくんなんで私の幻術を見たんだろう?」 「……?」 「あ、ネジ兄さんとのことをよく憶えてたからかな」 ネジに勝った時やネジに認められた時やネジが自分を庇って死んだこと、どれもきっとナルトにとって印象深かったろう、だからネジと深い関わりを持つヒナタの幻術を見ていたのかもしれない。 そう言うヒナタにキバとシノは頭を抱えた。 片想い歴が長すぎてナルトに関する思考回路が非常に残念なことになったいる仲間をどうしていいのかよく解らなかった。 一方、サスケの方はというと…… 「印象深いか……それならずっと離れていた奴なんて出てこないかもな」 こっちもこっちで残念な思考回路だった。 アイツにとって一番印象深いのも一番大切なのもお前だから自信もて!と叫んでやろうかと、思いっきり息を吸った、その時。 「この匂いは……」 「え?」 空気と共に嗅ぎなれた匂いを感じ、思わず呟いた言葉を聞いてヒナタの表情が変わる。 素早く白眼を使い広範囲を見通した彼女の眼に飛び込んできたのは、よく見慣れたシルエット二人だった。 「ナルトくんとサクラさん……?」 「……ッ!?」 その呟きを聞いた瞬間、下から大きな忍鷹が現れた。 「サスケくん!?」 「すまない……カカシへの報告後お前と修業すると言っていたがまた今度にしよう」 「え?おいサスケ?」 「六代目への報告は……」 「たいしたことじゃない!!」 と言って、天高く飛び立っていった。 その場に残されたヒナタとキバとシノは彼が消えた空を見上げながら、どうしたもんかと考えた。 「……里の外でくらい自由に会っていいじゃねえかって思うんだけど、つうか自分の傍にいたら悪く見られるとか大戦が終わって暫くは一緒に行動してたんだから今更だろ」 「ヒナタや他の同期の者とは普通に会っているのだが、オレ達は悪く見られても構わないのか」 「ち、違うよシノくん!勿論迷惑かけたくないって気持ちもあるけど……なんかね、サスケくんたら別れ際に凄く恥ずかしいことしちゃったみたいでサクラさんには会いにくいんだって」 「照れ屋か!あんな涼しい顔しときながら!!」 「ナルトはとばっちりだな……」 「あはは……」 それはともかく自分達の感知能力が優れているせいでサスケが逃げ出してしまったことには変わりない。 数分後ものすごい勢いでこちらへ合流してくるであろうナルトとサクラへなんと言って言い訳しよう。 第八班は任務よりも真剣に作戦会議を開くこととなったのだった。 END |