二年前の誕生日は第四次忍界大戦の後処理で忙しくそれどころではなかった。
一年前の誕生日は、分家の者に頼まれハナビと共にネジの部屋の掃除をしていた。

自室以外の掃除は分家の者が行うが、年末の大掃除の時そこだけはどうしても片付けられなかったからと頼まれたのだ。
ネジの部屋はそのまま残しておいて良いとヒアシに言われたので軽く埃を払うくらいに止めたが、最後にハナビが「ネジ兄さんベッドの下に何か隠してる筈だ」と布団を捲り上げてしまった。
そこにネジが輪廻祭で皆に渡すつもりだったプレゼントが置いてあるのを発見し、その日のうちにガイ、リー、テンテンの家に届けたのだった。

帰り道ハナビから「姉様、今日誕生日なのに他人のプレゼント運んじゃったね」と涙で腫らした目で笑われ自分も同じような目で「うん」と返したことを憶えている。

ネジからヒナタへのプレゼントは“写真立て”だった。
ペイン襲撃で殆どの写真が駄目になりヒナタが落ち込んでいたからコレを選んでくれたのかもしれない。

“大切な人との写真を飾ってください”

そう書かれたカードが挟んであった。

ネジは自分が誰を想っているか知っている、これはきっと彼からの激励の気持ちだ。
そう思ったヒナタは次の輪廻祭までにナルトに告白しようと決めた。
受け入れてもらえなくていい、想いが届けばそれで良い。
そう思って編んだマフラーは紆余曲折がありながらも何とか渡すことが出来、彼からも気持ちを貰えたのはネジのお陰だとヒナタは思っている。


しかし未だ写真立てに飾る写真はまだ撮れていなかった。



「だからね、ナルトくんがもし誕生日プレゼント何がいいかって聞いてきたら写真を一緒に撮ってくださいって言うんだ」

と、掌サイズのカメラを片手に微笑むヒナタを見て、サクラはあんみつに入っている豆をポロリと落とした。

「あ、サクラさん豆が!」
「あー……大丈夫、別にいいのよ豆だから」
「そっか」

これで納得されてしまうあんみつの豆っていったい……――

「他に欲しいものはないの?ヒナタ」
「んー……ごめんなさい、思いつかない」

今日はヒナタの誕生日の一週間前、当日はナルトとデートだと言うのでお気に入りの甘味処にて前祝いと称してサクラが奢っていたところだ。

「ヒナタぁ……アンタって」

大きな溜息を吐きながら呼ぶと、きょとんと首を傾げられてしまう、ヒナタへのプレゼントに迷ったナルトから「サクラちゃんリサーチ頼むってばよ!」と縋り付かれ、さり気無く探りを入れたらコレだ。
ナルトが自分の誕生日を認識していると思っている所は進歩がみられるが、普通はもっと期待してもいいものではないか?それとも日向一族にとって写真とは写真館でプロに撮ってもらうものなのか?いや、ヒナタが自分でカメラを持っている時点でそれは違う。

(写真なんてむしろナルトが撮りたい方でしょうに)

大戦後にカカシやサスケやサクラと昔撮ったものと同じアングルで撮った写真をとても喜んでいたと思う、その後サスケがヤマトやサイを入れた写真を撮ってくれたのも嬉しそうだった。
だからヒナタとの写真も喜んで撮るだろう……それは何よりだ。
そしてナルトが喜べばヒナタはそれ以上に喜ぶということも解る、でもそれを誕生日プレゼントにするのは少し違うような気がする。
ナルトへはデートの時に写真を撮り、それプラスなにか思い出に残るようなものを贈るようアドバイスをしよう、そうしようとサクラは思いながら残りのあんみつを咀嚼し始めた。

「誕生日かぁ……ナルトくんの誕生日どうしようかな」

――きっと里のみんなでお祝いするんだよね!
と、自分の誕生日がもうすぐだというのに十ヶ月以上先の恋人の誕生日を楽しみにしているヒナタなら何をあげても大切にしてくれるに違いないのだから。




数時間後、ヒナタと別れたサクラはナルトに会いに火影塔へ訪れた。

「ということだから、デート中それとなく写真を撮る流れにもっていくのよ!ナルト」
「オウってばよ!」

火影の仕事を見学中のナルトに完璧な私用で話しかけた為か共にいたシカマルが怪訝な眼差しを向けてくるが特に気にせずリサーチ結果を報告する。

「それにしてもヒナタは無欲だよねー」
「オレもそういう彼女がほしいな」
「うんうん」

傍で聞いていたカカシ・イズモ・コテツが感心そうに言うとナルトはじとっとした目で三人を見た。

「いくら先生達でもヒナタはやんねーぞ!!」
「いや、そんなこと誰もいってねえし」

はぁと溜息交じりにシカマルがつっこむ。
ヒナタはあんなに無欲なのにナルトときたら独占欲を隠そうともしない。

「あと、ヒナタはアンタがくれたものならなんでも喜ぶだろうから、一緒にショッピングにでも行って選んだら?」
「ええ!?でもコッソリ準備してヒナタをビックリさせたいってばよ!」
「そうだなナルトは意外性ナンバーワンだから、意外とプレゼントのセンスいいかもしれないぞ」
「何言ってんの先生、いいものが思い浮かばなかったから私に頼ってきたんでしょ?まったく」

この色呆け英雄はアレ以来「ヒナタがヒナタが」と言って何でも報告連絡相談してくるし、ヒナタは心の中に溜め込むタイプだから様子が可笑しいときは悩みを聞きだすようにしているので、サクラは他の誰よりも二人の事情に詳しくなってしまっている、それは嬉しいことなのだけど。

「いいのよナルト……女の子にとって一番大切なのは好きな人と一緒にいられる事……なんだから……」

ヒナタならナルトが傍にいてあげれば、それだけで充分だと思ってくれるだろう、そう言いながらサクラも自分と彼女を重ね寂しそうに俯く。

「サクラちゃん……」
「……」

この時この場にいる一同の心の声はひとつ『サスケはよ帰って来い!!』だ。
しかし暫くするとサクラはグッと顔を上げ「しゃーんなろー!」と拳を握った。

「ナルト……デート頑張ってね!男を見せるのよ!!」
「お、おう!任せとけってばよ!!」

気合が入ったサクラの声に、ナルトも応えて気合を入れる。

「あの子は奥手だからアンタが引っ張ってあげるのよ!ナルト!!」
「おう!!」
「でも無理させちゃ駄目よ!ナルト!!」
「おう!!」

恐らく自分達でも意味を解っていないが盛り上がっている二人を見ながらカカシは懐かしげに目を細めた。
何はともあれ教え子達が仲良しで嬉しい、カカシは今度そのことについてガイや紅と飲み明かそうと心に決めるが、その前に今の仕事を片付けなければならなかった。

「とりあえず仕事の邪魔するなら出てってちょうだいね二人とも」
「そうだぞナルト、サクラ」
「火影様は忙しいんだから」
「「あ……」」

火影執務室の真ん中で二人で円陣(ただ両肩を組んでいるだけ)していたナルトとサクラは、イズモとコテツに首根を掴まれポイっと放り出されてしまう。
忍界大戦で活躍した者とは思えない程あっけなく廊下に転がった二人は顔を見合わせて苦笑する。

「……一楽行こっか?」
「……そうね」

こうして、話の続きをする為に一楽へ向かうのだった。
もしかするとサクラの次にナルトとヒナタの事情に詳しいのは一楽の主人となのかもしれない。





* * *




数年後、木ノ葉中央病院にて――

「ねぇサクラ、ヒナタのところの二人目のお祝い何にするか決めた?」

いのに話しかけられサクラは振り返る、第二子出産の為に入院しているヒナタを見舞いにきた帰りのことだった。

長男ボルトが産まれた時は他の仲間も出産ラッシュだったので全員産まれた後に合同でパーティーを開いたのだが、今回はヒナタだけの出産なので個別で贈り物をするようになったのだが、いのはそれを迷っているようだ。

「私はもう決まってるわよ」
「え?マジで!?わー私どうしよう」

こんな時サイは頼りにならないし……とナチュラルに夫の愚痴を零しながら頭を悩ませた。
そんな親友を見ながらサクラは笑みを零す。

「プレゼント被ったら悪いから教えてよ」

と、いのに聞かれたサクラは、少し得意気に口を開いた。


「写真立て!家族も増えたし今のだけじゃ足りないでしょ?」


心の中に、ナルトとヒナタを見詰ながら優しく微笑む少年の眼差しを思い浮かべながら。




end