あの子の小さい頃の印象は、暗くてウジウジしてて変な奴。

恥ずかしがり屋で、オレと目が合うとすぐに逸らす、恥ずかしがりやの女の子。

だけどあの子から向けられる視線は他の人から向けられるものとは全然違っていた。


話し掛けるとおどおどし始めるけど無視されたことはない、喋るのが苦手なんだと思っていたけど一生懸命自分の言葉を伝えてくれようとする。

たまに一緒にいるときに此方の気持ちを考えて言葉や態度を選んでくれる優しさが心地いいと感じていた。

他の仲間と同じように掛けられる“ごめんね”も“頑張ろうね”も今思い出せばとても貴重なものだったんだと思う。


あの子は言った。

弱くて自信がない自分を変えるために中忍試験に参加したのだと、オレはそれを聞いて嬉しかった。

オレみたいに自分を変えようと思って努力している奴が他にも、こんなに身近にいたんだ。

サクラちゃんからあの子がいつもオレのことを見ていたと聞いた時は驚いて、でもそれは自分が独りじゃないってことのように思えた。


あの子はオレを見ていてくれている。

だからあの子の前でみっともないところは見せられない。


サスケに対してキャーキャー言ってる同級生の女子に、サスケだけじゃなくてオレの事も見てくれよって思ってた。

サスケはオレにとっても目標っていうか、絶対負けたくない相手だったから、サスケを認めてる奴に同じように認めてほしかったんだ。

でも、あの子は別にサスケを好きだって言ってるわけじゃない、あの子に認められたからってサスケに勝ったことにはならない、それでもあの子に失望されるような事は絶対にしたくなかった。

でもあの子は中忍試験でネジと闘う前、怖気付いていたオレに向かってハッキリと言ってくれた。

失敗しとも、みっともなくても、落ちこぼれでも、そこから立ち上がる強さがオレにはあるんだと教えてくれた。

あの子はありのままのオレを尊敬してくれているんだ、オレがオレである限り失望したりしないんだ。

そしたらそれまで別に悪い奴じゃないと思ってたのが、実はイイ奴だと思うようになった。

ううん、結構好きになってた。


結果ネジに勝てて、里の外の奴らが主だったけど皆がオレを凄いって言ってくれてて、三代目のじいちゃんに褒めてもらえるかな?イルカ先生が知ったら喜んでくれるかな?って思ったけど、それより何よりに先あの子がちゃんと見てるか気になったんだ。



なぁヒナタ……オレはネジに勝てたよ。

お前の雪辱晴らせてやれた。

日向の運命とかそんなことを聞かされてさ、お前らが本当に大変だったんだって思った。

お前ら日向は生まれた時から大きなもん背負ってたんだな。

でも諦めんじゃねえぞ、オレはお前らの家がこのままじゃイヤだ。

だからオレが火影になって絶対に日向を変えてやる。

それはネジの為だったけど、きっとお前の為になるって信じてる。

オレが勝手に立てた誓いだけどさ、必ず成し遂げるからどうかそれまで見ててくれ。

真っ直ぐ自分の言葉は曲げねえのがオレの忍道だ。


そっから色々あってオレが修業で里を離れてる間、時々みんなどうしてるんだろうって考えることがあった。

きっと皆頑張ってるだろう、サクラちゃんやいのはサスケがいなくて寂しい思いをしているかもしれない、シカマルは面倒くさいといいながら家のことや任務をちゃんと熟してそうだし、チョウジは相変わらず食ってそうだし、キバやシノも……アイツらと同じ班のあの子は元気にしてるだろうか?


また大きな怪我をしていないか、ツラく苦しい思いはしていないか……オレが言うのもなんだけどあの子は無茶をすることがあるから、離れていると心配になる。

あの日オレを強いって言ってくれたあの子に火影になった姿を見てほしい、そしてお礼が言いたいから、どうか無事でいてくれと願ったんだった。





「……」





真夜中オレはベッドの上で胡坐をかいて、うーんと頭を捻る。

あれから数年が経った今、あの子はオレの彼女になっていて、オレはあの子の彼氏になっていた。

付き合うきっかけは月での出来事だけど、オレはその前からあの子を好きだったんだと思う。

あの子って言うか、もう大人の女の人なんだけどなぁヒナタは……そう呼んだのはきっと幼い頃の記憶を辿っていたからかだ。

いったいオレいつからヒナタのこと好きなんだ?と改めて考えてみると、オレってば昔からヒナタに好感もってたみたいだ。

そうだよな、最近まで気付かなかったけど小さい頃のヒナタはめちゃくちゃ可愛いもんな……勿論今も。

忍になってから同じ班になる度にアイツはすげえ努力家で優しい奴だって再認識してたけど、それがどのタイミングでそれが恋愛の好意に変わったんだろうか……

きっと窓の外に降る雪みたいに、あの子の存在がオレの中に積もっていったんだと思う。



(雪)



そういや初めて会ったのは雪の季節だったな。

白くてふわふわしたソレにそっと触れてみたくて窓を開けてみる。


「え」



そしたらヒナタがアパートの下をうろうろしていた。




「ヒナタ!?」

「ッ!!?」


オレの声に驚いたヒナタの肩がビクッと震える。


こんな時間になにしてんだ?雪も降ってるし、しかもあの任務服で、とオレが眉を顰めたことに気付いたのだろう、ヒナタはまたビクビクしながら説明し始めた。


「今っ任務終わったとこで……えっと、たまたまナルトくんのアパートの前通ってねっ!電気ついてたからまだ起きてるのかなーーなんて……」


なんて言われてしまったら、ぽかんとするしかない。

里の入り口から日向家に帰るとすればこの道は遠回りだし、きっとヒナタはわざわざオレの家の前を通って帰ろうとしてたんだと思う。

で、電気が着いてるのを見てオレと会ってみようかと迷ってたってところか……そこ迷わなくてよくねえか?と思うけど、礼儀に厳しい日向家のことだから夜更けに他人の家に上がり込んではいけないと教えられてんだろ。



「それならウチに上がって来いよ、その格好じゃ寒いだろ?」


着替えなら以前ヒナタが置いていったものがタンスの一番下に入っているし、自分の上着を貸してもいい。


「いいい、いいよ!私、汗かいちゃってるしっ!」

「別にいいって」


こう見えて二人とも何かと忙しいから会うのは修行や任務の時が多くて、そういう時はだいたい汗をかいてるけどヒナタの匂いを不快に思った事はない。


「気になんだったら風呂も貸すし、うちで暖まってけよ」

「……ッ!!?」


そう言ったらまたヒナタはビクッと肩を揺らした。

顔も赤くなってるし、やっぱ寒いんじゃねえか?


「大丈夫!走って帰れば暖かいから!!じゃ、じゃあねおやすみナルトくん!!」

「え?ヒナタ???」


ヒナタは瞬身でも使ったのかというスピードで雪の中を駆け抜けてゆく。

呼び止める暇もなかったオレは滑ってこけないか心配しながら見送った。



「……やっぱ変な奴」



そう呟きながら自分の顔が自然と笑顔になっているのに気付いて、なんだか気恥ずかしくなる。

あの子といると本当に和むのは昔から、きっとそれはコレからも一緒だ。




――ヒナタの赤くなった理由に気付いたのは、寝る為に布団へ潜り込んで暫く経った後だった――


羞恥心やら後悔やらで布団の中をのた打ち回ったオレは見事に寝不足となり、次の日同じ任務だったサクラちゃんとサイに呆れた顔をされてしまった。












END



もう少し恋愛スキルを磨けばきっとスマートに部屋へ誘えます