誰の呼ぶ声 ヒナタとサスケです。ザラスト後で 頑張ってるあの人を見てるのは 自分ひとりだけなのかな? って思ってた。 ナルトくんが誰かから認められるたびに「やっぱりお前の言った通りだったな」って、ナルトくんが凄いだなんて私は一言も言っていないのに笑いかけられた。 「よかったな」って「お前があんまりナルトを好きだから、もしかしたらナルトって凄い奴なのかなって思ってた」って「だから、ナルトが里を救ったって知った時にやっぱりかって納得しちゃった」そんな風に声を掛けられた。 ネジ兄さんを変えてくれたからか日向一族の人達はナルトくんにかねがね好意的だった。 私がナルトくんを見るのを最初はよい顔をしていなかった付き人たちも次第に見守る顔に変わっていった。 私の気持ちはナルトくん本人には伝わらなくても周りの人には伝わっていて「誰かから好かれてる人」というのはどこか良いところがあると思われるものだから、私の気持ちは間接的にだけどナルトくんの為になってたのかな?なんて思うと誇らしい。 教師のイルカが他の子と同じように大切にしているから、きっとそれが正しい扱い方なんだ。 テウチやアヤメの職人として筋の通った態度を見ているとナルトを虐げる自分達が恥ずかしくなる。 写輪眼のカカシが合格させ、中忍試験を受けさせようと考えている、才能があるのかもしれない。 任務がない時もうちはサスケや春野サクラと共に行動している、意外だ。 あの実力主義のサスケが同等のライバルとして意識している特別な子、一般的な忍の家庭で育ったサクラと一緒に遊んでいる普通の子。 だんだんと良くなるナルトの評判の中に「日向ヒナタが尊敬し目標としている」も入っているのが嬉しくて、その評判に恥じないよう一生懸命修行に励んだ。 自来也様と修行に出ている間も「ナルトくんに負けてられない」「ナルトくんに追い付くんだ」と言いながらネジ兄さんに修行をつけてもらっていた。 ネジ兄さんは勿論のこと父や妹もナルトくんを認め始めたのがこの頃だ。 ナルトくんへの想いが私の成長に必要不可欠だと感じたのだろう、私に舞い込んでくる縁談の話をまだ未熟だからと断り続けてくれたのを人伝に聞いた。 周りの人に何を言われても、周りの人がどんな態度でナルトくんに接していても、ナルトくんに憧れて慕っていることを公言していて良かった。 ナルトくんを好きだということを、真っ直ぐ、恥じることなく、隠さないでいて良かった。 って、そんな風に思えるようになったのは、この人のお陰だ。 月から帰還して数日後、アカデミーでサスケくんとバッタリ会った。 夕刻からナルトくんやサクラちゃんと伴って火影邸へ食事をしに行くのだけれど待ち合わせ時間まで暇だからと散策していたそうだ。 待ち合わせるのは下忍時代に待ち合わせに使っていた演習場なのだと柔らかい口調で言ったあと「なんでオレこんなこと話してるんだろうな」と切なげに眉を寄せていた。 アカデミーのベンチでブランコの方を眺めながらサスケくんはナルトくんとの思い出話と共に当時私のことをどう思っていたかを教えてくれた。 「あの頃、親族がひとりもいない奴はクラスでオレとナルトくらいだった……一部の大人から疎まれていたのも肌で感じていたし、ソイツらがナルトのことも疎んじていたのを解っていたから、無力なガキ相手に何を怖がっているんだと馬鹿馬鹿しく思っていた」 そうだ。 今の九尾しか知らない私に大人達の気持ちなんて解らないだろうけど、真実を知った今でも馬鹿馬鹿しいと思う。 でもそんな大人の作る世界が子どもにとって全てだった。 忍術を使う者だから、里の威となる者だからと、幼い頃から絶対の忠誠心をたたき込まれる、そんな中で皆、大人が間違いを犯すなんて思わなかったのだろう。 心も体も幼いうちに力と技を授けるのだからある程度コントロールするのは大人の責任だ。 でも、それならちゃんと責任を持って己の中にある恐怖や憎悪を抑え、ナルトくんのことも認めていれば良かったではないか、そんな風に思う。 「ナルトがオレを見る目を見て無意識に自分と似ていると思っていたんだろう……アイツが失敗すると苛々したし努力家なのは解っていたが空回りしていてムカついた……今思うと何故あんなのに親近感なんて抱いていたんだろうか」 ははっと笑い声が漏れた。 アカデミーにいた子どもは比較的ナルトくんに優しかったと思う、忍術を扱えるくらいの賢さがあり、賢さは自信に繋がり、自信は自立心を育んだ。 予備の知識だけでなく自分の目と耳で仕入れた情報を信じなさい、ひとつのことだけでなく様々なものを観察し現状を見極めなさい、そう教えられたのだから当然だ。 担任のイルカ先生とのやりとりを見ていたらナルトくんは少し悪戯の過ぎる、おっちょこちょいでお調子者で目立ちたがりで明るくて楽しい子だ。 「クラスの奴らがアイツを馬鹿にする中でお前は一心にアイツを応援していたから目立っていた」 「そう?」 「なのに、アイツときたらサクラサクラと……」 サクラを本当に好きでもなかったくせに……と、サスケくんの言葉にハッと顔を上げて見た。 「ナルトが見ていたのはオレで、オレへの対抗心でサクラに好かれたかったんだろ……自分への好意には鈍いくせに」 サスケくんを好きな女の子の中でサクラちゃんを選んだのは一番ナルトくんの好みだったからじゃないの? 今の話だと、なんていうかサスケくんの方が…… 「知らなかったか?」 えっと、たしかに中忍試験の少し前くらいからサスケくんサクラちゃんに優しいな、大切に想ってるんだなって感じてたけど、それは同じ班になったからで……だってナルトくんも入れて三人で仲良しに見えたから……ええっ!? 「色々あって荒んでたから解りにくかったろうと自覚はある」 それは察することはできるけど……でも、そっか……よかったねサクラちゃん。 「アイツが自分への好意に鈍いのは大人の愛情を満足に得られなかったからで、無頓着なのは自分の傷の治りが異様に早かったせいもあるんじゃないかって思う、試験中オレやサクラがボロボロになっていてもあまり気にしてなかったし」 そういえば傷薬あげたときも驚異的なスピードで治ってたかも……あの時はいっぱいいっぱいでそれどころじゃなかったけど。 「だが殆ど無傷に見えたお前が倒れた時は飛び出して行ったそうだな」 そ、そうなんだ……へぇ、知らなかった……シノくん教えてくれたらよかったのに……でもあのとき私吐血してたしなぁ。 「お前が自分を見てくれていたと知って、失いたくないと思ったのかもな」 そんなことはないと思うけど。 「アイツは“お前と闘いたい”と言ったオレの言葉に驚いていた、アカデミーの授業ではアイツを見てなかったから、オレが初めてアイツを見て挑もうとしてると気付いて、その機会を手離したくないと思ったろう」 “ちゃんと見ているから”それはどんな幻術よりも心を捉える、私も父に対してそうだった。 「お前のことも、良い意味で注目されることがなかったから……嬉しかったんだろ」 それからサスケくんは当時の自分が私をどう思っていたかを語ってくれた。 聞く内容と当時の記憶を照らし合わせてサスケくんの話を素直に心の中に落とし込んでいった。 そっか、私もナルトくんの役に立ててたんだね、無駄じゃなかったんだね、誰よりもナルトくんに近いこの人に言われて泣きたくなるほど嬉しかった。 「里を離れて……戻ってきたときアイツの周りには大勢の人間がいて……」 友と呼べる者も仲間と呼べる者も沢山いて、サスケくんは少し寂しげに、しかし誇らしげに言った。 そして私の方を見て、瞳を細めて微笑んだのだ。 「アイツならいつか皆に認められるだろうと、信じていたけど……それはお前への信頼もあった」 深い、優しい。 誰かを呼ぶような、眼差し、それは私じゃないけど呼ばれた人は吸い込まれてしまいそうだ。 「オレにそんな権利はないから、礼は言えないけど、これだけは言える」 権利がない、なんて言わないでほしい、貴方だって最初からあの子を見てた。 ブランコにしがみついて、家族の元へ駆け寄る同級生たちの声を聞いて俯いてたあの子に気付いてた。 「お前はアイツにたしかなものを与えてきた……周りの奴は皆それを理解してる、アイツを大事に想う奴はきっとお前に感謝してる、だから自信を持て」 ついに涙腺が決壊した。 やだな、自信持てって……それは、こっちの台詞だよサスケくん―― ずっと見守っていたのか泣いてる私の元へイルカ先生がすっ飛んできて、サスケくんに謝らせようと頭を押さえるまで、私の涙は収まらなかった。 end このときのサスケはヒナタの片想いだと思っているので後でナルヒナくっついたと知ってヤッベーと思います 口止めの為(あとナルトやサクラのことを聞きたい)にヒナタに話しかけたりして親しくなっていくと良いです |