今回はサスケ+サイです


沢山の新しいものを見つけるといいよ

差し出されたものをうけとるといいよ

だれもそれをかなしんだりはしないよ

あなたが沢山のものでみたされることを

ゆるすもゆるさないも決めるのはあなた




「素直さって大事よねえ」

花屋の店先に小さな椅子を出して、看板娘はのんびりと休憩中、店の中では旦那がのんびり店番中。
バケツの中で白いコスモスが揺れている、花はなんでも好きだけどコスモスは親友との思い出のつまった特別な花だ。

ここで息子を待ち息子が任務から帰ってきたら修業を付けることにしている、旦那も優秀な忍びだが山中家伝統の技を継承させたいからと専らいのが教えていた。
旦那の方は自分の仕事の内容を知られるのが怖く、近寄らせたくないというのが本当。
サイ自身は里の為に必要な仕事をしているのだと誇りに思っているが、『根』にいた頃の修業の内容を振り返り自分もそれと似たようなことを息子に強いてしまうかもしれないと思えば妻に任せる方が楽だ。
子どもは良い意味でも悪い意味でも影響を受けやすい、儚くもちきんと世話をすればその分長く生きてくれる花に囲まれ育った息子は優しくて可愛い。
美しいものを際立たせるのは美しいものだと思うのは、彩の花の中であくせく働く妻を見ているから、本当に美人さんだな……と、彼は朗らかに微笑んだ。

「素直さがどうしたの?」
「んー?」

サイが店先に出ていのに問いかける、するといのが一つの方向を指さした。
ボルトとサラダとミツキ、そしてサスケが移動式のクレープ屋に並んでいる、子ども三人はともかくサスケは物凄く浮いていた。

「任務帰りって感じじゃないよね、木ノ葉丸いないし」
「修業のご褒美じゃない?」

クレープ屋の窓口が高いのでボルトとミツキは踏み台を使っているがサラダ一人が乗れないでいる、見かねたサスケがサラダをひょいと片腕で持ち上げた。
サラダは驚いてサスケの首にしがみ付いたあと手を離して照れくさそうに笑った、ボルトは羨ましそうに見上げ、ミツキは興味深そうに観察している。
四人で窓口を覗き込む(おそらくメニューを選んでいる)その姿を間近で見たろう店員が羨ましくなるくらい、先程は浮いていると感じたサスケは馴染んでいた。

「うちも移動販売やろうかしら」
「いいね、いのじんが一人で店番できるようになったらやろうか」
「冗談よ」

注文を取ったあと、次の客へ場所を譲り、クレープが焼けるのを待つ四人。
サラダを下したサスケがこちらに気付いて、ふいと顔を逸らす。

「あら」
「流石にボクらに見られるのは恥ずかしかったんだろうね」

夫婦でクスクスと笑いながら、いのじんが帰ってきたら自分達もクレープを買いに行こうと提案する。

「いいね」
「あっサスケくんたちコッチくるわよ」

クレープを手にした三人の子どもたちが嬉しそうに此方へ駆けてくる、忍びなので転んだり落としたりはしないだろうが人にぶつからないか少し心配だ。
ちなみにクレープ屋は山中家から数百メートル離れた場所にあったが移動時間は数十秒、サスケに至っては走っていないのに三人からそう遅れることなく現れた。

「「「こんにちはー!」」」
「こんにちは」
「こんにちは」
「……よぉ」

サスケの手にもちゃっかりクレープが握られているのが可笑しい。

「的当ての新記録が出たから師匠が買ってくれたんだってばさ!」
「へぇよかったわね」

見てたから知ってたとは言わずに、いのは三人に笑いかける。
サイはサスケの手元を覗き込みながら訊ねた。

「サスケくん甘いもの苦手じゃなかったっけ?なにを選んだんだい?」
「ツナとトマトとアボカドだ」
「アボカド……」

甘くないクレープはそれしかなかったのだろうか……サスケの口からなんか畑のバター的な植物の名前を聞くと違和感がある、トマトは好きだと言っていたからトマト入りがそれしかなかったのかもしれない。

「え?アボカドだっけ?アボガドじゃなくて?」
「えー?ママはアボカドって言ってた気がするけど」
「ボクはアボガドで覚えてる」

バトミントンかバドミントンかみたいな話をし始めた子ども達を余所にサスケとサイは「どんなが味するの?」「食べてみないことには」と少し緊張気味にクレープを見詰めていた。
男には馴染みのない食べ物なのだろう、うちの旦那様たちは可愛いなぁと思いながら、いのは立ち上がって三人の子ども達を店の中に招く。

「紅茶淹れてあげるから、それ食べて待っててね」

甘いものの後は苦いものがいいだろう、そう言って奥へ行く長い後ろ髪を見た後、三人は店の中をキョロキョロと見回した。
ボルトは母と妹に買って帰ろうかと、ミツキはうちにある植物とは全然違うと言ってサラダに冷や汗をかかせている。

「まあまあだな」
「ってことは美味しいんだね」

店の外からサスケとサイの会話が聞こえる。

「ボクもそれにしようかな?いのじん連れて行こうってさっき話してたんだ」
「早くしないと店が移動するぞ」
「んーそろそろ帰ってくると思うんだけど、任務が長引いてるのかな?畑仕事の手伝いだから危険はないけど、長閑すぎてチョウチョウの食事休憩に時間を取られてるかも?」

そう言えばサスケはいのじんがチョウチョウも一緒に連れて帰ってきたらどうするんだ?と深刻そうな表情で聞いてきた。

「へ?」
「あの店の商品、全部注文しかねない」

給料支給日まであと暫くあるので多大な出費は控えたいところだろう、なんだか所帯じみたことを言われサイは呆気にとられた。

「里一番の高給取りが何言ってるんだか……まぁあんまりいくならチョウジに請求するよ」
「そうか」

父親達の会話が少しズレていて、可笑しいとサラダは内心で笑みをもらした。

「せっかく店に来たんだから何か買っていかない?」
「そうだな……」
「あいにく桜は置いてないけど」
「……おい」

サイは恐らく真顔か、いつもの笑顔で言っているんだろう、一方サスケはからかわれたと思って顔をしかめているのか。

「じゃあコレとコレを帰るまでに包んでくれ」

それでも何か土産にするようでサイに頼んでいる、長期任務の多いサスケは時々土産を買ってくるが花を持ち帰るのはサクラが多い、それは決まってサスケが暫く里に滞在する時だった。

「秋桜と藤袴か、流石奥さんのツボを押さえてるよね」
「ふん」

秋という季節に愛された花は他の季節のものよりも落ち着いた佇まいをしている、チョウジなんかは美味しそうな色だと言っていたが、体に無害に見えるという意味かもしれない、私は貴方を傷付けませんよと言ってくれてるような秋桜はサイも大好きな花だ。

「綺麗な花束つくるから、任せといて」
「……そうか」

サスケの瞳に少し期待の色が現れた。
うちはの居住区は一度だけ資料でみたことがあったけれど整然とした美しさがあった。
あの場所で生まれ育ったなら美意識は高いだろう、なにより人がその手でつくりだすものを得難いと感じる心を持っている。
贖罪の最中だというサスケは、目に写る全てを深く洞察し間違いを犯さぬよう慎重に生きている、その日々の中で与えられる小さなものたちに感謝しながら過ごしている、だから彼には美しいものをあげたいのだ。

罪を犯した人の心を動かせるような作品を作り出したい。
真実を見極めようとする人に中途半端なものは渡せない。

少し勿体ないと思いながら妻のくれた紅茶を素早く飲み干し、サスケの好きな暖色系の強い秋桜を一掴み分、柔い色合いの藤袴をその半分くらい。

サイは丁寧に丁寧に、そして自由に己の理想を表していった。
美しさは形にしなければいけないし形にできないうちから他人に押し付けてもいけない。
努力もせず、ないものねだりするよりも、あるものをさがして生み出せる自分が好きだ。


「まあまあだな」

出来上がった花束を見て満足そうに笑うサスケを見ながら「やっぱり素直じゃないわねぇ」といのが苦笑している。

「素直なサスケくんなんて気持ち悪いじゃない」
「気持ち悪い!?」
「あははったしかにー」

ギョッとするボルトと同意するサラダと、それを観察するミツキ。
ボルトとミツキの手にも、いのの作った花束が握られている。

「うちの親、こんなので喜ぶかな」
「喜ぶに決まってんじゃん!」
「そうよ!……って言えないとこが悲しいわね」

大蛇丸の場合はミツキが持って帰ってきたというだけで嬉しいんじゃないだろうか、彼(彼?)も色々あったけれど今は落ち着いているし。

(ダンゾウ様がああだったから大蛇丸が特別酷いとも思えないんだよね)

忍なんて必ずどこかで罪を犯し、誰かに恨まれているものだ。
根の存在を知らない民のように、小国の痛みを知らない大国のように、自分の今いる場所も先人の犠牲の上に存在する。
サスケのことも最初は憎たらしかったけれど、ナルトやサクラを見ているうちに自分もサスケを取り戻したいと思うようになった。

サイは木ノ葉という大樹の下で、仲間同士で傷付け合い……大切な兄を殺した。
それは上にいる者からすれば必要悪であり正義であった。
今も感じる後悔や哀しさ、仕方がなかったという気持ちと同じものをサスケも持っているかもしれない。
いや、彼は一度は反抗してみせた……自分が仕方がないと諦めていたものに牙を向いた。
方向性は違っても必死に運命を変えようとした姿はサイの大好きで大切な人達に似ている。

(もう二度と間違いは起こさないなんて保証はないし、今ある世界こそ間違いだと感じる人もどこかにいるかもしれない、その人達はかつてのキミのように思い悩んでいるのかもしれない、気付いていないだけでボクらの兄さんのように平和の犠牲になっている子どもが現在進行形でいるかもしれない……そんな子を今度は踏みにじる側に立たされているのかもしれない)

猜疑心は晴れず、幸せを感受できない。
きっと「素直さ」というものが足りないのだ。

(でも、今度こそ本当に正しいものを選べるように、ボクらの世界を美しいもので溢れさせるよ)

サイが大切に思う家族、仲間、里を選んでほしいんだ。
悔しいけれどサスケがナルトの隣にいれば何があっても大丈夫な気がしてくる、もう二度と敵に回したくない圧倒的な力を持っている、その力を自分たちを守る為に使ってほしいんだ。

(サスケくんだって大切な仲間だよ、今は)


だから、守られるだけじゃなく守りたいと思う。
ないものねだりなんかじゃなくて、あるものをさがしていたら気付いた。

美しいものは美しいものを際立たせる。
だからきっとサスケもサイが美しいと思う世界の一部なのだろう。




END
おしまいです
いのじんが帰ってきたあとの山中家のイチャイチャも書きたかったんですが、サイがサスケにこんなポエムをしたあとで息子を出すのもな…となりました
サスケのコミュニケーション能力を多少疑っているので七班や鷹メン以外と絡ませるのハラハラするんですが、映画を思い出してサスケは子どもと接する姿を見せれば好感度が上がると気づきました
あとなんか食べてるサスケ可愛い、大蛇丸様のとこいたし旅生活長かったから色んな珍しいもの食べてるんじゃないかなぁと思います