加護の中の鳥たちは【前編】
サスケとサイの話。BORUTO映画後にサスケが里に居着いてる感じです。色々捏造注意。
絆とは何だろう、繋がりとはなんだろう、サイは火影の使いで水影の元を訪れたとき"雪一族"が暮らしていたという集落を案内された。
その帰り、護衛としてついてきたサスケはサイに"白"という名前の優しい少年の話をする、一人の少年が一人の鬼人に拾われた話しだ。
血継限界の一族だからと迫害された者が血継限界の一族だからと必要とされ、必要とされた相手に尽くし生き、死んでいった――
「その一族だって最初は里から必要とされていた……自分達を必要としてくれる大切な里を守りたいからと強くなったんだろう」

けれど、今度はその強さ故に差別されることになった。
心から信じて守ってきた里からの裏切りだ。
予兆があったとしてもギリギリまで疑いたくなかったのだろうと白を思い出しながらサスケは語る。
どんな人間だって信じている者は本気でその者のことを信じている、それを愚かと嗤う者が一瞬後に信じた者から裏切られる、そんな忍を幾人も見てきた。

「必要とされる為には強くなければならないが必要とされ続けるためには強さ以外も必要なんだと思う」

白と再不斬の間に生まれたのは『愛』という名の『絆』だった。
だからきっと再不斬の目的が達成されたとしても白は不必要になることは無かったのだろうと思う、その可能性を潰したことが今も胸に残っている。

「もしも二人の間に『絆』が生まれた時点で再不斬が歩みを止めて、ただ穏やかに生きる道を選んでいたらどうなっていただろう……もし白が再不斬に追従するのではなく愛されたい幸せになりたいと要求していれば何かが違ったんだろうか」

最近そんなことを考えるんだと、妻と子の元に戻って来た彼は言う。

「誰かが『白』になったときに誰もが『再不斬』になれるとは限らない、誰かが『再不斬』になったときに誰もが『白』になれるとは限らない……それが『血継限界の一族』と『里の忍』なら余計に」

愛されたい、幸せになりたい
個人同士の間柄でもそんな願いを聞いてもらえるとは限らないのに。

「……絆を生むには共通の敵を作るのが一番手っ取り早いけどね、血継限界が必要とされるのはそういうときだし」
「それじゃ意味がねえだろ、あとどうしても甚大な被害が出る」
「確かに」

どうしてこんな話になったのだろう、戦の爪痕を多く残す霧隠れを目の当たりにしたからか、そんなもの旅の途中でいくつも見てきた癖にとサスケは思う。
隣にサイがいるからだろうか、サクラと旅していた頃は戦の跡を見ても彼女やいずれ生まれるであろう我が子に想いを馳せてばかりだったけれど……サイといると意識するのはどうしても志村ダンゾウや里の上層部とうちは一族の関係だった。
里の為に兄が犠牲になったという共通点があるからか、幼い頃のお互いを知らないからか、仄暗い穢い話もあまり躊躇なく話すことができたのだ。
ナルトにも話せないことをサイに話していることに少し罪悪感を覚えるがナルトもサスケに話せないことをシカマルには話していそうなので良しとする。

「ナルトが火影しているうちはそんなこと起こらないだろうけど、もし『山中一族』が『白』になった時に、僕じゃ『再不斬』になれないのかな、同じ一族だから助け合ったり励ますことは当然だけど、外から引っ張り上げてあげられないかな」

木ノ葉の根から這い出たばかりのサイをナルトやサクラが引き上げたようには出来ないだろうか、根の中にいた時は仲間の誰も己の世界に疑問を持っていなかったし外の世界に期待もしていなかった。
忌み嫌われてなお自分達の方が正しいと思っている一族の者に手を差し伸べる勇気のある者なんて、同じ気持ちを味わったサスケくらいだろうとサイは思った。
だからサスケと一緒に居て親しくしているのかと聞かれれば違う理由が出て来て、それがやはり『愛』であり『絆』なのだろう。

「世界からカナシミが無くなる術とかあったらいいのに、幻術とかではなくてね」
「そうだな……」
「でもたとえ間違った方法でも世界からカナシミを無くす力があったら、現実の自分が幸せでなかったら……誰だってその方法を選んでしまうかもしれない」

暫く、二人の間に沈黙が落ちる、サスケとサイは時々こんな話をするが結局答えが出ないまま終わる、そして……

「「おいろけの術……」」

いつも二人同時に呟くのだった。
あれでカグヤの隙を作れたのだからなかなか侮れない術だとは知っている、そして変化の術さえ習得すれば弱い者でも使うことが出来るし、サスケとサイなら一段階上のハーレムの術も簡単だ。
逆に変化の術はいらないかもしれない。
サスケとサイは木ノ葉丸というナルトの弟分の話しだと相当の美形らしい、ふたりがタッグを組んでその顔を使えばどんな権力者でも心を傾けると三代目の孫のくせに力強く語っていたのを思い出す。

「まぁ戦争が色仕掛けで解決できるならそれに越したことはないのかな」
「色仕掛けでなくてもいいだろ、売春なんかが流行ったらそれこそ間違った方法だ……他にカナシミを無くす方法を考えるんだ」
「お笑いの力……」
「センスが問われるな」

ほんの少し焦燥感を感じながら、見えてきた故郷の門に歩むスピードを速めるのだった。



* * *



「付き合ってほしい場所がある」
「え?まあいいけど」

休日の昼間、本屋で物色しているとサスケから声を掛けられた。
いのじんは任務でいのはサクラやヒナタと女子会に行っている(女子という歳でもないと言ったらキレられた)

「お前その本……」
「ああ、これ?えへっ」

ちっとも「えへっ」という顔をしていないサイの手には『フラワーアレンジメント』と書かれた本がある。
忍びの傍ら花屋で働いている彼は勿論花束も作るのだけれど、勉強しているんだなと感心した。
サスケはだいだい忍の家系なので忍術以外で出来ることと言ったら、なんだか怪しい研究(大蛇丸直伝)くらいなものだ。
あとは測量や地図を作ったりも出来そうだが、地図に合わせて地形を変えるほうが簡単なのではないかと思ってしまう。

「なに?任務の助っ人?」
「違う……けど助っ人だ」

からかうつもりで言ったのにサスケはあっさりと助っ人が必要だと認めてしまった。
珍しいこともあると思いながら本を元の場所へ戻して着いていくと、そこは日向一族の屋敷だった。

「此処へ来るなら助っ人はナルトの方が良かったんじゃない?」

サイには日向一族にヒナタとハナビ以外親しい者がいない、宗家の長女や次期当主と親しいのだから邪険には扱われないだろうがハッキリ言って敷居が高かった。
サスケはナルトの親友でヒアシを助けたこともあるし同じ系譜で瞳術使いのうちは一族ということでサイよりは近寄りやすいかもしれないが、元抜け忍の元暁という過去を持っている為、こういう所では警戒される。
しかしその懸念は門の中で掃き掃除をしていた女性の「あ、うちはサスケ」という呟きで飛散していった。
まるで「あ、野良猫」というトーンで言われてしまっては、気構えていた方が馬鹿らしい、サイは肩の力を抜くと「サスケがこちらの御当主に用事があるそうなんですが」とその女性に話しかける。
サスケはヒアシに用があるとは言っていなかったけれど、それ以外の人なら助っ人を呼ばないだろうとサイは当たりをつけた。
孤児の自分も今は山中本家の婿なので会う権利くらいはあるはずだ。
そもそもヒアシはまだ若い次女を当主に内定するほど実力主義でネジとの和解をきっかけに考えが柔軟になった男なので出生の判らないサイでも丁重に扱うだろう。

(丁重か……どんなものなんだろう)

たとえばカカシはサイのことを尊重してくれていたし、ヤマトはいつも丁寧に接してくれていた。
陽の目をみるようになって初めて接した大人たちはサイを人としても忍としても一人前に扱っていてくれたし今も変わらないそれをとても嬉しく思う。
ただヒアシにそれを求めているわけじゃない、以前見たことのあるシカク、いのいち、チョウザの三人と話していた時のような、同じ一族の長として相手を労い敬う態度を望む、それは山中一族の木ノ葉での地位を明確にするからだ。
“エライヒト”がただ一言でも特定の一族を貶めるようなことを言えば、それが冗談であってもその一族の力は減退する、力の減退とは即ち発言力が無くなるということ、かつてのうちは一族のように不自由を強いられることになる。
ヒアシは“エライヒト”であり、とても影響力のある人物であるのに間違いない、ナルトはヒアシや日向一族のことを少し堅いと言うけれど、軽口一つで大勢の運命を変えてしまう彼が自らや己が一族に厳戒なのは当然のことだ。

「サスケくん僕を巻き込むなら、くれぐれも失礼のないようにね」
「わかってる……お前変わったな」

客間で待つように命じられた二人は淹れてもらえた極上の茶を啜りながら言葉を交わす。

「目上の人間にもズケズケものを言うタイプに見えていたが?」
「一応これでも山中本家の婿だから責任があるんだよ……いのやいのじんを『白』にしてしまわないようにね」
「フン……まぁその時は責任とって俺が『再不斬』になってやる」
「でも『再不斬』って『白』にとても愛されてたって言うじゃない」
「俺にその器はないと?」
「違う、逆だよ……はぁ」

呆れたような溜め息にサスケは眉を潜めながらも続けた。

「サクラは肝が据わっているから俺が友人を助ける為に何をしようと今更驚きはしないだろ、サラダにはボルトやミツキがいるから安心だ」
「……」
「反逆者の俺がのうのうと生きてんだ……里の為に尽くしてきた奴らはもっと堂々としてていいだろ」
「サスケくん」
「お前ら“根”は沢山の理不尽に耐えて里を守ってきたんだろ?この里にいる誰に対しても卑屈になる必要なんてない、お前の兄の為にも胸張って生きてろ」

根の主から一族を滅ぼされた彼がそんなことを言う。
それから「まぁ相手が日向の当主なら礼儀は払わないとな」と小さな笑みをこぼした。

「やだなぁ……」
「……今日は無理言って悪かった」
「そのことじゃないよ」

ナルトやサクラのおかげで感情を取り戻し、いのを愛することが出来たけれど、それと比例するように罪悪感や里への不満が芽生えてしまった。
今まで里を抜けた多くの者はこんな気持ちだったのだろうか、それを考えることもなく……里に逆らった報いだと無惨に殺してきたけれど、きっと自分と同じように大切な者を里の犠牲にされた者達もいたはずだ。

「昔ね暗部の人がさサスケくんを馬鹿にしてたって聞いたことあるよ」
「……まぁそれは仕方ないだろう」

急に話しを変えられ怪訝に思っているとサイは「君の考えてるようなことじゃないよ」と首を振った。

「大蛇丸のアジトにはさ各国から拉致されて囚われている人が沢山いたでしょ?なんで里はあの人たちを助け出そうとしなかったと思う?大蛇丸にも部下はいたけど大蛇丸が弱っていた時期なら暗部クラスが数人いればかなりの人が助け出せた筈だ」
「……」
「五大国との間にパイプがあったからだろ、大蛇丸は研究結果を里へ横流しすることによって黙認されてきた……里から売られた者もいるかもしれないね……ヤマト先生が脱出できたのは異例のことなんだよ、あの頃の暗部メンバー数人っていうかカカシ先生の隊なんだけど初代火影の細胞を移植された木ノ葉の忍がいるという情報を手に入れて三代目に直談判したらしいよ」

仲間を助けさせてください
そんな当然のことを、わざわざ頭を下げて頼まなければならなかった。
そしてヤマトに移植されたのが柱間の細胞でなければ許可も下りなかっただろう。

「だから、君が自国も他国も関係なく大蛇丸に囚われていた人達を開放した時に暗部の人たちは馬鹿にしたんだ……自分達がやりたくても出来なかったことをやってしまえた君に最上級の敬意をもって“馬鹿な奴”だと言ったんだ」
「それは俺にはなにも柵がなかったから……」

繋がりを断ち切っていたから出来たことだ。
実際に解放したのは鷹のメンバーであり自分は大した労力は使っていない。

「うん、でも君は大蛇丸の弟子なのに、その人たちの恨みが己に向かう可能性があったのに解放した」

里に見捨てられた者をそのまま見殺しにはできなかったのだろう。

「サスケくんは……僕にとっては『心』の象徴だから」
「は?」
「君が生きて里に存在しているだけで、忍が『心』を持つことを許されてる証みたいに思える」

忍だって人間だと教えてくれたのはナルトやサクラ、あの二人だけが大切だった頃なら平気で出来たことが愛する家族を得て『一族』を意識するようになってからは出来ない、一族を守らなければという気持ちがサイの中にあるナニかを削っては新しいナニかを塗りつけてゆく。
そんな中で目に入ったのはサスケの存在だ。
彼は感情を殺さず罪を購う道を選んだ。
運命に抗い、そしてうちはの再興を諦めずに生きている、見ていてツラいこともあるけどサイはつい応援したくなる、カナシミの無い世界を作る術はないのかと問答するけれど、いつもこの真っ直ぐさがその礎となるのを信じたかった。

「買いかぶり過ぎだろ……俺はただの復讐者だ」
「いいよ、僕が勝手に思ってることだから」

そうニッコリと笑みを浮かべたところで人の気配が近付いてきた。
スッと襖を開けられ日向一族の女が頭を下げた。

「当主より面会の許可がおりました」

案内します。
と、言う女の後を二人はついてゆく。
凛とした空気が流れる廊下を歩き、屋敷の最奥にある部屋へ行き着いた。
女はゆっくりと障子をあける、その先には日向家当主ヒアシと次期当主のハナビの姿があった。




to be continued

身も蓋もないこと言うと、永遠の中二病で好き勝手ボーイなサスケが好きなんですよね
サイも面倒くさいですが家庭最優先なので妻子にそんな迷惑かけない感じ
サクラといのコンビ好きなんで旦那同士も仲良くなってほしい
後編はヒアシ様とハナビ……というか日向一族がメイン?になりそうです