約実
今回は明るめ。猪鹿蝶若手の皆さんがモブってます

たった一人でも自分を愛してくれる人がいれば
たとえそれがもうこの世にいない人物であっても生きてゆける
世界を敵に回したって自分の信じる道をいく
もう二度と間違わないように世界の全てを見極めて


『サスケくん、今度シカマルの家で宴会があるんだって、僕も行くから一緒に行こうよ』

サイからそう言われ、何故か己にくるだろうと予想していたA級の任務をリーとテンテンが受け持ち、サスケは奈良家主催の宴会に出向いた。
ちなみに参加者は四十路未満の若手だから羽目を外していいそうだ。
一桁で忍者になる者もいる中で果たして四十路が若手と呼べるのか不明だがおそらくシカマルに合わせたのだろう、そのシカマルにも威張ったところがないので皆のびのびと酒や料理を楽しんでいる。
参加者はサイとシカマルの他にチョウジ、キバ、シノ、ハナビという里を代表する忍び達が揃っているのが見て取れた。
猪鹿蝶の一族以外の女性がハナビだけでは居心地が悪いだろうとミライも呼んでいて、未成年のミライの付き添いとして木ノ葉丸も呼ばれている。

(共通点は族長に近い者か……)

奈良・山中・秋道・日向・猿飛、いずれも名家の当主と次期当主が集まって酒を酌み交わしているのは見る者が見れば末恐ろしいものだろう、割り振られた任務をこなすように淡々と相手をしていたが無礼に思われているかもしれない。
時折ピリピリとした視線を感じる――シカマルか、猪鹿蝶の一族の誰かのものか、あまり穏やかな視線ばかり浴びていても居心地が悪いので縋るようにソチラを見れば視線を外され誰からのものか解らなくなった。
サスケにとって里の人間は一方的に守るだけの存在である、親兄弟や親族は里に殺され、幼い頃に信頼していた三代目火影には裏切られた気持ちになった。
流石にナルトやサクラやカカシからは大事に想われている自覚はあるし、サラダとボルトにも慕われている、鷹の三人とも未だ気のおけない関係を築けていた。
自分にはもうそれで充分だと思っていたのに最近はサイとも打ち解けてきて、七班や大蛇丸繋がりでヤマトのことも親近感を覚えるし、子どもたち繋がりでミツキも可愛く感じる、柵が増えることはいざという時に正しい判断が出来なくなるような気がして避けたいのだが、年々断ち切りがたい繋がりが増えてきている気がした。
今日のことを話したらサクラは『サスケくんも年貢の納め時なのかもね』と笑っていたのを思い出す。
厄介だと思っていても妻が喜ぶことは好ましいのでこの宴をある程度楽しんでいる風を装おう、最初に酌を交わして以来シカマルとは話していないが此方から話をしに行った方が良いのだろうか……
サスケがそんなことを思っていると、隣にサイが腰掛けた。

「サスケくん楽しんでる?」
「そうだな……程ほどには」
「そっかぁ」

目を合わさずに、サスケの前に置いてあった徳利から勝手に手酌をして飲みだすサイ。
彼が来たことで安心したのかサスケは背後にあった壁に背中をつけて胡坐から足を伸ばす。
徳利を台に戻したサイも人ひとり分ほど開けた場所に背を凭れる、サスケの視線がサイの方を向いた。

「お前は?」
「ん?程ほどかな……奥さんいないから気が抜けちゃうけど」
「ふつう逆じゃねえか?」

サスケはサクラがその場にいた方があまり周りの視線を気にせずにいられる、彼女に守ってもらっているというわけではないが、彼女といる時の彼の雰囲気が柔らかいので周りの警戒色も薄れるのだ。

「そんなこと言うのサスケくんだけだよ、酒の席で変なこと言って怒らせちゃったらイヤじゃない」

それを聞きながら実際この男が妻に怒られたことは少ないのだろうと思った。
サスケから見てもサイの妻は面倒見がよくて心の広い女だ。
ただサイが怒られてしまうかもと勝手に不安になっているだけの話しだろう、夫婦なのだから変に委縮したり相手の顔色を窺うことはないのに。
そう思ったけれどそんなことは自分が言って聞かさなくともそのうちイノがどうにかするに違いないので、サスケはとりあえず今のサイを安心させることにした。

「そうか、まあ俺がいるから気を抜いていていいぞ」
「ありがとう、サスケくんもね」

サイの笑顔は穏やかというよりも落ち着いていて隣にいてくれると少しだけ呼吸がしやすい。
暫く二人でゆるやかに酒を飲みながら、お互いの子どもの話の話(主に修業の話)などを始める。
各人の個性を伸ばす修行法なんかを思案していると何人かいる上忍師たちが会話に加わりたそうにこっちを見ていた。
自分よりも年若いもの達だからか二人とも可愛いなとまるで子どもに向けるような声でコチラに寄るように声をかけた。
気の強そうな女は奈良家の、気の優しそうな男は秋道家の、この春上忍師になったばかりの新米だという、腕の良い忍だろうに真面目で謙遜で、自分達の担当だった人とは大違いだねとサスケとサイは笑って褒める。
受け持った下忍が粒揃いの人物と"大違い"と言われて褒められて果たして嬉しいのだろうかと思ったが二人とも照れた様子でサイに酌をしている、皆アルコール耐性の強い忍だったが雰囲気に酔うことが出来る。
あの大戦の頃まだ幼児だったのだと思うと感慨もあるのだろう、サスケこの年頃の子が朗らかに笑っているとチクリと胸が痛んで、でもそのあと雪解けのようにすっと消えていくのだ。
あのとき止めてもらえてよかった――と、そんな思いが深層にあるからかどうしても口振りや視線が甘くなる。

(おい、誰かサクラ連れてこい)

眉目秀麗の大人の男(雰囲気に酔っている)から、さも大切にしているよというような(本当のことだけど、サスケは里の者は皆平等に大切だ)態度をとられ勘違いしない内に、サクラを前にしたサスケを見せ「こいつの特別とはこういう扱いをいうんだぜ」と釘を刺しておかなければいけない気がした。
そんな風にシカマルが頭を抱えているのを見て、木ノ葉丸がスクッと立ち上がる。

「一番!猿飛木ノ葉丸いっきまーーす!」

天上天下唯我独尊ポーズをとりながら宣言する彼に周りがわやわやと騒ぎだす、何かを察して素早くミライの背後に移動したシカマルが両手で彼女の目隠しをする。

「お色気の術!」

ぽんと煙を立て木ノ葉丸がグラマラスな美女に変身した。
くノ一相手にその気遣いは必要なのか不明だったが一応女性もいる場なので水着を着ている。
男達が「おー」と感心したような声を上げ、女達が「やだー」と非難の声を上げるが、やがてどちらもケラケラ笑い始めた。

「さーらーにー」

シカマルに目隠しをされたミライが「え?なんですか??」と戸惑っている間、美女姿のままクルクル回って注目を集めていた木ノ葉丸がいつもより高い声を張り上げて、印を組んだ。

「女の子どうしの術!」

ナルトに教わったお色気の術を応用したオリジナル術だ。
ただ単に変化したまま分身の術を使って可愛い女の子どうしをイチャイチャさせるという技だが一定の効果は立証済み。
しかも今回はサクラといのバージョンである。
見知った人物に変化したせいか宴会場は大盛り上がりを見せたのだが……

「……」
「……」

端の方からチャクラの乱れを感じる、サスケとサイだ。
明らかに怒りのチャクラだ。
皆ハッとした……この場にサクラといのの伴侶がいるというのに、なんでその二人に化けたんだよ木ノ葉丸……と内心でツッコんだ。

「まずいな今度サクラに会ったとき思い余って殺しちゃうかもー」
「奇遇だな、俺もいのに会ったらそうするかもしれない」
「ご、ごめんなさいでした!!」

不穏な事を言い出した二人に木ノ葉丸は即効で変化を解いて土下座した。
自分の受け持っている子の父親の前でいい度胸をしていると思う、シカマルはミライの目隠しをしながら呆れきった表情を浮かべた。
一方謝られた二人は意外とアッサリ空気を緩めて木ノ葉丸の後頭部を見下ろしている。

「流石ナルトの弟分だよね」
「フッだが全然ダメだな……」
「うう……」

怒りは鎮めたが二人の圧が怖い、完璧に変化したらしたで怒るくせに……と、思っているとサスケがすっと木ノ葉丸の前へ膝を突いた。
顔を上げた木ノ葉丸の頬をすっと指で撫で自分の方へと向かせる、サスケの瞳が細められた。

「お手本見せてやるよ」
「へ?」

すると一瞬ポンっと煙が立ち上がり、それが晴れるとサスケとは違う人物の姿が現れた。
木ノ葉丸は目を見開く。

「え、エビス先生?」
「木ノ葉丸くん!貴方はいったいなにをやっているんです!?」

腰に手を当てて自分を叱りつける元家庭教師にたじろぐ木ノ葉丸だったが、ぐっと手に力を込めて反論した。

「お色気の術の応用だけど……いや、エビス先生だって絶対好き……って、あ……」
「ふふふ」

横でサイの笑い声が聞こえ木ノ葉丸の顔はカーーとゆで上がる、目の前で変化されたのに一瞬本当にエビスが現れたかと思ってしまったのだ。
サスケはそのままサングラスを外して不敵な笑みで木ノ葉丸を見下ろした。

「……エビス先生のくせにカッコイイなコレ」
「それは知らんが変化ってのはこうやるんだよ」

自分だって上忍なのにと思っているとエビスに扮したサスケは眦を下げ木ノ葉丸に笑いかけた。

「でも発想は面白いな、奇をねらうという意味では使えるかもしれない」
「ナルト曰くお色気技は強い奴ほど効くらしいしね」
「そういえば七代目はイルカ先生とエビス先生と自来也様とカグヤには有効だったって言ってたぞコレ」
「……引っ掛ける相手の振り幅すごいね」
「あと七代目と奥方に化けてバカップルの術ってのもあるんだけど」
「……」
「なにそれ、やるときボクにも見せてね」

サスケは変身を解いて再びサイの隣に腰を下ろした。
御灸を据えた感じになっているんだろう、まるで弟分を見るように木ノ葉丸を見ている。

「ところでなんで、いのとサクラだったの?」

サイがふと疑問に思ったことを聞いてみると、木ノ葉丸は一瞬間を空けて

「俺が知ってる中で一番の美人があの二人だったから」

と、言った。
周りの女性が嫉妬もしないくらい見え見えの社交辞令である。

「ほぉ……」
「へぇ……」

しかし満更でもなさそうに、というか頬が緩むのを我慢してますという風に顔を背けるサスケとサイ。
なんだコイツら可愛いじゃねえかという空気がその場に広がった。

「まあ遠慮しねえで飲め、俺の酒じゃねえけど」
「コレ美味しかったよ木ノ葉丸くん、僕の料理じゃないけど」

手を引かれて二人の間に座らされ、酒や料理を薦められる若者を見て、シカマルは漸くミライの目隠しを外した。
ミライの隣にいるハナビが立ち上がってサスケとサイの正面に座る……と言っても台を挟んでいるので距離はあるのだが、いつの間にか先程の若者は端に避けて彼らの様子を真剣に窺っている。

「サスケさんサイさん、いつか私が主催する宴会にも来ませんか?」
「ハナビ?」
「主催なんてしたことないのでこんな立派なものには出来ないと思うですけど、色んなこと挑戦したくて」
「うん」
「父様の見よう見まねから始めるから上手くいくか解らないけど、抜かりないようにするんで……」

モジモジと、いつもの天真爛漫な彼女とは違いまるで幼い頃のヒナタのように声をだんだん細くしていき。

「お二人に見てもらいたいです」

真っ赤な顔でサスケとサイを見据えるのだった。

(誰かヒナタ連れてこい)

シカマルは再び頭を抱える、二人に思い切り懐いているように見えるハナビに誰か勘違いしないよう、ヒナタを前にして「こいつの特別とはこういう扱いをいうんだぜ」という態度を見せてほしい。

「ああ、いいぜ」
「楽しみにしてるねハナビちゃん」
「はい!」

帰ったら父様に許可を頂きます!とニッコリ笑ったハナビ。

「ヒアシ様の喜ぶ顔が目に浮かぶねサスケくん」
「ああ」

木ノ葉丸を挟んでクスクスと笑う美丈夫ふたり、ついでに言えば木ノ葉丸も顔立ちが整っているので美形が三人塊で存在している空間は女性陣の目の保養になったらしい。
ちなみにこの時ハナビはすっかり酔っぱらっていて後日サスケから訊ねられるまでこの日のことを忘れていたそうな。






END