ブルイッシュピンキー
Valentine&Whiteday企画で「ぷるめりあ」様から頂いたメッセージを元に制作しました。両片想いのカラトドです。精一杯のあまあまにしてみました。グラパス混合OKということで、おそチョロの長男さんと一十四の四男さんに出張って頂きました。




二月に入ったばかりの日曜日、ニートに日曜日だなんて関係ないが安売りがあったりタダで遊べるイベントがあるのは大抵日曜日なので(ついでに言えばハローワークも休みなので三男に朝から就活しろ云々言われることもない)日曜日の出掛けるのは楽しい、キラキラと人生を謳歌する殿上人との遭遇率も高くなっているがそういう時は存在感を無にするのだ、無。

「ねえ今の三つ子かなぁ?」

無にしていても同じ顔が三人いれば目立つ、早速すれ違い様に女の子グループから囁かれた。
松野家長男おそ松、次男カラ松、四男一松は久々に街中に出かけるということで自分のデートでもないのに比較的まともな服を着ていた。
なんでもトド松の友達たちが大量購入した福袋の中からメンズのものだけ分けてくれたらしいが、レディースの福袋の中にメンズが入っているわけがないので恐らく友達の彼氏が購入したものの中から要らないものを押し付けられたのだと思うが、タダでもらえたのは有り難い。
あと男友達が普通に買ったメンズの福袋の中から要らないものも貰ったらしいが、皆どんだけ福袋好きなのだろう、かくいう六つ子もそれぞれ好きな店(野球グッズ店や猫グッズ店やアイドルグッズ店)でお小遣いの許す限り購入したから他人のことはとやかく言えない、中身は既に購入していた商品も多く普通に好きな物を正規の値段で買えばよかったと後悔したことも笑い話だ(本当に笑った長男は袋叩きにされた)

「福袋のせいで年始めから金欠だったけど、がんばってパチンコした甲斐あったよな」

しみじみと呟く長男を次男と四男がギロリと睨む、パチンコの軍資金の出所はこの二人の貯金箱だったのだ。
勝ったからいいものの、去年からためておいた金を勝手に使われて憤慨しているのだった。

「まあ、お陰で今年のバレンタインは勝てそうだからいいけど」

十四松とバレンタインのプレゼントでどっちがより相手を喜ばせるか勝負という馬鹿らしさと虚しさマックスの闘いを毎年している一松は険呑な眼差しを緩める、ちなみに第一回目から続けて引き分けなのでもう好い加減やめればいいのにとチョロ松はぼやいていた。

「俺も去年の汚名を晴らさないとな……」

チョロ松の顔を思い出したおそ松は堅く決心したように拳を握った。
去年のバレンタインはチョロ松が初めてバレンタイン用に準備してくれたというメダルチョコをそうとは気付かず六つ子全員で楽しむチョコフォンデュの中に混ぜてしまったのだ。
あの時のチョロ松の激怒「金メダルのチョコを獲得すんのにどんだけ苦労したと思ってんだよ!!」は話しを聞くまで意味が解らなかったが真相はこうである、去年チョロ松・十四松・トド松は三人で金銀銅のメダルチョコの入ったチョコレートを買った(ウケ狙いである)そして揃いもそろって金欠だった三人は今年のバレンタインこれでいいんじゃね?という話になった。
そして当然長男のおそ松に金メダルチョコを渡すべきだと言うチョロ松と一松に金メダルをあげたい十四松のバトルが勃発したのだ(トド松は「カラ松兄さんシルバー好きだし銀でいいよね」とか言って早々に戦線を離脱したらしい)結果チョロ松が勝ち、十四松は泣く泣く一松に銅メダルチョコを渡したのだが「銅って太陽に照らされた時のお前の髪色に似てて……おれ好きだよ」という恥ずかしいナイスフォローによって十四松の涙は止まった。
一方チョロ松は一応ラッピングした方がいいだろうと近所の百円均一に出掛けることにした……が、しかしその三男が出掛けている間にチョコフォンデュを作っていた長男によってテーブルの上に出しっぱなしだった金メダルチョコも同じ鍋に投入されてしまったのだ。
あの時のチョロ松は泣くわ喚くわ大変だった(チョコフォンデュはちゃっかり食べたけれど)折角泣き止んだ十四松まで話しを聞いて再び泣き始め一松からも怒られた。
二人にキレられ流石にカチンときたおそ松もおそ松でまさか金メダルチョコが本命チョコだとは思わないし、ていうか出しっぱなしにする方が悪くねえ?あとラッピング代合わせて数百円しか掛けないつもりだったのか?と応戦しかける。
そんな空気を察知したのかトド松が銀メダルでよかったら……とチョコを譲ってくれて事なきを得たのだが、それを貰える筈だったカラ松は結局兄弟全員で食べるチョコフォンデュしかありつけなかったのである。
普段の扱いは散々だが大事な弟であり痛いけれど頼れる参謀役のカラ松の為にも、今年こそちゃんとしようと長男は心に決めたのだ。
毎日が誰かのバースデーとか言ってる順番的に一つ下の弟も、バレンタインが特別だという認識はあるだろう、その特別な日を毎年毎年他の兄弟の所為で台無しにしている(カラ松やトド松がチョコを渡して告白しようとしているのに何故かその機会をクラッシュさせてしまうのだ)
自覚があるので今回は一松も協力的だ、ありがとう人の多い場所に付き合ってくれて。

「で?お前はどうするわけ?」

珍しく一松からカラ松へ話しを振ると歩きながら自分の世界に入り込んでいた彼はハッと兄弟の方を向く、そして何故か照明の方を見上げたあと「ノープランだ」と瞳を輝かせる。
ハッキリ言ってムカつくが、ここは一松にとってアウェイ空間、目立つことをしてリア充の皆さんの注目を集めることを避けたい彼は背後に自然発生したバズーカを速やかに消滅させもう一度カラ松へ問うた。

「チョコレートでいいでしょ?バレンタインだし」

昨今は男から女へチョコを渡すことも珍しくなく、他にも友チョコやらなんやらのお陰で男がバレンタイン前にチョコを買うハードルもだいぶ下がってきている、今回は三人一緒なので店内で彼女に渡すテイの会話でもしていれば恥ずかしさも軽減されるはず。
というか気取ってチョコレート以外のものを渡してスベルより定番でも無難なものを渡した方がいいだろう。
※個人の感想です

「しかしそれでオレの愛がアイツに伝わるか」
「余計なことしない方が伝わると思う」

余計なことをしたって結局カラ松を受け入れてしまうのがトド松だが、折角の告白イベントなのだから六男が本気で心から喜ぶものにしてもらいたい。
喧嘩も多いけれど既に熟年夫婦の領域に達している長男三男や、色々あったけれど仲良く幸せにやれている自分と五男を顧みながら四男はそう思った。
おそ松もそう思ったようでカラ松と肩を組んでアドバイスを始めた。

「手紙でいいんじゃねえの?お前いっつも魚に愛をしたためてるとか言ってんだろ?」

俺と釣りしたときは普通だったけど、皮ジャンとタンク以外。
と言った後、人差し指でカラ松の左胸を指して、

「アイツに愛したためて送れば?」

言った。
なるほど、手紙か……と次男と四男は同時に納得してしまった。
多少内容が痛くても手紙なら口で言われるよりダメージは少ない、というか嬉しいだろう。

「そうか、手紙か……ありがとう、おそ松」
「魚と一緒の便箋はやめとけよー女子はそういうの気にするらしいから」
「いやアイツ女子じゃないでしょ」

そりゃチラシの裏とかなら流石に怒るだろうけど、カラ松の無駄遣いに難色をしめしていたから既に持っている便箋でも構わないのではないか。
すると「こういうのは気持ちが大事なんだよ」と繊細さの欠片もない長男はこんなときだけ説得力のある顔をして言うのだった。



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バレンタインの前に浮足立っていたのは学生時代か、幼馴染の殺人的料理を欲しがる六つ子をクラスメイトが『自殺行為』なんて言っていたのを思い出す。
好きな人の愛で死ねるなら本望だろう、たとえ愛じゃなくて義理だとしても……とは二番目の兄の談、そんなことトド松は思わなかったが彼女の手作りが欲しいのには同意だった。
こういうのは気持ちが大事なんだよ、と三番目の兄が言って長男にコンビニのチョコを渡したのはその年だった。
好きな人にあげるチョコ選ぶの手伝って!と言われ死にそうな目をして着いて行った四男がその手に黄色と紫の紙に包装されたチョコを持って帰ってきたのは去年のことだった。
トド松はスタバァで鍛えた腕でホットチョコレートを淹れて台所で飲んでいた。
次男は長男と四男に連れられてどこかへ行ってしまい、暇なのだ。
そう、日曜日だというのに暇だった。
友達もみんなバレンタイン前の準備だとかデートだとかで捕まらないし(一緒にチョコ選ぼうだとかチョコ作ろうだとか言われたが、どっちもなんか可笑しい気がして断った)
三男は就活に行っている、いまだに高望みをしているところは呆れるが働こうという意欲があるのは素直に偉いと思う、向上心を持つ者が身の回りに一人でもいると自分も頑張ろうと思えるのだ。
五男はなにしているんだろう?十四松兄さんは突拍子もないからなぁと自然と笑みが零れている、どうしようもない地獄の足枷だけど自分の兄は可愛くて面白い人達なのだ。

「二人ともリア充なのがムカつくけど」

六人で食べるチョコレート、毒でも混入してやろうかと思って、あの人たちが毒で死ぬものかとも思う、自分だって死なない。

「あー……暇」

ワイドショーもひとりでみてもつまらない、ジェンガや野球盤なんてもっての他だ。
詰め将棋でもしようかな、と、将棊のアプリを起動する、今はなんでもスマホでできるから便利だ。

「カラ松兄さん帰ってこないかなぁ」

構ってもらいたい時に限っていない、言い替えれば彼がいないから寂しく構ってもらいたいと思う。

「ははっ重症……」

カラ松は本当に痛いし、優しさのベクトルはズレているし、でもほっておけなくて、時々ちょっとカッコイイのだ。
目の前にいるとつい目で追ってしまう、離れていると心配になる、それは兄による刷り込みなんだろうかと思った時もあったけれど、恋愛なんて洗脳みたいなものだしなといつからか気にしなくなった。
自分が彼に恋愛感情を持っていると自覚したとき同性愛で親近相姦という普通から逸脱した感情に嫌悪感を抱いたが、まあ同性愛は認められつつあるし親近相姦の問題は虐待であることが多いのと生まれてくる子の遺伝的リスクが高まるというもので合意の上での同性同士であればあまり関係がないことだ。
※所説あります

「だから……あとは兄さんとボクの気持ちの問題」

大事には思われているけれど恋愛感情かは怪しい、自分の方が兄でああいう態度を取られたら好意を持たれていると信じられそうだけれどカラ松は基本弟を保護対象とするので、確信は持てなかった。
でもトド松へは他の弟に対してより遠慮がないし、一緒に出掛けることも多いと思う(恥ずかしいのを忍んで隣にいるのを選んでいるのだから兄さんの方こそ気付いてほしいものだ)期待してもいいだろうか――
「……でもなぁ……ああ、でもなぁ」

勇気がでない、でもあのポンコツな兄や変わり者の兄に先を越されたままでいるのも悔しい、そうこうしている内にどんどん歳をとって行っていく。
一生繋がっていられる家族なので焦りはないけれど、せっかく可愛く生まれたのだから旬のうちに食べてほしい、こんな可愛いボクをいらないなんて言ったらバチが当たってカラ松兄さんが死んでしまう。
※個人の見解です
自意識過剰な割に告白する勇気のないトド松は今年のバレンタインも兄弟全員にホットチョコレートを淹れて終わりだ。
でも、冷蔵庫の中にはカラ松の分にだけ混ぜる特別なホワイトチョコを用意してある……学生時代は部活の差し入れにオカカおにぎり持っていくくらいだったので随分と成長したと思う。

「カカオとオカカをかけただけだろって、チョロ松兄さんにしか気付かれなかった……」

ちなみに部員全員分を買っていった(カカオはカラ松にだけ)あれで買収できたと思うけれど今思うと無駄遣いだ。
今後カラ松の友達を買収するときは長い付き合いになりそうな人にしよう、そう心に決めるトド松だった。

「一昨年はカラ松兄さん、怪しい魔法使いみたいな恰好したチョロ松兄さんと一松兄さんに沸騰したチョコ鍋にぶちこまれて、何故かボクまで道連れにされちゃったし……せっかく勇気出してチョコ渡そうとしたのに一緒に溶けちゃうし」

なんかトト子ちゃんのファンに配るチョコにちょっとした呪いを掛けるとか言っていたけれど、あれから一週間くらい体からチョコの匂いが落ちなかったし、勿論とおぶんチョコなんて見たくないというカラ松に用意したチョコを渡せなかった。
※二人は特殊な訓練を受けています

「その前はそうだエフシックスの世界に行けばチョコ貰えるんじゃね?とかおそ松兄さんに連れられてったのが実松さんの世界でボクら五人は危うく消滅しかけたような……」

あの時はカラ松の誘いで移動遊園地に出かける予定だったのだが潰れてしまった。
そのことを後から長男に言うとゲッという顔をされて溜飲が下がったけれど、翌週まで元の世界に帰れず移動遊園地がどこかへ行ってしまったのは残念だった。
去年はメダルチョコを三男に譲ったなぁ……本当にバレンタインは碌な思い出がない。

「まぁ別に告白はバレンタインじゃなくたっていいんだけどね……」

むしろプレゼント類はホワイトデー前の方が豊富に売り出されるし、男なのだからそういう時に買い物をする方が格好が付く、格好付けたっていいじゃないか恋する男はみんな格好付けなのだ。
おそ松だってチョロ松が絡むと結構なんでも率先してするし、チョロ松もおそ松の前だと他の兄弟の前より気取る、一松も十四松の前では頼りがいが二割ほど増すし、十四松は一松と恋人になってから何事にもずっとずっと一生懸命になった。
カラ松だってカラ松ガールの為の自分磨きを怠らないし、たぶん素だけれど兄弟が落ち込んでいたら気付いて傍にいてくれる、大切な人の為にする行動はその人をキラキラと輝かせる。
自分だってカラ松の前ではつい気を抜いてしまいだらしないところも見せるけれどコッソリ趣味を増やしたりバイトをしたりしている、そうやってキラキラしていき、いつか可愛い王子様になって迎えにきてやるんだ……同じところにいるけど。
そうやって今年も告白を先延ばしにするトド松だった。




――これはいったいどういうことでしょう?

公園の一角、東屋の中でスマホを弄っていると霧がぶわっと広がっていた。
生まれて初めてくらいの真っ白な濃い霧に最初は感動して、次に恐怖が生まれてくる。

(カラ松兄さん本当タイミング悪いな)

ギュッと自分の肩を抱きながら薄目で東屋の外を窺う、ミルクの中みたいだと思えばよいだろうか……
スマホに視線を落とすと待ち合わせまであと五分もない。
彼は公園に向かっている筈だ。

(辿り着けるかなぁ?)

悩んでるうちに彼が道に迷っても困るので早々に迎えに行こうと東屋の外に出たトド松。
カラ松が来るだろう方向へ慎重に足を進めていく、細かい水の粒が髪や服に付いているのを鬱陶しく思った。

「カラ松兄さん!」
「トド松!!」

暫くすると半泣きになっている次男の影を発見し、トド松は駆け足になった。

「トド松あぶない!!」
「へ?」

六男がなにもないところで転ぶという懐かしの光景、昔と違うのは抱き止める次男がいるということだ。
トド松の手をとると勢いをいなすようにクルリと回って着地させる、呆気にとられたトド松だったが次の瞬間ニヘッと笑った。

「今のちょっと面白かった」
「そうか、でも気を付けろよ」
「うん、兄さんこそ迷いかけてたんじゃないの?」
「まぁな、でもお前が近づいて来るのはわかったぞ」

手を繋ぎながらの会話だ。
霧が濃くて周囲から見えないのも良い。

「どうしよっか?移動する?」

昔馴染みの公園なのに見知らぬ場所のように感じる、カラ松を探すという名目がなければあの場を離れなかったろう。

「霧が晴れるまでじっとしとこう」
「そうだね」

しかしいつまでも向き合って突っ立っているのもどうだろう、距離が近いことには慣れているけれどなにもしないでいるというのは結構居心地が悪い。

「兄さん今日はなんの用だったの?」

カラ松は朝からいなくて、午前中に他の兄弟にはホットチョコレートをあげたけれどカラ松の分だけが残っている、置き手紙でこの時間に公園の東屋に呼び出されたから来たのだ。
一方的な呼び出しは他に用事があった時に困るからやめてくれと再三言っているのに数ヶ月に一度くらいの頻度であった。
それは素晴らしい思い付きをトド松に一番に聞いてもらいたかったからだとか、カラ松がひどく落ち込んでいてトド松のとっておきの話を聞きたかっただとか、そんな理由だったのですっぽかす気にはならないけど、連絡手段を持ってくれたら時間をずらせたりするのに、別にカラ松なんて待たせていても自分の世界に入り込むなどして暇を潰せるのだから他の用事が終わったあとでも来ればいいのに、心配だから他の用事を断ってでも来てしまう。

「あ、あのな」
「うん」

キレの悪い口調だと感じながら、彼の言葉を待つ。

「これを、受け取ってくれないか?」
「ん?」

空色の封筒を差し出すカラ松、受けとるのはいいが、それより親指の爪が真っ白だったので受けとるついでに握ってみる。

「と、トド松?」
「冷たいね、カイロ持ってるよ」

貸そうか?とトド松は封筒からカラ松の顔へ視線を移した。
身長は変わらないのに見上げられている気分になる。

「いい……それより、これも」
「うん?」

と、小さな袋をポケットから取り出した。

「ギリギリまで探したけど、しっくりくるものなくてな、とりあえず仮ということで」
「仮って……」
「いや、これを見た瞬間お前に合うと思ったんだが……なんせ値段が値段なもんだから」
「うん百均の袋だもんね」

でもさ、別に値段はどうでもいいんだよ。

「それより仮って言われる方がイヤ、悩んだにしてもカラ松兄さんが選んだものなんだから」
「う、すまない」
「兄さん自分の身に付けるものには自信あるじゃん、ボクにくれようと思ったんならそれ以上に良いものだって自信もってよ」
「ああ……ごめん、怒るなよ」
「怒っては無いよ、でも痛いものだったら使わないから」

百均にそんな痛いものは売っていないだろうが、勿体無くて使えないと思うかもしれない。
今日はバレンタイン、この日に呼び出されプレゼントを渡されたということは期待してもいいのだろうか?
わざとらしいくらい淡々とした口調だが、トド松は顔を真っ赤にさせて手紙を持った手で心臓を押さえた。

「中身、みていい?」
「ああ」
「手紙はあとでゆっくり見る」

とりあえず風の吹かない、人目のない場所で読みたい。
するとカラ松は納得したように頷いた。

「……」

青い惑星のついたストラップ、惑星の輪の部分は薄ピンクのビーズが使われている、金具のところが王冠の形をしているのが百均にしては細かい。
普段カラ松が選ばないような可愛い系だが、トド松は気に入った。

「ありがと!カラ松兄さんにしては普通にいいじゃん!」
「えっ……と、それは褒めてるのか?」
「褒めてるよーーなんか輪っかがある星っていいよね、だって丸い星だったらそのまま転がってどっか行っちゃいそうじゃん」

環があれば途中でつっかえて止まる、宇宙にあるものを地球の物理に乗せながら語るトド松にカラ松は可愛さを感じた。

「お前が星ならオレはその輪だな」
「えー?兄さんが?」
「そうだぞ、お前が転びそうになったらオレが支えてやる」

さっきみたいにな!と頼もしく胸を張る兄に、トド松は怪訝な眼差しを送る、この人とは共倒れになりそうだ。
やはり無重力な空間でふよふよ浮いたままでいた方がよいような気がする。

「霧が晴れてきたね」

そう言って、ふと「霧が晴れてきた」に「月が綺麗ですね」みたいな意味があったらいいのにと思った。
そうしたら、伝わるのに……

「好きだよトド松、この返事は一ヶ月後にな」
「はぁい」

どうせ答えはバレているのに、ロマンチストのカラ松は先延ばしにする、可愛い王子様を目指すトド松が受け取りっぱなしにしないように、キラキラと輝ける機会と猶予を与えてくれる。
思わず抱き付きそうになって、二人を隠してくれていた霧がすっかり晴れてしまったのに気付いた。

「帰ろう、隠しておいたチョコがおそ松に食べられてしまう前に」
「そんな食い意地はってんの?おそ松兄さん」

トド松はストラップを袋に戻すと手紙と一緒に大事にバッグの中へ仕舞った。


手紙の内容はこうだ。

『世の中を、人を、キラキラさせながら見ているお前の瞳が好きだ。
大変そうなことを、サラリとやり遂げるお前の強さが好きだ。
何処へでも行って、様々なものを見てくればいい。
帰る場所はここにあるから。俺は、ここにいるから。』

バカだなぁ兄さんは、ボクが世の中や人をキラキラした瞳で見れるのはカラ松兄さんが隣にいるからだよ。
兄さんだってボクにできないことサラリとやっちゃう時あるじゃん、たまに格好いいと思ってんだからね。
何処へ行って何を見たって心の一番深いところには兄さんがいるよ。
ちゃんと兄さんのとこに帰ってくるから、ずっとずっと元気でいてね。


一ヶ月後。
チョロ松と十四松の作っていたマフィンが発火するなどの妨害に遭いながらも。おそ松と一松の協力でどうにか二人きりになることが出来たカラ松とトド松。
弟は部屋の中央に正座をし向き合った兄にすっと四角いものを差し出す。

「これ、バレンタインのお返しだから」
「ん?」
「一方的に呼び出されるの正直困るんだよ、また霧とか出たときに連絡手段があれば助かるでしょ?ボクのおさがりで悪いけど、はい……」

そう言って渡されたのは、トド松の使っていたスマホだ。
去年の新作モデルと言っていたもので、角に小さな傷はあるが画面や背面は綺麗なままでいる。

「いいのか?」
「機種変したかったからいいの、それに……それならボクが教えてあげられるし……」
「そうか、ありがとう……それでこのストラップ」

スマホには昨日までなかったストラップがつけられていた。
デザインは違うが光沢の感じや、使っているビーズや金具が同種であるためカラ松が贈ったものと同じシリーズであると解る。
桃色のラバーがついた桃色の惑星、小さな羽が生えていて色は薄いブルー、金色の金具は王冠の形。

「あとは、はい」

カラ松に青い薔薇(の形をしたキャンディ)を一本、押し付けるように渡してきた。

「兄さんがいつも魚にやってるのは“気持ち”だけど、これはボクの“心”だから」

だから一本しかないの、解る?
と言って、恥ずかしいのか顔を逸らしてしまった。

「解るよ、トド松やっぱりキラキラしてるな、オレの可愛い王子様だ」

カラ松はトド松を胸の中へ招いて、オレは王子をたらし込む魔法使いになろうかな……等と一切の照れなく言ってのける。

「羽が薄いから壊さないように気を付けなきゃな」
「別に、兄さんが持っててくれるなら羽なんて取れてもいいよ」
「トド松……」

一ヶ月考えてみて思ったのだが、やはりカラ松のくれたストラップの環の部分は自分だと思う、惑星カラ松の引力に吸い寄せられて周りを囲っているのだから。
そして、この惑星トド松の羽はカラ松だ。
ふよふよ宇宙に浮いているだけの星も羽があれば自由に飛び回れる、羽がなくなるということはカラ松のところへ辿り着いたということなのだろう。

「ハッピーホワイトデー、大好きだよカラ松兄さん」
「ハッピーホワイトデー、ああ……オレもだ」



※マフィンはこのあとスタッフがおいしくいただきました

「なぁ、このオレ達の下の方に流れるテロップみたいなものはなんだ?そしてスタッフって誰だ?」
「ああ言っちゃったね兄さん、こないだからずっと見えてないことにしてたのに……それにしてもスタッフって誰だろう?」



おしまい



あとがき&お礼です!
ありがとうございましたー!
考えてくださった素敵手紙にトド松じゃないけどきゅんときました…次男かっこいいやん(*´∇`*)てなりました!
最後ふたりとも痛い感じになっちゃったんできっとどっかで聞き耳たててるおそ松兄さんが全身複雑骨折していると思います!
では本当にありがとうございました。
嬉しかったです。
(*´ω`*)