素足の小鳥

Twitterの「#私の小説に絵をつけてくれる人はふぁぼで絵に小説をつけて欲しい人はRT」というタグにRTしてくれたドラちびさんに贈ります 。元絵はドラちびさんのショタ十四です。 薬で中身も幼児化させてみましたが「くん」の頃と性格は異なります。一十四(と長兄松)です。勝手に兄松を喫煙者にしてます



台所の中央、テーブルの上に灰皿を置き煙草の煙をぽわっと吐いてドーナツを作る。
それを見てすげーすげーと騒ぐ弟に兄が得意げに笑っていて、その隣で我関せずという顔でのんびりと競馬新聞を眺めているもう一人の兄がいた。
おそ松とカラ松と十四松だ。
珍しい組み合わせだと思いながら、猫にあげるおやつを取るべく一松は台所の中に入っていった。
換気扇が全力で仕事しているけれど煙たいものは煙たいし台所用品に匂いが移るだろう、まあそんなことを気にするような相手は今のところ母親くらいか……三男と末弟なら外で吸えと言って追い出すかもしれない。
だが、あの二人が朝から出掛け両親も不在の今この家は実質上長男の天下……いや、それはいつもなんだけど、等と思いながら一松はガラリと戸棚を開け中からにぼしを取り出した。

「一松兄さんどっか行くの?」

物音に気づきぱたぱたと近寄ってくる十四松に一松は「ん、河原」と答える。

「じゃあぼくも行く!」

はいはーいと手を上げて宣言する五男に長男は思いついたように言った。

「あー十四松、ついでに煙草買ってきて」
「いいっすよーーあ、でも何時になるかわかんないよ?」

同行していいと一松が答える前におそ松が煙草を頼むと、十四松も一松から断られると思っていないんだろう、そう応えた。
というかその言い方だと何時になっても付き合う気でいるか、自分の用事に付き合せる気でいるかのどちらかに思うが、それでも四男は気にせず「うん」と相槌を打つ。

「別にすぐじゃなくていいよ、まだカラ松のがあるから」

と、灰皿の横に置かれた煙草の箱に手を伸ばそうとする長男だが、その前に次男がひょいっとそれを持ち上げてしまう。

「オレのはやらんぞ」
「なんだよケチ!なんだよケチ松!」

そりゃ昨日も一昨日もカラ松の煙草をもらってたからだろう、あとチョロ松のにも手を出してたろう、と一松が思っていると十四松がオウムのように「なんだよケチーなんだよケチー」とカラ松が座る椅子の背もたれにしがみ付いて言っていた。

「ブラザーにはコレをやろう」

さすがに弟からケチと呼ばれるのはイヤなのか(しかも耳元で)ポケットから棒のついた飴を取り出し「なんだよ」の「だ」のところで口に突っ込み「よ」の時にパッと離す、飴を咥えて静止する十四松は突然口の中に広がった甘味に驚いているようだった。
カラ松は飴の棒を指でピンとはじくと彼に指をさしたまま「オレをケチとか言うんじゃないぞーじゅうしまぁつ?」とニッコリ笑っていた。

「うん!了解!」
(怖っわ)

今のは十四松が悪いけれど何か次男がものすごくイラつくので機会があったら殴っておこうと一松は誓った。

「じゃあ兄ちゃんもついてこー、どうせ猫んとこだろ?」
「え?」
「え?」

おそ松の言葉に最初に反応したのは十四松で、そんな十四松の反応に驚いたのは一松だ。
長男が付いて来てなにか不都合でもあるんだろうか?あるなら置いて行くけれど……

「なにー?お兄ちゃんは仲間はずれなの?」
「……ううん!そんなことないよ!行こう!おそ松兄さん」

十四松が椅子から下りておそ松の手を取る、一松は先程から自分の意思を特に確認することなく進んでいく会話を別にいいかと思いながら、猫を触るなら手洗いしてもらおう(煙草くさいから)と口を開いた。

「十四松?」

だがその前におそ松の口から不思議そうな声が漏れる。

「お前なんか違うくない?」

他の二人も十四松の方を見ると確かになにか違和感がある。
――なんだ?顔つき……?
すると五男は目をきょろきょろさせながら、口元を押さえて汗をかきはじめた。

「あれー?早いなー」

何時もの笑みを浮かべているように見えて困った顔をしながら首を傾げる弟の、その体がぐんぐんと縮んで行くのが解かる。
長男と次男は驚いたような顔をしているし、五男自身も少々あせっているようだが、今の台詞を聞くに本人は自分がこうなった理由に心あたりがあるようだった。

「……お前、今度はなにしたの……?」

小さな子どもの姿になった弟を見て、ひとり冷静な一松はその前にしゃがみ込む。

「うん、えっとデカパン博士に」
(あ、博士なんだ)

今更この十四松が犬科しようが幼児化しようが驚きはしないけれど、デカパン博士に頼ったなら結構深刻な事情があるのかもと真剣にその目を見詰める。
体は小さくなったけれど瞳は変わらない。

「ちょっとまってね」

するとそう言ってトコトコ隣の部屋へ歩いて行った十四松、体が小さくなったため途中でパンツと海パンが脱げてしまっていた。
海パンの紐をきつく結び直せばずり落ちていかないだろうけれど問題は上に着ているパーカーの袖がいつもより余計に邪魔そうだということだ。
裾も長くてワンピースみたいになっているし……いやパンツと海パン脱げているからそうでないとマズイんだけど……と一松は思う。

「えっとね、博士に一松にーさんとここ行きたいって言ったら薬くれたんだー!」
「へ?」

戻ってきた十四松が持ってきたのは人形劇のチラシだった。
無料だけど【入場は小学生以下の子どもとその保護者に限ります】と書かれていた。

「ニャンコのお話だから兄さん好きかと思って」
「へぇ……キャッツ?」
「それはミュージカルだろ」

両サイドから長男と次男が四男の手元を覗きこんで、そんなことを言っている。
可愛い猫の絵が描かれているチラシに、こんな子ども向けの話を好きだと思われてるのかと少し呆れてしまった。
でも、まぁ好きだけどね……と、一松が笑う、それを見た十四松も嬉しそうに笑みを浮かべた。
たとえ詰まらなくたって、二人で行けば楽しいだろう、四男と五男の間に和やかな世界が広がっていく。

「って!それよりまずは十四松パンツとズボン履きなさい」
「そうだな、風邪引くぞ」

長男と次男の声に現実に引き戻される二人、たしかにそうだ。

「紐結んでやるから自分で裾を上げといてくれ」

そう言われ次男の方を向く五男。

「あいあい!」

長めのパーカーの裾をぺろーんと捲る、その前にしゃがんでパンツと海パンを履かせようとするカラ松。
次の瞬間、次男の横腹に四男の拳が入った。
最近は理不尽な暴力を減らしていたので、次男を殴る機会がこんなに早くくるとは思わなかった四男。
まさかこのタイミングで殴られるとは思っていなかった次男はズサァァと壁まで滑り背中を強打する。

「な、なんだ?ブラザー」

オレなにかしたか?という目をして見詰めてくる彼を一松は怒鳴り付けた。

「それは悪い!けど死ね!!」

とてもとてもとても珍しいことに素直に謝り(だがゴメンとは言わない)素直に罵倒を口にする四男を目の当たりにし、ますます困惑する次男。
カラ松からすれば弟を着替えさせるというだけで他意のない行為だが、一松からすれば厭なシーンだし、そもそも十四松の方は抵抗ないのかと疑問がある、見た目が幼児とはいえ中身は成人男性なのだから……と思いながら彼を見ると次男と同じように首を傾げていた。
そうだね、おれも風邪のときや寝惚けたときなんかは普通に着替えさせてもらったりするわ、と改めて自分たち六つ子の距離感に打ちのめされている四男、長男はその光景に腹を抱えて笑っている。

「くくっ……着替えはお前が手伝ってやれよ一松」
「……うん」
「一松にーさんお願いしマッスル!」

そう言ってまたぺろーんと裾を捲る十四松、なるべく下腹部を見ないようにパンツと海パンを履かせ海パンの紐をぎゅっと絞めた。
いつもヘソのあたりにゴムがあるのに、今は胸の下あたりにきていて、なんだかデカパン博士のようだ。

(ていうかスゲェなデカパン博士)

今の十四松は完璧に声変わり前の子どもだ。
流石あれだけの研究所を持っているだけある、この薬だって世に出回ればきっと大儲けだろう。

「そういえばトド松が買った服の中にサイズの小さいと言っていたものがあったな、持ってくるから待っててくれ」

早くも復活した次男はそう言って台所から出て行った。

「そういやお前その姿で煙草買ってきてくれるつもりだったの?」
「あっ!」

長男の言葉にハッと猫目になる五男、この歳の頃この顔芸は身に付けていなかったから新鮮だった。

「まぁおれがいるし……ていうかやっぱ兄さんもついてくんの?」
「いやぁ、デートの邪魔しちゃ悪いっしょ」
「……」

デート……たしかにデートだけど……と、一松が狼狽えているところに、丁度次男が戻ってきた。

「フッ……待たせたなマイブラザー・アンド・マイリルブラザー」

どうしよう殴りたい、十四松の服持ってるから我慢するけれど……そう思いながら見ると、カラ松は両手にハンガーに掛かった服を持っていた。
一つは七分丈の白いトレーナー、おそらくトド松のものだ。
そしてもう一つは革ジャンとクソタンクだった。

「カラ松……それは?」

おそ松が既に笑いを堪えているような声でソレを指差した。

「フッ……ブラザーもデートならば、このカラ松のパーフェクトファッションを貸してやろうと思……」

次男に二度目の鉄拳が入った後、松野家に外まで聞こえるような長男の爆笑が響き渡ったのだった。



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その後「オレはまたブラザーを怒らせてしまったのか」と落ち込むカラ松におそ松が「お前はそのままでいいよ」と末弟がいれば「なにがいいの」とツッコミがきそうな慰めをしているのを放置して一松は十四松と手を繋いで河原までの道を歩いていた。
十四松は歩く度に音の出るひよこサンダルを履いている、これはいつものスリッパでは歩きにくいだろうからとデカパン博士がくれたものらしい(シンデレラの魔法使いみたいだ)
迷子防止になっていいと思うけれど成人男性として矜持は傷付かないだろうかと少し心配になった。

「お前イヤじゃないの?」
「ぜんぜん!」
「そっか」

と、三男がいれば「納得すんのかよ」とツッコミがきそうなことを呟く四男を見上げ、五男は満面の笑みを浮かべた。

「ご機嫌だね十四松」
「うん!」

大好きな一松が笑うのを見て十四松はまた嬉しくなる、子どもの姿をしているのに子ども扱いされないことも嬉しい、中身は十四松なのだから当たり前だけど見た目が変わってあからさまに態度を変えられないことに安堵した。
しかし

『いい?十四松兄さんと一松兄さんは六つ子の兄弟で男同士なんだから、人前では滅多に恋人らしいことできないでしょ?だからその滅多にないチャンスを逃しちゃダメだよ?一松兄さんそこんとこポンコツだから十四松兄さんの方からリードしてやんなきゃダメだよ?』

なんて言っていた唯一の弟を思い出す、そして

『十四松って意外とスキンシップとらないよね?もっとベッタリかと思ったけど単独行動多いし、 目の前でベタベタされるのは勘弁だけど、十四松の方からくっついてったらアイツも喜ぶんじゃない?』

二つ上の兄の言葉も思い出す。
チョロ松はそう言うがこの二人は人並みのカップル程度かそれ以上にスキンシップはとっている、そもそもの距離感が近すぎてチョロ松ですら常識を忘れているのだった。

「十四松?」

考え込んだ十四松に合わせて一松もピタリと立ち止まり、いつもと同じように柔らかい声を落とした。

「兄さ……」

見上げた先の顔は遠くて本当に年齢の離れた兄弟みたいだ。
十四松はこれくらいの歳のときは一松を呼び捨てにしていたのを思い出す、あの頃からずっと一緒に成長してきたのに、今は自分だけが小さい。
薬に頼って願いを叶えるなんて本当は反則技ということも不自然な変化は体に悪いことも解っててそうしたのに、そんなことより六つ子の兄と目線が合わないことの方が心細かった。
だから

「抱っこ」
「は?」
「抱っこして」

甘えてみることにした。

「なんで?疲れたの?」

一松の頭上に浮かぶ文字は『困惑』
見た目の似ている二人はどこからどうみても親子か歳の離れた兄弟だし別に今の十四松なら抱っこしてもいいけれど、疲れたのなら休憩をとろうか、というか小さい十四松を連れて普段のペースで歩いていた自分に配慮が足りなかったのでは?ああ十四松ゴメン、おれって本当にゴミだ。
そんな風に兄がネガティブ思考に陥っていくのに気付いて、弟はぎゅっとその腕にしがみついた。

「違うよ、目をみて話したいだけだよ」

兄の腕が戸惑ったように震えたのが解ったので、だめ押しで弟直伝のうるうる上目遣いをしてみる。

「ねぇ?おにいちゃん……」

"おにいちゃん”
クリスマスにもらったある意味爆弾なAVを参考に呼んでみた。

「う……十四松、それアウトだから」

すると四男はへなへなとしゃがみこんで顔を覆い隠してしまう。

「え!?アウト!?マジっすか!?マジっすか!?」

ガーンと効果音が付きそうな表情で狼狽える十四松に「違う違うそういう意味じゃなくて」と言いながら一松はその手を引いた。

「へ?」

目の前に落ちてくる影に瞳を閉じる暇も与えられないまま、一松の唇が十四松のそれにおおいかぶさった。
ちゅーと触れるだけの口付けが三秒くらい、ゆっくり離されてった兄の顔には苦笑が浮かんでる。

「な、な、な……?にぃさん!?」
「こういうこと我慢できなくなるからアウト、ね?」
「……うん」

たしかに誰かに見られたら逮捕される、人生アウト問題だ。
くすりと笑った音の後、兄が立ち上がって十四松の脇に両手を差し込む。

「さ、行こっか」

お望み通り抱っこされた真っ赤な顔の十四松にこれまた頬を染めた一松が語りかける。

「うん」
「早くしないと人形劇の時間始まっちゃうし」

そして再び歩きだした二人だったが、次の瞬間、その耳に不審な水音が響いてくる。

「「ウォータージャンピングストーン!」」
「え?」
「はい?」

声の方を見ると川の向こう岸から見覚えのある白服がマントを靡かせながら走ってくるのが見えた。
おおかた一松がこの十四松になにか粗相をしないか心配になってついてきたのだろう今のキスは警告みたいなもので本気で手を出すわけないだろうと言えば解ってくれるだろうか……いや、それを解った上で全力で弄ってくるのが自分たちの兄だ。

「ああ、面倒くさいことになった」
(このサイズの十四松なら猫化してくわえて逃げられ……無理だな、人形劇に間に合わない)

逃げることを早々に諦めた兄と目を合わせて弟はクスリと笑う。

「でも人形劇より楽しそうだよ兄さん」
「まぁね」

この川とちゅうで急に深くなってるところあるんだよね、と思いながら二人がくるのを待つことにした。


一松と小さくなった十四松、なんだかリア充な雰囲気を嗅ぎ付けたのか新品のおそ松と新品のカラ松が登場!二人の運命は如何に!!
次回【ツッコミ不在ってやっぱツラい】こう御期待!!




End

ドラちびさん絶対すっかり忘れてると思うけどお待たせしやしたー(´∇`)
ちびさんのショタ十四が可愛くてつい幼児化させちゃいましたよ( ´_ゝ`)ふふ
こんな話でごめんなさい、よかったら受け取ってくださいなー



オチに長男使うのが趣味みたいなとこあるんですが、今回次男も使ってみました
ていうか一十四に次男絡むと楽しいってことがわかりました
次男のすることにスゲースゲーって言ってる五男は可愛いけれど四男の心中が心配
四男の「ゴメン」はニャンコと五男限定だと思うのでちゃんと謝罪はできないけど心の中では一応反省してると思うから許してね次男