I'm Your all Retriever
気分転換に短文。一←十四前提の若葉松(+少しトド松)の話。特殊設定&過去捏造です。十年前「一松が恋人は来世に期待するって言ったその日から成長(老化)を止めた十四松」です。




中学三年生のクリスマスのことだった
ぼくはトド松が一松兄さんに訊いているのをきいたんだ
「兄さんは本当に恋人がほしいって思わないの?」
そしたら一松兄さんの溜息と一緒にいつものぼそっとした声がきこえた

「うん、おれにはどう考えても無理でしょ」

だってさ、へんなの
そりゃずっとこのままじゃ無理だけど、兄さんが変わろうとしたら絶対無理ってことはないと思う
チョロ松兄さんからは身内贔屓と言われるけど一松兄さんは慎重で謙遜でぼくには滅多に嘘を吐かない優しい人だ
ぼくは一松兄さんが大好きだから兄さんは恋をする気がないのかって知ったとき安心したしガッカリもした
一松兄さんの言葉を聞いて寂しそうに「そう」ってトド松が返事をしてて、ほんとうに寂しそうで
そしたら一松兄さんが

「来世ならできるかもしれないね」

って慰めるように言ってた
この頃からトド松はぼくたち六つ子に外の世界の人と関わってほしがってたの憶えてる
別に恋人じゃなくてもよくて友達や先輩後輩と繋がりが増えていくことを望んでいたみたいだった
末っ子として皆を見ていたトド松は長男として皆を見ていたおそ松兄さんよりも不安が多かったんだと思う、チョロ松兄さんもそう
ぼくだっこのままでいればツライこと起こらないわけないって思ってた
それは足が速いとか、元気とか、笑わせるとか、そんなことでなんとかなるものじゃないんだろうなって解かってた
でもきっと一番大切なものを失う以上にツライことじゃないから我慢しなきゃいけない
ぼくにとって一番大切なものはみんなと一緒に過ごす時間で、それとは別の一番もあるけどそれは隠してなきゃいけないと思ってた

(でもそれは一松兄さんが他人と恋をする気あるならの話しで)

兄さんは恋をしないって言ってた
でも、来世ならちゃんと恋が出来るかもしれないのか
兄さんは来世まで恋人を作るつもりがないと
本当はそんなこと思ってないかもしれないけどぼくはそれを信じたい
それに賭けてみたい
ぼくは一松兄さんと恋がしてみたかった
生まれ変わったらどっちか女の子になってるかもしれないし、同性でも生まれ変わる頃には結婚できるようになってるかもしれない
そんなことを考えてたら一松兄さんが来世に期待する気持ちがわかってきた

(でも……)

もし、結ばれたとしても、今の気持ちをおぼえてるとは限らない
この兄さんと恋がしたいって気持ちとか、兄さんに対して感じることとか、今まで一緒に過ごした記憶がなかったら微妙に違うものだったと思う
来世のぼくらが結ばれたって、この願いが叶うわけじゃないんだ

「そんなのはイヤだなぁ」

イヤだなぁ
生まれ変わって兄さんが違う人になってしまうのだって本当はイヤだけど、来世まで兄さんが恋をしたくないっていうなら譲歩できる
でもぼくの気持ちが違うものになってしまうことは死んでもイヤだなぁ

「兄さんの来世がくるまで、ぼくがこのままだったらいいのに」

クリスマスの夜、空を飛んでるサンタを見つけたぼくはポツリとそう漏らした
ぼくが歳をとらなくなったのはそれからだった

最初みんなはそのことに気付かなくて
二十歳を過ぎたころくらいから、兄弟の中で一人だけ見た目が全然かわらない奴がいることに疑問を持ち始めたみたい
おそ松兄さんとカラ松兄さんとチョロ松兄さんが相談してぼくをデカパン博士のところに連れていって色々調べられて
ぼくの肉体年齢は他の六つ子が十五歳のときのデータと同じだって、ひとりだけ十五歳から成長が止まってるんだって結果が出た
兄さんたち三人はそのことを一松兄さんやトド松や父さん母さんにどう説明するかって悩んでたけど、一松兄さんにはおそ松兄さんが、トド松にはカラ松兄さんが、両親にはチョロ松兄さんが説明することに決まったみたい

「博士は心因性って言ってたけど本当に心当たりないの?」

父さんと母さんに説明を終えたチョロ松兄さんがベランダに座るぼくの横に腰かけて訊ねてきた
本当のことは言えないから首を振ると、すこし小さな瞳が痛ましげに揺れる、ごめんねチョロ松兄さん
おそ松兄さんとカラ松兄さん遅いけど二人とどう話してるんだろう

「よく考えてみなよ十四松、このままみんながお前をを置いて歳をとってくんだよ、僕らみんなそっくりな六つ子なのに」

まるで、ぼくが自ら望んでこうなったって知っているような、知っていてやめさせようとしているような口振りだ
もしかしたらチョロ松兄さんも身に覚えがあるのかな?って思ったけど墓穴を掘っちゃいそうだから何も言えないでいた

「こんなとこにいた……十四松兄さん、チョロ松兄さん」

と、そこに少し目を腫らしたトド松がやってきて、ぼくとチョロ松兄さんに微笑みかける

「カラ松からの説明でわかった?」
「うん、デカパン博士からもらった診断書も一緒に見せてもらったし」

大変だったんだねぇ十四松兄さん、と、ぼくの隣に腰かけて顔を覗き込んできた
チョロ松兄さんとは逆に兄弟の中で一番大きな瞳、でもそこから出てるやさしさはそっくりで
ぼくは少し申し訳なくなった

「お前ひとり?カラ松は?」
「カラ松兄さんはおそ松兄さんの加勢に行ってる」
「あーね」
「あっちのフォロー大変そうだから」
「カラ松でもいないよりは役に立つかな」
「立つよそりゃ、兄さんだもん」

チョロ松兄さんとトド松の会話が続く
トド松は案外と兄のことを信頼してるみたいに言うから可愛かった
ていうか

「一松兄さん大丈夫じゃないと思う?」
「逆に聞くけどなんで大丈夫だと思うの?」
「ふつうに一松兄さんの気持ち考えただけで心臓イッタイんですけど?」
「ほらドライモンスターまでこう言ってる」
「ヒドイ!」

そう言って涙目になったトド松は「ちょっとココア作ってくる」とわざと怒ったように言って部屋の中に入って行った
なんでココアなのかな?って思ったら此処がとても寒いからだ
ぼくは寒いのは苦手だし、チョロ松兄さんだってそうなのにどうしてこんな十二月の夜空の下にいるんだろう
サンタはもう捕まえちゃったのに

「今年はサンタさん来ないかも」
「ん?」
「ぼくね、一番ほしいものちゃんと解ってるけど、一度も正直に話したことない」
「……」
「悪い子だから」
「子どもって歳じゃないだろ……」

空を見上げるぼくの目を隠すように布がぽんと置かれた
手に取ってみると紫色のマフラーで、チョロ松兄さんの方を見たらクスリと笑ってぼくの首に巻いてくれた

「部屋ん中に落ちてたの適当に拾ってきたけど、正解?」

ちゃんと定位置に掛けとくのはカラ松兄さんとチョロ松兄さんとトド松くらいで、おそ松兄さんやぼくのマフラーだってそこら辺に転がってる筈なのに一松兄さんのを持ってきた
一番鈍感だと思ってたチョロ松兄さんがこんなことするなんて誰の入知恵だろう?と思ったけど、そういえば兄弟のことを本当によく考えてくれる人だった

「あ、あのね!チョロ松兄さん」
「お前さ、寒がりのくせにクリスマスになるとこうやっていつもベランダで空見上げるだろ?あと冬でも海で素振りしたり川で泳いだり、一年中海パン履いてるし、それで風邪ひいてヒドイ看病されてるのに一人だけ安らかに寝てるし、正直子どもの頃よりバカになったよね見た目は全然変わらないのに」
「え?」
「マフラーくらい自分で選んで自分でしときなよ、兄弟全員のぐるぐる巻きにしたって怒られやしないんだから」

カラ松兄さんがなにを言いたいのかよく解らないことは多かったけど、チョロ松兄さんの言葉が解らないことなんて……いやいやアメショ!とかペルシャ!とか一人で叫んでるの見たときは全然意味解らなかったけど、みんなで話す時はちゃんとぼくにも解かる言葉使ってたのに

「僕ね、お前が寒がりなの知ってるから冬空の下にひとりでいられるのイヤだ、お前が野球すんの好きだって知ってるから風邪引いて動けないお前見るのイヤだ、食い意地張ってるの知ってるからお前がお腹空かしてるのイヤだけど一松にひと口あげてるの見るのは嫌いじゃない、あとはお前が泣き虫だったの知ってるから無理して笑ってるのイヤだし、それと同じようにお前がバカだって知ってるからこうやって成長止めてる理由もどうせ碌なことじゃないなって思う」

照れくさいのかチョロ松兄さんめちゃくちゃ早口だったし内容も愛されてんだか貶されてんだかわからないけど、心配かけちゃってんだなってわかる

「どうせ碌なことじゃないだろうけど、話してくれるなら僕も自分の碌でもなかった話をしてあげる」
「へ?チョロ松兄さんはいつもロクデナシだよ?」
「じゅうしまつぅ〜?」
「痛い!痛いって!!」
「そんなこと言うなら教えてやんない、秘密のことだから他の松に聞いても無駄だよ」
「別に教えてくれなくても……」
「僕の身体が幼少期まで若返っちゃった時のこと」

いいよ、と言いかけた口がそのまま塞がらなくなった
普段からあんま閉じることのない口だけど

「え!?」
「色々考えてるうちに元に戻ったから、お前と同じ心因性のアレなんだろうけどさ、変な体質だよね僕らって」

不思議なことを起こしたとき一松兄さんから『ジャンル:十四松』って言われたことあるけど(猫化できる兄さんに言われましても!?って思った)
もしかしたらそれは『ジャンル:六つ子』の間違いかもしれない、そういえばこの人ぼくと同じくらい長い間釣り堀に潜ってたし、精神腐るとゾンビ化するし、手紙が自然と発火したし、内臓売った時にできた傷もいつの間にか無くなってるし、自意識ライジングだし

「どうしてそんなことになったの!?」
「教えない、碌でもない理由だから」

そう言ったチョロ松兄さん瞳は遠くを見てた
ぼくも空を見上げる……
いやいやいやいや、なんか雰囲気で誤魔化された感あるけど!気になるんですけど!!
頭の中がそれでいっぱいになる
もうバレバレだったと思うけどぼくが成長を止めていること一松兄さんに確信されてしまうんだって、この人がくるまでそのことが不安で、兄さんが生まれ変わるまでどっかに飛んでっちゃおうかなんて思ってたのに、今はチョロ松兄さんが何を願ったのか気になって飛んでなんていけない
チョロ松兄さん、ぼくがこうなる原因になった人をなんとなく察してるみたいだし、もしかしたら、この人も……なんて思ってしまう
話したら理解してくれるかもしれないなんて……期待してしまう
そういえばチョロ松兄さんは子どもの頃、一番計算高かった
幸いにもガチで喧嘩中のおそ松兄さん以外その餌食になったことなかったけど、もしかして今それに引っかかってるのかもしれない

「やっぱり兄さんロクデナシだよ」
「なんとでも言えよバカ五男」

二人して笑ってたらココアを三つもったトド松が現れて

「え?仲良く喧嘩してんの?こんな時に?」

なんて不思議そうに首を傾げてきた

「はい、熱いから気を付けてねーー」
「ありがとーー」
「ねえどうなってた?」

あの三人、と、含みを持たせて訊くチョロ松兄さんにトド松はんーと目を逸らせて苦笑い

「えっとね……一松兄さん達なんか三人でドラマみたいな感じになってたよ」

どういうことなの!?





尻切れトンボですみません
一松サイドはなんか長兄松がカッコイイこと言ってんだと思います

このあとのパターンだと

@六つ子が死ぬまで十四松は成長が止まったまま、今際のきわで一松に告白「生まれ変わったら恋をしてね」とか言う(一松は喋れない)一松の生まれ変わりと結ばれた後に一気に年老いて死ぬ、そっから一松の成長が止まって十四松の生まれ変わりと同じように結ばれるのループ(救えない)

A十四松の成長が止まった理由がぽろっとバレる(ここはチョロ松に活躍していただきたい)一松とエッチしながら少しずつ体が成長していく、10年分の十四松を一気に味わえた一松なのでした

お好みの方でご想像ください