資源の無駄とはまさにコレ
松野家の六つ子は両親の命令により年末に出来なかった大掃除を手分けしてやっていた。

猫が集まってどうしても汚れてしまう外の掃除を一松が、重い荷物を運ぶことの多い倉庫の掃除をカラ松が、台所と居間の掃除を母親と共に十四松が担当し、寒い水周りや窓掃除などは末っ子のトド松に押し付けられた。

残ったおそ松とチョロ松は自分達の部屋の掃除に精を出している(のはチョロ松だけでおそ松は五分に一度は脱線している)

少々苛々しながらも着々と掃除を進行しているチョロ松に、長男がボフォと息を吐き出す音が聞こえた。


「もう兄さんちょっとはマジメに……」

「なぁなぁ見てみろよチョロ松、俺こんなもん見つけちゃったよ」

「はい?」


口を押さえてプルプルと笑いを堪えているような長男に三男は怪訝な眼差しを向けたが、彼が手招きするので作業を中断し寄っていく。


「え?なにこれ」


おそ松の足元を見ると一冊のノートが置かれていた。

それには【十四松と!トド松の!交換ノート!!】と書かれていた。

なんというものを見つけ出してしまったのだこの長男。


「見ながらちょっと休憩しようぜ」

「……これは面白そうだけど見ちゃっていいのか?」

「いいんじゃない?兄弟だし」

「……そうだね、兄弟だし」


プライバシーの尊重よりも好奇心が勝り、チョロ松はおそ松に同意する。

普段は意味不明な十四松の言動にトド松がふわふわしたツッコミを入れているような末二人の弟だけれど、文面ではどんなやりとりをしているのか気になった。

二人並んで窓辺に背中を預け、少しワクワクしながらページを開く。


「うっわーー女子か!!中高時代に女子が書く連絡帳ってこんな感じだったわ!!」

「最初のページきらっきらしてるな……」

「交換ノートの約束事が書いてあるよ、まず“他の人には絶対見せないこと”だって、ごめん見ちゃってる」

「えっと次は“人の悪口を書かない”ってトド松大丈夫か?これ」

「あと“一週間以内に回す”……回すって二人しかいないけどな」

「あ、でも“テスト前と演劇部の公演前は遅れてもいい”って注釈が書いてある」

「これ学生時代のもんだったのか、あの二人がこんなんやってたとは気づかなかったわ」

「公演前トド松なんでか忙しそうにしてたもんな、演劇部でもないのに」

「一番お兄ちゃん子だった時期だし、演劇部に差し入れ持ってったり雑用手伝ったりしてたじゃん」

「ああ、本人は演劇部の女の子かわいいからって言ってたけどな……時の流れって残酷だよな」

「まあ今でも俺達がなにもしなければ反撃してこないから無害なんだけどなーー兄ちゃん寂しい」


などと言いながら次のページをめくる、最初は意外にも十四松からだった。


「えっとなになに“今日から交換ノートが始まるね!なにを書いていいかわかんないから、ぼくのことを紹介します”って……六つ子の弟に」

「十四松らしいと言えばらしいな“名前は十四松!おとこ!A型!5月24日生まれ!趣味は野球!特技は足がめっちゃ速い!好きなものは一松にーさん!!”って……え?」

「ものじゃないよな一松は」

「そういう問題なの?十四松って素直な方だと思ってたけど、人のことどう思ってるのかとかあんま言わないじゃん、だから新鮮だな」

「続きがあるぞ“にーさんが好きなのずっと秘密にしてたけど、これからトド松にはいっぱい話せるね!うれしい!トド松もえんりょしないでいっぱい書いてね”」


そう書かれた次のページには大きな野球帽とバットのシールが貼ってあったのが意味わからない、おそらく買ったはいいけど使い道がなかったシールを貼ってみたのだろう――なんてことはどうでもいい、問題はこのノートの意義だ。

この書き方だと、もしやただの交換ノートではなく十四松とトド松の恋愛ノートなのではないだろうか。


「……ねえ、もう見るのやめよう!?これ絶対見ちゃ駄目な奴だよ!!」

「とか言いながらページをめくるチョロ松氏、嫌いじゃないぜ」

「だってねえ……気になるでしょ?弟のコイバナとか」

「まぁなーー相手はわかりきってるけどなーー」

「ねぇーー」


と言って顔を見合わせる長男と三男、絵面はかわいいのだけど言っていることとやっていることが最低である。


「えっと次のページはトド松だな……うっわカラフル!」


十四松も一松の名前は紫で書いていたが、あとのことは黒のペンで書いてある、男子生徒としてはそれが普通で、トド松のように色分けしている方がおかしいのだが、あの末弟らしいといえばらしい。


「……重要?なとこはちゃんと太字で書いてるしライン引いてるし、こいつ授業ノートはこんなんじゃなかったのにな」

「兄さんに言われたくないと思うよ?いっつも僕のノート見てたじゃん」

「だってお前のノート見やすいんだもん」

「もんとか言うな!かわいくないから……もー」


なんて言いつつ褒められて満更ではなさそうな三男をニコニコみている長男、絵面はほのぼのしているのだけどやっていることは引き続き最低だった。


「まあそれより、読んでみようぜ」

「うん“やっほー兄さん、交換ノートなんて初めてだから何書いていいかわかんないよねぇ、十四松兄さん野球で忙しいのに僕と交換ノートするって言ってくれてありがとう!僕もこれからカラ松兄さんのことたくさん書いてくね”だって」

「やっぱりカラ松か」

「この時まだあの二組付き合ってなかったよね?ていうことは片想い時代の気持ちが書かれてたりするんじゃない?」

「うっわ、それ甘酸っぱいだろーー」


二人は微笑ましげにトド松の文面を見返した。

たったこれだけの文章なのに顔文字や手描きの絵文字がかかれていて賑やかだ。

今はスマートフォンでやりとりするのが主流の兄弟だけれども、こうやって交換ノートみたいなものがあってもいいなと六つ子大好き長男はひっそり思う。

同時にカラ松と一松も交換ノートをやさせたら面白そうだと思ったけれど、あの二人がカラ松語と一松語でやりとりすると想像しただけで肋骨何本あっても足りないなと、おそ松は想像を続けるのを断念する。

どうせ面倒くさくなった一松は途中から肉球押して「はい終わり」になるだろう、そんなもの十四松しか解読できないし、一生懸命解読しようとするカラ松に一松がほくそ笑みトド松が「あんまり兄さんからかわないでよ!」と怒って、一松が今度はトド松に構いだし十四松がちょっと寂しがる未来が見えるようだった。


「カラ松の名前だけキラキラのペンで書いてる所に末弟のあざとさを感じる、これ十四松じゃなかったら絶対かわいいと思ってるやつだ」

「読むの十四松しかいないんだけどな」

「ところでもう半分のページ庭で遊ぶ猫と一松と十四松の絵が描いてあるんだけど」

「こうやって五男のハートもがっちり掴んでいってるとこズルいよな」


と、トド松のあざとさに呆れたり感心したりしながらページを捲る。


「十四松テンション高いな“わー!ぼくと兄さんとニャンコだ!ありがとトド松!ぼくもトド松とカラ松兄さん描いたよ”って、アイツの絵は独特だよな下手じゃないけど」

「トド松なら喜んで“十四松兄さんかわいい”って言いそうだよな、ていうか次のページに書いてると思う、で“今日ね!学校で一松兄さんとすれ違ったんだけど兄さん気付かなかった”まあアイツ下向いて歩いてるから」

「気付いてても学校じゃ話しかけられなかったんじゃない?アイツ“俺と話してたら十四松まで暗い奴だと思われる”とか考えそうだし」

「六つ子はどう見ても関係者だし十四松を見て暗い奴だと思う奴いないと思うけどね」

「えっと“でも!昼休みに兄さんとこに行って一緒にお弁当食べた!”って、一松ってどこで昼メシ食ってるのか謎だったけど十四松が一緒だったんだなーー安心した」

「次のページ開くね“十四松兄さんの絵かわいいね”やっぱり言ってた……“一松兄さんとお昼食べたの?よかったね!ていうか一松兄さんがいつもどこでお弁当してるのか気になってたんだけど、どこなの?”ああ、一松の昼休みあのドライモンスターでさえ気にする案件だったんだ……」

「いいねぇ愛されてるねぇ一松……で“僕はカラ松兄さんと女の子たちと食べたよー!兄さんたら女の子にデレデレでムカついちゃった”俺は今お前にムカついてる……なんだよ!俺を誘えよ!!」

「“ムカついちゃった”の後に怒ってる顔文字書いてるのがまたムカつくな“やっぱりカラ松兄さんて女の子好きだよね”で顔文字書けないくらい落ち込んでるから許せるけど」

「カラ松はカラ松で女の子に囲まれてるトド松見て色々諦めてた部分あったんだろうな、無事くっついてよかったよアイツら」

「あと下の方に小っちゃく“今日のお弁当ならカラ松兄さんは肉団子とポテトサラダが好きみたい”ってメモが……作るのかよ」

「ページめくるぞ“一松兄さんのお昼食べる場所?えっとね兄さん達には内緒だよ?だって絶対来ちゃうもん……学校の裏の花壇近くの垣根の裏だよ”えー?俺が行ったら駄目なの?」

「邪魔されると思ったんじゃない?えっと“カラ松兄さんは女の子好きだよね”ってそこ同意しちゃうの!?トド松落ち込んじゃうよ」

「待て“でも大切なのはトド松の方じゃないかなー?”ってフォローしてる“お昼休みのあと兄さんがサボるって言うから、ぼくも一緒にいさせてもらった”だって」

「サボんなよ!あと“昼寝きもちよかった”って、あんな薄暗いとこですんなよ風邪ひくだろ」

「チョロ松やっさしー、えっとトド松の返事は“兄さんたち風邪大丈夫?”ってやっぱ風邪ひいてたよ馬鹿だなー“十四松兄さんの風邪が治るまでノートは暫く僕が書くね”うんうん」

「……ちょ!トド松!?“今日のカラ松兄さんランキング”ってなんだよ!?」

「一日目“3位:朝ごはん食べてたら自分が使った醤油を僕の方に渡してくれた”って、だからなに?それ嬉しいことなの?取ってって言って取ってくれたなら嬉しいだろうけどさ……いや、別にそれも特に嬉しくないか」

「“2位:部活が休みだったから一緒に帰れた”これカラ松が自主的にしてくれたことじゃないよな?あと“1位:兄さんがシャンプー忘れてたから僕のを貸した”って何が嬉しいの!?同じ匂いになるから!?わけわからん」

「ちゃんと下の方に“今日のお弁当、カラ松兄さんはウィンナーをおいしそうに食べてた”ってメモが、そりゃ肉が好きだからそうだろうよ、既出の情報だろ」

「二日目のカラ松ランキング“3位:一松兄さんと十四松兄さんの看病してたら僕の分もレモネード作ってくれた”って……だから!ささやかなんだよ!ついでじゃん!多分俺らも貰ってるわソレ!」

「ドライモンスターの思いのほか謙虚なとこを見てしまった……もっとドス黒いの期待してたのに、十四松との交換ノートだからか悪口NGだからか」

「“2位:買い出しの時に重たい方を持ってくれた”これはまぁ解る“1位:僕の名前を10回以上呼んでくれた”って数えてんのかよ、どんだけカラ松大好きだったんだコイツ」

「三日目“3位:夕ごはんの時に僕の方にソースを渡してくれた”ってオイ“2位:銭湯で隣でお湯に浸かれた”これはお前がいつも十四松と一緒にいるからだろ“1位:髪に付いたゴミを取ってくれた”って少女漫画かその下に括弧して“キスされるかと思ってドキドキした”ってだから少女漫画か」

「四日目は……“十四松兄さんの風邪治ったー!”ってカラ松ランキング三日で飽きてやがるし」

「どうでもいいような内容だったからじゃない?」

「“カラ松兄さんランキングやってみたけど、その日あったこと色々思い出せて楽しかったよ!十四松兄さんにもオススメ”ああどうしよう俺ちょっとトド松が可愛く思えてきた!今すぐギュッと抱きしめてやりたい」

「落ち着いておそ松兄さん!最近言われた辛辣ツッコミを思い出すんだ!!」

「けどアイツのツッコミ、チョロ松の百倍マイルドだしぃ」

「なんだとコラ!!」


と、喧嘩しそうになった長男と三男だったが、気を取り直して次のページを捲る。


「えっと“風邪治ったよ!看病ありがと!”ああ、あの頃はマトモに看病出来てたんだよなトド松……“僕も一松兄さんのランキングつけようと考えてみたんだけど、一松兄さんと一緒ならなんでも嬉しいから順位なんてつけられなかった”だって」

「これだよコレ、これがホンモノの天使!あざとモンスターに騙されちゃダメだよ兄さん」

「“三日ぶりにお風呂入ったら気持ちよかった!一松兄さんの背中洗ってあげたら喜んでくれたよーー”ああもう可愛い……そん時の五男のテンション想像したらめちゃ可愛い、髪の毛わしゃわしゃ撫でまわしたい」

「だからね、おそ松兄さんさっきからカラ松と一松に聞かれたら怒られるようなこと言わないで」

「だって可愛いんだもんよーお前だってそう思うだろ?」

「たしかに……っていうかいつの間にか十四松も色んな色のペンを使うようになってるし」

「でもやっぱり紫が多めだな、黄色は見にくいからやっぱりオレンジ使ってるけど」

「“一松兄さんの髪の毛乾かしてあげたよ、兄さんねこっ毛なのになんであんな寝癖付くんだろう?”それは朝梳かさないからだろ」

「“でも一松兄さんの寝癖カッケーよね!僕すっごい好き!!”だって、BE・TA・BO・REだな」

「何故アルファベットで言った?けどほんとだな」


今の十四松も一松を好きだが一松からも想われている余裕があるからか情けないところまで手離しで褒めたりはしない(貶した方が一松も喜ぶということもあるが)しかしこの頃の十四松は本当に一松が何をしても格好良く映っていたのかもしれない。


「恋は盲目って言うからねえ」


などと言いながら更にページを捲っていく。


「“カラ松兄さんにツッコミ入れ過ぎて喉潰れちゃったからYesNo枕買った”ってあれ会話用だったの?紙に書けばよくない!?」

「“イタイ発言をした時はNoでカッコイイ時はYesだよ”……時々アイツがカラ松にYes側を向けて枕持ってる時ってカラ松がカッコイイ時なのか?」

「十四松の返事も凄いよ“あの枕かわいいね!僕も一松兄さんに買ってあげようかなぁ?たまに話すの面倒くさそうだし”やめろ、アイツが持ったらホラーだ」

「そうだね、アイツは猫か十四松だっこしてればいいと思う“一松兄さんと一緒にねこのエサやりに行ったよ!二人きりで楽しかった!”……あの二人に高校時代からメンタル成長してないな」

「小学生メンタルの兄さんに言われたくないと思うよ、トド松の返事は“一松兄さんがこれ以上話さなくなったら寂しいから話かけてあげてよ”ってこれは本心なのかな?そのあとの“いいなぁ二人でおでかけ……でもカラ松兄さん私服イタイからな”ってのは本心ぽいけど」

「そのあと“でも部長さんから演劇部の買い出し頼まれたらしいから今度見張りとしてついてくんだよー”て続くな、部長もカラ松ひとりの買い出しじゃ不安だったんだろうな……」

「うん、そして“今日はカラ松兄さんハンバーグ美味しそうに食べてた”ってメモが……だからアイツの肉好き情報は既出だろ」

「情報だけ集めて料理はしないしなトド松、母さんの料理は世界一だよって褒めるから」

「そういうとこ上手いよね本当」


そしてまた次のページを捲る。


「“   一松兄さん好きなひといるって、今日カラ松兄さんと話してた”……え?“どうしたら告白できるか聞いてた”」

「うっわ、コレって」

「一松はカラ松に相談してたのかよ!俺にしろよ!!」

「兄さんにしたら言いふらされると思ったんじゃない?僕は恋愛事に芳しくないし、トド松には弱みを見せたくなかったろうし、その辺の信頼ならカラ松の方が勝ったんでしょ」

「“カラ松兄さんは、思い切りぶつかっていけばいい、玉砕したら胸を貸してやるって言ってなぐられてた”一松ヒデェ!せっかくマトモなアドバイスしてんのに」

「けどカラ松にされたらウザい気持ちは解かる」

「“どうしよう、ぼく一松兄さんの恋のおうえんできない”って十四松は健気か」

「“あきらめなきゃいけないのかな?”って、いけなくないよ!?一松の好きな奴お前だし」


と、何年も前の書き込みを読みながら熱くなる長男と三男、ここだけ見ると良い兄のようだけど、やってることはやっぱり最低。

トド松の返事の気になった二人はページを捲る。


「“そっか……つらいね”ああコイツも一松の好きな奴知らないのか“僕もカラ松兄さんに好きな人できたら応援できないと思うから、十四松兄さんができなくても仕方ないと思う”やっぱり十四松には優しいなあの末弟」

「“十四松兄さんが失恋したら僕が胸を貸してあげる”うん、カラ松を真似たか」

「絵文字も顔文字も使ってないとこに真剣みを感じる」

「十四松も“うん、ありがとうトド松、一松兄さんに恋人できてもすぐにはよろこべないけど、おめでとうって言えるようにがんばる”だって、健気だな」

「“トド松は「告白してみたら?」って言ってくれたけど、ぼくのせいで兄さんの決心が鈍っちゃったらダメだから言わない”か……なんで一松の告白が上手くいく前提で話が進んでるんだろうなコイツら」

「ブラコンだからじゃね?」

「“トド松はカラ松兄さんに告白する気はある?”おお最後に爆弾落としてったな核弾頭」


二人は逸る気持ちでページを捲った。


「“そっか、けど一松兄さんに彼女出来たらおそ松兄さんとか凄くからかってきそうじゃない?そんな時は僕のとこに避難しにきてね、聞きたくないだろうから”って俺のことなんだと思ってんだ」

「おそ松兄さんだと思ってんじゃない?えっと“カラ松兄さんへの告白かー想像はずっとしてるんだけど、実際はしないと思う”そうだな、カラ松から告白だったもんな」

「え?チョロ松そんなこと知ってんの?」

「カラ松が報告してきたんだよ、トド松がオーケーしてくれたって」

「だからなんで俺に教えてくれないのー?」

「さあ?デリカシーないからじゃない?」


チョロ松は軽く毒を吐きながらページを捲った。


「“兄さんへの告白どういうことソウゾウしてるの?”だって、これは他人のコイバナを聞いて一松の告白のことを頭から追い出そうとしてますな」

「だね、トド松の返事……うっわ長い“そうだなぁ、家で二人きりでテレビ見てる時に「好きだよ」って言ってみるの、んでカラ松兄さんがこっちを向いたら「このタレントさん面白いよねー」って誤魔化す。あとは一緒に買い物言ってる時に「すき」って言ってカラ松兄さんがこっちを見たら「すき焼き食べたいって言ったの」って誤魔化す。それか家でゴロゴロしてる時に「すき」って言いながら抱き付いて「隙ありー!」って脇こしょこしょして誤魔化す”って誤魔化してばっかだな!!」

「それで誤魔化されそうなカラ松だけど」

「でもさ、僕の記憶だとカラ松がトド松に告白してオッケーもらえたのって一松が十四松に告白してオッケーもらえた直後くらいだったと思うんだよ、だからもしかしたらもうすぐ両想いになるんじゃない?」

「そっか、うわなんかテンション上がるーー」

「今はイチャイチャされるのウザいけど、こうやって片想い時代の気持ちとか知っちゃうと祝福したくなるよねぇ」

「だな!おっし続き読もうぜーー」


そう、おそ松がページを捲ろうとした時だった。


「なにやってんの兄さん!!?」


障子がスパーン!と開いてエプロンをして頭に三角巾をして片手にバケツを持ったトド松が現れた。

なんだろう、兄が弟のものをこっそり勝手に見ているのに結局バレて怒らせるなんて、お決まりのパターンすぎてつまらない。


「僕だってこのパターンはもううんざりだよ!!」

「トド松?お前一階で掃除してたんじゃ」

「……水回りの掃除終わって、窓とサッシの掃除しようと外に出たら兄さん達の声が聞こえて……」


潔癖なトド松のことだから水回りはピカピカになったのだろうな、と明後日なことを考えながら、怒りなのか羞恥心なのかわなわな震える一番下の弟を見る長男三男。

普通の音量で話していたつもりだが窓が全開だったので外には声が漏れていたらしい。


(あ……)


ということは、外掃除をしている一松にも丸聞こえだったのではないだろうか、倉庫掃除をしているカラ松は解らないけれど聴覚は良いほうだから聞こえていたかもしれない。


(そのことはトド松気付いてないみたいだから黙っとこう)


そう心に決めた長男はにやにや笑いながらトド松を見た。


「いやぁ久しぶりに面白いもん見れたわーーやっぱうちの弟は可愛いね」

「あったりまえでしょ!?それよりなに勝手に僕と十四松兄さんのノートみるなんて……」


可愛いに対して当たり前だと言う六男にやはり可愛くないのではという気になってくる。

トド松はズカズカ二人に近付いてノートを乱暴に奪い取った。


「最低!!バカ!!シコ松!!!」


そしてそう吐き捨てた後。


「わぁーーん!!十四松にいさぁーーん!!」


と、一階に駆け出していった。

きっと十四松を連れてどこかへ出掛け気持ちを落ち着かせて帰ってくるつもりだろう。

残されたおそ松とチョロ松は部屋の中央に置かれたバケツと雑巾を見て――


「なぁ、もしかしたら俺らがアイツらの分まで掃除しなきゃいけない感じ?」

「もしかしなくても押し付けられたんだろうな」



しかし今回は自分達が悪いと諦めた二人は、大人しく掃除を再開させるのだった。





――蛇足――


「なぁ一松……」


倉庫掃除を終えたカラ松が庭の掃除は既に終わっている筈なのに、いまだ隅でうずくまって悶えている一松へ声を掛ける。


「なんだよクソ松、今忙しいんだよ」


案の定おそ松達の声が聞こえていた一松は今、十四松かわいさで頭が湯だってしまいそうだった。


「倉庫の掃除をしていたらブラザーたちがスチューデントだった頃のメモリー達の入った段ボールを見つけて」


何語だ。


「その中にコレが……」


そう言って差し出したのは【十四松と!トド松の!交換ノート!!その2】と【十四松と!トド松の!交換ノート!!その3】と書かれた青と紫のノートだった。

十四松とトド松はすっかり忘れていたが、彼らが高校時代に使っていたノートは一冊ではなかったらしい。



勿論ふたりともこの後は掃除どころではなく、途中で抜け出した十四松とトド松と共に暫く料理当番にさせられたのだった。







END


六つ子の交換ノートとか見てみたいです