オーマイブラザーの続き

13は嫌いな数字
みんな一松兄さんは何考えてるか解らないって言う。


だからって見捨てるわけでも、信頼してないわけでもないけど、何をしでかすか解らないって思ってる。

けどね、結構わかりやすいところもあるんすよ?


ずっと一緒だったからかな?なんとなく今楽しそうだな、とか機嫌イイなってわかる。

そういう時はそっとしておくけど、寂しい時や哀しい時や怒ってる時は僕は傍にいたいって思う。

部屋の隅に座って斜め下を見てる一松兄さんがね、顔を上げた時に笑顔の僕が映ればいいなって思うんだ。

でも最近そんなことが減った。

最近一松兄さんは凄く楽しそうで、いつも機嫌がイイから、僕はその視線の先にいなくてもよくなって……

嬉しい筈なのに……少しだけ胸がいたい……


「おい、クソ松」

「なんだ?マイブラザァア!!?」


僕は野球に行くつもりで廊下を歩いていたけど一松兄さんの声が聞こえて、部屋の中を覗き込んだ。

カラ松兄さんの口に何かを放り込んで、吐き出さないように押さえつけていた。


「うぐ……なんだこれ」


それを飲み込んだカラ松兄さんはもう涙目だ。


「どんな味だった?」

「どんな味って……その前に何を食べさせたのか教えてくれないか?」

「……どんぐりの団子」

「え?」

「食べれるんだよ?どんぐり」

「一松兄さん?それちゃんと調理した?」

「ちゃんと砕いて水混ぜて丸めた」

「「それ調理と言わない!」」


同じ部屋にいるらしいトド松がカラ松兄さんと一緒にツッコミを入れていた。

一松兄さんは殆ど表情を変えていなかったけど、僕にはなんだか楽しそうに見える。


「じゃあトド松がちゃんとした調理法調べてよ」

「なんで僕が……別にいいけど」

「クソ松とどんぐり拾ってくるからそれまでに調べといてね」

「え?」

「お、おい」

「なんだよ?暇だろ?」

「たしかに暇だが」

「ならいいじゃん」


カラ松兄さんが困ったような顔になった。

あれは弟の我儘を聞いてあげる時の顔、きっと一松兄さんに付き合おうと決めたんだろう。

トド松は呆れたような顔をしていたけど少し哀しそうに見える、きっと……今の僕も同じ顔をしてる。

僕はそれから三人に声を掛けずに外へ出た。


野球をすると言っても一人で素振りをしたり壁にボールをぶつけるだけ「どこかのチームに入ればいいのに」って一松兄さんが言ってたけど、その時の兄さんの顔が寂しそうだったから僕は首を横に振った。

そしたら一松兄さんがなんか安心したように「そっか」って言って笑ったから僕はそれから兄弟以外と練習もしてない、きっとチームに入っても馴染めないだろうし。

あ、でも僕がチームに馴染めなかったら一松兄さんはもっと安心するのかな?……でもそれ以上に悲しむと思うからやっぱり僕は一人でいい。

一松兄さんはよく素振りに付き合ってくれるし、カラ松兄さんやトド松だって時々一緒に野球をしてくれる。

ただ最近、一松兄さんがカラ松兄さんとトド松兄さんにばかり構うから三人と遊べなくなってるんだ。


おそ松兄さんが二人を構う理由を聞いたら、なんでもトド松から「ストレス溜まってるならカラ松兄さんだけじゃなくて僕でも発散したら」なんて言われたみたい。

一松兄さんがカラ松兄さんに攻撃するのは別にストレス解消でもないんだけど、トド松は一生懸命理由を考えてそうしたんだろうなって思う、あとはきっと一松兄さんに「やめて」は禁句だと思ってるからそう言ったんだろうな。

それから一松兄さんはカラ松兄さんとトド松の相手をするようになったんだって、トド松に構うとカラ松兄さんの反応が面白くて、カラ松兄さんに(暴力以外で)構うとトド松の反応が面白くて、つい遊んじゃうんだっておそ松兄さんと話してた。

ちょっとトド松が可哀想だけど、それで一松兄さんが二人と仲良くなってるなら別に悪い事じゃない。

一松兄さんは家の中が好きだし、昔からカラ松兄さんとトド松の関係が羨ましかったみたいだからその間に入れて楽しいんだろう。


「そっか、そういえば羨ましいって思わせちゃってたね……」


小さい時、僕と一松兄さんはいつも一緒にいた。

あとおそ松兄さんとチョロ松兄さん、カラ松兄さんとトド松に別れて行動することが多かった。

その頃から一松兄さんは僕ら以外の兄弟の関係に少しの憧れを抱いていたように思う、兄が弟を引っ張って、弟が兄に付いて行く、みたいな。

泣き虫な僕はいつも一松兄さんに慰めてもらってし、いっぱい面倒をかけてたけど、一松兄さんは頑張らなくても僕と一緒にいれて僕は頑張らなくても一松兄さんと一緒にいられた。

だからか、僕と一松兄さんが頑張ってカラ松兄さんに付いて回ってるトド松を見て「すごいなー」って言い合ったことは沢山あった。

あのとき僕はトド松を尊敬してたけど、ひょっとしたら一松兄さんはカラ松兄さんに憧れてたのかもしれない。

ちなみに、おそ松兄さんとチョロ松兄さんはちょっと別次元だったから自分達と比べたりはしなかったよ、僕も兄さんも……


「今ならあの二人と一緒にいられるんだよね、一松……兄さんは」


一万回くらい素振りを終えた頃には空は真っ暗になってた。

気付かなかった……そろそろ帰らなきゃ皆心配しちゃう、一松兄さんもきっと心配してくれてるだろう。

そう思って河川敷から道路に上がる、地上の光が眩しくて星は殆ど見えないけど、それでも輝いて見えるものがある。

もし僕らが星だとすれば地上の光に隠されてしまってる小さな淡い星、それか惑星の輪っかの中の一つに過ぎない、それでも六人一緒にいられたら満足だ。


月明りが帰り道を照らしてくれていた。

今夜は十五夜、十五って数は好き、僕の十四に一松兄さんの一を足した数字だから。

逆に十三は嫌い、僕の十四から一松兄さんの一を引いた数字だから。


前にトド松にそう話したら少し意地悪な顔をして「でも十四松兄さんの好きなジェイソンが来る日は十三日の金曜日だよ」って言われて、凄く困ったのを憶えてる。

ていうかトド松は僕の好きな映画も好きな登場人物もよく知ってるなって思う。

兄弟のことを良く見てくれてる……僕には特に優しくしてくれる唯一の弟、カラ松兄さんだって僕と歌ってくれたり、野球をしてくれたり、とにかく優しい。

あんな優しい兄弟にこんな感情もってちゃ駄目だよね。

こんな気持ちは特大のホームランみたいに、あの月まで飛ばしちゃおう!


「カキーーン!」


綺麗な十五夜の月に向かってバットを伸ばした。

濃い紫の夜空を照らす大きな光は僕のこの“嫉妬”なんていう穢い気持ちを綺麗に浄化してくれる。



家に帰るとトド松とカラ松兄さんがテーブルに座って、手作りっぽいクッキーを食べていた。

「あ、どんぐりクッキーにしたんだ」と言ったら「どうして解ったの?」って不思議そうな顔をされる。

僕は笑って誤魔化した。


「兄さんは先に夕ご飯食べてね」

「準備しとくから手洗いとうがいしてこい」


ああ、二人とも優しいな、やっぱり大好きだなって思う。

でも……


「十四松兄さん帰ってきたって一松兄さんに連絡しなきゃね」


トド松がその名前を口に出した時、そんなことも忘れてしまった――


「う……」

「ッ!?十四松!?」


カラ松兄さんの驚いた声が聞こえたけど、どんな顔かは視界が歪んで見えなかった。


「うわああああああああああああああああああああああん!!」

「十四松兄さん?どうしたの?」


トド松の戸惑った声が聞こえて、泣き止まなきゃって頭の中で思うのに体は止まってくれない。

このままだとトド松まで泣いちゃう、僕はお兄ちゃんなのに……


「なんでトド松が一松兄さんに連絡するのぉ!なんで三人でクッキー作ってるのぉお?なんで一松兄さん僕を誘ってくれないの?なんでトド松やカラ松兄さんとばっか一緒で……僕がいるのになんでぇ?僕じゃ駄目なの?なんで羨ましいなんて思うの?僕と一松だけの関係があるのにそれじゃ駄目なの?一松は頑張って付いてくる弟が欲しいの?僕はいらない、無理して兄と弟になんてならなくてもいい、一松と一緒ならなんでもいいのに、引っ張ってってくれなくていいんだ……優しくて僕の傍にいてくれる一松がいればいいのに、なんで駄目なの?そんなにカラ松がカッコイイ?トド松が可愛い?なんだよ!僕だってカラ松兄さんカッコイイしトド松は可愛いんだからね!一松兄さんより好きになっちゃうんだからねぇぇぇえ!うわああああああん!そんなの無理ぃぃぃいい!!」


自分でも何を言ってるのか解らないけど、かなり支離滅裂なことを叫んでる気がする。

トド松の膝の上に顔を埋めながら、カラ松兄さんに背中をぽんぽんと叩かれて、だんだんと正気に戻ってきた。

僕なんでこんなに泣いてるんだろう……


「違うよ、あのね十四松兄さん僕が一松兄さんに連絡入れようとしたのは、一松兄さんが帰りの遅い十四松兄さんを探しに行ってるからだよ」

「え?」


僕に釣られて涙声になってるトド松がそう説明してくれて、一瞬頭の中が真っ白になった。

一松兄さんが外出してるの?こんな夜に?僕の為に……?


「フッ……俺がかっこよくてトド松が可愛いか、一松が聞いたら嫉妬してしまいそうだな」


でも、一松より好きになれないなら大丈夫か――なんてトド松の膝から起き上がった僕の頭をカラ松兄さんが撫でた。


「なあ?一松」


そして僕とは違う方向を見て、ニヒル?に笑った。


「へ?」


僕もそっちを向くと、なんか顔を真っ赤に染めた一松兄さんが立ってたりして、横からトド松の「おかえりー」って声が聞こえてきたりした。

え?兄さん今帰ったの?その顔、ひょっとして今僕が泣きながら叫んだこと全部聞いてた?


「家の外まで聞こえてたから」


多分おそ松兄さん達にも聞こえてるよ、なんて報告いらなかった。


「うあぁあ!?」


急にとても恥ずかしくなって、袖で顔を隠そうとするけど野球のユニホームだから全部隠せない、見られてしまう。

ゆっくりと一松兄さんが近づいてきて逃げよう後ずさったけど駆け寄ってギュッと抱き締められてしまう。


「もう、携帯は携帯しといてって言ったじゃん、遅くなるのはいいけど出掛ける前に教えといてよ」

「は、はい……」

「今度遅くなる時は僕も誘って……野球には付き合えないけど素振りの重りとか、話し相手にはなる」

「……」


いいのかな?カラ松兄さんやトド松と遊びたいんじゃ?……と思って一松兄さんの顔を見上げると……


「……う」


なんか、すごく優しい顔をしている。

昔、泣いた僕を慰めた後みたいな顔にも似てるけど、それよりもずっと大人の顔で、僕はドキッとする。


「うん」

「おねがいね」

「……うん」


どうしよう、また泣いちゃいそうだ。


「それはそうと……」


一松兄さんのパーカーに顔を埋めて涙を堪えていると、すこし怒ったような声が聞こえた。


「クソ松、トド松、なに俺の十四松泣かせてんの?」

「「え!?こっちの所為!!」」


昼間聞いたみたいに、カラ松兄さんとトド松兄さんが一緒にツッコミいれてるのを聞いたけど、今の僕はそれが面白くて堪らなかった。

そうだ一松兄さん、今度は僕も一緒に二人と遊べばいいんだね、そしたら四人で一緒にいられるでしょ?


名案を思い付いた僕はなんだか気が抜けてしまって、お腹も空いたし汚れた服を着替えたかったけど、もう少しこの胸の中にいようと一松兄さんに体を預けて目を閉じた。







END






私の中の十四松と一松の扱いの差はなんなんだろう(笑)

いや、きっと十四松はシリアスなことも考えられる子だと思ったらこんなことになりました

一松の最優先順位はきっと君だから落ち込まないでほしいし、ひょっとしたらトド松も最優先は君かもだよ十四松

それにしても六つ子っていくつなんでしょう……たとえ年上だとしても十四松のことは養いたいです