術(前編)今さら一松事変ネタ


何度も繰り返し沸き上がるものは絶望でも後悔でもない
この気持ちを説明するのに切ないという言葉を使えても
切ないを説明するのにこの気持ちは使えない
そんな美しい言葉に当てはめるにはこの気持ちはどこか不適切だと感じる
何度も繰り返し押し寄せるのは失望でも反省でもない
ただただ雑然とした透明な風浪のように、静かに心をざわつかせる
嫉妬や羨望と一言では括れない何かがあった

「ぼくたち失恋ブラザーズだねぇ」
「ほんとに悲しいときって涙も出てこないんだねぇ」

なんて言っている二人は、富士山の山頂で夕日を見ていた。
トド松は一時的に家電を着信拒否してあるスマホをとりだし一度だけカシャリとその風景を撮る。
何故着信拒否をしているかというと、二人が現実逃避行中だからだ。


「カラ松兄さんがこの景色見たらトワイライトが目に染みるとか言うんだろうな……サングラスしてるくせに」
「一松にーさんは此処まで辿り着けるかわかんないね」

体力的には余裕はあっても他の登山客とのコミュニケーションに耐えきれないかもしれない、なんせすれ違う人がみな挨拶をして一言二言声をかけて来るものだから(だいたい内容は「双子ですか?」だ)十四松は疲れて俯いている振りをして乗りきるしかなかった。
一松は話し掛けられて無視をしてしまったことでも落ち込むタイプなので、せめて「あ、こんにちは」くらいは言えるようにならなければ……ちなみにトド松は十四松の分まで愛想よく対応していたので兄からやはり凄いと思われている。

「綺麗に撮れたーー」
「ほんと?見せて見せて」

いつもより少し元気がなかった十四松だったが、トド松の言葉に笑顔を作って寄ってきた。
痛々しいのはお互い様かと思いながらトド松が十四松へ画面を見せようとすると、いきなり電話が鳴ったので二人は驚いて呼出人の名前を見る。

「誰ー?聞いたことない名前」
「えっと……たしかハロワの受付にいた女の子……こんな時間になんだろ?」

この間みんなでハローワークへ行った時に番号を交換した娘で、よい求人があったら教えてくれる手筈にはなっているのだが、もうハロワも閉まる頃なのにな……まで考えた末弟はハッとした。

(番号交換したとこ兄さんに見られてる)

もしやあの兄たちがあの娘に頼んで連絡を入れてきた可能性もあるのだ。

「出ないの?」
「うん」

音を消して着信が止むのを待つ、念のためスタバァバイト時代の同僚二人と店長も着信拒否にしておこう、あと兄が知ってる友達は……名前だけだが、あつし、クソすけ、ふつう丸か、三人中二人が変な名前なので簡単に住所を特定される可能性があるし、口止めしとこう。

(うちの兄さん達が突撃してきたら病院送りにはしていいけど警察には突き出さないでね……と)

兄サイドにはイヤミやらハタ坊やらデカパン博士がいるので多分あつしの家やガールフレンド達も特定されるだろう、あと合コンを一緒にしたメンバーも特定されるし、囲碁教室やジムで仲良くなった人たちも……。
みんなマジごめんと思いながらトド松はスマホの電源を落とした。
今夜は富士山で一泊して明日から箱根と熱海と伊豆をローテーションで回る予定だ(なんせ現実逃避行だから)
家を抜け出す際、長男を殴った時の熱海のパンフレットが目についたからという短絡的な理由で選んだ場所だけれど鈍い兄弟たちは暫く気付きやしないだろう。
“カラ松と一松が付き合っていたことに今まで気付かなかった自分たちのように”
嗚呼なんかもう全てがイヤになってきた。
兄弟でも全てを把握しておく必要はないと思うし、なんでも報告しろと言われても意味がわからなかったのに
なにも知らされていなかったことが、なによりも自分が気付けなかったことがこんなにショックだなんて思わなかった。

「……十四松兄さん、いっそ樹海コースに変更する?」
「人がいっぱいいるとこ無理!」
「……」

いや、樹海には人はいっぱいいないのだが……十四松がそう言うならそうなんだろう、十四松にとってはな。

「案外みんなイイ人達かもよ〜」

ケラケラ笑うトド松に十四松は猫のような目になって、手袋をした手で口元を押さえる、少し意地悪だったかなと反省。
この十四松は明るい性格ではあるけどポジティブ思考とは違う、結構繊細で臆病な人間だ。
一松のネガティブ発言も一松へのネガティブ発言も肯定するきらいがあったから、それを今になって後悔しているのかもしれない。
カラ松のように一松を“信じて”いれば良かったし、殴られても蹴られてもポジティブに捉えられるような人間なら好きになってもらえていたかもしれない、十四松が暴力を振るわれることなんてプロレスか喧嘩の時くらいしかないけれど、いつも反撃しなければ良かった。

「一松兄さんが十四松兄さんを一方的に痛め付けてたら流石にボクも他の兄さん達も止めるよ」

十四松のネガティブな後悔を山小屋で聞いたトド松は苦笑しながら答える。

「一松兄さんを許すことでカラ松兄さんは理想の兄になれてたけど、十四松兄さんは違うでしょ?」

ただただ悲しいだけでしょ?

「そもそも一松兄さんドエムなんだから十四松兄さんはこれまで通りでいいと思う……注射されるとか自分の気持ちを暴露されるとか、精神的に追い詰められたり自分のペースを乱されるのは本気で駄目みたいだから、それ以外の方法で虐めてやれば喜ぶんじゃない?注射がイヤで素振りがオーケーなら、痛いより気持ち悪くなる方が好きなのかも?」
「あと縛られるのが好きなのかな?一松兄さん」
「さぁ……でも自分で自分を縛れるってことは多分縄抜けもできるでしょ?あ、首輪つけてみるとか?」

周りで寝ている他の登山客に迷惑でないよう小声で話す二人だったが、周りからすれば断片的に怖いワードが聞こえてきて気が気じゃない。

「そういうのじゃなくて、一緒に遊べることがいい……」
「じゃあ十四松兄さんが犬になっての散歩?あれは羞恥プレイになって良いのかな?」

トド松も自分の家の近所で自分と同じ顔をした成人男性ふたりが変態行為に耽っていても気にしないくらいには感覚が麻痺していた。

「うん……帰ったら誘ってみる、トド松もあんまり変わらなくていいよ、カラ松兄さんの可愛い弟でいても」
「ふふっ……あんまり可愛がってはくれてないけどね、カラ松兄さん」
「……?そうかな?」
「うん、一松兄さんや十四松兄さんみたいには許されていない……かと言ってチョロ松兄さんみたいにもなれないし」
「うん、そういえばそうだね……でも、トド松もこれまで通りでいいよ」
「……できるかな……一緒に釣り堀行って、イタイ格好にツッコミ入れて」
「ぼくもがんばるから」
「うん」

ほんの少し涙を浮かべて十四松は笑う、昔は泣き虫だった彼が笑うようになったのはどうしてだろう、十四松デビューと名付けられた前後に自分は何をしていたんだろうとトド松は思う。
トド松デビューは果たしてあったのか、だとしたら気付いてもらえたろうか、一番どんくさかった自分は今では一人で行動できるくらい、あの人の後ろを付いて回らなくて平気になった。
客観的に見てもただ仲の良い兄弟のように接している、だからもう、今の自分には好きでいる理由はない筈なのに、あの人が自分の前で様々な表情を見せてくるから。
短気だった彼がずっとカラ松ガールを待っていたり、怒りやすかった彼が寛大に許したり、かと思えば自分の世界から帰って来なかったり、駄々を捏ねていたり、美味しいものに目がなかったり、お洒落を楽しんでいたり、すぐ落ち込んだり、かと思ったら急に得意げになったり。
遊んでいるときの少年のような笑顔も、こちらの言うことが解らないときにする首を傾げる仕草も、こちらの思惑に気付いた時に光る鋭い瞳も、一人だけ違う走り方も、みんなに似た寝顔も、不機嫌な貧乏揺すりも、安心しきって緩んだ眉も、全てが好きで。
思い出すたび胸が締め付けられる、その痛みを捨てる為に思い出まで捨てなければいけないのなら、痛みに慣れるまでずっと持っていよう、大丈夫きっといつも通りにできる。
この旅から帰る頃には――


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「馬っ鹿じゃねーの?」

掌形の椅子に座って百点花丸の「馬っ鹿じゃねーの?」をくれたチョロ松に、床で寝転んでいたおそ松はにへらぁと笑った。
ぴきっと青筋を立てたチョロ松は兄のおでこを裸足の足で連打する。

「イテテ!きたねぇ、やめろよー」
「なにやってんだよクソ長男、弟イジメて楽しいんか?あぁん?」

二日ほど前、ちょっと行ってくるーーと、行き先も告げずに出ていった末二人の弟の身を案じていると、おそ松がことの経緯を話しだした。

「一松がカラ松に半裸で押し倒されてたとか、どうせ事故かギャグだろ?それを……」
「いやぁ、なんか面白い話ない?って振られたからには絶対すべれないじゃない?」
「すべるすべらないじゃなくてさぁ」

おそ松の目元を足で塞いでチョロ松は溜息を吐いた。
このクソ長男以外の四人とは恋愛話みたいなことをしたことがある、鈍い三男でもなんとなく四人の矢印の方向は解ってしまっていたから、おそ松なんて確信に近かったろう。

「なのに、なんで言っちゃうかなぁ……こいつは」
「やめてぇ〜眉間グリグリしないでぇ〜俺そういう趣味ないから」
「奇遇だね、僕もだよ」

これは趣味じゃなくて明確な殺意だから、なんて怖いことを言いながら足を振り上げたチョロ松、さっと横に転がって踵落としを回避することに成功したおそ松。

「あっぶねぇ……ちょっと怖いよお前」
「可愛い弟を泣かせやがる輩にお兄ちゃんは容赦しないのです」
「それなんか言ったおぼえある」
「……」

昔、兄弟の大事なものを壊して泣かせてしまったチョロ松がおそ松に言われた言葉だ。
絶対自分の味方だと思っていたおそ松にこう言われたのはショックだったが、この言葉のお陰で素直に謝れたし、以来おそ松のことは兄として信用していた。

「あーお前も松野ブラザーズボーイズだからなぁ」
「なんだよそれ長ぇよ、ブラザーズとボーイズどっちかにしろよ」
「どっちかだと意味なくない?」

松野兄弟か松野家の息子って意味になっちゃわない?と笑う兄は楽天的なのか何も考えていないのか、とにかく気に食わないチョロ松は椅子から立ち上がってスタスタと退室して行った。
トド松のスマホはGPSを切ってあるし知る限りの友達を当たってみたが誰も居場所を知らなかった。
二人の荷物を漁ればなにか解るのではないかと二階の六つ子部屋を開けると半泣きしている一松がカラ松に馬乗りになっているところだった。


「はぁ……」
「ち、違うぞ!これは」
「わかってる、どうせお前が何か十四松のこと言って泣かせて怒らせたんだろ?」

カラ松と一松の場合は少し珍しいけれど兄弟喧嘩の多い六つ子なら日常茶飯事の光景だ。
おそ松も「一見まぎらわしい光景に見えるよな」という笑い話として二人に話したのだろう、それをあの二人は勝手に……

「ガチで腹立ってきた」
「チョロ松?」
「?」

ゆらり影が揺らいでいるように見える兄弟へ、カラ松は戸惑い一松は我に返った。

「勝手に勘違いして勝手に逃げたアイツらが悪い」
「……」

押し入れを開け、十四松とトド松の荷物が入ったケースを取り出す。
松野ブラザーズボーイズ?上等じゃないか、可愛い兄や弟を悩ませる輩に容赦なんてしてやらないし、失恋しても慰めてやらない。
そもそも失恋なんてする筈がないのだ。

「おーい、勝手になにやってんだよ」

十四松とトド松の荷物をギラギラとした表情で漁りだしたカラ松と一松を見て、部屋の入り口に立ったおそ松が呆れた風に言ってくる。
ソファーの上で一松の猫を撫でていたチョロ松は猫ごとすくっと立ち上がりおそ松の横へ歩み寄った。

「二人の行き先の手掛かりがないか探してんだよ」
「へぇお前は?」
「見学?ってか触らせてくんなかった」

付き合う前から独占欲強いよねと、胸の中の猫に話しかけるチョロ松。

「あ、おそ松兄さんさっきはゴメン」

猫を抱っこしているのは精神を凪させるためだったのか、顔こそ見られないが素直に謝れた。

「俺も悪かったよ、まさかアイツらがあんな勘違いするなんて思わなくて」
「恋すると人は馬鹿になるって言うよね」

必死になっているカラ松と一松を見て、馬鹿にしたように、けれど慈しむように呟く。

「俺ら兄弟ずっと馬鹿だけどな」
「え?それ僕も入ってんの?」
「あったり前じゃん」
「やだなぁ……」

出来れば皆で抜け出したいんだけどと、呟いた言葉はまだ優しかったけれど、先が思いやられると疲れたように思った。
兄弟達の関係は根が深いから、きっとチャラになんてできないことで、これからが正念場で、そんなことをグルグルと頭の中で考えてしまう。

「ククッ真ん中は気苦労が絶えないなぁ」
「一番上なんだからもっと真面目に考えろよ我が家の現状」
「まぁなんとかなるさ」

と、おそ松が笑ったと同時にカラ松の「わかったぞ!」という叫びが上がった。

「なにがわかったんだ?」

最初のページに『一松兄さんハッピーバースデー』と描かれた十四松のスケッチブックを見て泣きそうになっていた(ちなみに猫の絵がぎっしり描いてあった)一松はカラ松の発言に身を乗り出した。

「トド松の服の中からもう季節外れだからと仕舞った筈のガウンやヒートテックがなくなっている、あと丁度リュックが入るくらいのスペースが空いている」
「そういえば十四松の服から長ズボン消えてた……手袋も」
「ということは、もしかして」
「あのドライモンスター……約束違うし……」

せめて富士山行くのは報告しなさいと言い聞かせていたのに、とチョロ松がむくれる。

「あ、俺のガウン無い、十四松が持ってったかな」
「なんでおそ松兄さんのを……?」
「しょうがないんじゃない?あの二人、カラ松と一松が付き合ってると思って逃げたんでしょ?十四松なりに気を使ったんだよ」
「……」
「……」
「おい、チョロ松……」
「「はぁ!?」」

変顔どころじゃない今にも爆発しそうな顔の二人に百点花丸の「はぁ!?」をもらう。

「どういうことだ?おそ松」
「説明してよ、おそ松兄さん」
「えー?なんで俺ぇ?俺だけどぉ〜チョロ松助けてー」
「情けない声出してんじゃねぇよ、あのなカラ松がいつか半裸で一松を押し倒してたって話をコイツがあの二人にしちゃったらしい」
「「はぁ!?」」
「そのショックでカラ松を好きなトド松は一松を好きな十四松と共に富士山へ……勢い乗って樹海とか行かないといいけど」

変なのに乗り移られたら大変……等と思っているとカラ松と一松がピシャリと固まった。

「トド松が……オレを?」
「まさか十四松がおれを好きなんて、もうちょっとマシな嘘吐きなよ」
「そうだぞチョロ松、仮におそ松の話を聞いて出ていったとしたってそれは……」
「兄弟の中にホモがいるなんて気持ち悪くて出てっただけでしょ?」

その言葉にチョロ松はまたイラッとする、そしてもういいやどうせ本人にはバレてるんだからと腹を括った。

「兄弟でホモが気持ち悪いと思うような奴らだったら僕の恋愛話あんな親身に聞いてくれるわけないでしょ……」
「……チョロ松?」
「周り見てみなよ、十四松とトド松の荷物……黄色とピンク以外の色がちらほら見えるでしょ」

十四松が補色なんて意識するわけない、トド松が差し色にするならもっと可愛いものを選ぶだろう。

「アイツら僕に好きな人の色を持たせるの好きだから自分たちもそうなんじゃない?」
「……チョロ松お前も言うねぇ」

ニヤニヤ嬉しそうなおそ松を放って、チョロ松はカラ松を真っ直ぐ見下げ訊ねる。

「どうすんの?あの二人ほっといても帰ってくると思うけど」
「いや……行く、待つのは性に合わないからな」
「それでこそカラ松、すぐ支度するからイヤミに車借りてきて」
「ああ」

と、言うとカラ松は駆け出して行った。
チョロ松は本棚から熱海のパンフレットと地図を何冊か取りだし袋へ入れると、二人分のボストンバッグに着替え等を詰め込みだした。

「え?みんなで探し行くんじゃないの?」
「アイツら帰ってくるかも知れないから兄さん達は待っててよ、僕はナビ係と連絡係としてカラ松に付いてくけれど」

あと、いまいち自信を持ててない一松に発破掛けてやっといて、とチョロ松は言う。

「お、おれは……」
「もし十四松がお前を好きじゃなかったとしても誤解されたままはイヤでしょ」
「……」

当たり前だ。
たしかにカラ松は好きだがそれは兄弟としての親愛の情、それを十四松も解っていた筈なのに勘違いをされた。
しかも、いくら長男の言ったことだからって十四松本人はその場面を見たわけでもないし一松もなにも言っていないのに、勝手に信じ込んでしまったのだ。
失礼だろう、いつも他人の気持ちをネガティブに捉えている一松が言うのもなんだが被害妄想過ぎるだろう、いくらマゾでも好きな相手にそんなことをされて平気な筈はない。

「チョロ松兄さん」

一松は低い声で一つ上の兄の名を呼び、心の中でもう一つ上の兄で同志でもある相手の名も呼んだ。
それが信じてくれているってことになるかは解らないけれど当たり前のように一松が十四松と一番一緒にいて、十四松のことなら一松に聞けばいいと思ってくれている人達を裏切らない。

「アイツら見付けたらちゃんと連れて帰って来てよ、アイツら帰ってきたらちゃんとこの家に繋ぎ止めて待っとくから」

信じてほしいという願いも込めて、睨み上げるようにチョロ松を見ると大きく頷いてくれた。

「了解、きっと僕らが見付け出すよりコッチに帰ってくる方が可能性高いから、任せたよ」
「うん」
「ねぇねぇチョロ松ぅさっきからお前の大好きなおそ松兄さん蚊帳の外にしてんだけど?俺も付いてったら駄目なの?」
「いや……おそ松兄さんが残っててくれないと場合によってはチョロ松兄さんもトド松達と一緒に逃げちゃいそう」
「逃げねえよ!一松ひとりにするとか十四松がガチギレするわ!!」
「そっか、俺にはそんな意義が……」
「なぁに納得しかけてんだよ!!みんなが此処に戻ってくんのに帰巣本能以上の意味ねえから!!」
「帰巣本能って」
「アハハ!なんだろ、すっげぇ安心する」

泥酔したお前が家に帰ってくんのも帰巣本能だもんな、下手に家族の絆とか言われるよりも信用できるわ。
なんて、酷いこと言いながら鼻の下をこする長男に、二人も案外安心してしまう。

「イヤミから車と軍資金奪ってきた!!準備出来てるか!!?」

すると窓の外から次男の叫び声が聞こえてくる、ご近所迷惑な上に内容が酷い。

「車奪った!??借りたじゃなくて!!?」
「軍資金て……おそ松兄さんみたいなことするよねアイツ……」
「ふはは!見境なくなってるなぁカラ松も」

三者三様のリアクションをとりながらも、気持ちは一つだ。

(((よくやったカラ松!!)))

このとき六つ子の中の誰も、十年経ってもこのことでイヤミに嫌味を言われ続けることになるとは思わなかったという。





【続く】
次回はカラトドというか次男のターン予定