ユア*ポエトリー*リピート


カラ松兄さんが一番初めにくれたものはピンク色の石鹸だった。

と言ってもカラ松兄さんが買ってくれたんじゃなくて、お中元の箱に入っていたのを取り出して僕に寄越したんだけど

『ほら、これで身体洗うといい匂いがするぞ』石鹸に鼻を近付けて匂いを嗅いだあとポイって投げてきた、ポイって。

きっと風呂ぎらいの僕が少しでもお風呂に入ろうと思うようにってことだけど、あの頃の僕にはカラ松兄さんが兄弟の中で僕だけにくれた物っていうのが重要だったんだ。

それから僕は毎日お風呂に入るようになって、石鹸がなくなる頃には習慣になった……まぁ元々お風呂に入るには入っていたんだけどさ、それが苦にならなくなくなったの、いつの間にか。

その石鹸自体は消えて無くなってしまったけど石鹸を包んでいた紙はタンスの中の僕の引き出しの奥の宝箱に仕舞ってるよ、洗濯物を自分で収納するようになってからだから宝箱は誰にも見られてない。

宝箱の底にはビー玉が敷き詰められてるんだけど他にもカラ松兄さんが運動会の徒競走で三等をとったときに貰ったリボンとか(ちなみに一等二等はおそ松兄さんとチョロ松兄さんだった)

僕が突き指した時にカラ松兄さんがハンカチで作ってくれた青い包帯とか(勿論きれいに洗濯済み)

カラ松兄さんがギターにハマって時に録音したテープとか(もう聴く器械はないけど)

カラ松兄さんが誕生日にくれたカードとか(僕以外の兄弟にも同じものをあげてたけど)

そんな物たちでいっぱいに溢れてた。


……ここまで聞いたら察しの良い子は気付くよね?っていうかどんだけ鈍感でも気付くと思う。

そう、僕はカラ松兄さんが好きなんだ。

血の繋がった実の兄、それも同じ顔の、僕が生まれた時からずっと其処にいた兄さんのことを好きだった。

これが純粋な兄弟愛や親愛ならいいんだけど、多分きっと恋愛感情を抱いてる、他に同じ顔が四人もいるのに一人だけ特別に(勿論他の兄弟だって好きだけど)カラ松兄さんを想ってる。

想ってるだけじゃなくて、触りたいとか、あわよくば触られたいとか…………そういう知識がついてからは抱いて欲しいとまで思うようになった。

ねーなんで抱かれる方なんだよって感じでしょ?

でもさぁ僕これで結構お兄さんっ子だったみたいで、そりゃ兄弟で取っ組み合いの喧嘩とかするけどそれ以外でカラ松兄さんに痛い思いしてほしくないしカラ松兄さんに僕の体で気持ちよくなってもらいたいから……ていうか僕おかしいのかな?たとえ傷付いてもカラ松兄さんに付けられた傷ならきっと愛しいと思うんだよ。

まぁカラ松兄さんが僕を抱いてくれることなんて一生ないんだけどさ、流石に自分でもこれはマズイと思って女の子と遊ぶようになった。

それでも頭の片隅にはいつもあの無駄にキリリとした瞳があって、その所為で女の子とは全然伸展しないし、いくら可愛い可愛いって持て囃されても、周りを見れば僕みたいな作り物の可愛いじゃなくて本当の可愛さをもった女の子がいて、嗚呼カラ松兄さんはこんな子と付き合いたいだろうなーって子もいてさ。

なんかもうね、自分に自信が持てなくなっちゃった。

他のことなら兎も角カラ松兄さんに関しては全然ダメだなって凹んじゃってね、十四松兄さんにもだいぶ心配かけたなあ。

せめて兄弟としてもっと好きになってもらおうと僕も努力したんだよ?

これからは料理男子がモテるから、なんて言って料理練習して、カラ松兄さんに試食してもらったり……

あっ!ちゃんとある程度作れるようになってから試食してもらったよ?最初の頃は失敗した料理を食べてお腹壊したりして大変だった。

お陰でカラ松兄さん好みのごはん作れるようになったっていうか僕らの味覚ほぼ一緒だから自分好みに作れば良いだけの話なんだけど、カラ松兄さんが試食して美味しいって言ってくれるのは嬉しかった。

でも僕がだいたい料理作れるようになったら「いらない」って言われたんだ。

「女の子に食べてもらう為に練習したんだろ」「もう充分上手になったって」「だから俺はもういらない」って……僕はカラ松兄さんに食べてもらいたくて作ってたのに、こんなことなら女の子にモテる為なんて言わなきゃよかった。

……でもね、一応練習付き合ってくれた御礼にカラ松兄さんにブレスレット買ったんだ。

安物なんだけど実はペアになってて……もう片方は宝箱の中に突っ込んであるよ、見られたら困るし。

青とピンクの石が付いてて僕とカラ松兄さんみたいだったから、それにしたの、カラ松兄さんはゴツいアクセサリーが好きだし、もっとシャープな感じのが似合うと思うんだけど、つい……気持ち悪いよね?ごめん。

この際だから白状しちゃうとさ、僕がピンクの服とか小物を選ぶようになったのってカラ松兄さんから最初に貰ったものがピンクの石鹸だったからなんだよ。

そうじゃなきゃなかなか男子が手を出さない色でしょ?初めてピンクの物を買った時はドキドキしたもん。

兄さん達は似合うって言ってくれたんだよ、ああそういえばカラ松兄さんの感想だけ遮っちゃって聞いてない、多分似合わないなんて言わないだろうけど今更聞けないよ。


え?可愛いって言ってくれるって?ありがとう、そうだねカラ松兄さん優しいもん。



うん……それでさ、トト子ちゃんにお願いがあるんだけど……


「このブレスレット、トト子ちゃんからカラ松兄さんにあげてくれないかな」

「え?なんで?」


ずっと僕の話をうんうんと聞いてくれていたトト子ちゃんはまあるい大きな瞳を更に見開いて僕の顔を真っ直ぐ見た。

こんな話をした後なのに全然引いた様子のないトト子ちゃんは本当にいい子だ。

僕なんかより、ずっとカラ松兄さんに合ってると思う、まぁカラ松兄さんには勿体ないけど……


「その方がカラ松兄さんも喜ぶから」

「……でも、トド松くんがお礼をしたくて買ったんでしょ?私にはカラ松くんに何かあげる理由はないし」

「トト子ちゃんはたまたま景品で当たったけどいらないからとか適当なこと言ってあげればいいんだよ」

「そんなこと」

「嘘吐いてもらわなきゃいけないのは申し訳ないけど、僕が頼んだ嘘だもんトト子ちゃんは悪くないよ?お願い、僕カラ松兄さんに喜んでもらいたいんだ」

「トド松くんがあげたって喜ぶと思うよ?」


トト子ちゃんの眉がハの字に下がってしまった。

ゴメンね、こんな可愛い子を困らせちゃって、僕ホント最低……他人のこと言えないくらい痛いよね。


「トト子ちゃん、僕ね、カラ松兄さんが結ばれるならトト子ちゃんがいいなって思ってるんだ」

「え?」

「勿論、トト子ちゃんがカラ松兄さんを好きならの話だけど」


可愛い可愛い、僕らの大好きな女の子。

あんなニートじゃなくてちゃんと仕事してる人がいいんだって解ってるんだけど、どうしても言いたかった。


「弟の僕が言うのもなんだけどカラ松兄さんは本当にいい奴だよ、格好つけだしセンスないし言動は痛いけどさ、顔は僕らの中でもキリッとしてて男らしいし、身体も鍛えてるから逞しいし」


たまに直視できないくらい格好よく見えて、此方の顔色が見られないサングラスに感謝したりもする。


「困った兄だけどなんだかんだ言って面倒見がよくて、家族のことよく見てくれてるし、それに口の悪い僕らを許してくれるくらい器がでかくて、格好つけてるのもカラ松兄さんが努力してる証拠だし、センス悪いのも……アレでセンスが良かったらカッコ良すぎて困っちゃうじゃない、言動の痛々しさだって慣れれば可愛いし」

「デレデレね、トド松くん」

「だって本人には口が裂けても言えないもん」


よかったトト子ちゃんが笑ってくれてる。

トト子ちゃんもカラ松兄さんの魅力解ってくれたかな?こんな僕でも気付くくらいだからトト子ちゃんなら絶対気付いてくれるよね。


「カラ松兄さん……カラ松は、僕の大切で大好きな人だから……世界で一番幸せになってもらいたいんだ……」

「……」


だからお願い、ね?

そう言って半ば強引にブレスレットの入った箱を押し付けると僕は逃げるようにトト子ちゃんの家から飛び出した。

こんなとこ誰かに見られたらスキャンダルだなぁ、カラ松兄さんに見られたらいくら僕でもボコボコにされちゃうかも。

それでカラ松兄さんを嫌いになれるなら幾らでも殴られるのに、きっと無理なんだろうなぁ――




69 69 69 69 69 69




「行っちゃった……」


トト子は掌の上に置かれた箱を見詰めて溜息を吐いた。

トド松に渡す気がない以上自分が渡さなければ一生カラ松の手に渡ることはない、そんなのはあんまりだ。

これは匿名でカラ松宛に送ることにしよう、彼ならそれで充分喜ぶ筈だし、身に付けてくれるだろう。

何処の誰か解らない人から貰ったものを身に付けるカラ松を見てトド松は複雑かもしれないが自業自得だ。


「……コレはどうしようかな」


そう言いながらトト子はテーブルに置かれた花瓶を持ち上げた。

その下から現れたのはボイスレコーダーだ。

トト子以外の者が入室すると自動で作動するようになっているソレは室内の音なら全て拾い上げる優れもの。

何故こんなものがあるかと言うと、アイドルになるのならばコレくらい自衛しなさいという父親の指示だ。

何かあった時に裁判で証拠として提出できるように、具体的に言えば襲われそうになって相手に危害を加えても正当防衛にできるように、トト子はいつもボイスレコーダーは持ち歩いていた。


「……」


暫く悩んだ末、いつもは消してしまうデータをパソコンに保存しておくことにした。

いつの日か六つ子の役に立つかもしれない、例えばカラ松が兄弟から酷い扱いを受けて拗ねてしまっている時に聞けば元気が出る、多分。


とりあえずチョロ松に言ってみよう。

タンスの中が綺麗に片付いてる人が好きだと、そうすれば彼は兄弟達の分まで掃除くらいしてしまいそうだ。

宝箱が見付かった後で、カラ松トド松の関係がどう変わるか……それによって録音データを本当に使っていいものか決まる。



トト子はデータを移したディスクを机の中に保管すると、アイドルとしてのデビューソングの練習を始めた。





END


最後までお読み頂きありがとうございます

カラ松の出番なくてすみません、どうせカラ松もトド松のこと大好きです

ちなみに1話のちょっと前って設定です