ディア*ポエトリー*リピート
その日、松野家に一通の小包が届いた。

宛名の字を見ると若い女の子からのようだった。

そして宛名に書かれていたのは俺のすぐ下の弟の名前。


「見てくれ十四松、トド松!これは間違いなくカラ松ガールからの贈り物だ!ついに俺の時代が到来したんだ!」

「はいはい」

「アハハ!きれー」


いつものウザったい口調も控え目に、ハイテンションで喜びを表しているからかトド松も呆れるだけで辛辣なことは言わない、十四松はカラ松の持ったブレスレットをまじまじと見詰めて褒めていた。

まぁ兄弟の誰かが女の子と仲良くなると全力で妬み全力で邪魔をする俺やチョロ松ではなく、下手なこと言うと全力で物理攻撃を仕掛けてくる一松でもなく、十四松やトド松に見せびらかす気持ちは解る。

末二人の弟は兄弟が交遊関係を広げることに比較的寛大だ……喜ばしいとも思っていそうだからカラ松も自慢が出来るのだろう、そんな次男を見て一松は舌打ちしたが今攻撃するとカラ松が持つプレゼントまで壊してしまうと我慢している。

あの小包を開けた時、十四松は素直に「すげーすげー」と目を輝かせ、トド松は一瞬驚いた表情をした後に苦笑いを溢した。

あの表情はなんだったんだろう、妙な引っかかりを覚えて首をかしげているところで玄関を開ける音と「ただいまー」という二つ下の弟の声がした。


「おかえり」

「ただいまおそ松兄さん、なんの騒ぎ?」


どうせ下らないことだろうけど、と言ってカラ松たちが騒いでいるのを見詰めた。

落ち着いてきたカラ松がまた気障なことを言い始めてトド松からツッコミを受けているのが見える、血飛沫が飛散っていないだけマシだ。


「ああ、なんでもカラ松に匿名の女の子から贈り物が届いたとか」

「なにそれ自演?」

「それだったらあんな喜ばないだろ」


あれが演技だったら兄としてちょっと恐いぞ。

するとチョロ松は「じゃあ嫌がらせか?」なんて失礼なこと言いだした、そりゃまあ面白くないだろうな、俺もだよ。


「なあカラ松ー?それ女の子からとは限らないんじゃないのー?」


だからちょっとした意地悪みたいに、声をかければ気障と辛辣と笑顔の応酬がピタリと止まる。


「どういう意味だ?」

「だから、女の子じゃなくてどっかのオカマって可能性もありえるじゃん」

「あ、そっちの方がありえそー」


俺のからかいを含んだ言葉にチョロ松が乗ってきた。

カラ松は普通の格好をして黙っていればそこそこカッコイイのだから、本性をしらない女の子に片思いされていたって可笑しくはないけど、こうでも言ってやらないと悔しくてしょうがない。


「どうする?それ送ってきたのオカマだったら?」


ニヤニヤ笑いながらカラ松に近付くと、傍にいたトド松が離れ十四松の後ろへ回った。

身振り手振りで動かしていた手はトド松がいなくなったことで寄り辺を無くした船のように宙で揺れている。


「なに言ってんだよ、可愛い女の子に決まってるだろ」

「なんでそんなこと解るんだよーー可愛い女の子だったら直接渡しにくるだろ?」

「う……それは……きっと奥ゆかしい子なんだよ」

「ていうかさ、やっぱなんかの罠なんじゃない?お前昔はクソガキだったから恨み買ってるし」


カラ松もチョロ松にクソガキだったとか言われたくないだろうな、でも確かに女を使って復讐を考えるなら一番女に騙されそうなコイツを狙いそうだ。

本人も思うところがあるのかグッと押し黙ってしまった。

自信過剰なふりをしているが本当は自分が女から好かれるタイプではないと自覚があるんだろうな、そりゃあ普通の格好をして黙っていればそこそこだとはいっても、カラ松が外で普通の格好をして黙っていることなんて滅多にないことだから期待は薄い。


「違うよ、どんな奴かわからないけどソイツ本当にカラ松兄さんが好きなんだと思うよ」

「え?」


すると十四松が立ち上がってそんなことを言った。

その拍子に十四松の手がトド松に当たってしまい「痛いよ兄さん」「あ、ごめん」という遣り取りをして、トド松は今度は一松の傍へ避難する。

障害物の無くなった十四松は体を大きく動かしながら喋り続けた。


「だってそのブレスレットについてる石、カラ松兄さんがよく着てる服と同じ色してる、カラ松兄さんを嫌いな奴だったらそこまで気が回らないし騙す為だったら適当に選ぶでしょ?」


だから違うよ!

と、普段あまり長く喋らない十四松が言う、たどたどしいがちゃんとした説明になっている。

カラ松へのフォローなんだろうか、たしかに折角喜んでいるところに水を差すようなことを言ってしまったのは俺達が悪かったかもしれない。

少し納得いかないがチョロ松と目くばせし、今回は十四松の気持ちを汲んでやることにした。


「そうかもしれないな」

「ほら、やっぱりそうだろ」

「ふーん……じゃあ着けるの?お前にはちょっと上品すぎる気がするけど」


一見銀色の細いバングルだが近くで見ると雪の結晶が彫られていて小さな青い石が埋め込まれていた。

普段カラ松が好むのはもっと……なんていうか……ゴツい感じだ。


「お前こういうのに合う服持ってないだろ」

「いらないなら母さんにあげちゃえば?」


そう言えばカラ松は怪訝そうに眉を寄せる、きっとこの後「くれた子に悪い」とか「俺なら着けこなせる」とか言って怒るんだろうな。

それに謝ってこの話は終了になると思ってたら、思わぬところから新たな爆弾が落とされた。


「か、母さんにあげるんだったら僕にちょうだい!?」

「え?」


おもむろに一松の後ろから立ち上がったトド松がカラ松の所へやって来て、掌を翳す。


「僕丁度こういうの欲しかったんだ。カラ松兄さんより僕の方が着けこなせるよ」

「へ?……でもなトド松、これは……」

「おねがい!!」


食べ物以外でカラ松の物を欲しがることのないトド松のお願いにカラ松が揺れているのが解った。

見ず知らずの人から貰ったものだし、自分好みのものではない、末の弟がこんなに欲しているのだから譲るべきではないかと優しい兄は思ってしまったのだろう。

それでなくてもカラ松はトド松に甘い、本人は隠してるつもりだがコイツは昔からトド松が可愛くて仕方がないんだ。


「わかった……大事にしろよ?」

「うん、ありがとう!」


そう言ってトド松の掌の上にブレスレッドを置くカラ松に、トド松は満面の笑みで礼を言った。

ちょっと目元が赤くなっているがそんなに嬉しいんだろうか、礼を言われた方のカラ松は盛大に照れていて気付いていない。


「なあトド松、それ気に入ったんなら今から俺と……」

「じゃあ僕ちょっと出かけて来るねー」


出掛けないかと誘おうとしたカラ松からあっさりと離れて、トド松は部屋から出て行ってしまった。

ぽかんとしたあと「フッ」と笑って「まったく忙しない奴だ」的な表情をしながら遠くを見詰めだしたカラ松。

それにムカついたのか一松が殴りかかっているが、いつもよりも打撃音が生々しい……もしや本気で殴ってないか?(ていうかいつもはアレで手加減していたのか)


「あーやば、俺やばいこと言っちゃった」


隣から心底後悔したような声が聞こえソチラを見るとチョロ松が頭を抱え大きな溜息を吐いていた。


「どうした?」

「いや、だからさっきカラ松にあのブレスレッド送ってきたのオカマじゃないかとか罠じゃないかとか……あー胸が痛くなってきた……」

「ん?」


兄弟同士でからかったり脅したりするのなんて日常茶飯事なのになに今更胸を痛めることがあるんだろうか?

聞いてみようとする前に十四松がチョロ松の膝元に仰向けスライディングしてきた為、タイミングを逃してしまった。


その後、ねだって譲ってもらったというのにトド松がそのブレスレッドをしているところを見ることはなかったし、日々色んな事件があり過ぎて(ぐーたらしていたが)あのブレスレッドが話題に上がることはなかった。




69 69 69 69 69 69




ある日の夕方、アイドルの顔が印刷された紙袋を隠すように抱えて帰って来たチョロ松は帰って早々、六人部屋に直行し、なにやらタンスの中身を全部出し始めた。


「なにやってんだ?チョロ松」

「見てわかんない?タンスの整理だよ兄さん」


入口で扉に手をかけながらチョロ松の背中に問いかけるとそんな答えが返ってくる。


「だからなんで急にそんなこと初めてんだ?」


まだ衣替えの時期でもないだろうと聞けば、チョロ松は出した衣類を丁寧に畳みながら「実はさっき偶然トト子ちゃんと会ってさ」なんて告げてきたじゃないか。


「お前抜け駆けか!」

「違うよ偶然会ったって言ったじゃない!」


胸倉を掴むとチョロ松は大声で弁解する、その声に驚いたのか他の兄弟も部屋にぞろぞろと集まってきた。


「何やってんだ?」

「わーどうしたの洋服ぜんぶ出しちゃって、まさか家出?」

「……」

「おい、どういうことだ?」


上からカラ松、トド松、十四松、一松の台詞だ。

十四松は無言でショックを受けているようで、一松はそれを見てチョロ松へ睨みをきかせる。


「違うって!職もないのに家出なんてするわけないだろ!?」


職があったら家出するのかよ!と思いながらも俺は弟たちの疑問に答えるべく声を出した。


「実はさっきチョロ松がトト子ちゃんと会ったんだって」

「抜け駆けじゃないからな!偶然だからな!!」


トト子ちゃんの名前が出た瞬間十四松以外の顔が険呑になったが、すかさずチョロ松が弁解した。


「本当偶然会って、近況報告したくらいだよ」

「本当に?」

「うんそう、お互い好きなアイドルの話をしたり」

「……」


幼馴染の女の子にアイドルの話できる俺の弟すげえ、いやトト子ちゃんもアイドルに憧れてたりするから大丈夫なのか?


「そっからトト子ちゃんの好みのタイプの話になったんだよ」

「それで?」

「トト子ちゃん長打者?短打者?」

「野球じゃないよ十四松兄さん」

「……」


うちの弟のトト子ちゃんへ対する食い付きすげえ、ま、俺も気になるところだけど……


「好みのタイプは人目につかない所もキチンとしてる人だって、たとえばタンスの中とか綺麗だとしっかりしてるなって好感もてるらしい」

「……」

「それでタンスの整理を……お前も単純だな」

「あっおそ松兄さんもタンスを開け始めた!」


楽しそうに実況するな十四松、お前も片付けろ、一松もだ。

センスに若干問題をかかえているとはいえ服装に気を使っているカラ松と、お洒落好きなトド松のタンスはまぁ綺麗だろうけどお前らは絶対タンスの中カオス空間だろ、パンドラの箱みてえになってるだろ(そう思うと怖いな)


「おい全員タンスの中整理するぞ、これはお兄ちゃん命令だ」

「えー?」

「めんどくさい」

「僕のタンスはちゃんと片付いてるから」

「俺のも」

「お前らトト子ちゃんの好みになりたくねえのか!!」


六つ子が昔っから大好きなトト子ちゃんが言ったことで長男の俺と三男のチョロ松が実行しているなら、他の四人も実行すべきだ。


「そんなにイヤなら俺が代わりにやってやるよ」

「ちょ!やめてよプライバシーの侵害だよ!!」

「おそ松兄さん!!」


俺がそう言って一番無害そうなトド松のタンスの引き出しを引っ張りだすと、焦ったようなトド松の声と非難するようなカラ松の声が上がった。

しかし俺が注目したのはそのことじゃない、トド松の引き出しの奥になにか光るものを発見したからだ。


「なんだこれ?缶々?」


ちょっと高級なお菓子が入っているような缶を持ち上げた。

見覚えある缶だな?たしか子どもの頃に親が買ってきて、綺麗だからってトド松が持ってった記憶が――


「ちょっと兄さん本当にやめて」


と、トド松がこっちに駆け寄ってくるが、その前に蓋の方を持っていたからか、カパッと外れ本体が床に落ちてしまった。

その拍子に中に入っていたらしいビー玉がいくつか転がり、上の方に置いてあった物もいくつか零れてしまった。


「ああああっ」

「悪ぃ!今拾う!!」

「いや!触らないで!」

「触らないでってそんな高価なもの……」


発狂したように叫んで周りに散らばったものを掻き集めるトド松だが、その間に俺も目についたものを拾った。


「これ、カラ松がこないだお前にやったブレスレッド?」


とはちょっと違う、貝殻の模様が彫ってあってピンク色の宝石が埋め込まれていた。


「なっ!違ッ!!」

「おい!?」


ブレスレッドを宙に翳すとトド松が焦ったように飛び掛かってきた。

その所為で俺は体制を崩し、缶の箱にぶつかってまた中身が散らばってしまった。


「もうなにやってんだよ」


それを拾おうと他の兄弟達が近づいてくるとトド松が必死そうな叫びをあげる。


「見るな!」

「え?」


十四松なんかはトド松の声に驚いてビクついていたが、一松やチョロ松は怪訝そうにこちらを見詰め。

カラ松は――……箱の中身をみて固まってしまった。


それは運動会で一等から三等までに入ると貰えていたリボンだったり(小学生時代の俺とチョロ松はすぐに捨ててしまった)

細長く切られた青い布きれだったり(あれは多分ハンカチだ、中学校のころ俺達が色違いで持たされていたもの)

痛いタイトルの書かれたラベルが貼ってるカセットだったり(懐かしい、うちは貧乏だったから高校になっても録音できる機材がカセットしかなかった)

ハッピーバースデーって書かれたカード(職がないからってお祝いしてもらえなかった十八の誕生日に手作りしたって言っていた)


あとは、こないだカラ松がトド松にくれていたブレスレッド。


「……あ」



上から、怯えたような声が落ちてきた。

見ると真っ青な顔をした末の弟が、次兄を見て震えていた。


あーーーーーー

解った全てが繋がった。

あの時チョロ松がやばいこと言ったって言ったこと、胸が痛いと言ったこと、今なら俺も理解できる。

いったいコイツはどんな気持ちであの場所に居たんだろって思うと胸がきゅーーっと締め付けられるようだった。


「トド松」


呆然としていたカラ松がハッとしてトド松を呼ぶ、するとトド松は首から上を一瞬で赤く染め、俺の上から立ち上がってよろけた。


「大丈夫か!?」


咄嗟に手を伸ばしトド松を引き寄せ、自分の胸の中へしまいこむカラ松、トド松の体温はさらに上気する。

だがすぐに勢いよくカラ松を突き放し、手を前に出したまま首を大きく振った。


「違う!本当に違うから!!」


そう言う声は悲痛で、顔は再び真っ青になっていた。


「うぅ……」


ついに泣き出したトド松を前に、俺の胸には後悔ばかりが広がってゆく。

なんでこんなことしてしまったんだろう……迂闊だったし、兄のくせにコイツの気持ちに今まで全然気づいていなかった。

だけどカラ松、お前もこれで気付いたろ?コイツの気持ちにも自分の気持ちにも……

この事態になった責任は俺にあるけれど、すぐ下の弟へ対しどうにかしろよと思っていた。

するとカラ松はすっと後ろを向いてトド松から離れていった。


「ッ!!?」


その瞬間この世の終わりのような表情に変わったトド松を見て、俺はカラ松を咎めようと口を開きかけたが、カラ松が自分の引き出しを開けて何かを取り出したのを見て止めた。

踵を返して再び近付いてくるカラ松にトド松は泣きながら後ずさった。

そのまま壁に追い詰められたトド松にカラ松はダンスから出してきた紙袋の中をガサガサ漁って、二枚の紙を差し出した。


「これ……十九歳の時の分」

「はい?」

「あの頃流行ってた映画、誘って行こうと思っていたけどお前つまんなそうって言ったから……」


そう言ってトド松の手をとると無理矢理その上に置いた。

映画のチケットだ。

カラ松より少し細い掌の上で夕陽に照されキラキラと輝いていた。


「これは二十歳の時……ケータイに着ければいいと思って買ったけど、お前スマホに変えてストラップは着けない派って言ってたから……」


と、言ってピンクの熊の付いたストラップをその上に置いた。

それから二十一歳の分、二十二歳の分と多分トド松にあげるつもりだった誕生日プレゼントが袋の中から出てくる。


「俺もお前と似たようなもんだ……お前だけが恥ずかしがらなくていい」

「兄さん」

「大事にしていてくれて、有り難う」


そう言われトド松の顔の強張りはようやく溶ける、よかった……ずっとギャグじゃない方の顔芸で絶望されていると原因を作った身としては居たたまれないからな。

ていうかカラ松、他に四人同じ誕生日の兄弟がいるのにトド松の分しか用意してなかったのかよ、ひょっとしてそれで渡しにくかったのか?


「六花」

「え?」

「雪の結晶の別名だよな?六つの花って書いて六花っていう……俺達とは似ても似付かないけど」


と、言いながら雪の結晶のついたネックレスの紐をトド松の首に手を回し着けてやっている、本人は全然意識していないだろうが普段の百倍気障な行動じゃねーか、つっこめよトド松。


「あと、二枚貝は“私に合うのは貴方だけ”って意味だったか、俺もアクセサリー屋で買った時に彫ってもらった……俺たち結構似たようなセンスなんじゃないか?」


俺の持つブレスレットをチラ見しながらカラ松は言う、目がいいなお前。


「冗談……言わないでよ……」

「俺はいつでも本気だ」


悪態を吐きながら貝殻の彫られたヘアピンを大人しくつけられているトド松、普通ヘアピンを男兄弟(しかも同じ顔)のプレゼントに選ぶか?


「大切に保管してくれるのは嬉しいが、あげたものはちゃんと使ってほしい」

「……兄さんの選んだものなんてダサいから使いたくないけど……誰もいない時、家の中だったらいいよ」


それは二人きりの時だったら着けるってことか、そうか……どうしようぶっ殺してやりてえ。

さっきまでの胸がきゅーとなる想いなど忘れ目の前でイイ感じの雰囲気を醸し出している弟達にムカついてきた。

一松も同じ気持ちなのかバズーカの照準を二人に合わせている、二人一緒でよかったな!本望だろう?

カラ松は髪を触っていた手を壁につけ、ゆっくり肘を曲げてトド松へ顔を近付け、耳元で「俺も大事にするから、くれよ」と囁く。

……なんだそのテク!トド松真っ赤になってるし!さっきから全然ドライモンスターじゃないし!調子狂うわ!


「く、くれって?」

「あのブレスレット、俺にじゃないのか?」

「まぁ……ね」

「そういえば誰に宛名書いてもらったんだ?お前の字じゃなかったから気付かなかったが」

「あ、違うよ本当はトト子ちゃんから兄さんに渡してって頼んだんだけど、トト子ちゃんやっぱり嘘吐きたくなかったんだね……」

「って!お前トト子ちゃんを巻き込むなよ!!」


と、チョロ松がツッコミを入れたことで二人の回りにあったなんか邪魔してはいけないような空気が霧散する。

待ってましたとばかりに放たれた一松のバズーカによってリア充は爆発した。


「十四松!卍固め!!」


俺もお約束を披露した。

うん、うちの兄弟はこれでいいのだ。


それから母さんから夕食の呼び出しに応じ伸びている二人を俺と十四松で運んだ。

その後はもういつも通り夕飯食べて順番に風呂入ってテレビや鏡や猫雑誌を見たりスマホやパソコンを操作したりバランスボールで遊んだりして過ごした。




――それが数週間前の話。


今は昼間女の子と街を歩いていたトド松にカラ松が怒ったりしないのかと聞いている最中だった。


「なんで?僕が誰とデートしててもカラ松兄さんには関係ないでしょ?……そりゃ僕はカラ松兄さんが好きだけど……」


なんて頬を赤らめながら言うもんだから自分の耳を疑った。

あれ?お前らくっついたんじゃねぇの?アイツ今度のデートで渡すつもりだとか言ってラブレター書いたり花束の値段調べたりしてたけど……は?


「望みはないんだから……他の恋に目を向けたって……」


小声でブツブツ言ってる内容の意味の解らなさに俺の意識は混乱してゆく。

まさかお前あれを告白劇だと思ってなかったのか?

俺達全員(十四松でさえ)あれからお前ら付き合ってるって認識してたけど実は勘違いだったのか?



松野家末弟松野トド松、一番要領がよく世慣れしていると思っていた弟はもしやまさかの鈍感男だった。




END


時系列的に1話くらいの話

2話の釣り堀はカラ松的にはデートのつもり(トド松も内心ドキドキしてた)

5話後にカラ松拗ねるけどトト子ちゃんが録音してたトド松のデレトークを聞かせて浮上

6話後に「初めてはカラ松兄さんがよかった」って落ち込むトド松(アレ無効だろって思う)

7話後に合コンしようとしてたことをカラ松が怒って擦れ違い

などを経ても正式にくっつかないカラトドになります

進展しないのでお互い寝てる相手にこっそりキスとかしてトド松は自分の片想いだと思ってるから罪悪感でツラい感じ



あと蛇足なんですが

おそ松兄さんはカラ松がトド松を好きなの知ってるけどトド松がカラ松を好きなのを知らない

一松はトド松がカラ松を好きなの知ってるけどカラ松がトド松を好きなのを知らない

チョロ松は両方知ってて、十四松は恋とかよく解ってないけどなんとなく特別なんだなって思ってる

ほんでトド松はカラ松好きなの自覚あるけどカラ松はトド松好きなの自覚がない

という設定でした