マイ*ポエトリー*リピート トド松のタンスに眠っていたお菓子の缶々の中身は今までカラ松からもらった物が入っているらしい。 ビー玉の敷き詰められた上に他人から見ればガラクタのようなものと、最近もらった装飾品などが間隔を空けて丁寧に置かれていた。 もう隠さなくてよくなったからと時々ニコニコしながらそれを眺めている、きっと貰った時のことを思い出すのが楽しいのだろう。 それは末の弟に残された僅かな純粋な部分なので兄達もからかうことなくそっと見守っていたが、その中にはひとつ不可解なものがあった。 「なあ?これはなんなんだ?」 おそ松が指差すのはピンクの花が描かれた片側だけツルツルしている何かを包んでいた紙だ。 「あ、えっと、それはカラ松兄さんがくれた石鹸が包んであった紙だよ」 「……」 初めて僕だけにくれたものなんだと、照れくさそうに話すトド松におそ松と丁度居合わせたチョロ松は絶句する。 守銭奴ドライモンスターがそんなもの後生大事にとっていたのか、と、まあカラ松が誘い損ねた映画のチケットも大事にしまわれているので不思議ではないのだけど、キャラに合わなすぎないかと思う。 十四松だけはトド松の横で缶を覗き込みながら「僕も今度から紙破かないでとっとこうかな」なんて言っている。 「まぁカラ松兄さんは憶えてないだろうけどね」 そう言いながら「これで体洗ったらいい匂いしたんだよ」「ほんと?いいなトド松」「十四松兄さんは今度僕のシャンプーで洗ってあげる」とじゃれつき始めた五男六男を余所に長男三男は肩を寄せ合う。 「あれさ、カラ松があげたっていうかお中元かお歳暮の中に入ってたやつっぽくない?」 「ああ、毎年こんなん貰ってたけど町内のフリマとかにそのまま出してた気がする……」 その中から一つを取り出してあげたのだろうなと推測して、余計にそんなもの大事にとっとくもんじゃねえよ、と思う。 「……トド松は本当にカラ松が好きなんだな」 「そうみたいだね」 それはまあ微笑ましくていいのだけれど、ほんの少し調子がくるう。 この末っ子にはもう少し横暴な方が似合ってる気がする―― ――と、数週間前にそんな会話をしたことを思い出しながら松野家の長男と三男は合コンに失敗し飲んだくれてるトッティことトド松の背中をさすってやっていた。 今回はトド松にも問題があったとはいえ少しやり過ぎたかもしれない、こんなんだからトド松も十四松にだけ対応が甘くなるんだろう。 「うう……もうバイト辞めるしかないじゃん兄さん達の馬鹿」 本人は合コンに失敗したことよりもバイトを辞めなければならないことの方がショックだったようだ。 兄的には学歴詐称が店長にバレる前に辞められてよかったろうと思うのだけれど、トド松はそんな風には考えられないらしい。 「いいじゃん別にバイトなんかしなくても」 「おそ松兄さんねぇ」 「やだ僕だってカラ松兄さん一人くらい養えるんだってとこを証明しておかないと!」 「え?」 トド松に飲ませる水を汲んでいたカラ松がいきなり自分の名前を出され驚いた顔を上げた。 おそ松はトド松を挟んで向かい側にいるチョロ松を見ながらニヤリと嗤った。 「ほらー対抗意識もやしてんじゃん、こいつが変なバイト始めたらチョロ松のせいだからなー」 「あれ気にしてたんだ……その場の勢いで言っただけなのに」 「そうなのか!?」 あの言葉でいくらか救われていたカラ松はショックを受ける、が、トド松を見てそれではいけないと思い直した。 自分がトド松を養えるくらいにならなければ、と……。 「で?そん時は俺も養ってくれんだろ?トド松」 「おそ兄さんも俺が養ってやるよって言うくらいの気概みせたら!?」 「くっ、すまないトド松……正直俺だけの稼ぎじゃおそ松兄さんとお前を食わせていく自信がない……共働きでいいか?」 「カラ松はカラ松で何言ってんだよ、どういう状況か知らないけどその時はおそ松兄さんにも働いてもらえ」 「やだぁ!!カラ松兄さんは僕が養うんだからね!!おそ松兄さんはずっとそのままでいてぇ!!」 「おう!引き受けたぜ!!」 「お前ら長男を駄目にする弟か!!」 「いや、でもほんと変なバイトすんなよお前……お兄ちゃんとの約束だからな」 「今更そんな兄っぽいこと言っても無駄だからね」 「マトモなバイトやってたのに兄さんたち邪魔しにくるじゃんかぁああ!!」 「あ、泣かせた、兄さん達がトド松泣かせた」 「スタバァではお前が一番ひどかったぞ一松」 「トッティ、はい水ーー」 「トッティって言わないでぇぇえ」 なんて、ぎゃーぎゃー騒いでいると、ラストオーダーの時間に差し掛かった。 そろそろ帰るか、とおそ松が言うと皆ふらふらと立ち上がる、ちなみに支払いは合コンに誘った(誘ってない)トド松ということになっていた。 しかしヤケ酒かっくらっていたせいか浜辺に打ち上げられたトドのようになっているトド松は「やっぱ僕もチョロ松兄さんに養ってもらうぅ」等とカラ松とチョロ松にダメージを負わせることを吐き出しながら十四松に起き上がらされていた。 しかたない、会計はチョロ松にさせようとおそ松は決めた。 「カラ松兄さん、おんぶ」 外に出ると十四松がまるで猫を渡すようにトド松の両脇を持ってずいっとカラ松に差し出した。 「え?」 すると酒で赤くなっていた頬をさらに赤く染めるカラ松、以前なら酔った弟をおぶるくらいどうってことなかった癖にと兄は可笑しげに笑った。 今は両想いの相手なのだという意識が彼を変えたのだろう、カラ松の恋愛観は兄弟間でも理解不能で、これからどうなるか予想も付かないがこの表情を見るにトド松が悲しむようなことにはならないのではないかと思う。 「そうだな、カラ松おんぶしてやれよ」 おそ松がそう命令するとカラ松はハッとして、また何かかっこつけたポーズをとり笑うと十四松に背を向け屈んだ。 「ああ、いいぜマイブラザー、俺達を待つ家までソイツの命は俺が預かろう」 意味がわからない。 黙って見ていた一松は正直ぶん殴りたいという衝動に駆られたが今にも寝落ちそうなトド松の為に我慢する。 十四松がひょいっとトド松を持ち上げカラ松の背中に乗せるとトド松は顔をふにゃぁあと緩ませ頬擦りをし始めた。 「えへへへ、カラ松兄さぁん」 「……ッ!!」 効果は抜群だ。 普段兄弟に対してサバサバしているというか十四松以外には辛辣で、女の子はちきんとリードすることを心掛けているトド松が、こんなに甘えてくるとは思わなかった。 俗にいうギャップ萌えというやつだ。 見ているだけの他の兄弟も衝撃だったのだからカラ松なんて軽くパニックを起こしている。 「あったかーい、にいさんのにおいがするー、いいゆめだなぁ」 やけに素直だと思ったら夢だと思っていたみたいだ。 夢で人の温度や匂いを感じるのは、現実でその人の傍にいるからではないかと素面なら気付けたろう。 「カラ松にいさんはーーぼくがいないと駄目なんだからねぇ、ずっと一緒にいるんだよーー」 あ、やばい兄さんがムービーを撮りだした……と、携帯を構えている長男に三男は驚いたが一応空気を読んで黙っておいた。 しかしいったいいつから撮っているんだろう、さっきの緩んだ顔からならカラ松にも見せてやりたい。 「ああ、お前の言う通りだな、俺達はずっと一緒だ」 「ははは、やっぱりすごくいいゆめ……」 「夢って」 「だって……ほんもののカラ松がそんなこと言うわけないもん」 急にトーンを落とした耳元の声に驚く、何故そんな声を出すのだろう、それにカラ松を呼び捨てにした。 「カラ松はね、いっつもおそ松やチョロ松を追っかけてるし、いっつも一松や十四松を見てる」 「トド松?」 「そりゃオレだっておそ松たちに憧れてるよ?十四松たちが心配な気持ちもわかるよ」 カラ松は足を止める、周りの兄弟たちも同様に足を止め、末っ子を見た。 酔って醜態を見せるのを怖がってトド松はいつも酒の量を調節している、呑ませたのは自分達で彼がここまで呑んだ原因を作ったのも自分達。 そんな自分達はいつも介抱される側だったから、こんな風に泥酔しているトド松を見たのは初めてだ。 「でも、カラ松から石鹸もらったんだ、こないだ」 「……え?」 「お風呂キライなオレにね、これで洗うとイイ匂いがするぞってお中元の中からポイってくれたんだ」 「……」 そんなこと自分はすっかり忘れていたがトト子から聞かせてもらった音声で思い出した。 自分が誘拐されても拗ねていた時に彼女に会い、ボイスレコーダーに録音したという彼との会話を聞いたのだ。 あれで機嫌もすっかり直り兄弟たちのことを早めに許すことができたのでトト子にもトド松にも感謝していた。 「兄弟の中でオレだけに、だよ」 「……」 その声の甘さに頭の中が真っ白になる。 守銭奴で、がめつくて、したたかな弟が、なんの価値もないような紙切れを今も大事にしている理由はそれなんだ。 「オレね、カラ松がイイ匂いっていうから毎日その石鹸で洗ってるんだ、オレの匂い好きになってくれるかな」 そしたらオレのことも少しは好きになってくれるかな――そう言ってギュッと抱き付いてきたトド松にカラ松の胸の奥が疼く。 お前の匂いが好きじゃないわけがない、彼の足に触れている腕が震えてしまうのをどうにか耐えた。 おいしそうな匂いがする、喉から手が出る程この弟がほしくなった。 「好きだよ」 子ども時代に戻ったようなトド松に、カラ松も子どもの頃に想いを馳せながら答えた。 おそ松やチョロ松に憧れながら、一松や十四松を心配しながら、自分の横で自分と同じように兄弟を見詰める末の弟を同志のように思っていたのだ。 長男ように振る舞えない次男の自分といつもずっと一緒にいてくれる、皆から特別に可愛がられる末っ子が自分だけを特別なものとして見ている。 きっと自分はあの時から気付いていたのだろう、気付いていて気付かなかったのは――その眼差しの名前―― 「愛してる」 今の想いに相応しい言葉を紡ぐと、トド松の心臓がドクリと跳ねたのを背中に感じた。 「……ありがとう、カラ松兄さん」 いっそう嬉しそうな声を出したトド松は満足げに目を綴じ、暫くするとスーーっと寝息を立て始めた。 その直前に「ホントいい夢」と呟いて…… 「……」 「……」 「……」 「……」 六つ子の間に沈黙が落ちる。 まさか再び告白劇を見せつけられるとは思っていなかったし、まさかこんな道の真ん中で行われるとは思わなかった。 だが一番のまさかは違うことだ。 「なぁおそ松兄さん……まさかと思うんだが」 「うん」 「トド松は俺に好かれてることを知らないのか?」 そう、そのまさかだ。 「うん、そうだな……お前と付き合ってるわけじゃないって言ってた」 「は?何故その場で訂正しなかった!?」 「いや、そういうのは自分で自覚してかないとかなーーって」 「ちゃんと告白してなかったお前も悪いぞ」 チョロ松もおそ松の横から口を出してきたが、カラ松は珍しく少し怒ったような顔で言い返す。 「普通あれで解るだろ……」 「お前に普通を説かれるのもなんだが、その通りだな」 「あのあと二人で釣り堀に出かけたし」 「そうだな、僕達のデリバリーコントの前に夫婦コントのようなことを繰り広げてたな」 「ハタ坊からハタを刺された後なんか「初めてはカラ松兄さんがよかったのに」なんて呟いてた、俺も尻のダメージさえなければ抱いてやりたかった」 「それを本人に聞かれてるとは思ってなかったんだろ、ていうかアレは無効だと思うぞ……やだぞアレが初体験扱いとか」 「つーかお前抱いてやりたいって言うけど無理だろ、ヘタレだし、半年くらいかかるんじゃね?」 「……さっきも俺を養うとか言ってた」 「あん時からコイツめっちゃ酔ってたじゃん、今さっきのだって正気で言ったんじゃないって解るだろ?」 と、おそ松に言われてしまうとカラ松は返す言葉を失ってしまう。 「告白……しなきゃか」 「出来るだろ、さっきみたいに」 「さっき……」 の事を思い出しカラ松は一気に顔を赤く染めた。 「いや、さっきは雰囲気とかに押されてポロっと出てしまったというか」 「カラ松兄さんに素面で「あいしてる」は無理かもなー」 十四松が空に向かって元気よく「愛してる」「愛してる」を連呼し始めたので一松がその辺に置いてあった三角コーンを被せた。 「あはは、すげー声ひびくー」なんて笑っているが、内心でトド松のことを心配している十四松は三角コーンから顔を覗かせて、カラ松の方を見上げ。 「ファイトだよ」 とだけ言ってまた三角コーンを被って顔を隠してしまった。 それ今となっては幻の台詞!とチョロ松はツッコミたかったが寸前で耐えた。 一松からも物言いたげな目線を向けられているカラ松は意を決したように息を呑んだ。 「わかった……明日言うから、みんな家を空けてくれないか?」 目つきが鋭いからか兄弟の中では一番男らしいと称されるカラ松が真剣な表情をして頼んでくるもんだから、ついたじろいでしまう。 「了解了解、そんくらいお安い御用だ」 「その代わりお前ちゃんとやれよ」 「ファイトだよ」 「ファイトー」 「ありがとう、みんな」 カラ松は兄弟達の声援に格好つけずに素の笑顔で力強く頷いた。 ……今の表情を見られなかったなんてトド松もったいないことをしたと思った貴方、心配ご無用です。 実は先程からおそ松がムービーを撮りっぱなしでいます。 69 69 69 69 69 69 ピーチクパーチク鳥が鳴く翌朝。 「ん……いったぁ」 柔らかい布団に包まれているのを感じながらトド松が目覚めると、すぐ頭に激痛を感じた。 「いてててて」 謎の頭痛に目を再び瞑ったトド松だったが、いつもないぬくもりを感じ、そっと目を開ける。 「!!?」 すると、カラ松の顔がドアップで映った。 たしかにいつも隣で寝ているが、これ程の近さは初めてだ。 しかも目線を下に向けると彼の腕が自分の枕の下に入り込んでいる、これは噂に聞く腕枕ではなかろうか。 「!!!」 自分が女の子にする想像は何度もしてきたが、まさか自分がされる立場になるとは思っていなかったトド松、しかも相手はカラ松である。 心臓が保たないのと「兄さんの腕が痺れちゃう!」との思いで勢いよく起き上がった。 刹那再び頭に激痛が走る。 「痛ぁ……なにこれ二日酔い?」 そういえば昨日は合コンだった気がするが途中から記憶がない。 最後に見たカラ松の顔は何故か怒っていたが(女の子に嫉妬されていたとは気付かない)何故こんな状況になっているのだろう。 トド松が周囲を見渡すと、布団で寝ているのは自分とカラ松だけで他の兄弟達はもう起きてどこかへ行っているみたいだった。 何故カラ松が腕枕を……?と思うと頬が熱くなる、もしや酔っぱらってなにか我儘を言ってしまったのかもしれない。 「ああゴメンねカラ松兄さん」 お人好しなこの兄に我儘を言うのは日常茶飯事だが、こんな類のものを頼んだことはない。 いくらクズニートだドライモンスターだと呼ばれていても兄が本気で嫌がることを積極的にしようとは思わないのだ。 膝を動かしまだ寝ているカラ松の方へ向くと心の中でもう一度謝罪を述べた。 「……寝癖付いてる」 トド松はそっと手を伸ばし、カラ松の髪を撫ぜた。 毎日整髪剤を使う髪は少し傷んでいて、今度トリートメントを貸してやろうと決めた。 風呂嫌いだったトド松がそんな事を思うなんて誰が想像できたろうか……トリートメントの存在も知らない、石鹸一つで舞い上がってしまう幼い自分は、こんなことしない。 トド松は正座のから身体を屈ませ、触れるだけの口付けを彼のこめかみに落とした。 同じ位置にひとつ、ふたつ、優しく慈しむような口付けをしながら心の中でカラ松と純粋だった幼い頃の自分に精いっぱい謝罪をする。 吐息がかかりそうな位置でじっとカラ松の顔を見詰めるとポツリと涙がその頬へと零れた。 「グズ……やば、ごめ……」 謝りながら彼の頬を拭おうと布団の上から手を離した瞬間、枕の下にあったカラ松の腕がトド松の後頭部に回された。 (へ?) グッと思い切り引き寄せられたかと思うと、唇になにか柔らかいものが当たった。 (なに……これ?) それが何か判る前ににゅっと柔らかいものが唇を割って入ってきた。 入ってきたものが自分の口蓋を掠めた瞬間、ぞくりと背中に何かが駆け抜けていった。 (これは、まさか) カラ松にキスをされていると気付いた瞬間、トド松は勢いよく顔をあげる。 「か、カラ松兄さん!?なに寝ぼけてんの!?」 誰と間違えたんだと真っ赤な顔をして抗議すると、カラ松は瞳を大きく開けて、そのまま柔らかい笑みを浮かべた。 別に誰とも間違えてはいないさ―― 「おはよう、トド松」 そう言って何時の間にか繋がれていた手をカラ松は自分の頬に当てたのだった。 END 最後までお読みいただきありがとうございます 中途半端なとこで終わってすみません…… 私はただ 寝てる攻めに受けがチュー 起きた攻めが反撃のチュー って流れを書きたかったんです あと「ああこれもうこの二人うまくいくわー」って思うとそこで満足してしまう病なんです 「カラ松ひょっとして吐くんじゃないか」とか「トド松も二日酔いだし吐くんじゃないか」とか、私のさじ加減で決めれるものにハラハラしてしまいました 馬鹿です |