トラブルメイカー

一松が猫と友達になるようになったのはいつからだったろう、昔は人にも物にも動物にも悪戯ばかりしていた六つ子だったけれど一松が猫と仲良くしだしてからは動物には手を出さなくなった。

動物が身近にいると優しい子に育つのだなぁと、悪童街道まっしぐらな六つ子を見ながら尚もそう語り合う両親は、一松が庭で猫に餌をやるのも猫が庭に居着くことも咎めなかった。

そんなわけで六つ子が二十歳を超える頃には松野家は通い猫や居候猫が常にいるような状態になったのだ。

猫が車に跳ねられそうだとか誰かに虐められていたとか何故だかそういう場面の遭遇率の高い次男や、老体の猫や怪我や病気で余命幾ばくもない猫などの発見率が高い五男が保護してきた猫がいることもある。

そういう猫の世話をみるのは主に三男と四男だったけれど、その間二人が当番になっている家の仕事を押し付けられるのは六男だったので、間接的に世話をしているようなものだった。

ちなみに長男は猫を助けられなかった時に六つ子達の精神的支柱になるし、両親は庭に猫の墓が立てられても何も言わず許してくれる。

そんな松野家は街の猫たちのコミュニティ略してネコミュニティーでは、いざという時に頼りになる家族として有名だったし、特に猫を可愛がり自らも猫化できる一松の事は仲間のように思っていた……かもしれない。


だから“ソイツ”が現れた時、真っ先に頼ったのが一松だった。



「……一松兄さんどうしたの?その子」


ある日の夜遅く、顔やら肩やらに引っ掻き傷を作った一松がスヤスヤ眠る猫を抱いて玄関を潜ってきた。

彼のただいまを聞き玄関まで出迎えにきた十四松はいつもの笑顔を曇らせ自分のことのように痛そうな顔をして一松の傷を見る。


「その子と喧嘩したの?」

「うん、でももう大丈夫……俺の言うこと聞くようになったから」


そう言ってクスリと笑う、自分の腕の中で眠る猫を見詰める瞳には慈愛とともに群れの長のような鋭さがあった。

猫科で群れを作る習性があるのはライオンくらいなものだけど、この頃の一松は既に町内の猫のボス的な存在だったのだ。


「一松兄さん手当てしなきゃ」

「その子も怪我してんじゃん、猫相手に何してんの」


丁度廊下を通りかかったトド松が一松の腕の中を覗き込んで顔をしかめる、その猫の首に噛んだ痕が残っていたのだ。

酷いことをすると一松に厳しい目線を送ると何故だか鼻で笑われ「ん」とその猫を差し出された。


「そういうなら持ってみてよ、ソイツ結構重いから」


反射的に受け取ったトド松はその猫を見て「ヒッ」と喉を詰まらせた。

これは猫は猫でもネコ科ヒョウ属、虎の赤ちゃんではないか――


「な、な、なんで虎が?」

「さぁ?俺も猫に呼ばれて行っただけだから」

「すっげー!虎なのコイツ!!」

「うん、じゃあ俺、体拭いて消毒して寝るから後ヨロシク」

「え……ちょ?」

「よく言ってきかせたからもう人間襲ったりしないでしょ、まだ歯は生えてないし、一応デカパン博士んとこで調べてもらったけど感染症とか無いみたいだから掻かれても大丈夫だよ」

「えっと」


それでも引っ掻かれたら痛いのでは?

赤ん坊とはいえ成猫より重いその生き物をトド松は起こさないようそっと抱き直し、風呂場へ直行する一松と十四松を見送った。


「とりあえず、この子も手当てしなきゃ……兄さーん」


誰でもいいから手伝ってもらおうと居間に行くと、そこにいたのはカラ松だった。





翌日、一松が目を醒ますと虎はすっかりトド松とカラ松に懐いていた。

トド松の膝の上に寝そべってカラ松から哺乳瓶でミルク(おそらく猫用)を与えられている光景はなんだか微笑ましい。

徹夜で手当てをしたり体を拭いたりしてやっていたのだろう、眠たそうな二人に今日くらいは手を上げないでおこうと決めた。


「おはよう一松、お前が可愛い子ちゃん連れてくんのは珍しくねえけどああいうタイプは初めてだな」


長男おそ松が大きなあくびをかいた後、一松に肩を組んでくる。


「哺乳瓶まだ残っててよかった……二十何年前のだけどちゃんと消毒したから大丈夫だと思う……多分」


潔癖症なところがあるチョロ松が心配そうに言った。


「おはよう一松兄さん!傷大丈夫?紫になったりしてない?」

「大丈夫だよ、ありがと十四松」


と、まず十四松を安心させてから一松は兄弟全員に「おはよう」と声をかけた。

カラ松とトド松は「おはよう」と言いながらこっくりこっくり船を漕いでいる。

虎がミルクを飲み終わり、眠ってしまうと二人もその横で眠り着いたのでチョロ松は枕と毛布を持ってきてやった。


「寝かせといてやるか」

「そうだね……昨夜はずっとこの子のお世話してて眠れてないみたいだから」

「起きたら二人にお礼言わなきゃだよ?一松兄さん」

「……」


怖いのは全員この虎を家で保護していることに疑問を抱いていないことだった。

唯一の常識人のチョロ松までこうなのだからもう駄目だろうこの兄弟。

ちなみに両親はただいま旅行で留守にしている。


四時間ほど眠った後だろうか、ふにふにとした感触が頬に触れるのに気付いたカラ松は目を醒ます。


――ああ虎が起きたか、昨日トド松が持ってきた時は夢かと思ったが夢じゃなかったんだな


虎を抱え上げ胸の上に下すとまだ眠いのか前足で顔を洗っている、可愛い。

温かいもの(虎)がいなくなったからか虎を挟んで寝ていたらしいトド松がカラ松の方へ寄ってきて腕に絡みついてきた。

カラ松からすれば可愛いの二乗だ。


「ん……んん?あれ僕寝ちゃってた?」


暫くして目を醒ましたトド松は自分がカラ松の横で寝ていることと、カラ松の胸の上で虎が微睡んでいるのに気付くと、ふわりと微笑んだ。

カラ松の肩の上にピッタリと顔をくっつけ、虎の頭を優しく撫でる。


「お前まだ眠いのーー?僕は目醒めちゃった」

「そうだな」

「あ、カラ松兄さんおはよう」

「おはようトド松」


肩の上に乗ったトド松の後頭部に頬擦りしてきたカラ松にトド松は「やーん」と嬉しそうに嫌がる。

そんな二人と一匹を黙って見ていた一松は飲んでいたコーヒーをだらーと零しながら隣の十四松に話しかけた。


「なに?あの甘い雰囲気、ここが居間だって気付いてないわけ?」

「ラブラブでんなぁ」


そこらへんに落ちていたパンツで一松の零したコーヒーを拭きながら十四松は微笑ましげに二人と一匹を見守っていた。


「まあいいや、あの二人があの子を見てくれてる間に行くよ」


一松と同じようにウンザリしながらカラ松とトド松を見ていたチョロ松が言う。


「何処に?」

「動物園から虎が逃げ出したとかニュースないし、そもそも赤ちゃん虎が一匹で逃げ出すのって不可能だと思うんだよね、だから多分捨てられたんだと思う」


その言葉に十四松の顔が曇った。


「個人で虎を飼うような金持ちハタ坊くらいだけどアイツはそんなことしないし、だからあと考えられる出所ってサーカスくらいじゃない?」

「おお名推理だなチョロ松警部」

「なんか恥ずかしいから警部って呼ばないで兄さん」

「成程……調べてみる必要があるね」

「うん……捨てたにしろ何にしろ、あの子の母親はそこにいるんだと思うんだよ……だから」

「一回事情を聞いてみないとな?」


おそ松がニコリと笑って同意した。


「そんなわけで行くよ一松、十四松」

「え?俺は?」

「あの二人と交替で虎の面倒みててよ、一松の友達の力を借りたいし、十四松はいざっていうとき戦闘要員にするから」

「えー?それ俺でいいじゃん」

「兄さんが行くとトラブルが起こりそうだから駄目」

「虎だけに?」

「そう」


ちぇーと口を尖らせるおそ松。

十四松はそんな長男へとことこ近づいて、内緒話をするように耳元に手を当てた。


「多分チョロ松兄さんはおそ松兄さんに本番で活躍してもらうつもりだよ?」


と小声で話す。

すると、おそ松もニヤリと笑って「そんなこと解ってるよ」と小声で言った。

本当にサーカスがあの虎を捨てたのだとすれば、虎なんて危険な生き物を草食動物がいる森に放ったこと、母親がいなければ確実に死ぬだろう赤ん坊をこんな寒空に放置したこと、二つの意味で許せない。

警察に突き出す前に自分達で懲らしめるつもりでいるが、もしサーカスに落ち度がなければ無駄足になってしまう、三男が長男を連れていかない理由はそれだ。

なんだかんだ言って長男を立ててくれる三男に気分を良くしつつ、あのバカップル(カラ松とトド松)を押し付けられたな、とおそ松は溜息を吐いた。


(まあいっか、一松とチョロ松はアイツらに苛々しちまうし、十四松がいたんじゃトド松が気ぃ使って甘えられねえからな)


カラ松の唯一の兄という自分がどれだけ努力しても叶わない立場にいるおそ松へ羨望を抱き、カラ松との仲の良さを見せ付けてくるきらいのあるトド松だ(しかしトド松は自分が十四松の唯一の弟という立場ゆえに他四人の兄達から少しだけ羨ましがられていることをしらない)

きっと十四松がいる時のように自重したりせず存分にイチャつきまくるだろう、そんな弟達に腹を立てず微笑ましく見守れる器を持つのは長男である自分だけだ。


「わかったよ、留守番してる……けど何かあったらすぐ電話しろよ?」


こうして、おそ松は納得してチョロ松達を送り出したのだった。




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「え?一松兄さんでかけちゃったの?この子のお世話僕らがするの?」


完全に目を醒まして、猫じゃらしで虎と遊びながらトド松がそんなことを言う。


「結構大変だな……」

「結構どころの話じゃないよ、見てズボンぼろぼろにされた」


と、言ってダメージジーンズのようになってしまったズボンを見せ付けてくるトド松。

普段日に当たらない白い肌見えてカラ松は一瞬ドキッとする(毎日一緒に銭湯に行っています)


「あ、カラ松兄さんこの子きっと眩しがるからキラキラズボン履いたら駄目だよ?」

「フッ、安心しろ、あれはお前との逢瀬用だ」

「……イッタイよねぇもう……」


虎がいるからか大声を出さず控えめにツッコミを入れるトド松にカラ松は「お、俺はまたお前を傷付けてしまったのか」と焦っている。

おそ松は寝転びながらそれを面白いなぁと眺めていた。


「いいじゃんソイツもうお前らに超懐いてるし」

「懐いてるけど、ずっと見とかなきゃいけないのは大変だよ、外に出たら大騒ぎになるだろうし」

「外出できないのはツラいな」

「女の子とデートだったら俺が代わりに行っちゃるよ?」

「ねぇよ」

「ならいいじゃん、それにさ、今のうちに出来るだけ懐かせておいた方が身の為じゃない?」


長男がそう言うと次男と六男は不思議そうな顔をして見つめ返してきた。


「だってソイツもう一松に絶対服従でしょ?人を襲わないように躾はするだろうけどさ、脅しとかには使えると思うんだよね……で、大きくなった時に真っ先に餌食になるのは誰と誰だと思う?」

「……」


想像に容易かった。

カラ松とトド松は向かい合い、お互いの肩をガシッと掴んだ。


「兄さん!僕たちでこの子を立派な大人に育てようね!!」

「ああ!!」


ほぼ保身の為に気合を入れる弟二人を見て、おろ松は「いや成長するまで家で世話するのは無理だろ」と心の中でツッコミを入れる。


「あ、そういえば一松が置いてったこれ猫が大人しくなるオルゴールだって、暴れ出したらコレ使うといいよ」

「そんなの虎に効くか?」

「ていうかコレ鍵が掛かってんじゃん使えないなぁもう」


と、言ってトド松はオルゴールを部屋の隅の箱の中にしまい込んだ。

どうせなら檻とか用意してくれたら暫く放って外出したり家事をしたりできるのにな、と溜息を吐いたのだった。




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おそ松は時計を見上げる、あの四人が出掛けて六時間あまりが経つが何も連絡はない。

少し様子を見に行くかと腰を上げた。


「なんか夕飯買ってくるな」

「あ、お願いね、おそ松兄さん」

「……」


何か感じ取ったのか次男が無言で見詰めてくるが、笑顔で手を振ることで応える。


(……お前は此処でトド松と虎を守ってなさい、ということだろうか)


おそ松が出掛けた後、二人と一匹で残された家。

トド松の抱っこしている虎は可愛いかった。

先程は立派な大人に育てると言ったが、いずれ手離さなければならないのだろうなと娘を持つ親のような心境になるカラ松。


(虎が娘とは……まず種族が違う)


と、首を振りながら、しかしこんなこともあったなと思い出した。

どういう話の流れでそうなったのか知らないが、ついこの間、トド松と二人で出掛けた釣り堀で……


『カラ松兄さんて動物にたとえたら虎っぽいよねぇ〜』


なんて弟が言ってきたのだ。

急に何を言い出すのかと疑問だったが、なかなか格好いい動物にたとえられ嬉しかったのを憶えている。


『ならばお前は兎だな、マイリルバニー?』

『え?なんで?』

『虎に食べられる可愛い生き物といったら兎じゃないか』

『はぁ!?なに言ってんの!!本当イッタイよねぇ!!』


あの時も最愛の弟を傷付けてしまったな……などと思いながら、カラ松は再度トド松へ視線を送る。

可愛い虎はトド松の指をはむはむと噛んでいるところだった。

歯が無いのでそれ程痛くはないのだけれど噛み癖が付いたら大変だ。

カラ松が叱ろうとすると、その前にトド松が噛まれた手を引き抜いて虎の頭をちょこんと小突いた。


「こーら噛んじゃダメだって、僕を食べていい虎は世界に一匹だけなんだからねー」

「……ッ!!」


その虎って誰ですか?

思わず心の声が敬語になってしまった。

落ち着け、今は他の兄弟がいないとはいえ一松から預かっている(?)大事な子虎がいるのだ。

その面倒をほったらかして弟とイチャつくなどありえない……と、朝から散々イチャついておきながら今更自制をかけるカラ松。


「どうしたの?カラ松兄さん」

「いや……というかソイツ名前がないのは不便だな」

「ああーそればっかりは一松兄さんがいないとねえ……」

「そうだなぁ」


トド松は虎を抱いたまま、上体を倒しカラ松の膝に頭を置いた。

いわゆる膝枕の状態でじっと見上げてくる弟を撫でながらカラ松は「どうした?」と聞いた。


「二人っきりだとさぁ、あんま名前呼んでくれないのが詰まんない」

「は?」

「兄さん他の誰かが一緒にいたらトド松って名前で呼んでくれるけど二人きりだと「おい」とか「なぁ」とかで全然呼ばないでしょ?この際トッティでもいいからちゃんと呼んで欲しい」

「お前だって兄さんって呼ぶけど俺の名前は呼ばないじゃないか」

「だって兄さんは兄さんだもん」

「他にも四人いるだろ」


お前には俺だけの名前を言ってほしい、とカラ松はトド松の喉から頬のあたりに掌を移動させ指で唇を優しく擦るように撫でた。


「……カラ松兄さん」

「トド松」

「カラ松兄さん」

「トド松……」

「カラ松兄さん……」

「トド松」

「カラ松兄さん」

「ピヤァーーー!!」

「「ッ!!?」」


名前を呼びあって二人の世界に浸っていたカラ松とトド松だったが虎の鳴き声で現実世界に引き戻されてきた。

なんだか一気に恥ずかしくなる。


「どうした?トイレはさっきしたよな?」

「お、お腹空いたのかな?カラ松兄さんミルク作ってきて?」

「ああ、解った」


すたこらと台所へ走る兄の背を見送って、トド松は溜息を吐きながら虎を膝の上に乗せた。


「……赤ちゃんいたら、こういうこともあるのかな?」

「ピャ?」

「カラ松兄さんと僕の子だったら絶対そっくりになるよね……」


なんて、夢のような事を呟いてほんの少し哀しくなる。


「カラ松兄さんが僕なんかと付き合ってても子どもは望めないって解ってるんだけどねぇ、もう誰にも譲れないとこまで来ちゃってるんだよね……」


すると虎が慰めるようにトド松の手を舐めてきた。


「フフッ……ありがと」

「俺だってお前を誰にも譲れないさ」

「へ?」


振り返るとミルクを作りに行った筈の兄が戻ってきていた。

後ろからギュッと抱きしめられる。


「哺乳瓶を忘れた」

「へぇ……じゃあさっさと持っていきなよ、この子お腹空かせてるよ……」

「もう少しだけ……」


自分の肩に顔を埋める兄に苦笑して、膝の上で鳴く虎に「もう暫く辛抱してね」というように頭を撫でる。


「“なんか”じゃないからな」

「んーー?」

「さっき“僕なんか”って言っただろ?お前」

「そうだったかな?」

「誤魔化すな」


自分大好きで滅多に自虐的な言葉を吐かないトド松が“僕なんか”と言ったのだ。

カラ松に対してそれだけ後ろめたさがあるのだろう、そんなものカラ松だって同じなのに……


「俺はお前がいてくれるだけで充分だ」

「本当?」

「ああ、もうカラ松ガールも要らない」

「いや、最初から存在しないからねカラ松ガールなんて」


クスクスと笑って振り返ったトド松は、カラ松の頭に頬を寄せる。


「僕も、カラ松兄さんが愛してくれてれば充分幸せ、他のものは何もいらない」


――心からそう思うよ……

カラ松とトド松は再び二人の世界に入り込もうとしていた。


「はいはい、そこまでーー」


そう言ってホカホカのお弁当が入った袋が頭上に置かれるまでは――


「アニキ!?」


おそ松が帰ってきたのだ。

二人は慌ててサッと体を離す。


「も、もう吃驚するじゃん!!ただいまくらい言ってよ!!」

「いや、ただいまは言ったんだけどお前ら耳に入ってなかったんだろ」


不用心だな、と長男に笑われる。


「まったくだよ、ほら虎も不思議そうに見てるじゃん」

「死ねクソ松」

「ただいまーーカラ松兄さん!トッティ!!」

「じゅ、じゅうしまつにいさん!??」


他の兄弟達も続々と部屋に入ってきた。


「ご、ごめんね十四松兄さん、みっともないとこ見せちゃって」

「なにも見てないよ?声は聞こえてたけど」


ニコニコと笑いかけてくる五男に六男はアワアワと弁解を始める。


「トド松はあの羞恥心とか申し訳なさをもっと他の兄弟にも示して欲しい」

「同感」


チョロ松と一松が呆れながら言うのを、カラ松は神妙に聞いていた。

トド松はカラ松が他の兄弟と仲良くしていると拗ねるけれど、それなら自分が十四松を特別扱いするのもどうにかならないだろうか、寛大なカラ松だっていつも嫉妬しないとは限らないのだ。


「あ、そうだ、その虎の引き取り手が見つかったよ?」

「はい?」

「ハタ坊の知り合いの金持ちで動物好きのおばあさんが是非もらい受けたいって」

「……そっか……」


トド松が少し残念そうに俯くとチョロ松が慰めるように顔を覗き込んで微笑みかけた。


「大丈夫、そんなに遠く離れた場所にいくわけじゃないから、いつでも会いに行っていいって」

「優しい人にもらわれてよかったな」

「ほんと……」


他の兄弟達が言うので、トド松も納得し「うん」と頷いた。


「引き取られるまでの間めいいっぱい可愛がってやろうな」

「うん!そうだね……」


カラ松にそう言われ、トド松は嬉しそうに返した。


「ちょっと調教も必要かもしれないけど……」

「一松……」


そんなバカップルな兄と弟を見て「虎に喰わせてぇ」と本気で思う一松と、その気持ちは充分よく解るチョロ松なのでした。




蛇足


次の日の朝刊に【ずざんな管理のサーカス経営者逮捕】【逮捕直前に何者かに襲撃される】という記事が小さく載せられていたが、チラシくらいしか見ない松野家の六つ子の目にそれが留まることはなかった。






END