Philanthropic?No!No!

たとえば僕がキミを嫌いになって、もう一度好きになれば、あなたは嬉しいと思ってくれるのだろうか……


たとえば僕がキミを忘れて、もう一度思い出したら、あなたは幸せに感じてくれるのだろうか……


そんなこと考えたって無駄なんだ


だって僕はキミをずっと嫌いにならない、ずっと忘れたりしない


最初から最後までキミが好きだよ、あなたのことを憶えているよ、キミしかいないよ


果たされない約束の方が多くても、お互い様のことだから、それすら嬉しいって思えるんだよ


たとえばあなたが青い空なら翳ってしまっても雨が降っても雪が降っても傘もささずに、僕はキミに留まりつづける


僕はあなたに留まりつづける




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白い靄が広がる中を僕はふよふよ飛んでいた。

これはきっと夢の世界、靄が晴れて僕らの部屋の床が見えた。

ストーブで温められた部屋に僕とカラ松兄さんと一松兄さんと十四松兄さんがいる。

今よりずっと幼い頃の姿だけど見分けがつく。

高い声でケラケラ笑う僕らは自分で言うのもなんだけどカワイイ……中身はとんでもない悪ガキだって知ってるんだけど、これならちょっとくらいの悪戯も許しちゃうな。

カラ松兄さんは辞典みたいな大きな本を膝の上で開いてみんなに見せていた。

あああれは憶えてる、父さんが買ってくれた百科事典だ。

誰かが本を指差して言った。


“ペンギンは昔は飛べてたのに今は飛べなくなっちゃったんだって!”

“パイナップルって松リンゴっていう意味なんだって!”

“パフェって名前はパーフェクトからきてるんだって!”


そうそうこんな感じで百科事典というより雑学辞典みたいな内容で、読んでいてとても楽しかったんだ。

クスクス笑いながら見ていると、小さい頃の僕が「あ!」と言ってカラ松兄さんの膝の上から百科事典を奪った。

一人でジッとあるページを見詰めたあと、キラキラキラキラと目を輝かせてみんなに向かって本を見せる。


“見て見て!この木!唐松(カラマツ)って言うだって!カラ松と一緒だよ!!”


とても嬉しそうな僕の顔を見てカラ松も笑ってた。

僕あんな顔してたんだ、恥ずかしいなぁ。

この後の事はなんとなく憶えてる、たしか一松兄さんが鳥のジュウシマツを見つけて、十四松兄さんが模様の市松を見つけて二人とも嬉しそうに僕に見せてくれて、椴松(トドマツ)も見つけてみんなで喜んでくれたんだった。

ていうかこの百科事典すごかったね、六つ子のうち四人のことが載ってるんだもん。

おそ松兄さんとチョロ松兄さんは家で読書するタイプじゃなかったから(なんて言ったらカラ松兄さんもだけど)見なかったけど、見せたらひょっとして拗ねちゃってたかもしれない。


ああでもそっか、僕がそれを唐松だと知っていたのはあの百科事典のお陰なんだ。




《ピピピ》


ここで携帯電話のアラームが鳴った。

すぐに切らなきゃ兄さんに怒られちゃう、手を伸ばして冷たいソレを自分の顔の前まで持ってくる。

六時か、そろそろ起きなきゃね。

まだまだ熟睡中の兄さん達を起こさないように布団から抜け出して着替えて一階に下りる、顔を洗って、朝ごはんの後にどうせまた磨くんだけど歯磨きをして台所に向かった。

六枚切りの食パンの一切れをトースターで焼いてる間に水を一杯飲んで薬缶でお湯を沸かす。

インスタントスープとインスタントコーヒーの粉をスープ皿とカップに入れて、昨日の残りのサラダを台所のテーブルに乗せたところでパンが焼けた。

パンを皿に乗せてジャムを塗ってる間にお湯が沸いて、それをスープ皿とカップに注ぐ、カップには半分くらい牛乳も入れてコーヒー牛乳にする。

みんなで食べるときは居間だけど一人で食べるなら台所でいい、寒いけど、片付けとか面倒くさいし時間が勿体無い。

二十分くらいで食べ終わって使った食器を洗って拭いておく、冷蔵庫から水の入ったペットボトルを取り出して一緒に降りてきたリュックの中に入れた。

歯を磨いてトイレが済んだら出発だ。


僕は会いに行く、ほっておけないアナタに――


「おはよ!また来たよ」


家を出て一時間足らずの場所にそれは植えてあった。

ジョギングコースにもなってる道から見える廃れた神社の隅に生えている一本の“唐松”の木。

横切る度に見ていた木が一週間くらい前に風のせいか雪のせいかわからないけど倒れかけていたのを発見したんだ。

この神社は近所のおばあちゃんが季節に一度掃除をするくらいで管理をする人を見かけたことはない。

きっとおばあちゃんじゃこの木を助けてあげられないと思った僕はインターネットを頼りに近所のホームセンターの材料を使って支柱を作った。

ほら神社にある木がピンチなのに見て見ぬふりするなんて罰が当たりそうじゃない。あんまり信心深くない僕でもほっておくのは怖いから助けてあげたんだよ。

けしてこの木がカラ松兄さんと同じ名前だからなんかじゃない。


「だいぶ良くなったね……もう大丈夫かな」


ここ一週間毎日様子を見に来てて、いいのかわかんないけど周りの草を取ったり肥料もあげてたから回復も早かったみたい。

そんなとこはカラ松兄さんそっくりだね、なんて思って僕は折りたたんでいた足を伸ばして立ち上がった。


「じゃあね唐松、元気でね」


最後に木の肌を撫でて僕は踵を返した。

今日はこのままウォーキングでもしよう、折角ジムに入会したんだからソッチに行けばいいのに、たぶん僕はひとりで歩く方が性に合ってるんだと思う。

だけど自分のペースで歩こうとしても、どうしても目の前にあの人の背中があるように思えて早く歩いてしまう、家に着く頃には汗だくになってた。

庭で素振りをする十四松兄さん、縁側で寛ぐ一松兄さんに声を掛けて玄関をくぐる、おそ松兄さんとチョロ松兄さんは居間で昼ドラの泥沼シーンを観ながら爆笑していた。

うちの兄はどういう神経をしてるんだろう、いやたまにシュールなギャグに見えることあるけど爆笑する程ではなくない?

なんて思いながら二階に上がって、服を脱いで汗を拭くシートで拭いていると、部屋の障子が開いた。

開けたのはカラ松兄さんだった。

まあノックする習慣とかないからいいけど、着替え中に遭遇するのは恥ずかしい、というかカラ松兄さんの着てる服初めて見るものだ。

パンツしか履いてない僕に一瞬ビックリしたような顔をしたカラ松兄さんだったけど、次第にその顔が今にも泣いてしまいそうに歪む。


「ど、どうしたの?兄さん?」

「トド松ぅ〜〜俺を見捨てないでくれぇ〜〜」


と言って飛び掛かってきた。

僕はそのまま背中からドンと床に倒れる、痛い。

え?なにが起きたんだ?とカラ松兄さんを見上げて、僕は違和感に気付く。

あれ?この人カラ松兄さんなのかな?


「誰?」


顔付きはカラ松兄さん、声もさっきの泣き方もカラ松兄さん、他の兄弟が真似てるのかと思ったけど、それなら服装も変えてる筈だし……ていうか裸で誰だか解らない人に押し倒されてるこの状況なんなの!?


「トド松……」

「いや、だからアナタ誰だよ?」


カラ松兄さんだったら殴るし、カラ松兄さんじゃなかったら叫ぶ。

僕がそう思っていると……


「トド松ー?今なんかデカい音したけど何かあったー?」


開けっ放しの障子の向こうからおそ松兄さんが覗いてきた。

チョロ松兄さんや一松兄さん十四松兄さんも付いてきてる、うちの兄弟カルガモか……って違う、そうじゃなくて……やばい。


「嘘……だろ」

「マジで!?」


カラ松兄さんが、裸(パンツ履いてるけど)の僕を押し倒してるように見える筈だ。

しかもこの人涙目だし僕は背中痛くて涙目だし、非情にやばい。


「やるなクソ松のくせに」

「セクロス!?セクロスすんの!?」


昼ドラで爆笑していた長男と三男は深刻な顔をしているし、次男を侮蔑してる四男は尊敬の眼差しを送ってくるし、五男はやたら嬉しそうに聞いてくるし、なんでだよ。

いや、みんなが僕の気持ちに気付いてたからってのは解るよ、おそ松兄さんとチョロ松兄さんはどうせ事故だろうと思ってるけど、好きな人から事故で押し倒された僕の気持ちを察してるんだろうなって解るよ、けど闇松お前はカンペキおもしろがってるだろ!

そう思っていると、十四松兄さんが不意に首を傾げて、僕の上にいる人に訊ねた。


「あれ?カラ松兄さんじゃないんスか?」


ああやっぱり十四松兄さんが言うならそうだよね!!蹴り飛ばすの決定!――と、脚を折り曲げた所で、その人はあっさり僕の上から退いた。


「ここにもカラマツって奴がいるのか?」


そんなことを聞くので僕や十四松兄さん以外もマジマジとその人の顔を見て、カラ松兄さんとはどこか違うと解ったようだった。

みんな自分と同じ顔をした人を見るのは慣れているけれど


「俺の弟に一人いるけど……お前は誰だ?」


おそ松兄さんが訊ねると、その人はこう答えた。


「俺は唐松、コイツに助けられた唐松の精だ」

「はあ??」


おそ松兄さんとチョロ松兄さん一松兄さんの声がハモった。

心当たりのある僕と、心の綺麗な十四松兄さんはすぐ納得したようだ。

以前、チビ太とカラ松兄さんの所に花の精がやってきたことがあるから信じられないことじゃないけど、多分みんな僕が松の木を助けたことに驚いてるんだろうと思う。


「お前……いくらカラ松と同じ名前だからって植物に対してそんな優しさ持ち合わせてたんだな」

「失礼だね!僕これでも自然が好きなんだからね!!」


失礼なことを言うチョロ松兄さんに言い返してから僕はその唐松っていう男に視線を合わせた。

なんで可愛い女の子じゃないんだよ、チビ太とカラ松兄さんのパターンを考えたら押しかけ女房みたいになる筈だけど、男にそんなことされるのはゴメンだ。


「すみません、植物とお付き合いはできませんので出て行ってください」

「え?」


僕はそう言うと唐松は驚いたように目を見開き。


「別に俺はお前と付き合いたくて来たわけじゃないが?」


なんて言いやがった。


「うっわトッティ勘違い恥ずかしいー」

「恩返しって考えても男に付き合ってほしいなんて言わないだろ普通」


おそ松兄さんとチョロ松兄さんがここぞとばかりに馬鹿にしてきた。

一松兄さんはニヤニヤ笑ってる、やっぱりこの兄弟の中で僕の味方は十四松兄さんだけだ。


「じゃあ何しにきたの!?アナタの本体まだ全快してないんだからこんな所に来る暇あるなら自分の回復にあてなよ!!」


苛々しながらも一週間世話をして情が移ってるからか自然とそんな言葉が口から出てきた。

すると唐松は笑顔になって、僕の頭を撫でてくる。


「いや、お前のおかげで体調もすっかり良くなったよ、ありがとうトド松」


その優しい声と顔があんまりにもカラ松兄さんに似てるから、僕はその手を振り払うことが出来なかった。




それから僕が着替え終わった頃にカラ松兄さんが帰ってきて唐松を見て驚いていたけれど、ドブスな花の精と同じような存在だと説明するとすぐに納得したみたいだった。

そして「この松を助けてやったのか、トド松は優しいな」と笑いかけてくれる兄さんに僕は「別に」とそっけなく答えた。

兄弟が全員揃ったところで唐松がうちに来た理由を説明してもらう、勿論倒れかけていたところを助けてくれたお礼をしたいという気持ちもあるけれど、実は僕を見込んで頼みたいことがあるんだとか……いや、見込まれても困るんだけどね。


「実は俺には生き別れになった恋人がいるんだ」

「へー」

「俺達は同じ苗木問屋にいて、皆おなじ山に植えられる予定だったんだが何故か俺だけこの街の神社に植えられることになってしまって」

「へー」


唐松の昔語りに他人の恋バナを聞くとテンションを下げるおそ松兄さんとチョロ松兄さんは興味なさげに相槌を打っている。


「……」

「それでも神社の神主の生きてるうちはご主人の為にあの場所で生きようと思っていたんだが、神主が死に神社が廃れ、もうあそこにいる理由もなくなってしまった」

「そっか」


恋バナは苦手でも孤独な気持ちはよく解る一松兄さんの声は唐松に同情しているようだった。


「そして、この間大雪によって俺は倒れかけ、死を覚悟したんだが」


そこで言葉を区切り僕の方を見た。


「トド松に命を救われた」

「はぁ……」


なんて言われても、そんな大それたことはしていないと思う、チビ太が花に水やったのと同じことじゃん。


「トド松は俺を唐松と呼び、他人事とは思えないと言って献身的に看病してくれた」


なんか凄い恥ずかしい事を言われた気がするけど、兄さん達がニヤニヤしながら僕の方を見てるけど、当のカラ松兄さんはうんうんと頷いてるだけだからセーフだ。

こういう時この人が本当に鈍くて良かったって思う、いつもはムカついちゃうんだけどね。


「そして今日、だいぶ回復したからと言って別れを告げられた時に思ったんだ……待ってくれトド松!お前がここで俺の本体の世話をしてくれていたら俺は安心して恋人を探しに行けるんだ!!……とな」

「待って、その話じゃ恩返し分がゼロなんだけど」


そりゃ見返りを求めて助けたわけじゃないけどさ!もっと感謝が先に来てよくない!?助けてもらっといて更なる要求するとかあのドブスと一緒だよ!!


「そうか、つまりお前は唐松ウッドを探しに行きたいんだな」

「唐松ウッドってなに!?」

「でも唐松はウッディがどこにいるか知ってるんスか?」

「トッティみたいに言わないで十四松兄さん……」


カラ松兄さんにはキツめに十四松兄さんには柔らかめにツッコミを入れる。


「ああ、自分も植えられる筈だった山の名だからな、場所の目星も付いている」


そうか、ならよかった……日本にある膨大な量の木の中からたった一本を探そうとしたらきっと何百年かかっても見つけられない。


「ちなみにどこだ?」

「北海道の地方にある小さな山だ」

「遠いな……」


カラ松兄さんが眉を顰める、お人好しの兄さんのことだからきっと唐松の心配をしてるんだろう。


「まあ仕方ない、俺がいた苗木問屋は北海道にあったし、それに北海道は椴松を育てるには最適な環境だからな」


――え?今なんて言った…?


「もしかして唐松の恋人って椴松の木なの?」


と、僕が感じた疑問と同じ事をおそ松兄さんが訊いてくれた。


「ああ」

「名前は?」


今度はチョロ松兄さんが訊ねる。


「椴松」

「まんまかよ」


最後に一松兄さんが呆れたように呟いた。

まあ普通は木に名前なんて付けないから、そのまま唐松と椴松って呼ばれるよね……うん。

あはは……なにそれ。


「そうか……唐松の恋人は椴松……」

「畳みかけてこないでカラ松兄さん!!!」

「え?」


何か問題でもあるのか?と言うように首を傾げるカラ松兄さん。

嗚呼この人本当に全然なんとも思ってないんだなぁ……


「トド松お前……」


僕が虚しさを感じていると、横から唐松に声を掛けられた。

ああこっちの“カラマツ”は今ので何かを察してくれたみたいだった。

不安げに、カラ松兄さんとそっくりな瞳で見つめてくる様に心が揺さぶられた。

ドライって言われる僕でも自分と同じ顔にこんな瞳をされ続ければ助けてやりたいって思うじゃないか。


「北海道は陸続きじゃないから、ぜったいどっかで乗り物に乗らなきゃいけないよ?そんなお金あるの?」

「そうだな……今でもたまに神社の賽銭箱に入れてくれる人間がいるから少しは……」

「僕達と同じ顔で賽銭泥棒なんてしないでよ」


チョロ松兄さんが横から割り込んできたが、その通りだ。

すると唐松は途方にくれたような表情をする、それだってカラ松兄さんに似ていたのがいけなかった。

気付くと僕は溜息交じりの声を出していた。


「仕方がないなぁ……丁度僕も北海道行ってみたいと思ってたんだ」


自然と口を吐いた言葉は、なんだか子どもを甘やかすみたいに響く。


「へ?トド松??」


おそ松兄さんの驚いた声が聞こえる、きっと一松兄さんも隣で目を見開いてるんだろう、十四松兄さんは笑ってくれてるかな。


「僕もアナタを助けた責任があるからね、一緒に探すの手伝ってあげる、どうせ暇だしね」

「ほ、ほんとうか?」

「うん!その方が早く見つかるでしょ?アナタの本体のことは十四松兄さんに頼んでおけば大丈夫だから」


そう言うとおそ松兄さんが拗ねたように呟くって僕は知ってる。


「おい長男さしおいて五男を頼るんかい」

「だって十四松兄さんは一番信用のおける兄さんだもん」


それにこう言えば負けず嫌いのおそ松兄さんやチョロ松兄さんも世話してくれるでしょ?


「……ていうかお前本当にコイツにくっついて椴松を探しに行くつもりかよ」


一松兄さんが睨んでくるけど、これは多分心配して言ってくれてるだけだ。


「うん、山とか好きだし」


美味しいもの多そうだし、温泉もあるし、と思っていると、唐松から両肩をガシっと掴まれた。


「ありがとうトド松!!お前は顔だけじゃなく優しいところも俺の恋人に似ているな!!」

「え?」


その言い方だと、まさか……――


「まさか椴松も僕と同じ顔をしてる……とか?」

「この世に何人ソックリさんがいるんだよ俺達……」


なんていう僕ら兄弟の反応も聞こえていないみたいで、唐松は満面の笑顔で「よろしくな!!」と笑いかけてきた。

なんだか懐かしいものを見た気がする、強引で豪快で自分勝手で明るくて、笑顔がすごく素敵だったかつてのカラ松兄さん。


「アナタも……僕の相棒に似てる」


懐かし過ぎて、自然と目を細めると唐松は気を良くした様子で「じゃあ今日から暫く俺がお前の相棒だな!!」と言って僕に抱き付いて――


「ストップ!!」


――これなかった。

何故ならカラ松兄さんが横から僕の身体をグッと引いたからだ。

唐松は今まで僕が座っていた場所で倒れてる。


「カラ松兄さん?」


ビックリして見上げるとカラ松兄さんは唐松の方を見ていた。


「そのお前の恋人探し俺も手伝うぜ!」


いや、倒れてる人に対して親指立てても見れないし、至近距離で決め顔見せてこないでよアンタ無駄にカッコイイんだから!


「って、カラ松兄さんも一緒にくるの?」

「ああ?」

「なんで?」

「そりゃあ可愛いブラザーを一人試される大地に送り出すなんて危険だからな」


等と言っているけど、多分カラ松兄さんも観光がしてみたいんだろうなと思う。

まったく仕方がない人だねえ。


「資金のことなら心配するな、この間イヤミたちから貰った慰謝料がまだ残っているから暫くの旅費にはなるだろう」


うん、八百万を六人で山分けした分が百万くらいはあったよね、全部スッたおそ松兄さん以外。

僕もそれ使おうと思ってたから解るよ。


「まあ足りなくなったら現地で働いて稼げばいいのだし……」


そうだね、僕とカラ松兄さんなら他の兄弟よりは真面目に働くタイプだし日雇いの仕事でも見つけてれば長期間になっても大丈夫そう。


「心配しなくていいよ、唐松は食費かかんないし野宿でも平気だろうから交通費以外は僕ら二人分で賄えるって」

「ちょっと待て酷くないか!?」


自然と、カラ松兄さんと一緒に行くことを容認したようなことを言ってしまった自分に驚いていると、唐松が起き上がって抗議してきた。


「食事はなくて構わないが寒空の下で野宿はしたくない」


そういう自分の欲求を恥ずかしげもなく言ってくるとこも昔のカラ松兄さんっぽいよ唐松……


「それに」


と、言って唐松は僕の耳元に口を寄せてくる。


「お前カラ松と二人きりの部屋に泊まっても平気なのか?」


そう囁かれ一瞬で僕の身体は薬缶の水のように湧き上がった。

やばい絶対これ顔赤くなってるやつだ!!

ていうかバレたの!?この数十分の間に僕がカラ松兄さん好きってバレたの!?

……あ、そういえば唐松本体の世話をしながら僕の好きな人のこと延々と語ってた気がする……人間には話せないけど植物ならいいかって……もう我ながらイッタイねえ!!


と、混乱しているとコツンと額に何かが当たった。


「どうしたトド松、大丈夫か?」


それがカラ松兄さんの拳で、そのまま熱はないな?とカラ松兄さんから額と額をくっ付けられた時から、僕の意識はだんだんフィードアウトしていった。


「ひっ」

「トド松!?」

「おい!」


カラ松兄さんと唐松の焦ったような声と、十四松兄さん以外の笑い声が聞こえる……うちの兄達やっぱり悪魔だ。

そしてごめんね、これくらいで気絶するようじゃカラ松兄さんと二人部屋なんて無理だね、ちゃんと三人で泊まろうね唐松。


最後にそう思って僕の意識は完全に途切れたのだった。




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それから僕らは北海道へ行き、一通り観光を満喫して(早く椴松を探しに行きたいという唐松の言葉はスルーされた)


椴松が植えられた山へ行ったんだけど、このとき椴松は既に伐られていた後だった(山の持ち主から椴松が植えられた年の木は全て伐って出荷したと聞いたのだ)

意気消沈して赤塚市に戻ってきた僕らが、椴松の木が唐松の植えられている神社を立て直す材木に使われることを知るっていうオチがあるんだけど、長くなるから割愛するね。


最後まで読んでくれてありがとう。





END