キスミーダーリン
せいかさんリク「カラトドのこれでもかというほどの甘いやつ」です。ついったさんで「いいねされた数だけ作中でキスさせる」タグをつかった結果4いいね貰えたので4回キスさせました。トド松が八割り増しくらいで乙女なので注意です。気持ち程度の数字松要素がありますが兄弟愛的な感じです



いきつけの銭湯がボイラー点検で休業、というわけで今日は家族全員が家風呂に入る日だ。

八人も家族が居れば全員が入り終わるまで何時間もかかるため昨日の夜から母から今日は全員早めに入浴するように言われていた。

そう命じた母がまず夕方に入り、長男、仕事から帰って来た父、三男が入り終えた頃にはもう夜更け、ちなみに四男と五男は昼間に汚れた猫を洗ってそのまま自分たちもシャワーを浴びたから今日は入浴はしなくていいそうだ。

夕食も済み、最後にゆっくり入浴しようと思っていたトド松だったが、二番目の兄が懐かしの歌謡曲特集に夢中になっていたので先に入ることにした。

折角ひとりなのだからいつもより入念にマッサージしよう、カラ松と付き合い始めてから以前より美容に気を遣い始めたトド松は脱衣所でルンルンとしたオーラを醸しながら服を脱いでゆく。

普段は紳士的で優しいカラ松もお風呂上りの吸い付くようなモチモチのお肌で頬擦りすればキスの一つや二つしてくれるに違いない。

そう思ったトド松は良い匂いのするシャンプーで髪を洗い、肌を傷付けないよう優しく体を洗い、暖かい湯に浸かりながら全身をマッサージした。

もともと風呂は得意ではないので短時間で出てしまうが、その後ボディクリームを塗って髪の毛を丁寧に乾かしていればそれなりの時間がかかる。

トド松が全てを終えて居間に行くと丁度カラ松が観ていたテレビも終了したところだった。


「お、出たな……俺も入ってくる」

「う、うん」


入れ違いで部屋を出て行ったカラ松を見送り、とりあえずお茶でも飲んで彼を待っているかと炬燵の中に入る。

暖かい緑茶を啜りながら、そういえば灯油は大丈夫かな?カラ松兄さんお風呂上りに無くなったら可哀想だから入れといてやるか……とメモリを見てみたら満杯になっていた。

もしかして彼も同じ事を考えてトド松が入浴中に灯油を入れてくれたのかと思い顔がカァっと赤くなる、他の兄弟はもう二階に行ってしまってあと居間に来るのはトド松しかいないと解っていてそうしてくれたのだ。


「イッタイよねぇ……」


と甘やかな声を出しながらペタリと横になった。

さっきまでカラ松が使っていた座布団を二つに折って枕を作り頭を乗せる。

まだまだ寒い日が続くと教えてくれるテレビの天気予報の声を聞きながらトド松はゆっくりと目を綴じた。

お風呂でのマッサージを入念にしていたからか、ドライヤーが気持ち良かったからか、はたまたいつものように銭湯から家まで寒い道を通ってきていないからか、いつもはまだ兄弟と遊んでいる時間だというのに眠気をきたしてきた。


(炬燵で寝たら風邪引いちゃうな……まぁお風呂戻ってきたら起こしてくれるでしょ)


先程までカラ松とキスしたいと思っていたのに今は眠気に逆らえず、炬燵布団を肩まで被り目を閉じた。


(カラ松兄さん……)


傍に恋人はいないがその代わりに愛しい恋人がいる夢の中に移動することに成功したらしい、トド松はそこでカラ松の隣に座ってる。

やはりこの人の隣が一番落ち着くなと思っていると不意に目が合い微笑まれる、ああ悔しいけれどカッコイイと本気で思う、同じ顔の筈なのにどうしてこうも男らしいのだろう。

自分だって女の子相手だったらきっとリードできると思っていると、それを咎められるように眉を寄せられキスをひとつ落とされた。

驚いて目を見開くと笑いと共に息を吐きつけられ、今度は甘い言葉を吐きながら口付けてくる、いつもならイタイとはね除けるそれも夢の中なら素直に受け入れられる。


(うれしい、きもちいい、カラ松兄さんからのキス)


イタくて鈍感で遠巻きに見られがちな兄の為、自分はもっとちゃんとしていたいのに、この人に触れられるとダメになる。

いつのまにか腕の中に閉じ込められていて、あたたかい恋人の体温にトロトロにとろけそうになる、この人はきっと毒針を持ったハリネズミだ。

この熱は現実ではきっと炬燵の温もりなのだろう、どんなにねだっても夢の中のカラ松は舌まで入れてくれなくて口の中は生ぬるいまま。


(ねえカラ松兄さん足りないよ、もっと深いのがほしい)


なんて現実世界では言ったこともないような台詞を口付けの合間に言っても、ただ微笑まれ頭を撫でられるだけ。

ああもの足りない、けれど撫でる手が心地よい。

やわらかい指が目元を掠った時、トド松の意識はぽんと浮上した。


「ん……」

「ああ起こしてしまったか、すまない」


目を開けるとカラ松が自分を見下ろして笑っていた。

風呂から上がって居間に戻ったらトド松が気持ちよさそうに眠っていたから頭を撫でていたのか、他の場所も開いているのにわざわざ自分の隣に座ったのかと思うと正直たまらなかった。

けれど、まだなお頭を撫でつける手が心地よくてなかなか頭が覚醒しない。

そんなトド松にカラ松はフッと笑って手を離すと「アイスがあるがどうする?お前も食べるなら持ってくるが」とハーゲンダッツのバニラを掲げてみせてきた。

炬燵でアイスなんて最高なのは解かるけれど今は眠気の方が勝っているし、風呂上りの次男に寒い台所まで取りに行かせるのも憚られる、トド松は「歯磨きしたからいい」と言って断った。

彼はそうか、と納得してアイスを食べ始める、トド松はカラ松の食事している姿を見るのが好きだった。

音を立てて食べるのは行儀がいいとは言えないが箸の使い方は美味いし、自分より大きな口が食べ物を吸い込んでいくのを見ていると面白いと感じた。

特に好きなのは肉に齧りついているところだったけれど(柔らかい肉に歯を立てて食いちぎる様や肉汁を啜っている唇がセクシーだなんて口が裂けても言えない)お菓子や甘いものを食べている姿も好きだ。


(甘いものを食べている人ってどうしてこう幸せそうなんだろう、こっちまで幸せになってくる)


一瞬、あまいうまいと言い合いながら自分の作ったスウィーツを食べる一つ上と二つ上の兄を思い出して微笑ましく思っていたトド松だったが、すぐに意識はカラ松の方へ傾く。

まだ覚醒していない頭でアイスを口に運ぶ姿をじっと見ていた。

小さなスプーンがカラ松の唇に吸い込まれ空になって出てくる、きっとアイスは彼の舌の上で溶かされ唾液と混じって喉を通ってゆくのだろう。

カラ松の自分より大きな口、少し薄い唇、滑らかな白い歯、そして熱を持った舌、自分だってその全てに触れたい。

喉を伝い体の奥へ溶けてゆきたい、甘い甘いそれになって……


「いいなぁ」


思わず呟いたトド松に視線を落として、カラ松はやはりアイスが食べたいのかと思った。

しかしトド松はまだ眠たそうに、ただ目線だけは熱くカラ松の唇を見ながら、とろけるように口にしたのだ。


「アイスになりたい……」


そう言って切なげに瞳を細めた。


「――ッ!?」


カラ松の頭の中がカッ赤く染まる。

なに言ってるんだトド松は、いいなぁと心底羨ましそうに、この唇を見詰めて、食べられるアイスになりたいと……?

カラ松はごくりと甘い唾を飲み込むと、そっとトド松の前髪を上げた。


「……カラ松、兄さん?」


そこでトド松はハッと気付いたように目を見開いた。


「あ、僕、今、声に」


短く区切られた戸惑いの声に、今のが計算でもなんでもない彼の本心だと知る、その瞬間なにかが弾けたようにカラ松はトド松の唇にむしゃぶりついた。

トド松は突然落ちてきた口付けに「グムッ」と声を上げる、いきなり舌を突っ込まれ、思わず噛んでしまいそうになるのを寸前で抑えた。

これはヤバイ、同じ形をした、けれど肉厚な舌が己の舌を器用に絡めとる、夢の中で欲しかったキスの何倍も激しいモノが今与えられている。

けれど寝ている状態なので呼吸をしにくい、苦しい。

肩を押せばカラ松は一旦離れる、唇と唇を結ぶ糸が切れてトド松の頬を濡らした。

息を吐けばほんのりとバニラの香りが鼻先を抜けていった。


「あっま……」

「……」


そう呟いて、ゆっくりと深呼吸をする、カラ松はトド松の背中に手を回して上体を起こさせた。

その手をそのまま後頭部へ回し、自身は体を捻り顔を見合わせる。


「アイスになりたい……ってどういう意味だ?」

「それは……ん!」


トド松が答える前にトド松の口に少し溶け出したアイスが押し込まれ間髪入れずにカラ松の舌も挿入してきた。

舌の上でアイスが溶けるうちに、歯列をなぞられ口蓋頬肉などをつつかれてゆく。

質問しておいて口を塞ぐなんて、きっとキスで頭がぐでぐでになった所で答えを聞こうという魂胆だ。


「はぁ……トド松」


その魂胆どおり、唇を離すと元々寝惚けていたトド松はマトモな思考回路を失っていた。


「なんで?アイスになりたい?」

「……だ……って」


羨ましかった

カラ松兄さんに舐められて

溶かされて……


息も絶え絶えにそんなことを言ってくる弟の声を堪らない気持ちで聞いていた。


ぼくだって……カラ松兄さんに……


「たべられたい」


呼吸が完全に整ったところでトドメの一言を刺される。

性欲にまみれたようなドロドロの顔で言われたならまだ良かった。

しかし今のトド松の顔はとても無垢で、透き通っていて、穢すには惜しいけれど、塗り潰してしまいたい。


「俺は……」


臆病なトド松はカラ松といると彼がどんな言動をしてもいいようにいつも身構えている、ただ二人きりになると無防備に体を委ねる時もあった。

王で王手をとろうとするような素直な気持ちを見せてくれる、そんな時のカラ松の心臓は早鐘の如く打たれ続ける。

嗚呼、本当に食べてしまえたらどれほどいいか!


「んんっ」


でもそんなことをしたら、もうこの唇に触れられない。

カラ松はトド松の口を覆うように塞ぎ、食む食むと咥え始める、刺激は少ない分トド松の思考回路を通常にするのに丁度いい、そして恥ずかしい。


「トド松」

「……カラ松兄さん」


熱っぽい視線を送ってくる弟の瞳に映る己の、なんと浅ましいことか。

じっと窺うように見つめているとトド松が可笑しそうに微笑む。


「いいよ」


たぁんとおあがり?

なんて聞こえてきそうな表情でカラ松の唇に指を滑らせる、いつも不敵に釣り上がっているそれが、今はポカンと開いている。

かわいいなぁ愛しいなぁと思っていると、兄は弟の指に一瞬吸い付いて、口角を上げた。


「お前だって欲しいんだろ?」

「……ふっ」


カラ松がピンクに色付いた頬に触れると柔らかい肌がぴたりと吸い付いてきた。

ああやっぱり付き合う前よりも気持ちよくなってる、胸の前で重ね合わせた手だって何時の間にか恋人繋ぎがしっくりくるようになった。

自分を可愛くみせることに余念のない努力家な弟の身体が日々自分好みになっていっている。


そしてこの唇の味を知っているのは自分だけ――


二人が同時に目を細め顔を近づけた、その時だった。


「カラ松ー?トド松ー?もう寝るぞー?お前らいないと隣ふたつ分空いて一松がさみしいってー!」

「は?なに言ってんの?」

「ギャアー!!」

「おそ松兄さん!?」

「にいさーん!」


という声に二人の体はピシャリと固まる。

いつまで経っても二階に上がってこない二人が気になったのか長男が階段の上から呼び掛け、その内容のせいで四男が蹴り倒し、階段から落ちたのだろう。


「だ、大丈夫か?おそ松」

「もーなにやってんの?」


丈夫なおそ松だから無事だろうがこれで怪我でもしていたら一松が落ち込むだろうと炬燵を出て廊下へ続く襖から顔を出すと案の定階段の下で伸びていた。


「もー大丈……ぶ!?」


トド松がおそ松兄に駆け寄ろうと襖に手をかけたその時、後ろから襟をグイッと引っ張られ、そして……


「ふんんっ!?」


唇を塞がれた。


「おーい、長男様が満身創痍で倒れてんのに何やってんだ?お前ら」


おそ松は二人の体が半分くらいしか見えない位置に寝そべっているが、なんとなく末っ子が何をされているのか察していた。


「……ん、カラ松にいさ……待って」

「ふっ、お前のそんな可愛い声をこれ以上兄貴に聞かせられないな」


と、言ってひょっこり襖から出てきたカラ松の腕の中にはトド松が閉じ込められてきた。


「チョロ松、俺たちはもう少し此処にいるから先に寝てていいぞ、あと今日だけ寝場所変わってくれ十四松」


二階に向かってそう声を上げるカラ松、それを聞いてトド松がびくびくと震えているのがおそ松の目には見えたが怯えてるわけではないというのは解かる。


「了解ー」

「あいあい!一松兄さんの横っすね!たはーー照れるっすねー!」

「いや、別に寂しくはないから……おそ松兄さんが勝手に言っただけだから……」

「一松兄さんの横うれしーなー!」

「……く、クソまつ逆に殺す……ッ!!」

「物騒なこと言ってないでさっさと寝るよ二人とも、おそ松兄さんいつまで這い蹲ってんの?自力で上がって来れるでしょ?」


上から聞こえてくる弟達の声を聞いて、なんだか切なくなってきた長男。


「おそ松兄さん、おやすみ」

「おやすみなさい」


そう言って居間に入り、襖をピシャリと締めた次男と六男。

いったい何をする気なのだろうか……なんとなく察しはつくけれど……カラ松のトド松を見る目が捕食者のものだったし、トド松の目もなんだか期待に満ちてたし。


「……」


おもむろに立ち上がったおそ松は「コイツら明日なんか奢らせてやる」と心に決めたのだった。





END



最後までお読み頂きありがとうございます

書いてる途中何度も「誰だろうこれ?」って思いました

でもすごく楽しかったので本当せいかさんありがとうございます

こんなんでよかったらお受け取りください