海星のダンス5


(六つ子なんだから当然と思われるかもしれない、けど言わせてほしい……あのね僕とカラ松兄さんはずっと対等な存在だったんだ)


身体能力や知力に差はあっても、お互いにない部分を補い合っていた。

相棒だったあの時の中で自分は確かにカラ松に必要な存在で、カラ松は自分に必要な存在だった。

トド松はそれが誇らしく、これから先もずっとそうなんだと信じていた。

カラ松が部活を始めてから一緒の時間は減ったけれどそれでもずっと相棒なんだと信じて疑わなかった。


(そうだ、あのとき僕らが相棒だったのは真実)


思春期を迎え幼馴染のトト子以外の女子の目も気にするようになった頃、トド松は今よりもツラかったと思う。

異性を意識しだしたカラ松が『いいな』と賞するのはいつも甘えん坊で我儘な女の子だ。

トド松もそんな女の子は面倒くさいと思いつつ可愛いという気持ちは理解できたし、大人になって自分の彼女にねだられたら財布ごと渡してあげちゃうかもと思うくらいには我儘な女の子が好きだった。

今になって思うのはトド松のそれは恋情ではなくて、家では一番弱い立場だったから何処かで誰かの優位に立ちたかっただけだったのだろうということ、失礼な話だけれど相手の子も笑ってくれていたからカラ松風に言えばウィンウィンの関係だと思う。

でもカラ松のそれは違う、兄弟の中で二番手だった彼は一番になりたかったのだろうか、一番のなりかたを知らないままに、誰かに必要とされれば必要とされただけ自分の身なんてかえりみず明け渡してしまうところがあった。


(それに気付いた時の嫌悪感は半端なかったよ、なんで兄さんばっかり損しなきゃいけないの?……って)


トド松は何度も忠告をした。

家族からの好意を疑うことはしなくていい、君は確かに愛されている、だけれど他人の好意はそう簡単に信じてはいけない。

目立つ馬鹿は狙われやすいものだ、カラ松のようなお人好しは利用されるだけ利用されて捨てられるに決まってる。

お人好しだからそれすら許してしまえるけれど、そんなことばかりでは自分は傷つくし家族や友達にだって迷惑を掛けるだろう。

だからトド松はイタイ言動や服装を直すよう毎回毎回ツッコミを入れた。

でも昔から頑固だったカラ松はトド松の言うことなんて聞いてくれなくて、自分が正しいと思う道を進んで行った。

きっと彼の内にはどれほど騙されていても許せるような、たとえ利用されているだけでも構わないと思えるような無償の何かがあるのだろう、己の中にないソレに惹かれもした。


(けどさ、それじゃあカラ松兄さんが幸せになれないじゃない……僕だって本当はあんなこと言いたくなかったけど僕しか言ってやる人いなかったじゃない……)


毎日毎日、大好きな人の大好きな部分を否定する度に感じる痛みに耐えて、諦めずに追いかけて何度も声を掛ける、そうしないとカラ松は駄目になってしまうからだ。

けれど彼が選ぶのはトド松の言う現実ではなくて、まだ見ぬ運命の彼女……ありのままの自分を肯定してくれる人の声。

カラ松が望むのは対等な者よりも、誰かに依存しなければ生きていけない自分より弱くて常に守ってあげなければならないような存在だ。


(僕とは対極じゃん……)


トド松は強い、きっと兄達から離れても独りで生きていける強さがある、寂しいと死んでしまうような繊細さなんて持ち合わせていなかった。

自分がそうなりたいと思ってそうなったのだから後悔はしていない、ただカラ松の一緒に居たいタイプではなくなったのだろうと思う、弟でなければとっくに嫌われているかもしれない。




「そろそろ入場の時間だな」

「うん……」


隣に座っていたカラ松に声を掛けられ、思考の渦から浮上したトド松は、ぼうっとその顔を見上げた。

プラネタリウムが始まるまでの時間、昼食を終えた二人は中庭に出て花畑の真ん中に鎮座した円形の劇場に腰かけていた。

周りに様々な木が植えてありポツポツと花を咲かせている、木漏れ日の中で鳥のさえずりを聴き、考えていたことが目の前の兄だなんて笑えない。


「指定席だが、混雑する前に行こう」

「そうだね」


すっと立ち上がり差し伸べられた手をトド松は咄嗟に握る。

思わず付いていきたくなるという意味では昔からなかなかエスコートの上手い兄だったけれど、今はもうこんなに自然とできてしまうのか――

何度もデートの練習をしてやった甲斐があったというものである。


(これがキッカケで少しずつ変わってくのかな)


彼を契機に自分が変わったように、彼も自分を契機に変わってくれるなら、いいじゃないか……この人が自分のことも大切な人のことも傷付けない人になれば上等じゃないか、口煩い弟の本当の願いにもいつか気付いてくれたらいい。

必要とされるだけではなく、必要な人を選んで幸せになってくれたらいい、ドブスでもなんでも構わないから助け合って支え合えるような関係の人を見つけてほしい。

どれだけ恥ずかしくても、カラ松にとっては自慢の恋人だって言えるような、そんな“新しい相棒”を見つけてほしい。


(寂しくて死んじゃうって気持ち、今ならわかるなぁ)


同じペースで隣を歩くカラ松の横顔を見ながら苦笑する、今日の彼は前回のデートよりも楽しそうに見えてトド松の心は少しだけ軽くなった。

一緒にプラネタリウムを観て、それから……どこに行くかは解らないけれど、家に帰る前に全ての決着をつけよう、二人とも晴れやかな気持ちで玄関をくぐれるように……

さよならを言わせて。




プラネタリウムの中へ入ったとき、ふたりして「おお」と声が漏れた。

内部の壁が全て水槽で出来ているというのは事前情報で知っていたが実際目の当たりにするのとは違う。

大小様々な魚たちが悠々と泳いでいる水槽は本格的な水族館クラスの鮮やかさ、ぐるりと取り囲むガラスは継ぎ目が殆ど目立たないものだ。

ふたりは上映前の映画館のように薄暗い通路を歩きながら、水槽の中を覗き込んだ。


「綺麗だね……」

「ああ」


ふたりが座席に着きシートに座ると、背もたれが自動で下がっていく、またふたりして「おお」と声を漏らす。

視界を動かせば目に映るよう普通の水槽よりも背の高い水槽、それに伴い天井も普通のプラネタリウムより天蓋も高かった。

真ん中にある投影機はどういう仕組みなのか三男の自意識みたいに浮かんでクルクル回っているように見える。

暫くすると暗くなるからまだ席についていない人は座ってくださいというアナウンスが流れ、ゆっくりと照明が落とされていく。


今度は声に出さず心の中で感嘆した。

真っ暗になったホールを照らすのは水槽から放たれる青白い光、投影機が起動し、天井に水槽の中の光景を映し出す。

輝く鱗と尾鰭に見とれていると何処からかピアノの伴奏が聞こえてきた。

上映の準備が間もなく整うので携帯電話の電源を落とすかマナーモードにするようにアナウンスされ、トド松はポケットからスマートフォンを取り出し電源を落とす、直前に見た時刻は午後四時、上映が一時間半だからここを出るのは夕方になるなとぼんやりと思う。

晴れているし人気もなかったしカラ松と話すのは先程まで居た円形の劇場でいいか……この茶番にピリオドを打つにはぴったりだ。


トド松がそう思っている内にプラネタリウムの方が始まった。

ぶくぶくという音と共に周囲の水槽の中に泡が立ちその泡がそのまま天蓋まで登ってゆく、水滴が落ちる音が幾つも響く。



《海月の歌》


ポスターにも書いてあったタイトルをナレーションが読み上げる、次男のものに似た低く落ち着いた声だ。

ゆったりしたメロディと一緒に歌声が聴こえてくる。


《わたしはくらげ》

《気ままに旅する星海の詩人》

《波に漂い西へ東へ旅する詩人》

《けれどわたしの星海にはわたしひとり》

《この歌を聴く者もいない》


《わたしはくらげ》

《孤独を愛する星海の唄人》

《命の限り泳ぎ続ける星海の唄人》

《けれどこの歌を届ける者はどこにもいない》



なんだかかなしい歌だった。

天蓋に映るのは満天の星空、観客たちはまるで自分がそのクラゲになったような気分で見上げている。

ナレーターはクラゲになって天体の説明を始めた。

オオグマ座、コグマ座、キリン座、カシオペア、夏の大三角形、ヘルクレス、有名な星座を見ながらクラゲはあの星々の為に歌おうと言った。

けれど星々は遠い空で瞬くだけで、クラゲは自分の唄があそこまで届いているのかもわからなかった。


《海月はいつしか歌うことをやめてしまいました》


あまりに淡々と語るものだからカラ松の胸がギュッとなる、歌うことが好きなら歌い続ければいいじゃないか――だって……他の誰も聴いてくれていなくたって自分自身が聴いてるだろ?


《そんなある日、空から一つの星がクラゲのいる海に落ちてきました》

《しかしクラゲは気に留めず波間を漂うことにしました》


それは大惨事ではないか、なんで平然としているんだとトド松の中のドライモンスターの部分がツッコミを入れる。


《なに無視しているの?わたしはあなたに会いにきたのに》


すると落ちてきた星はクラゲにそう話しかけたとナレーションが言った。

海の星はヒトデと名乗り、クラゲの歌が聴きたいと頼んできた。

クラゲは長年歌っていないから喉が枯れてしまったのだと説明する。


《もっと早く此処にきてくれたらよかったのに》


そう言ってクラゲは波に流されて何処かへ行ってしまった。

ヒトデはクラゲを追いかけて海底を這い出す、波に乗ったクラゲに追いつくのはクラゲが眠っている時だった。

寝ているクラゲにヒトデは必死に話しかけた。


《一度だけでいいから貴方の歌で踊りたいの》


しかしクラゲは無視して眠ってしまう、起きるとクラゲはまた波に乗ってどこかへ行ってしまい、ヒトデはそのクラゲを追いかけて海底を這う。


(馬鹿みたい……)


トド松の心は急激に冷めていく、そんなわからずやのクラゲなんてほっておけばいいのに、そう思った。



《なんでわたしを追いかけてくるんだ?》

《何度も言ってるでしょ?貴方の歌を聴きたいの》


《なんでわたしの場所がわかるんだい?》

《きまってるでしょ?貴方がキラキラと輝いているからよ》


《わたしは貴方の歌を聴きたいの》


《空の星だった頃からずっと貴方の歌を聴いていた》


《一度でいいから貴方の歌で踊ってみたいの》



我儘で可愛らしいお願いだ。

それを聞いたクラゲは諦めて一曲だけ歌を歌った。



《わたしはくらげ》

《夜の海を総べる月もどき》

《私が消えればここは静寂の海》


《あなたはひとで》

《夜の空にときめく光り星》

《けれどいまは小さないきもの》


《わたしは歌う》

《ちいさな星を想って》

《あなたは踊れ》

《月夜の海を掻き混ぜて》



明るい歌声に合わせて、天蓋に写されたオオグマ座、コグマ座、キリン座、カシオペア、夏の大三角形、ヘルクレス、全ての星が瞬き始めた。

ヒトデの笑い声、きっとヒトデは楽しそうに踊っているんだろう。


やがて、クラゲの歌が終わった。



《ありがとう、楽しかったよ》


《そう言ってクラゲは海水に溶けていきました》



《わたしの方こそありがとう、とても楽しかったわ》


《そう言ったヒトデの体ばボロボロと崩れていきました》



壁の水槽の中で泡が音を立てる、天蓋の天体がクルクルと回りだした。

そして……



《やがて、空には新しい双子の星が生まれました》



きっとそれがクラゲとヒトデだったのだろう――




69 69 69 69 69 69




「面白かったな」

「うん……」


上映後、ふたりはコーヒーを買ってまた中庭に出た。

トド松の足はまた円形の劇場へ向かう、今度は観客席ではなくステージの方へ。


「此処、暖かくなれば野外ライブが行われるそうだぞ?お前さえ良ければ観にこないか?」


優しい笑顔で訊いてくる兄は、やっぱりイタイところなんて一つもない。

無理していない、素で接してくれているのが嬉しくて悲しかった。


「そうだね……今度は、みんなで……」


客席とステージの境目で立ち止まったトド松は独りでステージの上に飛び乗った。

そして一段下にいるカラ松を振り返る、夕陽に照らされた弟の顔が眩くて良く見えない、口元だけは笑っているようだけど。


「もう大丈夫だよ、兄さん」

「ん?なにがだ?」


眩し気に目を細めながらカラ松はトド松を見上げた。


「もう僕とデートの練習なんてしなくてもいいってこと、今日の兄さん全然イタくなかったし……この調子でいけば本番も上手くいくよ」

「そうか……そうだな」

「おめでとう、よかったね兄さん、いい加減、僕とデート練習なんてウンザリしてたでしょ?」

「ああ」


解っていたけどハッキリ肯定されるとツラい、けれどコレくらいハッキリしていれば悪い人に利用されなくていいだろう。

別にいいのだ……優しくなんてされない方が、この想いを早く棄てられる。

もう「おしまい」にしようとトド松は目を瞑り、笑顔の準備をする、笑え笑えと脳が命令するのに、心が付いていかない。

焦って失敗なんてしたくない、早く落ち着けと思っていると、指先に柔らかいぬくもりを感じた。



「トド松」

「……」


いつの間にか自分もステージに上がったカラ松から手を繋がれたのだと、驚いて目を開けると彼から優しく微笑まれる。

そして手を引かれステージの中央まで移動させられる。


「なに?兄さん……」


肩を掴まれ向かい合うように立たされたトド松は、兄の顔を見て息を呑んだ。



「トド松、俺は自分の事が好きだ」

「へ?いや、どうしたの?」


真面目くさった顔で急に今更なことを言われてしまう。


「皆に優しくする自分が好きで、皆に必要とされる自分が好きで、自然と戯れる俺もかっこいいと思う、兄弟や女性を甘やかして可愛がる自分のことも好きだし、俺がしたことで喜んでくれるならソイツの為になんでもしようと思う」

「……うん、知ってるし」


そのことでトド松は多分家族一悩んだのだから、きっとカラ松本人よりも思い知っている。


「けどお前はそうされるのをイヤがったよな……」

「……そりゃそうだよ、僕はもう大人の男なんだし」

「それもあるけど、お前は俺とずっと対等な関係でいたかったんじゃないのか?」

「……」

「わからないな……甘やかして可愛がることがどうして対等ではなないってことになるんだ?」

「う……」


それじゃ世の中のカップルの大半が対等ではないことになるぞ?と呆れたように言われてしまう。

別に世の中のカップルの大半が相手を甘やかして可愛がってるわけではないと思うんだけど、と言い返したかったが、そういう問題ではない。


「お前は愛されるのが好きで、大切にされるのが好きだろう?」

「それは……まぁね、その為に生きてるみたいなとこありますし……?」

「だから俺にダメ出ししてるときに痛そうな顔をしていたんだな」


いや、それは違う、痛そうな顔をしていたのは実際カラ松がイタかったからだと言い返したいけれど、思い込みの激しい兄には通じないだろう。


「俺がお前といる時に感じる胸の痛みと同じなんだろうか……?」

「え?」



――トド松はきっとお前に無理させてる今の自分のことが大嫌いだよ――


――だからお前もアイツの前でくらい自分の嫌いなとこ見せたら?――


ふたつ下の弟から言われた言葉を噛みしめる、たしかにカラ松はトド松と一緒にいる自分はあまり好きではないかもしれない。


「俺はお前は強いと思っている、少々のことではへこたれないし、俺がいなくなっても……きっと一番最初に慣れるのはお前だ」

「そんなことないよ!!」


自分自身ずっとそう思っていたことでも他人から指摘されれば抵抗したくなる、それがカラ松からなら尚更だ。


「いいや、そうだろ?解ってるんだ……お前に俺は必要ではないことも、俺がお前の足を引っ張ってるってことも」

「なに言ってんの?」

「でもなトド松、俺がいなくても大丈夫なお前を、俺がいないとダメな兄弟たちと同じく平等に扱っていることは特別扱いにならないのか?」

「……」


本当はトド松が独りで大丈夫だなんて思ったことは一度もない、昔からおっとりしていてドジで転びやすくて、今だって夜中にひとりでトイレに行けないくらい臆病だ。

ドライでいるのも孤独な自分を守る為の精一杯の強がりなんだろう、それでも兄弟に甘えたくないと望んでいる。

カラ松はそんなトド松の想いを尊重したいと思っていた。

尊重できている自分のことが好きだった。


「時々、お前の気持ちなんて無視してしまいたくなるんだ……」


おそ松みたいに自分から構ってもらいにくればいいし、チョロ松みたいに調子に乗りすぎたら叱ってくれたらいい、一松みたいに寂しいときは家に……皆の傍にいてくれればいい、十四松みたいに泣きたくなったら我慢せず大声で泣けばいい。

カラ松はいつだってトド松のことを構い倒してやりたい、怒らせた時は素直に謝れるようになりたい、寂しいなら傍にいる、泣いていたら慰めてやりたい、我儘をもっと聞きたいし甘えてほしい、その分、自分も甘えるから。


そんなことを望む自分が大嫌いで仕方ないのに、トド松と一緒にいるとそう思うのだとカラ松は語る。

兄の話を黙って聞いていたトド松は、その意味に気付き戦慄いた。


「こうして手を繋いでいないとお前がどこかへ行ってしまいそうで心配だし不安だ。お前が俺から離れていくことも他の誰かのモノになることも許さない、そうした方がお前にとって幸せだとしても、この手でお前をその幸せから引き摺り下ろしてやる……」


地獄の底から響く罪人のような声で、懺悔室で罪を告白する敬虔な信者のように顔を滲ませてカラ松は言葉を続ける。


「それは……俺にはお前が必要だからだ」


たとえお前が俺を必要としてなくても――それでもいいから傍にいたい。


「お前が好きだ……トド松」


お前が特別なんだよ――そう言ってカラ松はトド松を抱き締めた。


「……ぼくだって……」


カラ松の広い背中におずおずと手を回しながらトド松もゆっくりと語り始めた。


「……日焼けするのヤダけど兄さんとなら釣り堀に何時間だっていれるし、汚いのもヤダけど兄さんにツッコミ入れる為なら何時間だって釣り堀に潜れるし、イタイ格好されて目立つのヤダけど兄さんの隣を歩けるし、ていうか兄さんの傍から離れたこと一度もないでしょ?」


兄さんが特別だからだよ……?知ってるだろうけど――

カラ松の肩に顎を乗せて耳の中へ吹き込むように囁いた。


「フッ……もう、デートの練習はしなくていいな?」

「うん、まあもう本番になっちゃうしね」

「恋人同士の時間はもっと楽しく過ごそうぜ?」

「そうだね、今までだって楽しかったけど」


次からはもっと晴れやかな気持ちで隣を歩ける。

体を離してジッと見詰めれば、相手も同じ顔して笑っていた。


「では、この瞬間からが本番です」

「はい!」

「折角のステージですから、一緒に踊りませんか?」

「はい……って、えぇ!?」


カラ松はトド松が戸惑うのも無視し、両手を手に取って回りだした。


「ちょ?兄さん恥ずかしいんだけど!?」

「いいじゃないか、ここには俺とお前しかいないぞ?」


満面の笑顔でそんなことを言われては、断れないじゃない。

結局付き合ってしまうトド松は、自分もカラ松と同じで好きな子を甘やかして可愛がりたいタイプなんだと思い出した。

カラ松に悲しい顔をさせる自分は嫌いだけど笑顔にさせられる自分は大好きだ。

カラ松に必要とされる自分が大好きで、でも同じくらい自分もカラ松を必要としている。


(……そういえばまだ言ってあげてなかったね)


このダンスが終わったら言ってみようかな、練習じゃずっと言えなかった言葉。

ずっとずっと“相棒”の頃から思っていた言葉。




『大好きだよ、カラ松』




だから僕を貴方の新しい相棒にしてください












END






最後までお読み頂きありがとうございました

初め考えていた話と全然違う話になっちゃいましたが、書いてて概ね楽しかったので個人的にはOKです


ところで私、場面を分けるときに[69 69 69 69 69 69]って使ってるんですが、カラ&トドリズム思い出すから他のに変えたいです