モンスタークロッシング[5]
此処にきてから幾月か経ち、トド松と十四松は海が毎日変化していることを知った。 山に棲む人が山の様々な表情を知るように街に住む人が街の様々な表情を知るように、海の近くで暮らしていれば海の様々な表情を見る事ができるからだ。 晴天の日は、近所の幼稚園児たちが散歩に来ていたり、散歩をするカップルや老人も多い。 波の高い日はサーフィンをしていたり、波の穏やかな日は観光客も疎らだけど訪れる。 時々漁師や地元の人が地引網をしているところも何度か見た。 砂浜に何も落ちていない時もあれば、流木が沢山流れ着いている時もある。 干潮時と満潮時では海面の水位が全然違う。 けれど、一番に気付くのは海と空の色だ―― トド松はキラキラと輝く昼間の海が好きだと言った。 十四松は紫の光に包まれた夕刻の海が好きだと言った。 どちらも二人の想い人を彷彿とさせる。 今日の海は曇りの海だった。 ――雲の晴れ間から差し込む太陽の光は、たしか“天使の梯子”というのだっけ―― 買い出しの帰り道、海沿いの道を海を見ながら歩くトド松はそう思って微笑んだ。 天使の梯子なんていかにも二番目の兄が好きそうな単語だ。 四番目の兄も意外とそういう単語を好むので見せてあげたら喜ぶかもしれない。 トド松はスマートフォンを構えてカシャリと写真を撮った。 ここに来てから、頻繁に風景の写真を撮る。 職場で知り合った人や、都会にはいない野生生物の写真も撮る。 けれどトド松は自分と十四松の写真だけは頑なに撮らなかった。 もしかしたら、もう一生撮らないかもしれない。 ――だんだん写真の中のカラ松兄さんと違う顔になっていく…… 六つ子で同じ顔をしていても顔付きや体格は微妙に違う。 離れた土地で全く違う生活していればその差はどんどん広がっていくだろう。 だんだんとカラ松の知らない自分になってゆく、トド松はそれがとても怖い。 ずっと、カラ松と一緒にいた頃もままの自分でいたい。 「好きだよ、カラ松兄さん……」 コポコポと水中で息を吐くように口から漏れた。 実家にいた頃に我慢していた反動か、時々こうして独り言が零れてしまう。 それだけじゃない、新しい家に十四松と二人でいる時に自分達がどれだけ兄の事を好きなのか毎日語り合っている。 二十数年の思い出話は尽きることはなくて、離れている今に募る想いは止めどなくて……どうせ届きはしないからとずっと二人で話していた。 以前から十四松とは仲が良かったけれど、此処に来てからもっと近しい存在になった気がする。 ――僕は君で、君は僕、君は僕と同じ……恋愛をする化物 段々と雲の晴れてゆく空をみて鼻の奥がツンと痛んだ。 この空が夕焼け色に染まる前に帰らなければ、十四松がひとり待っている。 もう自分には十四松しかいなくて、十四松には自分しかいないのだから、どちらかが居なくなってはいけない。 化物をひとりにしちゃいけない、ずっと見張り合っていなければいけない、いつかこの恋愛が消えてしまうまで―― ずっと二人でいようって決めたのに…… 「なんで……」 トド松と十四松の新しい家の前に、兄の一人が立っていた。 カラ松でないことは一瞬で解り、次いで一松でもおそ松でもないことが解った。 「久しぶりだな」 その声と困り顔は、三男チョロ松だ。 「兄さん、なんで……」 反射的に逃げなきゃ!と思ったトド松だったが、家の中に十四松がいることを思い出し、その場に留まった。 頭の中はぐるぐると回っている、どうして此処が解ったのだろう、やっぱり逃げなければ、でも十四松を置いて行くことはできない。 どうしよう、どうしようと心の中を彷徨っているとチョロ松はそんなトド松へ向けて柔らかく微笑んだ。 「大丈夫、僕一人で来たから」 大丈夫だとチョロ松はもう一度言い聞かせるように言った。 「中、入れてくれないかな?」 もし彼が怒っていたなら追い返していただろう、もし自分達を連れ戻そうとしているなら十四松を連れて何としてでも逃げただろう。 けれど今のチョロ松は柔らかく首を傾げながら問うてくるだけで、何を考えているのか解らない、こんな兄に逆らうことは出来ないと長年末っ子を経験していたトド松はよく知っている。 「いいよ、わかった」 そう言って荷物をギュッと持ち直しトド松は玄関の扉を開けたのだ。 ここは自分達のテリトリーだというのに侵入者がいるだけでこんなにも不安になるとは思わなかった。 早く十四松の元へ行きたいような、十四松の元へこの人を連れて行ってはいけないような気持ちになりながら、覚束ない足で廊下を進んだ。 「おかえり、トドま……」 キッチン兼リビングのような部屋でトド松が食材を買ってくるのを待っていた十四松は、トド松が扉を開けた瞬間に振り返って、そのまま固まった。 「チョロ松兄さん」 兄の姿を認めた途端、身体と声を震わせる。 トド松は大き目の服を着ていたから解らなかったけれど薄着をしてエプロンを付けている十四松は少し痩せて筋肉が落ちたのではないかとチョロ松は眉を顰めた。 「う……」 「あ、ごめん怒ってない……ただちょっと痩せたなって思っただけだよ」 自分の表情を見て怯えた弟にチョロ松は眉をハの字に戻して言った。 「ごめんね、夕食時に来て、すぐ帰るから」 「あ、あの」 「大丈夫、兄さん達には何も言ってないし、今日は遠征だって出てきたんだ」 「……」 「元気だった?」 穏やかな声。 ツッコミを入れたり小言を言う時以外の兄はこんな声だったと思う。 そう思い出して十四松は泣きそうになった。 「うん……とりあえず兄さん座りなよ」 キッチンの横のリビングにはカーペットが敷いてあって、二人で使うには大きいちゃぶ台が置いてあった。 実家にあったものと似ているが古いものだから元々この家にあったのだろうなとチョロ松は思う。 そこに二つあるうちの一つの座布団をチョロ松に差し出しトド松は台の反対側に座る、十四松はその横に。 「あのさ、兄さん」 「ねえ、憶えてる?トド松」 「え……?」 どうして此処が解ったのかとか、此処までくる旅費はどうしたのだとか気になることは有ったが、それを聞く前にチョロ松の方から話を始めた。 いきなり何を言い出すのだろうと十四松とトド松は息を呑みながらジッと兄を見詰める。 「昔、小学生に上がったくらいの頃だったかな、トド松と僕が喧嘩して一週間くらい口聞かなかったことあったよね」 「え?」 そんなことがあったのかと十四松は驚いてトド松を見るが、トド松もそんな記憶はないようで怪訝な表情を浮かべている。 「喧嘩の内容はね、おそ松とカラ松どっちが強いか」 「……ッ!?」 「思い出した?」 チョロ松はクスリと笑った。 「あの頃はおそ松兄さんが僕らのリーダーだったし、おそ松兄さんが一番強いっていうのは僕ら全員一致の意見だと思ってたんだけど、お前は“本気でやりあったらどっちが勝つか解らない”って言ったよね」 そもそも六つ子は全員で一つみたいな存在だったから、比べることもしなかったのに、あの時はどうしてかそんな話になった。 「僕は勿論それを否定したし、いっぱい理由をつけておそ松兄さんの方が強いって言ったのにトド松はずっとカラ松が勝つかもしれないって言い張ってて」 トド松はじわじわとその時のことを思い出していった。 そりゃあトド松だって兄弟の中でおそ松が一番強いことは知っていたけれど、それでも“カラ松が負ける”なんて断言されたくはなかった。 だから“やってみなければわからない”と言って、首を振ったのだ 「その時からかな……トド松にとってカラ松は特別なんだって気付いたの」 「え?チョロ松兄さん?」 「もしかしたらそれが恋かもしれないって気付いたのは僕らに個性が出だしてから」 「……」 チョロ松はどこか遠くを見ていた瞳を綴じ、しみじみと言った。 一方トド松は真っ青な顔をしてそんな兄を愕然と見つめている。 「お前のこと気持ち悪いって思ったことは一度もなかったよ」 「嘘だ……」 「本当だよ、」 おそ松の言葉を思い出した。 ――実の弟を好きだっていいじゃねえか、そんなことで俺ら兄弟の仲が壊れるとでも思ってたのか?―― その通りだ。 むしろ嬉しいとすら思う、兄が弟を好きで弟も兄を好きだなんて奇跡が自分の身近で起こった事を尊いとすら思った。 「別に家のことは気にしなくていいんだよ、いつか僕が可愛いお嫁さんもらって、お前らの分まで可愛い子を作って母さんたち安心させるんだから」 この言葉もおそ松の受け売りだけれど、最初に言っていたのは自分だとチョロ松は胸を張って口に出す。 「チョロ松兄さん……」 なに言ってるの?というお揃いの表情をしながら二人の弟がコチラを見詰めて来る。 チョロ松は二人に微笑みかけたあと家の中をゆっくり見回した。 「凄いね、ちゃんと生活できてるんだ……偉いね」 「……え?」 「家の中が綺麗に片付いてる、料理もしてるし、仕事もしてるんだよね?」 「うん……」 「実は此処が解ったのってクチコミのサイトの書き込みからなんだ」 「え?」 「にゃーちゃんファンのネットワークを使って二人がこっち方面の新幹線に乗ったって情報は掴んでたんだけど、それだけじゃどこに住んでるか解らなくてさ、とりあえずこの地域で移住支援をしてる街に絞って……」 話を聞きながらチョロ松の情報収集能力に関心する、伊達にパソコンを使っているわけではない。 「あと格好付けて海が見えるとこ選んでそうだなって」 「別に格好付けてなんかないから!」 カラ松兄さんじゃないんだし!!と叫んだトド松に苦笑しながら解ってるよと頷いた。 「この街のクチコミ情報サイトを見てみたら“双子が接客してくれる居酒屋”って書き込みがあったから此処かなって」 「それだけでこんなとこまで来ちゃったの?違ったら無駄足じゃん」 「でも、お前ら此処にいたろ?お店に行って兄弟に逢いに来たんだって言ったらすぐにこの家を教えてくれたから、当たりだ!って思わずガッツポーズとっちゃったよ」 チョロ松は二人と似ているから、顔を見せれば確実に兄弟だと解ると踏んでいたのだろう。 店長に口止めをしておくんだったとトド松は後悔する。 「旅費はどうしたの?結構したでしょ」 「貯金でどうにかしたよ、おそ松兄さんとは違って計画的だから」 兄弟六人で熱海に行こうと貯めていた金だとは言わない。 この二人が帰って来なければ、あの三人を連れて旅行だなんて到底無理な話だから。 自分の行きたい所へ勝手に行こうとする長男と、痛い発言をする次男、団体行動の苦手な四男、その世話を自分一人でするなんて考えただけでも疲れてしまう、自分はおそ松を見ているだけで精一杯。 カラ松と一松の手を引いてくれる、トド松と十四松が絶対必要なんだ。 「……本当に凄いと思うよ、二人とも」 実家にあるモノとよく似たちゃぶ台に視線を落として、でも自分達が付けた疵がない事にほんの少し哀しくなった。 「あんなに、寂しがりで……怖がりだった十四松とトド松が二人で暮らせるなんて吃驚した」 ――怒っちゃダメだ ――兄さん達が怒ったとしても僕は褒めてあげなきゃ その震える声を聞いて二人はハッと顔を上げる。 兄の瞳からポロポロと涙がこぼれていた。 「チョロ松兄さん」 三番目の兄の涙ぐんでいる姿や悔し泣きや痛みで泣く姿は幾度も見てきた。 でも、こんな風に静かに涙している姿は初めてだ。 しっかりしていて真面目で強くて、あれだけ我の強い長男にも意見できる唯一の存在だった三男が…… ――夕陽の赤に染められながら、優しく微笑みながら泣いている…… 「十四松とトド松がいなくなったのは……皆を守りたかったからだよね?」 チョロ松は、嗚咽を零しながら一生懸命に言葉を紡いだ。 弟たちを傷付けないために。 「立派になったね……偉かったね……」 ――コイツらは自分達で自分達を守ろうとした ――自分達の大切な人を守ろうと必死に考えたんだ ――それはとても偉いことだから ――褒めてあげなくちゃ 「よく、頑張ったね……皆の為に……ありがとう」 そこまで言ってチョロ松は顔を両手で覆い隠して俯いてしまった。 指と指の間から涙がポタポタ落ちて膝を濡らしていく。 「けどね……お前らがいなくなって……哀しかったよ」 怒ってはいないけれど、許すこともできない。 なにも相談してくれなくて、勝手にいなくなって、こんな所まで来て、こんなに痩せてしまって……やはり怒りが湧いてくる。 二人がいなくなった所為で家の中は暗くなった、カラ松と一松は本気で喧嘩をしてしまった、おそ松は長男の重責を改めて自覚してしまった。 おそ松は何でもないように笑って見せるけど、カラ松や一松が弟を恋愛的に愛していると知った時は衝撃だったろう、それをずっと気付けなかった自分を長男として情けなく感じてしまったかもしれない。 チョロ松はおそ松が背負った重荷を自分が半分受け取りたいと思っているけれど不器用なあの人は三男にそれを分け与えようとはしないだろう。 たとえ幼い頃の相棒だと言っても今は距離ができてしまったから、絶対的な味方ではなく時には敵となる存在だと思っているから、チョロ松を頼ってはくれないのだ。 「チョロ松兄さん」 「チョロ松兄さぁん」 弟たちの泣き声を聞いて、気持ちが爆発してしまった。 「本当馬鹿だよお前ら!!僕たちがどれだけ心配したと思ってるの!!」 チョロ松が怒鳴った瞬間、二人の弟はその胸の中に飛び込んできた。 ああこれはウチの末の弟たちだ。 寂しがり屋で怖がりで泣き虫でどんくさかった弟のままだ。 さっきまで立派になったなんて言っていたのに何故かそう思って安堵した。 「ごめんなさぁい!!」 「うわあああああん!!」 子どもの様に泣く十四松とトド松を抱き締めながら、チョロ松も涙を流し続けた。 「僕の方こそずっと酷いこと言っててゴメンね……」 「へ?」 「ずっと二人にモンスターだの狂人だの言ってきたでしょ?」 そう言っていたのは皆だけれどツッコミ役に回ることの多いチョロ松が一番多かった。 たとえ本当のことだとしても毎日言い続ければ、深い消えない傷になってしまっていたかもしれない。 「あのね、お前ら勘違いしてるかもしれないけど、恋をしたら誰だってモンスターになるし狂人になるんだよ」 「……」 「トド松は女友達多いから解るでしょ?恋をした女の子がどれだけ怖いか、十四松はさ、恋をしてる人を見るの好きでしょ?どこか狂ってるけど楽しそうで」 「……うん」 「そう、だね」 「だからね、もしも二人が自分の感情を穢いものだと思ってるのだとしたって、それは普通のことだから、皆おんなじ……僕だってそうだったよ」 「兄さん好きな人いるの?っていうか過去形?」 「……ほら、小さい頃から僕らお互いに好きな人の話してきたじゃない」 女の子にも本気で恋してたんでしょ?カラ松へ対する感情とは少し違うみたいだったけど……とチョロ松がトド松の背中を優しく叩きながら言った。 トド松は小さく頷く。 「チョロ松兄さん、僕が一松兄さん好きだってのも知ってたの?」 「うん、見てたら解るよ」 「すごいねーー」 ぽわぽわとした気分になりながらチョロ松の胸に顔を埋める十四松、なんだかこのまま寝ちゃいそうだな、なんて考える。 チョロ松は十四松の頭をゆっくりと撫ぜながら、耳元に言葉を落としてやる。 「二人ともね、ちゃんと人間なんだよ、そして僕たちの大事な弟だからね」 「そっかぁ……僕は人間なんだ……一松兄さんと同じ……」 ――恋愛しててもいいのかなぁ…… そう呟きながら十四松はだんだんと瞼を下していった。 「寝ちゃったね」 「うん、そうみたい」 「夕ご飯まで寝かせてあげようか」 「うん」 温かい夕陽に包まれた部屋の中で兄弟達の静かな会話が聞こえる。 「……あのさ、街を調べてる時に見たんだけど、この家を格安で借りる条件として最低一年は地元で働かなきゃいけないんでしょ?」 「うん、そうだよ」 「じゃあ、一年過ぎるまで兄さん達には黙っといてあげる、その後のことは二人に任せるよ」 此処に留まるのも、他の場所に行くのも、帰ってくるのも自由だ。 その代わり自分には連絡先を教えておくことと定期的に連絡をいれることを条件にするとチョロ松は言った。 「僕としては帰って来てほしいなって思うんだけど……」 「……あのね、チョロ松兄さん……僕らさ、この家の中だと自由にカラ松兄さんや一松兄さんを好きだって気持ち言葉に出来るんだ」 「うん?」 チョロ松から少し離れて正座したトド松が顔を真っ赤にさせながら、目を逸らす。 「だから毎日毎日ね何回もカラ松兄さんを好きだって口に出して言っちゃっててさ、それが癖になってるっていうか」 「……つまり、その癖を直すまで家には帰れないと」 「うん」 それはあまり問題ないのではないかとチョロ松は思う、両想いなのだしカラ松や一松は喜びそうだ。 ただ十四松とトド松は両想いであることを知らないので、そこを問題だと思うだろう。 チョロ松が教えてやってもいいが他人の口から伝えても信じはしないであろうし、本人から告白される方がいいに決まっている。 「解った……家に帰りたいと思ったら、その癖を直しておいで」 「はい」 「じゃあ、夕ご飯作る?僕もちょっとは手伝えると思うけど」 「うん、その前に十四松兄さんベッドに連れてかないと風邪ひいちゃう」 「そうだな」 そうして十四松を寝かせる為にトド松と共に寝室へ運んだチョロ松はベッドサイドにカラ松と一松の写真が飾ってあるのに苦笑いした。 話を聞けば他の写真は箱に入れてしまっているがこの二枚だけはよく撮れているので飾っているらしい。 「あ、そうだ、時々でいいからさ二人の写真を僕に送ってよ」 「え?でも……」 名案を思い付いたとばかりに言ってくるチョロ松にトド松は戸惑いがちに応える。 自分達の写真は一生撮らないと思っていたのだ。 「その代わり僕がカラ松と一松の写真送ってやるからさ!」 恋心を自覚したカラ松は以前より男気が増した気がするし、カラ松ときちんと向き合っておそ松から認められた一松もなんだか一皮剥けた気がする。 その姿を送ってやれば弟二人は悶えるだろうか、なにかあらぬ事を想像して不安に駆られるだろうか、そのどちらであっても恋心は更に成長するだろう、きっとその方が再会した時に嬉しい筈。 「しかたないねえ……十四松兄さんも一松兄さんの写真見たいだろうし、いいよ」 渋々といった風に答えるトド松は気付いていないだろう、チョロ松がほんの少し意地悪く笑ったことを…… その後チョロ松はトド松と夕食を作り、謝りながら起きてきた十四松と食べ、風呂に入り、ベッドをくっつけ三人川の字で眠り。 次の日の早朝電車の時間があるからと言って颯爽と帰って行った。 五男六男の新しい電話番号とアドレスをゲットした三男はとても満足げな表情をして帰宅したので、迎え入れた長男から「そんなにライブ楽しかったのか?」と笑われてしまった。 (ライブ帰りにしては荷物少ないし、それになんだか潮の匂いがしたな……) 今回は新しいグッズが出なかったのか、海の近くでライブがあったのか?と、いつもさり気無くチョロ松のことを観察しているおそ松は疑問に思ったが、彼の表情を見るにそう悪い事が起きたわけではないだろうと深く詮索しないでおいた。 チョロ松が長男の責任を自分にも分けて欲しと懇願した時、おそ松はこの三男を信頼し一歩引いた位置から見守ろうと決めていたのだ。 まあそんな我慢も三男が頻繁にスマートフォンを見ては優しい微笑みを浮かべるようになった頃には消え失せてしまっているのだけれど―― To be continued |