ぶぅにゃんさんリクで「ほのぼので甘い感じのおそチョロ」書いてて楽しかったです!本当ありがとうございました。チョロ松の一人称が僕だったり俺だったりするのはご愛敬です。

地球ひっくり返してお前にダイブ
動物園に行こうぜ!

と、普段パチンコと競馬くらいしか行かない長男から声をかけられたのはその月の初めの頃だった。

なんでも我が家の末弟から市内の公園内にある動物園が入場無料だと聞いてお得に感じてしまったそうだ。

レッサーパンダやポニーやペンギンがいるんだって!お前好きだろ?と自分の方が好きなくせに訊いてくる兄さん。

甘えっこで構ってちゃんの癖に焼肉もしゃぶしゃぶもすき焼きも牛丼も一人で行ってしまう恋人に不満がないわけではなかった俺は二つ返事でオーケーを出した。

休日は新台入れ替えがあったりライブがあったりと何かと忙しいし混雑が予想されるので平日を狙って、そのまま夕食を食べて朝まで飲もうぜ、なんて不健康なことを言っている兄さんにじゃあ近くで個室のある店調べとくよとパソコンの画面をネットに切り替えた。

そして居酒屋の予約が取れた次の週の火曜日に行くことになっていたのだけど……


「雨だな」


前日の夜、パラパラと雨の降り始めた空を見上げながら僕は呟く。

窓に映った自分の顔が思ったよりしかめっ面で、明日のことを凄く楽しみにしていたみたいで悔しかった。

そんな僕にカラ松兄さんは神さまが嫉妬してるんだろって言うし、一松は笑いながら日頃の行いが悪いからじゃない?なんて言っている、一松あとで殴ると心に誓った。

十四松がてるてる坊主作ってあげると言って折り紙で鶴を折り始め、トド松はそれはてるてる坊主じゃないよ十四松兄さんとか言いながら自分はハートを折り始めてしまった。

わートド松すごいの折れるね!そお?簡単だよ?ぼくにも教えて!いいよ、あのね中に好きな人の名前書いて持っとくと恋が叶うんだよ?ほんと?トド松はやったの?え?えっと……教えない!!

等と言いながらハートを量産し始めた末の弟達は置いといて僕は部屋の隅で寝転がりながら拗ねたポーズをとっている兄さんの方へ向き直った。

拗ねたポーズというか実際に拗ねているんだろうな、十四松とトド松といい……うちの兄弟たちの精神年齢に一抹の不安を覚えながらカラ松兄さんに目配せすると、親指でおそ松の方へ行けと促された。


「フッ……てるてる坊主とは可愛いことをするじゃないかブラザー」


いや、アイツら折ってるのハートだけどね……と思いながら二人とおそ松兄さんの対角線上に座って目隠しをしてくれたカラ松兄さんに感謝する。

その意図に気付いたのか僕の方を見た一松がニッと笑って立ち上がりカラ松の隣に座った(その前に何故かカラ松兄さん背中を蹴り倒して巻き添えくらってトド松もひしゃげていたけど)ので殴るのは勘弁してやろうと思った。

あ、カラ松兄さんグラサン折れたよねーと言いながら余った黒い折り紙をカラ松に押し付けるトド松と、一松兄さんヒジリサワショウノスケの折り方知ってる?と訊いている十四松。

お前ら結局てるてる坊主折らないんじゃねえかというツッコミを我慢し、ようやくハート以外のものを折り始めた兄弟達に気付かれないように僕も自分の兄さんに近付いていった。

壁の方を向く兄さんの後ろにしゃがみ込んで背中をツンツンと突いてみた。

この歳になってこんな拗ね方、可愛くはない筈なのに可愛く見えるから不思議だ。


「なんだよチョロ松……」

「ふふっ……よく僕ってわかったね」


振り返った兄さんに小さな声でそう返すと、だってアイツらアッチでてるてる坊主つくってるじゃんと言ってきて俺はそりゃそうかって思う、いや、だからてるてる坊主じゃないけどね。


「そうじゃなくてもお前のことは解かるけどな」

「……」


仰向けに寝転がった兄さんが俺の顔を見上げながら笑った。

いやいやいやいやアンタ拗ねてたんじゃないのかよ、不意打ちヤメテ兄さん。


「残念だけど動物園は延期かな……居酒屋どうする?」

「そうだねキャンセルするなら早い方がいいけど」

「動物園の後で行くとことか全部動物園の近くで調べてんだろ?」

「うん、やっぱキャンセルか、仕方ないね」


すぐ近くにいる兄弟達に聞こえないように小声で話す俺と兄さん。

拗ねていたと思っていたのは俺を釣る為の演技だったみたい、まあ俺も残念な気持ちがあったし兄さんに近付きたかったから許そう。

俺が腰を落として正座をすると、兄さんが腰に抱き付いてきた。


「動物園行きたかったーチョロ松とデートしたかったーー」

「僕も楽しみにしてたのにーー」


兄さんの頭をかるく抱きしめながら窓の外を見やると雨脚はどんどん強くなっていっている。

明日の降水確率は九十パーセント、十パーセントに望みを託すのもいいけど、こうやって兄さんと慰め合ってるのもいいかもしれないって思い始めてきた。


「明日は久しぶりにパチンコ行こうかなーー」

「おーそうしよそうしよ、雨でもカラ松に送り迎えしてもらえばいいから」

「だね」


勝手にそんなことを話していると、後ろからカラ松のくしゃみが聞こえてきて、弟たちが風邪じゃないかと騒ぎだした。


「噂話されたらくしゃみするって迷信じゃなかったんだな」

「いや本当に風邪かもしれないけど」

「そしたらまたアイツの財布借りてこうぜ」

「兄さん最低」


と、言いながら止めない。

半分くらい冗談だろうし、今は兄さんを甘やかしてやりたいし。

こんな気分の時じゃないと俺も兄さんに甘えられないから、みんなが折り紙に飽きるまでは二人でくっついていよう。


「パチンコ行った後はさースーパーでお酒買い込んで夜みんなで飲もうよ」

「お?珍しいなお前がそんなこと言ってくるなんて」

「その為には絶対勝たなくちゃね」

「任せとけって、明日の俺には幸運の女神が付いてんだから」

「ん?」

「お前だよ」

「うわぁ痛いよ兄さん、次男が乗り移ったのかと思ったよ」


などと言いながら兄さんの髪を撫でる、本当に俺が兄さんの幸運の女神だったら嬉しいな。


「酷いよチョロ松」

「ごめんごめん、そうだ……勝ったら明日のおつまみ兄さんが好きなの作ってあげる」

「え?マジで?ぜってー勝つ」

「がんばって」


多分負けても落ち込んだ兄さんの為に好物作ってあげるんだろうけどね。


「お前も勝つんだぜ」

「もちろん」


いつのまにか膝枕の体制になってる僕ら、恥ずかしいんだけど兄さんが俺のお腹におでこを付けて気持ちよさそうに目を綴じているのを見ると文句なんて出て来る筈もなくて、子どもみたいなその顔をとても穏やかな気持ちで見詰めていた。

ああ、幸せだなぁ、この人を好きになって良かったなぁと思うのはこんな時で、勿論一緒に馬鹿やってる時は楽しいし、外でデートなんて聞いたら舞い上がっちゃうし、喧嘩したあとにする仲直りなんて一番この人への愛情を思い知るんだけどさ。

おそ松が素直に甘えてきてて僕がそれを一身に受け止めてて、生まれた時からずっと僕らを知ってるこの家の中で安心して過ごせるなんて、もう幸せでしかないよね。

親近相姦で同性愛なんてイレギュラーな恋をしてる僕らを認めてくれて、今も僕らの為にてるてる坊主をつくってくれるような兄弟に囲まれてるのも恵まれてると思う、たとえ未だにてるてる坊主つくってなかったとしても可愛いから許す。


「そうと決まれば今日は早く寝ようぜーー」

「うん、ちょっと待って居酒屋キャンセルしてから行くから」


と、兄さんを膝の上から下ろしてテーブルに出しっぱなしのパソコンまで這っていく。

ちょっと足が痺れてるんだけど何故か僕の後を匍匐前進で付いて来てる兄さんにバレたら突かれるだろうから我慢。

居酒屋の予約をキャンセルしてパソコンの電源を落とす。


「僕らもう寝るけどどうする?」


他の兄弟の訊ねると皆が僕らの方を振り向いて、フッて笑った。


「俺たちはもう少し此処にいた方がいいんじゃないか?ブラザー」

「もうちょっと折り紙やってる!」

「うん、ちょうど興が乗ってきたとこ……」

「お先におやすみなさい、おそ松兄さんチョロ松兄さん」


コレはもしや気を遣われいるのではないだろうか……


「わかったーー俺たちこれからお楽しみだから出来るだけゆっくりして来てねーー」

「いやいや明日早いから早く寝るんだろ!?」

「えーー?」


俺の肩を抱いた兄さんが不服そうな顔をする、いや、ていうか家の中でそんな度の過ぎたイチャイチャはしないよ。

ちょっと厳しめにデコピンしたら兄さんはイッテー!なんて叫んで僕から離れた。

その隙に部屋の外まで逃げるように出て行く。


「じゃあお先におやすみなさい、みんな」

「あー待ってよチョロ松ーー」


階段を昇る僕の後ろを兄さんが駆け上がってくる、そう感じてなんだか嬉しい気持ちになってきた。

イチャイチャはしないけど、手を繋いで眠るくらいならしてあげようかな?そんなことを思うくらいにはご機嫌だったのだ。




69 69 69 69 69 69




翌朝、僕は兄さんの声と肩を揺する手に起こされた。

目を開く前に頭が覚醒すると、しとしとと雨の降る音が聞こえて、やっぱり止まなかったのかと少し残念な気持ちになった。

一度は諦めたものの空が晴れて兄さんとデートができることを少しだけ期待していたのだ。


「チョロ松、おはよ」

「んーーおはよう、珍しいね兄さんのが早いなんて」

「ああ、ちょっと目が醒めちまって」


目を開けて上体を起こしている兄さんと目線を合わせる為のそのそと僕も起き上がった。


「あれ?他のみんなももう起きてんの?珍しい」


左右にいる筈の兄弟たちの姿が見えなくて兄さんに訊いたら、先に起きて朝ごはんを食べてるみたいだって教えてくれた。


「なぁチョロ松、見てみろよこれ……」


今までふんわり笑っていたのが急にニコニコと満面の笑みを浮かべた兄さん。

それにドキっとしながら兄さんの指さす方を見てみた。


「え?」

「アイツら昨日これ作ってたんだなぁ」


僕と兄さんの枕元に、其処の低い箱が置いてあって、その中には……


「動物園……」

「の、つもりだろうな」


犬とか猫とか兎とか可愛らしい動物のと、虎とかヒョウとかライオンみたいな猛獣、キリンやゾウや鶴もいる。

箱の中で折り紙で作った動物たちが仲良く並んでて、赤と緑のハートが色んな所に散りばめられていた。


「アイツら……」


僕と兄さんが楽しみにしてたの見てたから、動物園のパンフレット見ながら二人でどこから回ろうかなんて沢山話してたの聞いてたから、その時はリア充うっとうしいなんて言ってた癖に、こんなことしちゃってくれちゃうんだ。


「かわいい……」


動物園も、兄弟も可愛い、思わず呟くと兄さんは僕の手をギュッと握ってきた。


「チョロ松、俺お前が大好きなんだけど」

「うん、僕も」

「お前のことが世界一好きなんだけど」

「うん……」


俺も、地球で一番おそ松兄さんが好きなんだけどさ。

こんなことされちゃあ仕方ないよね?


「行くぞ」

「ああ」


兄さんと二人同時に立ち上がって、部屋を飛び出した。

階段をドタドタ我先にと駈け下りて行く。

廊下の途中で兄さんと目が合ってニヤリと笑う。


なんで俺たちが走ってるかって?

そんなのアイツらにダイブする為に決まってんだろ?





地球ひっくり返してキミにダイブ?



NO!NO!



地球ひっくり返してキミとダイブ!





END



最後までお読み頂きありがとうございます

今回は可愛い可愛いぶぅにゃんさんリクでした〜〜

お気に召していただけたら嬉しいのですが……おそチョロのほのぼのなのに六つ子が出張っちゃいましたね

チョロさんは付き合いだしてからはキレながらもハッキリ愛情示しそうなので、あと兄さんが余計なことしなきゃラブラブでいられるんじゃないかと思います

けど私は余計なことする兄さんが大好きです


では、ぶぅにゃんさん本当ありがとうでした!!