One receive only all from three
Look me as a Lover wannabeのおそチョロ編

子どもの頃は手を繋いで歩こうが頬を寄せて話そうが自由だったし、それが可笑しいと誰も言わず、また誰からも言われなかった。
思春期にテレビで同性同士がベタベタすることは可笑しいことだと知る、同性に好かれることは罰ゲームで、テレビの中の人はキモがって逃げ回ってる。
そういうのを隣で一緒に観ていたけどゲラゲラ笑うだけで、そんな兄を見て自分も笑わなきゃいけないと思って笑ってたけど笑いすぎて涙が出そうになった。
成人して、ニートになって、家の中なら抱き付いたり隣で寝たりしても誰も変とは言わないし人前でも回し飲みするくらいは平気だった。
こんなとき六つ子でよかったと思う、距離感おかしいと思いながらも六つ子にとっては普通だから誰もなにも言わないし、そんな六つ子を生んだ両親も特に気に留めていない。
もし双子だったら兄弟離れをもっと強要されていたかもしれないし、六つ子だから奇異すぎて世間とちょっとズレていても気にされなかったのだと思う。
だからこの関係を可笑しいなんて言われたことはない、薄い膜で覆われたハートと傍迷惑な自意識でなにかを隠して。
こうしてずっと想うだけならタダだ。



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「チョロ松くんこのあと暇?暇なら付き合ってほしいんだけどさ」

ある映画の試写会に当たったチョロ松は、たまたま同じ試写会に来ていた女友達と執事&メイド喫茶と呼ばれるその名の通り執事とメイドの格好をした人から接客される喫茶店の一角に鎮座していた。
あの執事さん雰囲気が兄に似ている、あのメイドさん雰囲気が友達に似ているだの隠れて盛り上がってコーヒーとケーキを頂いたあと、彼女はチョロ松に一枚のチラシを見せてきた。


「"漂流チョコレート”やってる店なんだけど」

チョロ松は「なにそれ」と瞳で訊ねた。

「渡したくても渡せないバレンタインチョコを贈る企画だって」

あるチョコレートブランドが立ち上げた企画らしい、このブランド名は聞いたことがある、何年か前にトド松がバレンタインにここのチョコレートをもらっていた(羨ましくてコッソリ調べてしまったのだけどリーズナブルな値段で美味しいと有名なところだった)
チラシには【あの人の代わりにあなたの想いを受け取ってくれる人がいる】と大きく印字されている、この店でチョコを買って参加すれば、そのチョコをどこかの誰かに届けるのだそうだ。

「これいいんだよ、参加したら……あの子の代わりに私のチョコを受け取ってくれる人がいるの」

同伴者はそう呟く、そういえば彼女の好きな相手は同性の友達だったな、だからチョロ松とも意気投合したのだけれど……

「女の子同士なら友チョコなりなんなり渡せるんじゃないの?」
「ん?……まあ友チョコもみんなに渡すけど本命チョコとは違うから」
「そりゃそうだけど」

そう言いながらチョロ松はチラシを見た。
好きな人へバレンタインチョコレートを贈れない人がこの店でチョコレートを購入し、店側が無作為に選んだ相手の元に送るという(その相手は応募者の中から選ばれる)誰かにチョコレートをあげたい人と自分宛でなくてもチョコレートもらいたい人の心を満たすウィンウィンのような企画だった。

「相手が亡くなってるとか何処にいるのか解らないって人もいるだろうけど……中には相手が結婚してるとか、私達みたいなのとか……色んな理由があってチョコを贈れない人がいるでしょ」
「うん」
「私の気持ちなんて喜んでくれるわけない、迷惑なだけだって……そんな風に思ってる人にとってのせめてもの救いなんだよ、この企画は」
「なるほど」

――きっと迷惑だとは言わないだろうな
そう心の中で呟いたあとチラリと正面にいる女友達に目線を上げた。

「お前これに参加するつもりなんだ」
「勿論!参加する人で色々妄想出来て楽しそうだし〜お店に行ってみたい」
「一般人を妄想のダシに使うなよ」

チラシには【チョコをあげたい人】は店頭までお越しください【チョコをもらいたい人】は下記の応募欄を切り取りハガキに貼って当店までお送りください、と書いてある。
今時ハガキでなんて古風なブランドだなと思いながら、でもこういう企画なら気軽に応募できない方がいいような気がした。

「やっぱり毎年チョコを贈りたいって人よりチョコを貰いたいって人の方が多いから、受け取れるのは応募者の中から抽選になるらしいんだけどね」
「ふーん……まあ解らなくもないかな」

周囲の人からチョコを貰えず、この企画でもチョコを貰えない人がいるかもしれないと思うと少しだけ心が痛んだが、皆その覚悟を持って応募しているのだと思うと、届けられない想いを託すのに相応しい気がしてくる。

「チョロ松くんも参加しない?チョコをもらいたい人側でもいいと思うよ、宝くじみたいでドキドキするでしょ」
「そうだねえ……住所教えるの不安だけど」

宝くじと聞いて一番上の兄を思い出す、いや先程から思い出しっぱなしなのだが。
チョロ松は頬杖をついて友人の緩んだ頬を見返す、かわいい子、これで頭も良いから相手を選ばなければすぐに良い恋人が出来そうなのに、どうしても今好きな相手を想ってしまう馬鹿な娘、いつもなら自分と兄の恋を応援する方の彼女が今は自分の恋を応援してほしいと言っている。

「締切もうちょっとあるよね、あ、手紙も送れるんだ」
「うん!そう、だからね」

彼女の笑顔が弾むのが解かる。

「押し花作ろう」
「え?」
「赤い花がいいよね」
「ちょ、チョロ松?なに?またライジングしてんの?」

見ず知らずの人に出すチョコレートだよ?と少し焦ったように言う彼女にチョロ松は言い切った。

「違う違う見ず知らずの人じゃなくて本人に贈るんだよ」
「へ?」
「漂流チョコレートに当たったと見せかけてさーー」

真面目を気取っている所為ですっかり次男にサブリーダーのお株をとられてしまっているが、元々おそ松の相棒は自分だ。
他の兄弟からはポンコツだなんだと言われているが、五人の兄弟の手綱を握らされ続けた結果チョロ松は以前より頭の回転が速くなったと自負している。

「この期日までにお前の想い人を人込みに誘い出せる?」
「うん、来週末に遊ぶ約束してて……」
「オッケーじゃあ作戦を説明するよ」

なにが楽しいのか指をくるくる回しながらチョロ松は彼女に『美女薬』という便利な薬があることを説明する、以前それを使って騙されたことがあったが犯人はきちんと捕まえて制裁をくわえたこと、その時に没収した薬の中からコッソリ数錠抜き取っておいたこと(ちなみに残りの薬は一松が持っている、怖ろしいことだ)

「その薬つかってこのチョコレート屋の店員に成りすまして街にいるお前らに薦めるから、一緒に参加してみなよ」
「当たったことにしてお店名義でチョコを贈るの?でも……あの子けっこう勘が鋭いし嘘の住所とか書いちゃうかも……」
「そこはお前さんの手腕でなんとかしてよ」

少々呆れながら言えば、彼女は「そうだね、がんばる」と気合いを入れたようだった。
やはりどこのだれだか知らない人よりも想い人に本命チョコを渡したいのだろう。

「……チョロ松くんも、あげる?」
「まあ折角のチャンスだし……」
「だから押し花なんだね」

相手はお兄さんだし手紙だと文字でバレちゃうもんね、と言われたが実際には手紙だと突然燃えだしそうだからだったりする。
そしてチョロ松はおそ松を街中へ連れ出すのはどうしようかと考える、そろそろ冬物が安くなるので母親が今年の残冬と来年の冬に着るものをダーツ買いに出かけるだろう、その時に十四松がいなければ強制的に長男次男の二人が連れ出される。
寒い時期に十四松を外出させるのは至難の技だが、他の弟ふたりを使えば可能だ。

「今日の所はお店に行ってチョコの下見して応募の用紙もらってこよう?友達にもあげるって言えばもらえるだろうから」
「うん、押し花は花を選ぶのに時間かかりそうだから来週以降でいいかな」

などと話し合ったあとに二人はチョコレート店へ行き漂流チョコレートの企画に応募した。
友達にも薦めたいと言うと、店員はチョロ松にハガキを何枚かくれた。
彼女と別れ家に帰ったチョロ松は、台所に立つ母の手伝いをしながら何気なく冬物を買い物する日時と場所を聞き出し、その日は朝から予定があると告げて置く。
パチンコの新台日とも重ならないし、前日に酒を飲ませておけば午前中は家にいるだろう。
その週末に美女薬を服用して(自動でキャンペーンガール風の衣装になったので美女薬すごい)友達と友達の想い人の前に現れ、まんまと“もらう側”として参加させてやった。
その数日後に母が長男と次男を連れて買い出しに出かけたと連絡を受けたチョロ松はデパートへ行き、休憩中のふたりへ『漂流チョコレートに参加しませんか?』と声を掛け、無事ハガキの回収に成功した。
バレンタインのチョコレイトも無事購入し、チョロ松は押し花にする用の花も購入し彼女の家へ訪れる、ちなみにこの場面を彼女の想い人に見られ後日大変な修羅場が起こることになるのだがチョロ松には知る由もなかった。
出来上がったばかりの押し花をチョコレイトと共に無地の段ボールに詰め宅配業者(利用する宅配業者もチョコレイト店で聞いた)へ行き、チョロ松は彼女の想い人の宛て先を、彼女はチョロ松の想い人の宛て先を書いてクール便で送った。


そしてバレンタインデー当日。


(まさかカラ松兄さんが当てるとは思わなかった)

二階の六つ子部屋の襖を閉めたチョロ松はシミついた廊下の天井を見上げて息を吐く。
あの日、折角書いてもらったハガキなので次男の分だけ応募したらなんと見事"漂流チョコレート"が当たってしまったようだ。
その所為で四男と五男(と三男)にボコボコにされた彼だったが、まあ良かったなと祝福を贈ろうと思う。

(おそ松兄さんも自慢してくるかな……)

そう思いながら縁側に続く障子を開けると、庭の方を見ながらおそ松がポリポリと何かを食べている。
傍らに開いたチョコの箱があるのでそれを食べているんだろう、少し安心と嬉しさを感じながらチョロ松はその隣に腰かけた。

「兄さんそのチョコどうしたの?」

わざとらしく聞いてみる、次男は本命からもらったと言っただけで漂流チョコレートのことは話していない、どこの誰がくれたものか解らないものを本命と呼ぶのもアイツらしいと三男は内心呆れていた。
末っ子なんてそれを聞いた瞬間固まってボコボコにするのに参加できなかったくらいなのだ。

「おそ松兄さん?」
「ん〜?」

名前を呼んでも生返事の兄の横顔を見ると彼の手には一枚の押し花が摘ままれていた。

「なにそれ?」

白々しく聞いてみると「チョコと一緒にもらった」とどこか釈然としない顔で言われる、大方これの処分に困ってるんだなと思う。
誰かが誰かに宛てた手紙なら気持ちを受け取った後に捨てればいいのだが、こういう形あるものはどう扱っていいか解らないだろう、それに花の命を使っているものだ。

「……押し花だね、よく見せて」

そう言うとおそ松はチョロ松の手にそれを渡した。

(うん……)

受け取りながら、目を少しだけ伏せた。
そう、この時を迎えたいがために自分はこんな面倒くさい作戦を立てたのだ。
あの日から今日までずっと就活のこともアイドルのことも考えずに、ずっとこの瞬間の為に過ごしてきた。


「ストックの花だね」
「チョロ松知ってんの?」
「うん、にゃーちゃんが花言葉にハマってますって前言ってて色々調べた事あるから」
「へぇ」

口から出まかせだ。
にゃーちゃんはそんなこと言っていない、心の中で彼女に謝りながらチョロ松は目を一度閉じて、おそ松の方へ向いた。

「″愛の絆″」

その目を真っ直ぐに見詰めて言われた言葉を、おそ松はゆっくりと飲み込んだ。

「え?」
「ストックの花言葉だよ、これ贈った人はおそ松兄さんとの間に絆があると思ってるんだろうね」
「そ、そうなの???」

少し焦ったような兄に内心で大笑いするチョロ松、そりゃあ見ず知らずの人間から贈られたものにそんな意味があっても困るだけだろう。

「他にも"永遠の恋″とか″見詰める未来″ってのもあるよ?どうすんの?その人の愛、重すぎない?」

責任とれんの?などと訊いて脅してみせるが、おそ松は固まってしまうだけだった。
別にチョロ松とておそ松に責任をとってもらいたいなどとは思っていない、ただこの恋は永遠のものだし見詰める未来の先にこの人がいてほしいと願っている。

「このストック赤色だから"私を信じて"って意味もある」

――愛の絆――永遠の恋――見詰める未来――赤――私を信じて――

全ての意味が、チョロ松のおそ松を想う心に繋がっているような気がした。

「凄いね、このチョコくれた人、兄さんのこと大好きなんだね」
「そ、そう思う?」
「うん、だってこれ手作りじゃん、チョコは買ったものみたいだけど」
「まぁ……そうだろうなあ」

(まぁ、そうだろうねぇ)

おそ松はこれを“漂流チョコレート”に参加した誰かが好きな誰かに送ったものだと思っている、持ち続けるには重く、かといって捨てるには心苦しい、複雑そうなおそ松の反応を見て少し罪悪感を覚えた。

「なんだよその顔、おそ松兄さん、このチョコくれた人のこと好きじゃないの?」
「いや、好きじゃないっていうか、わかんない」
「わかんないか」

そりゃそうだろうと思いながら、チョロ松は「じゃあこの押し花、捨てるしかないね」と提案をする。

「は?なんで……」
「なんでって、重たくない?」
「別に捨てるほどでもねえよ」
「そっか、じゃあ持ってれば?」

軽く言いながら心の中で計画通りだとほくそ笑む。
おそ松に「はい」と押し花を渡し、持っていると決めたからか先程よりスッキリした顔で受け取るおそ松を見てご満悦になった。

「……それにしても兄さんを好きな人がいるって解って安心した……こんなクズが好かれるなら僕も希望ありだよね」
「おい」
「ねえ、どんな人なの?おそ松兄さんを好きな人」

答えられないと解ってて意地わるく訊いてみる「おそ松兄さんを好きな人」と呼ぶことで普段は伝えられない告白をしているようだった。

「言いなよ、どうせ後からみんなに追及されるんだろうし、おそ松兄さんなんて好きになった物好きな人」

ここで『みんなに自慢すれば追及されるんだぞ』という忠告と一緒にもう一度『好き』を伝えてみる、ニタニタと頬が緩むのもおそ松からすればからかっている故に見えるだろう。
しかし、おそ松は不機嫌そうに顔を歪めて「教えねえし、アイツらにも言うなよ」と言ってチョコの箱と押し花を持ってスタスタどこかへ行ってしまった。

「……プッ!アハハハ!!」

そのまま状態を倒し縁側に寝転がったチョロ松はおそ松の顔を思い出し噴き出す。
先程までおそ松がいた場所に手を置けば少しだけ暖かかった。
これから時どき蒸し返して揶揄ってやろう『おそ松兄さんを好きな人』のことで――揶揄うだけじゃなくて本心も伝えてやろう。
たとえば『お前のことを好きな人がいるんだから、もっと体を大事にしろ』とかそういうことを、言ってあげられるようになるのだ。

「あーー楽しみだな」

切ない恋の終わらせ方は解からないけれど、気持ちの消化方法は見つかった気がする。
怒られない程度にやっていこうとチョロ松はこのとき決めたが、女の子と好きな相手が絡むとどうしようもなくポンコツになる彼はついつい調子に乗ってしまった。



一カ月後。
長男が彼女と称するAVを見ている所を目撃してしまった彼はいつぞやの仕返しとばかりに馬鹿にしてやったが全く効果がなかったので、つい口が滑ったのだ。
AVジャケットの表紙にうつる頬を染めてパイズリをする童顔巨乳の女優に嫉妬してしまったせいもある。

「おそ松兄さんのことを好きな人はきっとこういうことをしたいんじゃない?パイズリできるくらい胸あるかしんねえけどーー」

身体的なことはどうしようもないけれど、おそ松が望むことならなんでもしてやりたいと思うだろう、そんな風にいつものように揶揄ってやる、半分以上は本心だ。

「ああ!?お前好い加減にしろよ!!人の気もしらないで!!!」

そんなチョロ松が半ギレ半泣きのおそ松から告白されるのは数分後。
二人の恋の始まりはイカ臭い部屋の中、片方はパンツ一丁という間抜けすぎる格好でのスタートだった。




【オマケ】

執事&メイド喫茶でもなんでもない普通のスタバァの窓際の席。

「バレンタイン前に花束持ったチョロ松くんが私の部屋に入って行くのを目撃されました。それ以来あの子から口を聞いてもらえません」
「はい……」
「どうしたらいいんだろう……」

トド松の友達の女の子に付き添われたチョロ松の友達に相談を受ける(ちなみにトド松の女友達の方は漂流チョコレートが運良く想い人のところへ渡り両想いになれたらしい、そんなこともあるのだ)

「正直に……言えるわけないよね」
「あの子のとこにチョコと押し花贈っちゃったから押し花作ってたって言ったらバレちゃうかも」
「説明が難しいよね……」

どうにか誤魔化す方向で話し合っていると、それを目撃して突撃してきたおそ松に今回の一件を説明しなければならなくなったとか――



教訓:好きな人を騙してはいけません





END

バレンタインに間に合わせたかったのにちょっと遅れてしまいました
チョロ松の女友達はなんとなくチョロ子っぽいイメージでトド松の女友達はトド子っぽいイメージなんですが、オリキャラの百合娘でもいいかんじ