ワイルドタイガーは出動中、敵のアジトに拘束されました。
その時、相方のバーナビーは何をやっていたかというとトランスポーターで待機してました。
何故かというと犯人側に『名前を使って人を操る能力』を持つNEXTがいる為、本名を知られているバーナビーは近寄ることすら出来なかったのです。
しかし敵側のNEXTはどこで入手したのかヒーロー全員の本名も知っていたようで、呆気なく逃げられてしまいました。

その際ヒーロー達の中でワイルドタイガーが囚われた理由は

『1分しか能力が保たない』からでしょう――



勝手なことを述べているテレビをバーナビー・ブルックスJr.は一瞥し、古びた倉庫の壁に背中を預けた。
汚れた煉瓦で作られた箱状の建物、この中で囚われている相棒の身を案じて……

――言葉は鎖だ。

犯人のNEXTは言った。名前さえ解かれば相手を意のままに操れる能力を持つ彼だが心までは操れない。
下衆な笑みを浮かべる彼に嫌悪感を抱きながらワイルドタイガーは大人しく彼の後ろに付いて歩いた。
言葉を操る身でありながら良い声はしていない、能力がなければただの意味を持った音にしかならない類の。だから己の相棒の声を思い出し掻き消してしまえないかと考える。

「扉を開けろ」

言い方は命令形をとっているが脅威は感じない、だが従わないわけにもいかずワイルドタイガーはドアノブに手をかけた。
この先の部屋が彼らの仮の本拠地らしい、仮なのに“本”拠地とはどういうものか
通された部屋の中には“以前捕まえた憶えのある犯罪者”が混ざっていた。
ヒーローに恨みを持つ者達の組織か“ウロボロスと繋がっていたとしても大した情報は掴めなさそう”だ

「大人しくしていろよ、鏑木・T・虎徹」

虎徹は冤罪で指名手配されたことがあるから名前を知られていても不思議ではない、では何故他のヒーローまで?

「なあアンタらなんで他の奴らの名前を知ってたんだ」
「大人しくしていろと言っただろ」
「ハッどうせ俺を餌にアイツら誘き出せたら殺しちまうつもりなんだろ?冥途の土産に教えてくれたっていいじゃねえか」

ヒーローの正体は秘密だ。各社・司法局も徹底してヒーローの個人情報を守っている。
会社やジャスティスタワーへの出入りの時も充分配慮されているし、ネットに垂れ込まれた情報も広まる前に即刻削除、ヒーロー個人としても気を付けている筈なのに何故だ。

「ハッ?知りたいか?それなら土下座してお願いしますってやってみろよ?オリエンタルでは人にものを頼む時そうするんだろ?」

能力を使い命令すれば簡単なのに、わざわざ自分の意志でそうすることを望む犯人。

「別に、どうせバーナビーから漏れたんだろ?」
「なに?」
「アイツはどこにいたって目立つからな、アイツと一緒にいる所を見てバレたんじゃねーの?」

バーナビーとの親睦会がキッカケでヒーロー達はプライベートでも交流するようになった。本人は変装したり一人だけ時間をずらしたりとカムフラージュしているが効果がなかったのか

「はッ……それはねえよ、アイツの近辺は勿論探ったが親しそうな奴なんていなかった。相棒にも内緒であぶねえ場所には行ったりしてたみてえだけどなあ」
「……ッ!?」

ワイルドタイガーが動揺するのを見て犯人達から愉快な声が聞こえる。緑と白のボディを怒りから震わせるのを必死で絶え、低く唸るように訊ねた。

「じゃあ、なんでアイツらの正体がバレてんだ……?」
「お前らの所の元社長がしたこともう忘れたのか?」

やはりウロボロスと繋がりがあったのか、と思ったのと同時に、こんなに簡単に教えてしまうということは組織について大した情報は持っていないのも伺える。ここにいる犯罪者たちはウロボロス尻尾の先の先の先、いつでも切り捨てられる駒。

「マーベリックがそこまでウロボロスに教えていたなんて」

マーベリックの目的はあくまでヒーローTVの布教とNEXTの立場向上、協力関係にはあっても、悪の組織にヒーローを売るような真似はしていなかっただろうと……心のどこかでまだ信じていた。

「許せねえな」
「ハッ!許せねえってお前になにが出来んだよ?能力が1分しか持たない落ちぶれたヒーローの癖に」

己を侮辱する言葉に背中にある『Power to the futre』の文字が上下に揺れた。それを見て下品な高笑いを上げる犯罪者達。穢らしい部屋の暗がりから聞こえてくるワイルドタイガーを嘲る会話は酷く耳障りだった。

「お前は今日ここで死ぬんだよ、仲間が自分の所為で死んでいくところを見ながら!惨めにな!!」

ああそうだ仲間達は必ず助けにくるだろう、ワイルドタイガーが此処に居る限り見捨てる様なことはけしていない。
彼らはヒーローなのだから。でも……

「俺だってヒーローだ」

――だから仲間をアイツらを必ず守ってみせる。

他人に何を言われても構わない、助けを求める人がいる限り能力がゼロになったって闘う。そんなワイルドタイガーこそがHERO of HEROだと、彼を愛する人達は心から思っているだろう。

「手も足も出せねえ癖に何言ってやがる、そこを一歩も動くなよ。なぁ……鏑木・T・虎徹」

馬鹿にしたように言ってワイルドタイガーを撫でる為だろう頭部に向かって伸ばされた手。それが触れる直前、ワイルドタイガーの目が青く光った。

「ッ!!」
「気安く名前呼んでんじゃねえよ」

次の瞬間、目に見えない速さでワイルドタイガーの足がほぼ真上に上がりNEXT能力者の喉に入る。彼が声も出せず気絶したのを確認する間もなく、片足を上げたまま一回転して周りにいた数人を薙ぎ払う。

「え?」

そしてまた目に見えぬ速さで後ろに跳び、壁を蹴って犯人達が固まっている部屋の中心に飛び込んで行く。

「お前らなんて1分あれば充分だ……」

部屋にいる者はみな驚いた顔でワイルドタイガーを見た。“コイツにこんな動きが出来たのか!?”と言いたげな表情で

「言葉は鎖?」

沸々と湧き上がっている青い光が彼の闘志のように錯覚させる。真っ直ぐ立ちコチラを見据える姿は敵だというのに思わず見惚れてしまう程美しい。

「違う。言葉は人を解き放つものだ」

ワイルドタイガーは喋りながら、一人、また一人と蹴り倒していく。皆ようやく気付き始める、今の彼はあまり腕を使わない代わりに脚の可動域と跳躍力が普段とは格段に違う。

「言葉は人を縛る鎖なんかじゃない……打ちひしがれた人を悲しみから、痛みから、絶望から……寂しさから解放する」

普段の彼がその名の通り虎だとすれば、今の彼は――……

「理不尽な犯罪者に傷付けられて前に進めなくなった人、ヒーローの言葉はそんな人を救う為に」

恐怖の中で自信を失くしてしまった少年の背中をそっと押したのも、孤独の中で希望を失いかけた青年の肩をそっと撫でたのも、ヒーローの言葉。

「能力があろうがなかろうが関係ない、俺がここに立ち続けることで誰かに勇気を与えられる、そんな人が一人でもいる限り俺は……」

部屋にいた犯罪者達を殆ど倒し終え、後は戦意を喪失させた者しか残っていない。彼が能力を発動させてキッチリ1分。
その時、ワイルドタイガーの相棒バーナビー・ブルックスJr.が“壁を殴り破って”突入してきた。

「「俺はヒーローであり続けるんだよ」」

ワイルドタイガーとバーナビー・ブルックスJr.の声がぴったりと重なった。

「虎徹さん……」

ワイルドタイガーのフェイスガードが外され、中から現れたのは年若いパートナーの顔。先程までの凛々しい態度はどこかいってしまったのか、あどけない表情をしていた。
バーナビー・ブルックスJr.のフェイスガードも外され、中からアイパッチをしたパートナーの顔が現れる。虎徹はバーナビーと目を合わせて酷く安堵したように笑った。
そう、今彼らはお互いのヒーロースーツを交換している。だからワイルドタイガーに『名前を使って人を操る能力』を持つNEXTが効かなかったのだ。

「ハァ……お前、久しぶりにハラハラしたんだぜーー」
「……フンッいつもの僕の気持ち少しはわかりましたか、おじさん?」

さっき犯人達に向かってワイルドに吠えていたのを聞かれてしまった気恥ずかしさからかバーナビーはまたすぐフェイスガードを下した。そこから出てくる声はワイルドタイガーのものと同じだった。
久々に「おじさん」と言われ腹が立ったのか虎徹もフェイスガードを下す。そこから発せられる声はやはりバーナビーのもの。

「あー疲れた。早く帰ってひとっ風呂浴びてキンキンに冷えたビール飲みてぇ」
「僕の声でおじさん臭いこと言わないでもらえます?というか貴方なにもしてないじゃないですか!だいたい来るの遅いんですよ……まぁ貴方なんかいなくても僕ひとりで何とか出来ましたけど」
「はぁ可愛くないねえ」

さっきまでの言動が指揮者のアニエスだけでなく外で待機していたヒーロー達に全て筒抜けだったことを教えてやれば少しは可愛い反応をするんだろうか?思い出しただけで抱腹ものの臭い台詞を言っていた気がする。

――他にも色々と聞き捨てならないことも犯罪者達と話していたが……

「スーツ……急ごしらえにしては良く調整できてるよな、変声期も」
「ええ流石は斎藤さんです」

後のことは追って部屋にやってきた警察官に任せ、バディはトランスポーターへ戻ろうと細長い廊下を進む、自然と声に出たのは今回大活躍したメカニックへの感謝と敬意だ。残念ながら声は自分のものだが虎徹の言葉は暖かいなと感じるバーナビー、あのNEXTの声だって正しく使えば人を暖かくすることが出来る筈なのに……

「そうだおじさん、今日はテレビの前でフェイスガード上げないで下さいね」
「あ?なんでだよ!折角バニーのガワ着てんのに……珍しい画が撮れたってアニエスだって喜ぶぞ」

父親がバーナビーのヒーロースーツを着ていればテレビの向こうの愛娘も喜ぶかもしれない(実際は嫌がりそうだが)

「駄目です」
「なんでだよ!!」
「今の姿が全然スタイリッシュじゃないからですよ!……やっぱり僕のガワは僕じゃないと似合いませんね」

成人男性が自分で自分に「ピンク似合う」と言っているようなもんだが、いいのだろうか

「……いやだ。絶対テレビ映る、そして「犯人の能力を知ってバニーが咄嗟に思いついた作戦だったんですよ」って暴露してやる」

そうすればパートナーが攫われた時に何も出来ずにいたという汚名も返上できる。虎徹は一歩も引かないぞっという口調で言った。

「いいですよ……別にそんなの」
「よくない!それにお前、この作戦また使おうと思ってるだろ」
「……そうですよ?だって上手くいきましたもん」

いつもより背筋を伸ばしたワイルドタイガーのスーツからいつもより子供っぽい口調が聞こえてくる。

「それでお前また俺の身代わりになるつもりだろ」
「な!?身代わりじゃありません!!これは犯人を欺くための……」
「それでも俺は二度と御免だ」
「……」

自分の格好をしたバーナビーが犯人に捕らえられたのを画面越しで見た時、虎徹がどんな気持ちになったか知らないだろう。たとえわざとだと解っていてもパートナーが敵のアジトに一人でいると思ってどんなに気を揉んだかもバーナビーは知らない。

「あと、お前に言いたいことも聞きたいことも沢山できたからな、後でウチに来いよ」
「そんな勝手に決めて……」
「いいな?」
「……」

聞こえるのは自分の声だというのに虎徹の言葉にはバーナビーを従わせる力がある。あのNEXTよりよっぽど強力な。

「わかりました……お手柔らかにお願いします」
「おう、良い子だ」

一人で犯罪者のアジト壊滅させた自分をこんな子ども扱いできるのも彼くらいなものだと思う。
変なことも沢山言っちゃったし、やっぱり呆れられたんだろうか?でも今日口に出したのは自分の正直な気持ちばかりだ。
だからこそ否定されたら耐えられないだろうな、どうやって涙を堪えようか……とバーナビーはプライベートの予定なのに緊張しはじめる。

(どう挽回すればいいんだろ)

テレビカメラの前で『バーナビーかと思った?残念!俺でした〜』等とふざけている虎徹を横目に見ながら、バーナビーは『犯罪者の相手より大変だ』と、溜息を吐いた。
それもそうだ、相手は完全無欠のハンサムヒーロー、バーナビー・ブルックスJr.の唯一の弱点。勝てる筈もない人物なのだから


「はーあ」


今夜は長い夜になりそうだ。


できれば帰りたくない。





END

どうでもいいんですがタイトルの「Try!!」は「虎の威を借る(トライ)」的な意味です
↓はオマケ……というかIF話です


【オマケ】
※小説じゃない、妄想
※倫理的にちょっとアレな感じです
※あのタイミングでもし現れたのが虎徹さんじゃなくて友恵さん(クローン)だったら


バニーさんが全員倒し終わった後、奥の扉が開く

そこから何かに操られてるっぽい友恵さん(と同じ姿をした人間)が現れる

するとどこからともなく声がして、その友恵さん最初はワイルドタイガーを殺させる為のクローンだったと説明をし始める

幹部(多分)『ふはは、お前もまさか生身の人間は攻撃できないだろう』と言い残し通信が切れる

バニーさんブチギレる、けど「ここにいるのが虎徹さんじゃなくて本当によかった」くらいには冷静

でも案の定、見た目が友恵さん以前にマインドコントロールされただけの女性は攻撃できない

そしてクロ友(クローン友恵)強い、バニー苦戦します

なんとか気絶させることの出来たバニーさんは幹部(多分)を追う振りをして黒虎(ブラックタイガー)に連絡

クロ友は保護するつもりだけどクローンなので寿命が短いだろうな、とか虎徹さんに二度も同じ顔の人間の最期を見せられないな、とか思うバニーさん

…ってことで虎徹には内緒で保護することに(黒虎の存在は内緒かどうかはどっちでもいい)会社と司法局には一応教えるけど自分に任せてくれって頼む

見た目は友恵さんなのに無垢な幼女っぽいクロ友と、まだまだ発達途中の黒虎はすぐ仲良くなります

虎徹さんを好きなバニーさんにはちょっとツラい状況ですが、だんだん情が湧いてきます

三人お揃いの指輪買ったりして(虎徹さんのと同デザイン)三人でイチャイチャして過ごすプライベート

あんまり黒虎クロ友に構うもんだから虎徹さんにあらぬ誤解を与えてもう何度目か解からないバディ仲の危機を迎えてしまいます

そんな時、黒虎とクロ友が同時に倒れます(黒虎さんもウロボロスが使い捨てのつもりで作ったので寿命は短いっていう設定)

どうにかして二人を救おうと奮闘するバニーさんだけど、会社も司法局も研究員も医者も誰も助けてくれません

だんだん弱っていく姿をずっと見ている内にちょっと病んじゃうバニーさん、そんなバニーさんに気付いた虎徹さん

「一人で悩んでんじゃねえ!俺達バディだろ!!(by虎徹)」そんな感じでバディ仲復活

虎徹さんに事情を話すバニーさん「ごめんなさい、ごめんなさい虎徹さん(byバーナビー)」「俺の為に黙っててくれたんだな?ありがとうバニー(by虎徹)」で、二人して泣く

ベッドに横たわるクロ友と対面して色々思い出す虎徹さん、それを見て自分のことの様にツラくなるバニーさん

色々四人で話し合った結果、黒虎とクロ友を看取ることに……



と、ここまで考えてコテバニ分が少ないし長編になるし途中で心折れると思ってボツにしました

バニーさんがつけた黒虎の名前は『ピリオド』でクロ友さんの名前は『キャンドル』という無駄な設定まであります

ちなみに「最後に残る光」「北極星のような君」って意味ですが遠回しすぎて伝わりません