虎徹さんが帰省してて良かったと心底思うことなんてあまりない。あまりないという事は少しはあるって事なんだけど大抵口では清々しますなんて言いながら心では早く虎徹さん帰って来ないかな〜なんて思う。
そういう気持ちが顔に出るのか虎徹さんが留守中は斎藤さんやベンさんが誘ってくれたりトレーニングセンターでも虎徹さんがいる時より話しかけられ易い(まぁブルーローズは来てない虎徹さんが気になって僕に聞いてくるんだろうけど)ロイズさんや事務員さんまで普段の数倍構ってくる気がする。虎徹さんがいる時は虎徹さん一直線になってるから余計そう感じるのかもしれない……これも自覚したのは虎徹さんが帰省してる時にファイヤーさんに指摘されてだけど

僕は白いもふもふした柔らかいものを膝に抱えながら思い巡らせる。ああ、これ、どうしよう。まぁもう僕のものって決めちゃったけど……

今日、僕に話し掛けてきたのはメカニックでもヒーロー仲間でも事業部の職員でもない、同じ会社内では広報と次いで関わることの多い商品開発部の人だ。
もう一度言う。虎徹さんが帰省してて本当に良かった。 たしか娘さんのヒナマツリ?のお祝いでしたっけ、日本の行事万歳。思いっきり楓ちゃんを祝ってきてあげて下さい。だいたい虎徹さんは楓ちゃんに会わなさ過ぎです。これでもトップマグ時代に比べたら会う頻度は上がったと言ってたけど(こういう時にヒーローが二人いると便利だなって思う)楓ちゃんが安心してお父さんと過ごせるように僕はしっかりワイルドタイガーの留守を守らないと!
……って話が脱線した。前置きが長くなったけど僕が虎徹さんが帰省してて良かったと思った理由、それはこの二匹のぬいぐるみだ。人に見られるのが恥ずかしくて抱きかかえるように商品開発部から持ち帰ったそれを自分のデスクの上に置いてみる。

よく結婚式の披露宴の会場入り口に置いてあるクマのぬいぐるみ、あれはウェルカムベアーって言うんだけど、これはその虎と兎バージョン。名付けて『ウェルカムタイガー&バニー』真っ白なタキシードと緑のタイ、アイパッチを付けた白い虎と、薄ピンクのドレスと白いレース、百合のブーケを持った白い兎……間違いなくタイガー&バーナビーのグッズだ。

想像はしてたけどこうやって実物を見ると想像以上に恥ずかしいな。白状するとコレは商品開発部が社内で公募した新商品のアイデアに僕が匿名で申し込んだものでして……ダメ元というよりjokeのつもりで投稿したのにまさか通るなんて思わなかった。

まあ試作品まで作って採算が合わないと解ったから正式に商品化されないそうだけど、それが正解だと思う。だってこんなの誰が買うんだ?
開発部の人に「ご自分の結婚式の時使われたらどうですか?」って貰ったけど、なんで僕の結婚式なのに花婿役が虎のぬいぐるみ?それなら虎徹さんが再婚する時に使った方がいいじゃないか、そういえば虎徹さん次に結婚するなら兎みたいな可愛い子だろうなとか言ってたし!
まったく、商品化したって買う人いないって解ってた筈なのになんで試作品まで作っちゃうかな……そりゃあ僕が虎同士、兎同士のぬいぐるみで提案してたら普通に売れそうな物が出来たかもしれないけど、それじゃタイガー&バーナビーのグッズにならないし。
二匹ともタキシードだったら同性婚にしか使えないから虎を花婿役、兎を花婿役にして……それだって一般的に見て虎と兎だったらどっちが花嫁が似合うかを考えて妥協に妥協を重ねてデザインしたんだ。ただ、それだけ。他意はない。

たしかに虎徹さんと僕は仲の良いセフレみたいな関係で僕のポジション的には女性かもしれないけど、だからって別に虎徹さんに愛されたいとか、ましてやお嫁さんになりたいなんて烏滸がましい気持ちはない。コレだって本当にjokeのつもりで作ったんだ。

「ねえ、そろそろトレーニングセンターに行く時間じゃないの?バーナビー」
「あ、はい……そうですね。行ってきます」

事務員さんに言われて僕は退席の準備を始めた。持ち帰りの仕事はないから今日の荷物はこのぬいぐるみ達だけだ。
半透明のビニール袋に丁寧にいれたタイガーとバニーを大き目の紙袋に移して、ジャスティスタワーまで形が崩れないよう慎重に運ぶ。ヒーロー仲間(特にブルーローズ)に見られるわけにいかないからトレーニング中は車の中にいてもらうことにする。

「狭くてごめんね、家に帰るまでの我慢だよ……って家にも飾るわけにいかないか……虎徹さん寝室にも来るし」

そのことは後で考えようと、車のドアを閉めてトレーニングセンターに行く。虎徹さんがいないから今日は折紙先輩とキッドに組手の相手をしてもらおう。
トレーニングセンターに着くと珍しくアニエスさんがいて、何故かヒーローみんなの頭から兎の耳が生えていた。

――え?

僕が困惑して何も言えないでいると、こちらに気付いたアニエスさんが凄くいい笑顔でツカツカ歩いてきて、兎の耳のカチューシャ片手にこう言った。

「ごきげんようバーナビー!今日は『うさぎの日』なのよ!」

……虎徹さんが帰省してて本当に良かった。



今日は3月3日。日本ではミミの日だから耳の長いうさぎの日らしい。ただ折紙先輩も知らないくらいだから日本でもポピュラーな行事ではないんだろうな。

「本当は五人囃子と三人官女になってもらおうと思ったんだけど肝心のお内裏様とお雛様がいないじゃない」

僕達全員に兎耳カチューシャを無理やり付けといてアニエスさんは残念そうに言った。最初はタイガー&バーナビー・スカイハイ・折紙サイクロン・ロックバイソンに五人囃子、ブルーローズ・ドラゴンキッド・ファイヤーエンブレムに三人官女の格好をさせるつもりだったんですね……折紙先輩なら喜びそうだけどきっと動きにくくて堪らないと思います。

「ねぇアニエスさん、ボク達これ付けてどうするの?」
「テレビに映るわけじゃないですよね?ヒーロースーツの上から付けられるのブルーローズさんとパオリンくらいだし」
「私はイヤよ、イメージに合わないって会社からNGが掛かるだろうし」
「あと付けたままテレビに映れるのは顔出しヒーローのバーナビーくらいだな」
「ええ!?そしたらまたハンサムだけ話題になるじゃない!」
「僕だってこんな事で話題になりたくありませんよ。いつもバニーじゃありませんバーナビーですって言ってるのに自分からこんなの付けるなんて……」
「いいじゃないか!みんな良く似合ってるよ!」
「貴方も良く似合ってるわよスカイハイ」

KOHの頭の兎耳を撫でながらアニエスさんの気分は上々だ。それを見てバイソンさんはワナワナしてるけど二人とも全然気づいてない。それにしてもバイソンさん不思議と似合うなぁ……これなら虎徹さんも似合うかも。
最初は虎徹さんにこんなみっともない姿を見せられないと思ってたけど虎徹さんがこれ付けた姿は見たい。ていうか皆さんちゃんと付けてるのに虎徹さんだけ付けなくていいなんてズルいじゃないか。

「別にテレビに映らなくていいわ、ただ面白そうだったから持って来ただけ」
「はあ?」

あの視聴率命のアニエスさんがテレビに映らなくていいって!?

「貴方達の様子を見るついでよ、みんなしっかりトレーニング出来てるみたいね……タイガーはサボリかしら?」
「違います!今日は家の用事でお休みしてるだけです!」

咄嗟にフォローするとアニエスさんは「あらそう、残念ね」と言いながら持っていたバッグの中から兎耳カチューシャを取り出して僕に渡した。

「じゃあ貴方かわりに渡しておいて、タイガーの分だから」
「はあ……」
「イメージに合わないなら付けてテレビに出ろとは言わないけどプライベートで使えるでしょ」
「プライベートでどう使えと……」

会社の宴会の余興くらいかな、僕はやらないけど。と思ってると横から強い視線を感じた。振り向くとトパーズの瞳が二つ。うん、なんとなく予想は出来てたけどやっぱり貴女でした。

「ブルーローズ……もし撮ったら送りましょうか?虎徹さんの」
「……ぅ」

多分虎徹さんにこれ付けて下さいって頼んだら強制的に僕まで付けさせられる羽目になるから頼まないけど、これはブルーローズにメールアドレスを訊く良い機会だ。そう、なんとなくタイミングを逃してヒーローの中でブルーローズのだけ知らないんですよね。必要に駆られなければ此方から女性にアドレス訊く事もなかったし(ミス・バイオレットみたいなタイプなら訊きやすいけど)
ブルーローズは色んな意味でライバルだから僕もつい張り合って普通に会話するって事も難しくて、というか少しだけ意地悪してしまう事もあって……勿論ずっと前から大事な仲間だと心から思ってるけど、どうしても虎徹さんを好きな女の子だからって気持ちが拭えなかった。
でも今はブルーローズも虎徹さんを“自分を気にかけてくれる優しいおじさん”くらいにしか想ってないみたいって解ったから以前より素直に歩み寄れるんじゃないかな。

「う……うん!お願い!」

ブルーローズは力いっぱい返事をして照れたように笑った。やっぱり虎徹さんがこんな可愛い女の子に好かれてるっていうのは怖いな、虎徹さん娘世代の女の子には特に優しいからブルーローズがいつまた好きになるかなんて解からない。そんな事で不安になったり嫉妬する権利なんて僕にはないのに――

「バーナビー?」
「……はい、虎徹さんから断られた時はすみませんが」
「まぁその時は仕方ないわ」

と、話しながら携帯を向かい合わせて赤外線通信。あ、スマートフォンだ……僕もそろそろ携帯変えた方がいいかな?虎徹さんと色違い――なんて

「ハンサムのメルアド長っ!ていうかコレあんたの生まれた時の体重……」
「まぁ記念ですから……忘れないように……」
「ふーん変わってるわね」
「ははは」

たしかにちょっと変わってるけど両親と自分の誕生日は忘れることはなくてもこの数字はうっかり忘れてしまうかもしれないから、何度も記入したり人に教える機会のあるメールアドレスに入れておいた。

「でもこの数字のお陰で私達みんな助かったんだもんね、アンタの両親には本当感謝しなきゃ」
「ブルーローズ……」
「ああタイガーのイニシャルとTBも入ってるのね」
「っ!?え!?あ……」
「バレバレよハンサム?」

流石ブルーローズ。KとKとTとBの間に文字を挟んでしっかりカムフラージュしたつもりだったのに……ああ笑わないで下さい。皆さんにも聞かれちゃったし僕すっごく恥ずかしいんですけど!?

と、その時アニエスさんの携帯が鳴る。素早くそれをとったアニエスさんは暫く通話したあと携帯を耳元に当てたままヒーロー達に向かって目配せをした。

「ボンジュール、ヒーロー」

生で言われたのは初めてだけど、こんな不敵な顔してたんですね。頼もしいですアニエスさん。

「シルバーの×××地区でボヤと立て籠もり事件勃発!恐らくボヤも立て籠もりの犯人の仕業ね、人質には小さい子やお年寄りなんかもいるから、みんな急いで出動するのよ!!」

僕とブルーローズは携帯をしまって顔を見合わせた。さっきまでと打って変わってライバルを見る瞳だ。こっちは虎徹さんの分まで頑張らないといけないんです。負けませんよ?



――と、言っても二部の僕の仕事なんて避難誘導くらいなんですけどね。
ボヤは僕たちが来る前に消し止められて犯人はスカイハイさんが確保したからブルーローズに負けたわけじゃないし、それにコレだって立派なヒーローの仕事だ。

「大丈夫ですか?」

あと、僕が出来るのは恐怖でパニックを起こしてる被害者を落ち着かせたり……まあ僕を嫌いな人はとことん嫌いだから逆効果になることもあるし、こういうのは虎徹さんの方が得意だけど、僕だってヒーローだから、怖がってる人を見たら助けたいって思う。

「バーナビー?」

良かった。僕のこと嫌いじゃない人だった。って安心して油断してたのかもしれない――

「犯人は捕まりましたから、もう大丈夫ですよ」
「バーナビー!バーナビーだ!」

その人は僕の事を見て興奮したように騒ぎだした、男の人では珍しいタイプだ。そう暢気に思っていると突然その人の瞳が青く光った。

「NEX……!?」
「ああ!俺のバーナビー!!」
「僕は貴方のじゃありません!!」

虎徹さんのです!いや、虎徹さんのでもないけど!敢えて言うなら虎徹さんの……と、混乱ている内にその人は僕に抱きついて来た。

「ちょ!?離し……え?」

そして安心したのか穏やかな表情で眠りについてしまった。

「ちょっと待って下さい!貴方なんのNEXTなんですかー!?」

僕に抱き着いたままスヤスヤ眠っている男性を抱え上げながら大きく溜息を吐いた。今日は虎徹さんの居ない分がんばろうと思ってたのに失敗した。情けないなぁ……



その後、ロイズさんに詳しく事情を説明すると身体に影響がない様なら自宅待機、どんなNEXTか判かり次第連絡が入るとのお達しを受けたので僕はトランスポーターでシャワーを浴びて、そのままジャスティスタワーの駐車場に送ってもらった。自分の車に乗り込んでウェルカムタイガー&バニーの入った紙袋にアニエスさんから貰った兎耳も入れて自宅へと急ぐ。今日は大人しく自炊でもしてよう……えっと冷蔵庫の中身は……

程なくして玄関の前まで到着した。この間誰とも接触無し、虎徹さんが帰省してて良かったと再び思う。実家でゆっくりしててもらいたいので僕がNEXT被害にあったことは虎徹さんが帰って来るまで内緒にしてもらうように頼んだ。あのNEXTの男性が普通に出歩けてるってことは命に係わるような症状は出ないだろう。

――もし命を落としてしまうような危険なNEXTにかかったら、どこにいてもすぐに連絡して……虎徹さんに「好き」だって言ってしまうかもなぁ。きっと最期の最期にそんなことを言われたら虎徹さんには苦い想い出しか残らない。
それより僕が死んだら悲しませてしまうから絶対虎徹さんより先に命を落とさないようにしなきゃ。二人とも寿命で死ねるならそれが一番だと思うけど、ヒーローなんてやってるとそうも言ってられない。

「お前は百まで生きてくれ、俺は九十九まで生きるから……でしたっけ?」

オリエンタル式のプロポーズ、僕と虎徹さんの年齢差だったらどれだけ一人で生きなきゃいけないんですか?

「……って馬鹿だな」

――こんなの貰ったから考えてしまうんでしょうね……

タイガーとバニーのぬいぐるみを袋から出してベッドの上に並べた。明日クローゼットの奥に片付ける事にして今日一日はウチのお内裏様とお雛様になってもらおう。いつか折紙先輩に雛人形をずっと出しておくと婚期が遅れると謂われてるって聞いたな。

「結婚なんて一生できないよ……」

――僕は一生虎徹さんが好きで、虎徹さんは一生亡くなった奥さんが好きで――

その時、僕の携帯が振るえた。ロイズさんからだ。どんなNEXTなのか判ったのかな?
クッション代わりに使ってる誕生日にもらったピンクのぬいぐるみの上に身体を乗り上げて電話に出る。

「はい、バーナビーです」
『お疲れ様バーナビー君、あのNEXTの正体が判ったよ』

やっぱりそうだった。

「いったいどんなNEXTなんです?」
『それがね……』

続くロイズさんの話に僕の身体が小刻みに震え始める。
あのNEXTの影響を受けた人が接触すると“ぬいぐるみに人格を与える能力”って?

『まあ若い女の子でもないのにバーナビーくんが家にぬいぐるみなんて置いてる筈ないよね』
「ははは」

悪かったですね!若い女の子じゃないのに家にぬいぐるみ置いてて!しかも今日で三匹に増えましたよ!!
とは言えず、渇いた笑い声が漏れる。どうしよう袋から出す時にタイガーとバニーに触れたしピンクのぬいぐるみは今現在胸の下に敷いてる。

『能力は数時間で切れるらしいから明日は普通に出勤してきて構わないよ』
「はい、わかりました……お疲れ様です」

そう言って電話を切って、おもむろに起き上がる。えっと……タイガーとバニーは……

「rgl。kzjljhs」
「jvmvnvo;nvsababjp」

見ると理解できない言語を発しながらイチャイチャしてた。そしてピンクのぬいぐるみの方も僕の下でギャーギャー騒いでる。こっちはきっと「早くどいてくれ」的なことを言ってるんだろうなと思って身体をずらす。

「…………」
「kgh;oanvoinvoir☆snpp!!」
「obmroiuabnoa@ir@,,,a!!」
「lho−ra::qqm」

すると今度はピンクのぬいぐるみとバニーが大声で理解できない言語を話しながらまるでタイガーを取り合うように引っ張り合い出した。引っ張られてるタイガーは表情は変わらないけど心なしか困惑しているように見える。

「えっと……そうだ!」

僕も混乱していたんだと思う。ここで普段しない様な行動をとった。
――ひょっとしたらコレで彼らの声が聞こえるようになるかもしれない――と、アニエスさんに貰った兎耳カチューシャを付ける。
するとどうだろう、予想がビンゴしたのか彼らの言っていることが良く聞こえる様になった。

「ちょっと!私のダーリンになにすんのよ!!離して!!」
「やーだ!オイラはずっと一人で寂しかったんだ!コイツをオイラの旦那にする!!」
「ったく、テメエら痛えんだよ……離せ!もげる!!」
「「あ、ごめんなさい」」

タイガーの切羽詰った一言で修羅場は終了した。やっぱりタイガーを取り合ってたんだ……ていうかウチのぬいぐるみこんなキャラだったんだ……

「ていうかバニーはタイガーをダーリンって呼んでるんだ……」

我ながら他にツッコミ所あるだろう!と思いながら訊ねる。だってどう対応していいか解からないだ。

「うん!タイガーさんはね「だっ」とか「ダー」が口癖なの!だからダーリン」

そっかダーリン&ハニー的な意味じゃないんだね、でもそれなら虎徹さんもダーリンってことになるよ。

「あと君は……僕がいるのにずっと寂しかったの?」

そういえば名前も決めてあげてなかったな、少し申し訳なく思いながら僕はピンクのぬいぐるみの方に語りかける。

「違うよ!バーナビーにはちゃんと大事にされてるって思ってる。でも虎徹が家に来てバーナビーとイチャついてるの見るとさ、オイラも恋人欲しいなって思うんだ」

別にイチャついても恋人でもないけど寂しい想いはさせてたみたいだ。今度同じタイプの虎のぬいぐるみを買ってあげよう。

「そっかぁ……」

ここまで来ると僕も少し落ち着いてきて、三匹を観察する余裕が出てきた。白くてふわふわなタイガーとバニーもピンクでふにゃふにゃしてるウサギも凄く可愛らしい。

「うちのが騒いで悪かったな」

バニーがタイガーを“ダーリン”て呼ぶなら、タイガーはバニーを“うちの”って呼ぶんだね。やっぱりこの二人は夫婦なんだなぁって実感する。

「ううん、気にしないでタイガー」
「本当にごめんなさい」
「ごめんバーナビー」
「だからもう気にしないでって……」

なんだろう……この子達を見ていると、さっきまで虎徹さんとのこと考えて少し凹んでたのが嘘みたいに癒されてる。
ヒナマツリだし、うさぎの日だし、今日は何があっても自宅待機だし、たまにはこういうのも悪くないかな……

「ありがとうマミィ!」
「へ?マミィって僕のこと?」
「そうだぞ?だってアンタ、俺たちの産みの親だろ?」

ウェルカムタイガー&バニーって自分達が僕の考え出したグッズってこと知ってるの?僕は今日までこの二匹が本当に作られてたことも知らなかったのに、なんとなく解かるものなのかな?

「え!ズルい!!オイラだってバーナビーをマミィって呼びたい!」
「それは君の本当の産みの親に悪いからダメだよ」
「じゃあバーナビーがオイラに名前付けてよ、そしたら名付け親って意味で呼ぶから」
「うん、じゃあそうしよう……どっちかっていうとダディって呼ばれた方がいいんだけど」

こうして僕は残された数時間を使ってピンクのぬいぐるみの名前を考えなきゃいけないことになった。虎徹さんがいたら一緒に考えて貰えたかもしれないって一瞬思ったけど、ウェルカムタイガー&バニーの存在がバレても困るから……と思い直した。

虎徹さんが帰省してて本当に良かったと本日五回目の安堵を浮かべる僕はまだ、この後――うさぎの日だからバニーも祝わないとな!――なんて言って虎徹さんがこの部屋に乱入してくる事を知らない。





END
コテバニなのに虎徹さん出番なくてすみません
虎徹さんは実家で愛娘とキャッキャウフフしてたり、この後バニーさんにうっかりプロポーズ?したりすればいいんじゃないかと思います


《オマケ》

数ヶ月前の商品開発部

「ねぇこのウェルカムタイガー&バニーって投稿してきたの絶対バーナビーよね?」

「ええ、描かれてる絵のタッチが前に番組で描いてたバーナビーの絵と同じだし」

「よね……うーん本人のアイデアなら商品化してあげたいけど採算合わないわよね」

「それなら一組だけ作ってバーナビーにプレゼントしてあげる?素直に受け取らないだろうから試作品って言って」

「そうね!それがいいわ!」

腐女子というよりバーナビーに甘いアポロンメディアの社員さんなのでした(笑)