けして自虐趣味ではないと思う。鏡に写った自分はいつも通りのすまし顔。柄じゃない格好は今の自分に似合ってなくもない。
どんなことだって最初は慣れないものさ、狎れてしまえば抵抗なんてなくなるさ……って最初に思ったのはいつだったかな……

「では行きますか」

家の鍵と携帯電話とハンカチ、財布代わりのカードケースをポケットに突っ込んで、これから行く所のことを考慮してやっぱり財布もポケットに入れた。
外は乾燥しているからリップクリームとハンドクリームも一緒に……以前は身軽さが一番!って思ってたけど最近ちょっと荷物があるのも悪くないかなって考え直してるところだ。
白いワイシャツに、臙脂色のふわりとしたコート、眼鏡を丸いフレームのものに変えて、最後に小さなコーヒー色のリュックを背負う。
僕の持ち物なんて小さなリュックと大きなポケットにはすっぽり入る。


行先はシルバーステージにあるコンビニエンスストア――
「いらゃっしゃいませ」って声と一緒にコンビニのオリジナルソングが出迎えてくれた。店の中はあったかい。
セレブなイメージのある僕がコンビニに立ち寄るなんて変に見られるかもしれないなってことで“この時間に空いてる店がなかったから”と思われたくてわざわざ深夜にやってきた。
こんな格好だし、店員さんは僕に興味なさそうな壮年のおじさんだし(ワイルドタイガーには興味ある年代かもしれないけど)僕がBJJってことには気付かなそうで安心する。

今夜飲むミルクと明日の朝に飲むオレンジジュース。それと何気なく、板チョコを数枚カゴに入れてレジへ向かった。もうすぐバレンタイン、虎徹さんにあげる世話チョコはこれで良いだろう。
いつかブルーローズが作ってきたチョコマフィンを平らげた後で『結局近所のスーパーのミルクチョコが一番おいしいよな』なんて言って氷の女王をさらに凍りつかせていたっけ。
あの時は他人事ながら胸が痛くなったのを憶えてる。あのデリカシーの欠片も無い二部ニブおじさんにはこれで充分だ……

(そういえばブルーローズ、虎徹さんにバレンタイン渡すんでしょうか……)

会計しようとしてカウンターの脇に置いてあるエッグチョコもつい手にとってしまう(エッグチョコとは卵型のチョコのなかに動物の食玩が入ってるお菓子のことです)
たしかこのチョコエッグは日本製で以前「リアルな動物の食玩が入ってるんですよ!日本の技術素晴らしいですね」って折紙先輩が熱く語っていたものだ。
……中身は猫かな、犬もいいな、狐もかわいい、でもどうせウサギが出てくるんだろうなー、どうしてかバニーってあだ名が付けられてからこういうの買うと高確率でウサギを引き当てる、そして何故か虎徹さんから羨ましがられる。
ウサギ可愛いんですけどね、本物のウサギは柔らかすぎて触るのが少し怖い、前ヒーローで逃げ出したウサギの捕獲にあたった時もどう掴まえていいのか解らずに途方にくれてしまった。
その時ドラゴンキッドが「怖いならボクごと抱っこすればいいよー」って言ったのが可愛かったな、それから僕がキッドと折紙先輩を小脇に抱えて駆け回って双腕重機のようにウサギを捕獲しだした時は虎徹さん吃驚してたけど、そっちの方が効率いいって解ったらバイソンさんファイヤーさんと三人で同じ事してたな。
結局、ウサギをふわって浮かせてケージに誘導してたスカイハイさんとブルーローズが一番ポイント高かったけど、アニエスさんからも結構いい画がとれたって褒められたしウサギ可愛かったし良い仕事だっ たと思う。

「お客さん?」

と、うっかり回想に浸っていたらレジ前に突っ立ってる僕を店員さんが怪訝な瞳で見てきた。

「す、すみません!」

僕は急いで会計を済ませる。結局エッグチョコは箱買いした。いくらなんでも1ダース全部ウサギってことは無いだろう。今回こそ虎を引き当てたい。

(いつも一発で虎が出てきてくれたら……こんなの集めなくていいんだけどな……)

折紙先輩のコンプリートに協力する為に食玩集めたり懸賞とか申し込むようになってから虎徹さんの中じゃ僕はすっかり動物コレクターみたいになってるけど、お目当ては一つだけ。
先輩は交換しましょうか?って言ってくれるけど自分の手で引き当てたいと思って我慢してる。はい、そうです。虎がほしいんです。ほしくてほしくて堪らないんです。

(やっぱり恋なのか、なあ)

家に着いて、まず買ってきたものをキッチンに置く。冷蔵庫にもたれ掛るとモーター音と僅かな振動が耳に伝わってきた。
僕は虎徹さんが好きなのか?だから虎に固執したりするのか?なんて何度目か解からない自問自答。

(こんな格好してる時点で彼とそういう関係になることを意識してるって答えしか出て来ないんだけど……)

僕は自分の着ている服を見下ろして今更ながら馬鹿だなあと溜息を吐いた。
こんなこと後で思い返したら髪の毛かき毟りたくなるだろうな、ヒーロー引退した後なら思いきりかき毟れるかもしれない。
いつぞやファイヤーさんが若い頃なら誰にでもあると語っていた“恋するあまりしてしまう残念な行動”彼女曰く『桃色の黒歴史』とはこのようなことを言うのだろう。
虎徹さんの家に置いてあった家族アルバムを勝手に見てしまって、まあそんなことで虎徹さんは怒らないだろうけど……
その中で彼の奥さん―友恵さん―がしていたのと同じ格好をしてるって知ったら……彼の地雷を踏むかもしれない。呆れられるか怒られるか、気持ち悪がられる可能性が一番高いかな。

家の中は空調がしっかりしてるのに中々このコートは脱げなかった。僕は写真の中で見た彼女と同じ形の眼鏡とコートを『友恵さん装備』と呼んでここぞという時に使っている。
ここぞっていっても『バーナビー・ブルックスJrが絶対にしないこと』をするだけ、そのどれもが一般の人からしたら何てことない普通のことだと知っているから情けなくなる。
でも『バーナビー・ブルックスJrにしかできないこと』もきっとあるだろうし、こんな風に服装に頼ってはいるけど出来ることがだんだんと増えていった。
僕にとっての両親みたいに虎徹さんの精神を護ってくれてる友恵さんは、僕の中じゃ女神さまに昇格している。一度も逢ったことはないけど虎徹さんの愛する人で楓ちゃんのお母さんだからそれくらいの力あったって不思議じゃない。
今日だって『友恵さん装備』で勇気を出して虎徹さんへのチョコを買えたじゃないか!

「彼女の服で僕が着れるものが少ないっていうのが目下の問題ですが……」

リュックやアクセサリーといった小物なら真似できるけど服装を真似るのは限界がある。女物と気付かずに日本語サイトで浴衣を買っちゃって着付けに来た折紙先輩とドラゴンキッドに指摘されるまで気づかなかったこともあったなあ。
いや、だって友恵さん着てた浴衣の柄なんか男性でも着れそうだったし、昔、日本風ホテルに泊まった際に用意されていた浴衣が男女兼用だったから浴衣イコール男女兼用という認識がインプットされてて……つい

(アレは楓ちゃんが大きくなったらあげよう、お母さんとお揃い嬉しい筈!僕も父さんとお揃いあったら嬉しいし!)

と自分を納得させて、僕は漸くコートを脱ぐことを決心した。いいかげん暑い。
彼女を真似て身に付けた服をクローゼットにかけてお祈りするまでが1セット。そうしないと装備の効果が薄れてしまう気がした。
友恵さん勝手に名前使ってすみません貴女の旦那に恋してしまってすみません苦情は天国で聞きます。自分が天国に行くと信じて疑わないのは僕がヒーローだから、キリスト教では同性愛は大罪で仏教には不倫した者のいく地獄があると聞いたけど、叶わぬ恋なら大丈夫でしょう……きっと。

(きっとバレないだろうな)

一緒にいる機会の多い折紙先輩やキッドもこの服が虎徹さんの奥さんの真似って知らないで、ただの変装だと思ってるだろうし、あとブルーローズと打ち合わせする時に張り合う為に着ていくくらいだから、誰にもバレない。
僕の恋心も一緒に――

「ははッ……恋心だって」

ずっと半信半疑だったのに経った今、完全に認めてしまった。どうしよう、泣きたい……泣けない。
ねえ、貴方はなんでも溜め込み過ぎるなって言うけど、僕にとって何かを考える時間は少しだって忘れたくないものなんです。
家族以外の誰かを想う心は失いたくないんです。それが貴方を想う心なら尚更、

「涙で流してしまうのも惜しい」

たとえどんなツラいものでも記憶は糧になります。たとえ叶わなくても想いは力になります。だから――全て胸に抱いて生きて行こう。
友恵さんの格好をする自分にいつか絶望しても、その所為で虎徹さんに嫌われてしまったとしても、忘れないで生きて行こう。

「I'm HERO.OK?」

服を全て脱ぎ捨てバスルームに向かった。さあ、いつもの僕に戻って出動だ。



――そう思って出勤したのに……


アポロンメディアに到着し朝一番にイヤなものを見てしまった。自販機の前で女性が俯いて座っていて、その前に虎徹さんが膝をついている。
イヤなものっていうか……面倒なものを見てしまったというか、コレは十中八九巻き込まれるな。

「どうしました?」

せめてもの反抗で虎徹さんから声をかけられる前に自分からかけてみた。

「バ……バーナビー」

バニーと言おうとしてバーナビーと言い直しましたね、そうですね僕をバニーと呼んでいいのは相棒のワイルドタイガーだけですもんね、彼がテレビでそう言ってました。その節は変な期待とあらぬ誤解を受けて大変でしたよ。

「バー、ナビー?」

虎徹さんの声に反応した女性が顔を上げて、思わずゾッとしてしまった。その女性の顔が真っ青だったから……貧血?いや低血糖?
咄嗟に手を伸ばしてその女性の頬に触れると隣の虎徹さんが「うわぁ」という顔をした。今そんな場合じゃないでしょう!!
自販機を見ると丁度甘いものが全て売り切れていた。

「なにしてるんです?鏑木さん、何か応急処置はしたんですか?」
「俺もついさっき気付いたんだよ……大丈夫だよお嬢さん、バーナビーが来てくれたからな」

前半は僕にだけ聞こえるよう小声で言って後半は具合の悪そうな女性に向かって励ますように言った。
その間に僕は鞄の中を漁った。本当は虎徹さんにあげたかったものだけど、と一瞬でも躊躇してしまった自分を叱責しながら。
……ここで手を差し伸べなきゃヒーローじゃないだろ?

「そのまま横になれるか?俺のコートかかってるからスカートの心配はしなくていい」

ああもう人として当然なことしてるだけなのにカッコイイってどういう事だ。この人。

「あ、ちょっと待ってください。横になる前にこれを」

そう言って僕はチョコレート取り出した。

「お、いいもん持ってんじゃねえか!ほらアンタ、バーナビーからのチョコだぞ、これ食えば少しは良くなるだろ」

チョコレートを虎徹さんが手に取って包装を開ける。板チョコを一欠け割って、女性の口に運んだ。
彼の指からチョコを与えられている彼女の唇を見て胸がギュっと縮んだような気がする。

「……」

緊急事態だから仕方ないと解っていても、あまり見ていたくない場面だ。

「医務室に知らせてきます。少しベッドで休めば大丈夫だと思うけど一応お医者さんに診てもらって下さい」

残り数枚のチョコレートを虎徹さんの傍らに置いて、よろよろと立ち上がる。
出来れば女性に笑いかけてあげたかったけど今は僕の瞳に嫉妬の色が見えると思うから。

「その方のこと宜しくおねがいしますね、鏑木さん」

よし、声は震えてない。でも敏い彼が僕の動揺に気付く前にこの場を離れてしまおう。目の前に弱った人がいるのに彼が僕を気に掛けるとは思えなかったけど

「ああ、頼んだぞバニー」
「……はい」

結局僕をバニーって呼んだ虎徹さんの声を後に僕は医務室へと急いだ。



* * *



その日の午後


「それにしてもお前よく板チョコなんて持ってたなー」
「疲れた時にいいんですよ、一欠けらずつ食べてればカロリー計算もしやすいし」
「お前らしいっちゃらしいなぁ」

そうです。バレンタインの日にその僕らしい台詞を吐いて「虎徹さんもどうですか?」と言って渡す予定だったんです。

「俺もチョコ食いたくなってきた……まあ明日バレンタインだけどな」

今のが微妙にナルシス発言って自覚あるんでしょうかこの人、恐らく「明日になったらイヤって程食べれるから今はいいや」って考えてるんでしょう。
そりゃあ虎徹さんも毎年一定量はもらえてるから今年も貰って当然という感覚でいるんでしょうけど、僕が同じこと言ったらまた「うわぁ」って顔する癖に
ああなんか段々気が沈んで来た。今年は虎徹さんもランキング上位にいるからバレンタインに渡されるチョコ増えるんだろうな……
もう僕からあげる筈だったものはあの女性のお腹の中ですけど本当はそんなのいらないくらい虎徹さんもバレンタインチョコを貰えるって解ってる。

「どうした?バニーちゃん疲れてんのか?疲労回復用チョコはあの子にやっちゃったもんなあ」
「そうかもしれません……あ、そうだ虎徹さんもお一ついかがですか?」

僕はもともと自分で食べようと思っていたエッグチョコの存在を思い出して鞄から取り出す。
食玩がメインだから食べれる部分は少ないけど無いよりマシだろう。

「ありがと、バニーちゃんってチョコ好きなんだっけ?」
「いえ、そういう訳ではないんですが」

チョコは普通に好きだけど、常備してるわけじゃない。バレンタインだって実はあまり好きじゃなかった。今までは毎年僕に告白してくる女の子(たまに男)を断るのに心が折れてた。
でも今年貰えるのはヒーローとして、マーベリックさんの件があった後でも応援してくれるファンがくれるんだって少し楽しみにしてる。もし僕に貰えるチョコが一つでも構わない、凄く嬉しいと思う。
それに今年は自分も渡そうって準備してたから……まあそれは無くなっちゃったんですけどね、それはそれで良かったかも知れない。虎徹さんも男の僕から貰っても嬉しくないだろうし、友恵さんや楓ちゃんにやっぱり申し訳ないから

「おい!見ろバニー!虎だぞ!!」
「え!?」

なんて僕が殊勝にも考えてる横から虎徹さんの嬉しそうな声が聞こえてきた。彼が持っているのは今あげたチョコエッグに入ってた食玩……

「虎……?」

ずっと欲しいと思ってた虎の食玩が……よりにもよって他人にあげたものの中に入っているなんて

「今時のミニチュアはよくできてるなー見ろよちゃんと毛並まで再現してる」
「はぃ」

存じてます。ウチにも虎以外は殆どありますんもんソレ。
……なんなんですか!?なんで、僕は動物の虎すらを手に入れられない運命にあるんですか!?勝手に友恵さんの格好してた罰でも当たったんですか!?

「なあ本当に顔色悪いけど大丈夫か?もうこの後取材も入ってないんだし今日は早めに上がらしてもらえば」
「い、いえ……なんでも」

ショックは大きかったけどこんなことで虎徹さんと一緒にいられる時間を失うわけにはいかない。
どんなツラいものでも記憶は糧になる。たとえ叶わなくても想いは力になる。だから胸に抱いて生きて行こうって昨日自分で決意したじゃないか……

「そっか、でもバニーがそんなんじゃアノ誘いは断った方がいいな」
「え?なんですかソレ」
「あれ言ってなかったっけ?今朝助けた女の子がなーお礼に今夜お食事でもどうですか?って聞いてきたんだよ」

なにそれ聞いてない!ていうかいつ連絡先交換した!?ていうか……あの女性は僕等がバディなんて知らないんだから、虎徹さんだけを誘ったんだと思います。
バレンタインの前日に男性を食事に誘うなんて、やっぱり気があるってことで……

「僕のことは気にせず誘い受ければいいじゃないですか」
「え?」
「凄く残念ですがBBJは忙しくてご一緒できませんってお伝えして下さいね」

真っ青な顔してたけど綺麗な人だった、虎徹さんがお姫様抱っこで運べるくらい華奢な女性だった。
回復した後で僕のことバーナビーって解ってても騒がないで丁寧に何度もお辞儀をしていた。
虎徹さん好みの聡明で礼儀正しくて思わず守ってあげたくなるような人だった。

「すみません、僕やっぱり今日は早めに上がらせて頂きます」
「は?」
「タクシー使うのでご心配いりませんよ」

移動はどうするんだ?と訊かれる前に先手を打つ、早く此処から――虎徹さんの傍から離れたい。

「あ……ああ気を付けてな、お大事に」
「貴方もハメ外して明日遅刻しないように」
「だっ!なに言ってんだ俺は――!」

何か必死に弁解?してる虎徹さんの声をシャットアウトして帰宅の準備を始める。
ツカツカと足音を立てながら事務の女子に早退届けを出して僕は早々にオフィスから出た。
虎徹さんが背後でなにか叫んだ気がしたけど僕の耳にはその内容は入ってこない、女史の「仕事中は静かに!!」って声で黙ったみたいだ。

タクシーの中で、さっきの自分を思い浮かべて歯を食いしばる。口の中に苦い味が広がる。
ああもう最悪の気分だ。今なら「くたばれバレンタイン」とか「バレンタイン終了のお知らせ」とか言ってる人達の気持ちが良く解る。

「――バレンタインなんて大っ嫌いだーーッ!!」

家に着いて、シュテルンビルドを見渡せる大きな窓の前で叫んだ。此処が完全防音で良かった。街の(恋人たちの)平和を守るヒーローが叫んでいいことじゃない。


「ああもう、ほんと……だいきらい」


彼の大切な奥さんと同じ服を買ってしまうのも

それを皆に内緒にしてるのも

自分一人の力じゃ彼に渡すチョコレートも買えないのも

素直にバレンタインチョコだって言って渡せないのも

体調を崩した女性にチョコレートを渡すことを一瞬躊躇したのも

彼は人助けをしているだけなのに女性に対して醜い嫉妬を抱いてしまったのも

虎徹さんのチョコエッグの中身が虎だというだけでショックを受けたことも

そもそも虎を欲しがったことも

今日、虎徹さんがあの女性と食事することも

体調不良って嘘言って逃げ出してきてしまったことも


誰も悪くないのにバレンタインを大嫌いなんて思ってしまってることも


――そんな自分が大嫌い


「う、うう……」


僕は床に座り込んで久しぶりに涙を流した。
泣きたいの我慢するだけ無駄だ。

だってどんなに涙を流しても、ツラい記憶も叶わない想いも消えないから

そんなことも解からなかったなんて本当僕は馬鹿だなぁ……


「ふ……」


でも、明日はバディでバレンタインイベントの仕事があるから、泣きはらした顔ではいられない。

「ふふ……」

だから嘲笑った。意味も分からず自分を嘲笑った。



そしたら何時の間にか涙は止まっていた――




これが去年の僕のバレンタインの思い出。




END